てぃっくらーまいむ作品

夢の中へ

第4話
 ったくこの廊下長いなぁ。何処まで続くのよ。床も壁も天井も全部真っ白でカワイくないし何の装飾もしてなくて窓もないから距離感が掴めなくて目の前くらくらしてくる。ま、夢だもんねくらくらはするか。
 なんて愚痴りながら私は真っっっ白な長ーい廊下をひたすら歩き続けた。十分くらい歩き続けた。あまりに長くてちょっとばかり腹が立ってくる。あームカツク。でも今怖い顔できないかもなぁ。体中のむずむずが気になってしょうがない。特に弱いらしいところに中の毛が触れると声をだしちゃいそうになる。う〜ん、膝裏とかくるなぁ。
「何納得してんのよ」
 私は呟いた。こんな状況で何『くすぐったさってこんな感じなんだ』的なこと考えてるのよ。馬鹿じゃないの?そんなこと考えるなら早くこんなとこ抜け出す方法でも考えなさいよ私。どうせ行き着くとこまでしかいかないんでしょーけど。
 長い廊下を更に二,三分程進むと漸く目の前に扉っぽいものが見えてきた。多分扉だと思う。恐らくはそう。でもいくらなんでもこれは親切心ないよねぇ。ドアノブだけ銀色だけど他全部白塗りなんてさ。お蔭でおでこと鼻の頭強く打っちゃったじゃないの。あ涙出てきた。鼻血は出てないよね。よし、気を取り直して先に進もう。私はドアノブを掴んだ。途端にピリッと静電気が起きた。何回も人のこと馬鹿にして。私は思わず扉を蹴っ飛ばしてやろうかと思ったけど、素足じゃ痛いしそんな下らないエネルギー使っても意味ないと思い直して止めた。扉を開いた。
「うっ、木目模様なのに眩しく感じるのは何故?」
 次の部屋に入ると先ず確認できたのが木目模様の橋。幅は二メートル、長さ5メートルくらいで手すりはなし。それから左右を見渡すとなんともだだっ広い部屋が広がっている。橋以外は全てが真っ白で何処までの距離か分からないけれどかなり先の方まで部屋が広がっている。木目の橋の左右には巨大な滑り台のような傾斜の付いた白い坂が降りている。底の方は漸く白が届かないようで真っ暗な闇に包まれていた。色があるって大切なんだな、とこんなつまらないことでしみじみ思った。
 橋の手前には立て看板が刺さっていた。橋以外に向こうに渡る手段がないから何となくその内容は想像が付いた。
「え〜っと、このはしわたるべからず。何よそれ!言われなくてもこんなの端っこのほうを渡るつもりなんてないわよ。本っっっ当人のこと馬鹿にしくさってさ」
 無茶苦茶腹の立つ看板だけど取り敢えず向こう言ってドア開けろってことでしょ。何の妨害がくるか分からないけどこの幅があればあの程度の長さは渡りきれるでしょ。こうなりゃ邪魔される前に一気に走っていってあげようじゃないのさ。高くて怖いなんて思う暇もないように。
「んふっ」
 私は軽く屈伸しようと思って、止めた。服の中の毛が私を刺激するのを止めないから体を動かすとむずむずしてしょうがない。これ脱ぎたいなぁ。でもあのおっさんがいつまた来るか分からないし、こんなとこでも裸になるのはちょっと抵抗あるし。
 有言実行、案ずるより産むが易し、思い立ったら吉日。色々考えてみつつ、呼吸を整えて助走をつけた。多少むずむずしても落ちないよね。私は走り出した。
「あて!」
 そして転んだ。
「何よこれ!」
 木目の橋にはどうやら油系のものがなんだか大量に塗りたくられてたみたいで、私は早速その罠に嵌り一歩目から転ばされた。前受身は取ったけどそれも滑って本日?というか本夢二回目のおでこぶつける経験をした。
「汚い手つかうわね。あぁ、もう実際油で汚いじゃない」
 手が油でべとべとになった。服の前の部分ほとんども、おでこも油だらけになった。しかも滑ってなかなか立ち上がれない。これ後でおちるかなぁ。べとべとのまま進むなんてやぁよ。
 そーっとそーっと四つん這いの形になって進むと、なんだかやけに左側の方に滑ってきていることに気が付いた。なんかもがいてる間にここまで移動してきたかなと思ったけど、橋の真ん中らへんに滑ったんだから、ここまで極端に片方に傾くのはおかしい。
 なんて考えているとせっかく慎重にやってきたのに、思いっきり滑ってしまった。それでなんで片側に流れてきたのかが分かった。滑った私の体は何もしてないのにどんどん左側に寄っていっている。それはつまり
「ちょっと傾いてるじゃないの!滅茶苦茶落とす気まんまんじゃないのよ!ちょっ、あ、滑るぅ!」
 そんなこと気付いