てぃっくらーまいむ作品

夢の中へ

第3話
 裕子は出会った時からずっと内気な女の子だった。私はそれを良く覚えている。
 一年生のとき裕子と私は隣同士の席だった。私の学校は女子校で、裕子が出席番号の1番、私が8番で一列七席までだったので丁度私は次の列に繰り越されて、それで裕子の隣になった。
 裕子は直ぐ隣の席の私が誰かと食事を一緒にしているときに、一人でさっさと食事を済ませて本を読んでいるような子だった。私はそれを敬遠していたわけではないけれど、なんとなく喋りかける切っ掛けもないままにその隣の可愛い子に目をつけたまま(というのも、そのとき既に私はいくらかくすぐりの虜になっていて、とにかく可愛い女の子を擽りたかったという心があったからなのだ)時を過ごした。
 裕子と始めて話をしたのは二言三言言葉を交わしたということを除けば柔道部の体験入学の時だったと思う。こんなに背丈の小さい女の子が柔道部に入るの?という驚きと共に、改めてこんなに可愛い子だったんだということを認識した記憶があるからそれに間違いは絶対にない、多分。
 私は中学のときから柔道をやっていて、新しく趣味を作る気もなかったし、自慢だけど私みたいにルックスの良い女はこういった技術を持っていたほうがいいと思っていて、それに帰宅部になっても暇が多くなるだけなので元より柔道部に入ろうとは思っていた。ということを私は関心を引くために早いうちから裕子に打ち明けていた。けれど裕子が何故この部活を選んだのかは教えてもらえなかった。後にそれを知った時には色々な事が手遅れになった後だったけれど。
 裕子とこの弱小柔道部が私の手の内に入るのにそう時間は掛からなかった。私が入部した当初から名実共に私にかなう人なんていなかったからだ。ともかく私はあらゆる知識と技術を駆使して今の体制を造った。それに付いては流石に長くなるので割愛しておきたい。長い話は面倒くさいもの。
そこからは私の天下、独壇場、ソロステージだった。適度な拘束と適度な解放を与え、程々の快楽と程々の不満のバランスを保ち、私の性に合ったあくどい言い方をいするなら、彼女達を上手くコントロールした。恐ろしいくらいそれは型にはまった。
 そのなかで裕子だけは私の企みに嵌(はま)らなかった。裕子がいけないと思うことはきちんと意見するし、屈してはいけないというところは決して自分を曲げようとはしなかった。裕子の苦手な色々なところを文字通り死ぬほど擽られたとしても。でもそれは私にとって腹立たしいことでなく、寧ろ内心では嬉しいことですらあった。
何事も困難を切り抜けていく棘の道の方が舗装道路を歩いていくよりずっと楽しい事を私は知っていたから。ただその場合は私の企みが露呈しないということが前提条件に入るけど、不思議と裕子は秘密を誰かに打ち明けたりすることはなかった。
 擽りはとっても甘いものだと思う。そして甘いと感じる物は人体にとっても必要なものであるとも言える。けれど、そればかりを取り続けていればいずれは虫歯にも、糖尿病にも、肥満にもなる。裕子の純真さはいずれ毒にある全てを完璧にこなしてきた私もそのことに掛けては全く以って気づく事が出来なかった。そして気付いたときにはもう遅い。身体は毒物に蝕まれているのだ。





 私は目を覚ました。尤も事実だけを切り抜いて言うならば、それは目を覚ましたとはいえなかったのだけれど、そのとき私はそういう風に感じた。言い換えるならば目を開くと今までの自分が眠っていたことに気付くという感覚を私はごく自然に感じた。言い換えたほうが分かり難いかもだね。
 先ずおかしいと気付いたのは枕元においてあるはずの携帯電話がなかったことだ。続けてやけに身体が重く動きが鈍いことに気がついた。まるで夢の中で走っているときのように意識に身体がついていっていない感じがした。
 今日は何日かを思い出す前に自分が何時眠りについたのかを思い出そうとした。記憶に霞が掛かって曖昧で其処の部分だけがすっかり抜け落ちている。もし眠りに着いた日が金曜か土曜の深夜でなければ、部屋が明るく照らされている今はもう学校に行く準備をするために起きなければ行けない時間だった。
 立ちくらみの後にブラックアウトした司会が少しずつ晴れてくるのと同様に断片的に脳味噌が活動を始めた。そしてそこで漸く昨日は裕子が私の家に泊まりに来て(事実としては半ば私が強引に誘ったとも言えるが)其処の何処だかのところで意識が途切れているということを思い出し、私が普段寝ているような場所ではないところで寝ていたということと、布団が私の身体には掛かっていないということと、それでも結構寒くはないということと、何故か私が一糸纏わぬ生まれたばかりの姿で寝ていたということに気付いた。
 何これ!
 と私は叫ぼうとしたが上手く舌が回らず、何処だか遠い国の言葉かビビデバビデブーの類の呪文のような認識しにくい言葉しか発せられなかった。そしてそれは気のせいかやけに遠くのほうで聞こえているような感じもした。身体も上手く機能していない。起き上がるために身体を支えようとした左腕も、あまり口に出して言ってはいけない恥ずかしい色々を隠すために引っ張ってきた右腕も指先が意思とは関係のない反応を示しただけに留まった。
 現実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだけれど、此処まで漫画的な事が私の身に起こるとは思いもしなかった。裸で何処とも知らない場所に放置され、しかも身体は痺れて動けないなどとは、正に漫画的な出来事だった。後に「漫画的な出来事」という言葉は私の中でその年の流行語大賞を勝ち取った。どってことないベタな18禁漫画みたいだよこれ。
 瞳を巡らせても何も無い。当たりはただ広く白い壁に囲まれていた。というかもはや壁が存在するかどうかもわからないくらいにとにかく広く、色という概念が存在し得るかどうかもわからないくらいに白い、部屋というよりもただ空間に包まれていた。それは少し前に見たルイ・ヴィトンのなんだらの記念だかなんだかに製作されたアニメーション映像の中にあった世界にも似ていた。それが何の記念で誰が演出を手がけたはもう忘れてしまったけれど。ってかもとより興味無し。内容は確か少女が不思議な世界の中に入り込み、様々なキャラクターと時を過ごすという子供じみた話だったと思う。ま、よくある話よね。
 唐突に、伏線も無しに、前触れも無く、いきなり私の目の前にルイ・ヴィトンとアニメキャラクター・・・、ではなく・・・・・・なにがしかが現れた。もはや感覚が混乱しすぎて、早い話が薬か何かの影響で寝ぼけた状態になっている所為でそれがなんなのか瞬時に判断がつかなかった。それは季節感と私の格好にそぐわない、スーツの上にロングコートといういでたちの男だった。
 私は叫ぶべきか否か迷った。状況が状況なだけにその男が私の手を取って、大丈夫ですかお嬢さん、などといって救い出してくれるような生き物ではないことは明白だったし、下手をすればスラックスの中の、私の感じ取ったイメージから予測するにブリーフパンツの中に納まっているふっといか若しくは極端に小さなモノを私に挿し込むつもりの男である可能性も否定できない。しかし叫んでどうにかなるものかというとそれは怪しいし、寧ろ状況を悪くする可能性もある。第一今の私は叫び声を上げることは出来ない。せいぜい小さな声で赤ん坊の物まねをするのが関の山だった。
「お嬢さん失礼しますよ」
 細い道で強引に横をすり抜けつつ尻に手の甲でも触れさせてきそうな感じの口調で私に顔を近づけたかと思うと、男は急に本当に私の身体に触れてきた。さっき私は身体は痺れているといったけど、実際は身体が動かないだけで痺れていることはなく、感覚はちゃんとあった。その所為か、男の手の感触がしっかりと隔たり無く脳まで届いてきた。その感覚たるやなんとも・・・ってかマジキモチワルイ!あっちいってよもう。
 しかし私は抵抗することも出来ず、悪態をつくことも張り倒すことも出来なかった。誰かの身体にベタベタ触っていいのは私だけのはずなのに、くそぅ。
「ふむ、聞いたとおりですね。何処も反応なしと」
 男は身体のいたるところに触りながら呟いた。私は自分が凍てついた皮膚であってよかったとはじめて思った。これが裕子だったなら気持ち悪さに加えて余計なくすぐったさと刺激に身体を震わせていたところだろう。尤も痴漢に尻を触られて所謂「感じる」ってことはほぼ無いらしく、くすぐったいと思う人の方が多いということは何かのテレビのアンケート調査で判っている事だが。それにしても変態め。いつまで私の嫁入り前の大事な身体に触ってるんだ。早く警察に捕まってしまえ。
「頭の切り替えは早いか。まず変態という言葉が直ぐ出てくるあたりも調査通りです。いや感心感心」
 はっ?と私は思った。今この男は私の言いたいことを言い当てなかったか?どこまで漫画的な出来事が起これば今日という日は終わるのだろうか。本っ当ありえねーですよこんなもん。
「貴女の想像通りですよ。漫画的な出来事なんて路地裏の奥にはいくらでも転がっていますよ。これでご理解頂けますかな」
 現実に疑おうにももはや疑う余地が無かった。1と2では1が正解ですがどちらが間違いでしょうと問われるぐらい阿呆らしく疑いようが無かった。この男は天狗か。
まさか人の心が読めるだなんて。
「天狗ではありません。容姿は専ら河童に似ているとは言われますけれどもね。さて、私があなたの心を読める理由を順を追って説明しましょう。あなたにその説明が聞ける余裕があれば、の話ですが」
 男は私の視界から消えた。首が動かないのでその動向を知ることは出来なかった。まさか私が身体を動かせないのは不思議な仙術を使っているわけではないでしょうねと私はさらに漫画的な志向に浸ってみた。そういや今考えているこのことも読んでんのよね。勝手に読めば良いじゃないのさ、エロガッパが。
 なんて頭の中で遊んでいる間に男の手らしきものが私の・・・なんというか股の一番真ん中の、つまりアレに触れた。流石の私も声を大きくして説明できるのは乳房とか乳首とかその辺りまでだということを理解して貰いたいと思う。というかホントぶっ飛ばすよ、ちょっと。若しくは後で百万くらい頂くわよ。それはいいとして、ともかくその説明不可放送禁止モザイクの場所に触れた手は私のあんなところを広げている。あんなところとは即ち尿道だった。何処まで変態マニアなのよ。
 私は動けない身体で身構えた。動けるようになったら直ぐに絞め落として警察に連れて行ってやる。慰謝料も多額ふんだくってやる。私は愚図で頭の悪い女とは違うということを見せ付けてやる。・・・とは行ったもののやはり嫌なものは嫌だし怖いものは怖い。私は抵抗できるだけ抵抗したかった。
「ご心配なさらずともこの飾りを貴女の此処に挿入する気はありませんよ。それは規則違反ですからね。それと私を締め落としても警察には連れて行けませんよ。ストーカーに後をつけられているといっても何にもしやしない警察が夢の中の出来事を聞いて逮捕しに来るなんて在り得ませんからね」
 男は意味深長な言葉を言い放った。それがどういうことかと私は深く考えようとした。しかしその前に私の身体に思いがけない刺激が襲い掛かった。
 ビクッ!
 その刺激は私の思考を台風の黒い雲が空を覆うみたいに脳味噌と切り離してしまった。動けないはずの身体がスタンガンに撃たれたみたいに跳ねて身体を縮こめた。
こっ、なん、なんの刺激!うぁわ!かっ痒いの!?これ!
「流石に此処なら反応してくれますよね。でなきゃ常に小便垂れ流しですもんね」
 男のモノは私のアレには挿し込まなかったけれど、代わりに私の尿道には何か長い管のようなものが挿しこまれた。しかもそれは只の管ではない。私の身体に強烈な尿意を覚えさせるほどの何かがある管だった。ふっ、あぁぅ、なんて言ったらぁあ!いいのよこれぇ・・・。
 私は声にならない叫び声を上げた。難度も身体が勝手に反応をする。抵抗しようとしていた私の意思と強張っていた身体は何処へやら、その力を一気に失っていた。抗いようが無いほどにその管は私を刺激した。くすぐったさを感じないはずの背筋がむずむずと騒ぎ出した。随分の間私は裕子達を擽ってきたが、こんな擽り方は全く思いつかなかった。まさか身体の内側から擽られるとは。オ・・・オシッコ漏れるぅ。
 私は裕子同様にこのくすぐったさに一切反抗できなくなってしまった。全身が逆毛立った。私の思ったとおりだ。擽られた人は誰もが赤ん坊のようになってしまう。事実私は耐え難い尿意に中途半端な声をあげることしか出来なかった。スタングレネードなんかよりよっぽど人を無力化する事が出来る。
「痛み以外の刺激を強制的に誰かに与えられるのは初めてでしょう。それは置いといて、説明が聞けるなら聞いてくださいね」
 私はいつでもこういうことをする側だった、そしてこんな刺激など今後味わうことは無いだろうと中1ぐらいからずっと思っていた。しかし、それよりも今は先ずこの刺激を取り去って欲しかった。裕子達もいつもそんなことを思っていたのだろうか。
想像よりも・・・ぅくっ、ずっとキツッ・・・喋れなくてよかっ・・た、声漏れまくり、はぅ!
「此処は貴女の夢の中です。貴女は今自分の夢の中に居るのです。私はその夢の中に入り込んで夢を本来の形から改竄する、いわば獏みたいなものです。聞こえてますか?」
 男は続けていった。
「私はある人に頼まれてあなたの夢を改竄しにやってきました。改竄のためには色々とルールがあるのですが、それは企業秘密です。で、これは重要なことです。貴女がすべきことは一つ。これから私が出す課題を全てクリアして無事現実で目を覚ますことだけです。まぁオリエンテーリングやアスレチックのを混ぜたものみたいなものですね。聞こえてますか?」
 男はいちいち聞こえてますかと尋ねてきた。聞こえてはいる。聞こえているけれども・・・聞こえてるけど、ふっふっふっふあ!この刺激が、強くてよくわかんないよう!うぅあ!ズズッてくる!ズズッてくるってば!ホントに!これなの!?ちょっと・・・・・・・・・くすぐったい!!
 管が尿道を刺激するたびに、私の身体は跳ね、オシッコが出ていきそうになる。けれど管が邪魔をしている所為でオシッコは出ていかれずに渦巻く。すると身体はより力を込めて管ごとオシッコを出そうとする。しかし勿論管は排除されはしない。やがて力を使い果たす、すると今度は今までオシッコを出そうとしていた尿道が縮まる。
当然尿道が縮まれば再び管を締め付けることになる。管を締め付けるとまた同じ刺激が尿道に加わる。管はそうやって意地悪く私をエンドレスで虐めていた。この管が抜かれない限りこの連鎖(ある意味輪廻と言い換えてもいい)は終わらない。
「・・・ということですので気をつけてください。それでは今から管を抜きます。抜き終わったら自然に貴女は動ける状態になります。しかし、気を付けてください。気を抜くと大変なことになりますよ」
 肝心なところを聞き逃してしまったが男がこの連鎖を断ち切ってくれるというので私は少しばかり安堵した。と言ってもまだ管は私の中にあるので溜め息をつくことはできず息を詰まらせたままだった。
「はん!」
 男が管に触れた。今までと別の方向に動いた管が新しい刺激を生み出し私を苦しめた。この頃にはもうはっきりと声が出せるようなっていたが、今は嬉しくなかった。なにせ「うん!・・・ぅくっ・・・はっ・・・ひゃぁ!」
 と艶かしい声を抑えることが今の私にはできないのだから。AVの五月蝿い声の女優さんごめんなさい。抑えられないものは抑えられないんですね。
 たっぷりと時間をかけて管は抜かれた。ふと男女の行為を済ませた後に自分のモノを抜く男はどんな気分なんだろうと考えた。しかし、考えられたのは管が抜かれた開放感のあった一瞬だけだった。
「ぁぁうぅ・・・」
 直ぐにまた尿意がぶり返してきた。これは別に余韻云々の話ではない。長いこと尿意に悩まさせられていた尿道はすっかりと自分がダムの中身を出さなければならないと勘違いしてしまっていたのだ。つまるところ尿道を刺激された所為ですっかりオシッコがしたくなってしまっていたのだ。しかしそんなことはお構い無しに男は言った。
「自分の夢の中とはいえ裸で歩くのは良くないでしょう。今から貴女に衣服を着せます」
 私はそれを拒もうとした。今下手に刺激を受けると間違いなく漏れる。漏らす。幼稚園児みたいに。声は出せなかった。今声をだせばまたいやらしい声しか出せないに決まっていたから。抵抗も出来なかった。尿意を抑えることに必死で私は身動きが取れなかった。か細い身体に似つかわしくない腕力で私のオシッコの出口をふさいでいた両腕を開いたかと思うとさっと袖を片腕に通してしまった。
「あはっ!」
 瞬間に私は尿道に管を入れられたときのようにビクッと身体を反応させた。そしてそれに気を取られている間に男は電光石火のごとく反対側の袖にも腕を通させ、身体の前のボタンを留めてしまった。見た目も材質も私達がいつもの稽古をするときに使用するあの胴着、というかパジャマと同じものだった。ただ違っていたのはその内側にはびっしりと私に刺激を放ってくる毛皮が縫い付けられていた。こっこれはマズイってばぁ!身体が・・・むずむずするぅ!
「ちょっ、待って!こんなのやだっ!くっくっくっくひ!」
 身体が尿意に悶えると毛皮が身体を刺激してより身体を弱くしていく。もう我慢できそうに無い。
 男はパジャマのすそを引っ張った。それは背中の途中で布地が引っかかっていたために一番下のボタンが留められず、几帳面なのか律儀なのかそれともわざとなのか、
その最後のボタンを留めるために生地を引っ張っただけのことに過ぎない。しかし既に我慢の臨界点に達していた私には十分すぎる刺激で、私は規則である放流前のサイレンを鳴らす暇も無くダムを開け放った。せっ、背中がズゾォってきたぁ!はひっ、やっ、もう我慢・・・でき・・・んあぁあ!
「あっはん!・・・あぅぅ、やっやだぁ!」
 男はダムの放流が終わるのを待った。ジョロジョロという激しい音とオシッコの長さが私をより恥ずかしく悔しくさせた。こんな年にもなってお漏らしを、しかもただしただけでなくいやらしい刺激の所為でさせられてしまったこと、それを何処の馬の骨、犬の糞、鳥の死骸ともわからない男に見られたことと少し男に迷惑をかけてしまったと思ってしまった事がそれにより拍車をかけた。もうなんだか泣きそうだった。
 男は放流が止まるのを見計らって何事も無かったかのように私にパジャマのズボンをはかせた。その刺激に私はまたオシッコが出るのではないかとちょっと疑心暗鬼に陥っていた。実際は只むずむずしただけだった。
「過去に同じ事をした人は必ず貴女と同じ失敗をしてましたね。今このあなたの夢の中では何も無かったように直ぐ乾いて消えますけども、何せ夢の中の出来事ですからね、もしかしたら現実でも同じ事が起こっているかもしれませんよ」
 男は嫌な含み笑いをした。それが私には口惜しかったけれど、強制的な刺激がすっかり私の意気と体力を奪ってしまい、さらに変なパジャマを着せられたおかげで自由な行動が出来なくて男を絞め殺すことは適わなかった。
「では課題に進んでください。扉は開けておきました。あ、ちなみにここで現実に目が覚めるのを待っても無駄ですよ。こここあはある意味で別次元の世界ですから課題をクリアしないことには永遠に夢の中ですから」
 男はさらりと恐ろしいことを言ってのけ、そして何も無かったはずの空間に一つ浮かびあがった扉を開けると何処かへ消えてしまった。色はピンクではないけれども、某SF漫画の何処にでもいけるようなドアと同じ役割を果たすのだろうか。勿論行き先は自分自身で決めることは出来ないだろうし、かといって扉をくぐらないわけにもいかなかった。
 身体を動かすとパジャマの中の細い毛がこちょこちょと私の皮膚に絡み付いてくる。裕子に、他の色々な女の子に何度も味あわせてきたくすぐったさと言うものを私は感じた。身体がチョコレートみたいに甘くなって溶けていってしまいそうだった。
それでも立ち上がらないわけにはいかず、刺激を、微弱な刺激を我慢してその扉の取っ手を取った。
 どうせ夢の中の出来事だ。私は腹を括って取っ手を引いた。身体が扉の奥に吸い込まれる。こんな悪夢はさっさと終わらせて気晴らしに裕子をまた擽ってやる。こんな漫画的な夢はもうこりごりだ。
 この後に、より漫画的な出来事が待っていると言うことを薄々感じながら私は後ろでに扉を閉めた。


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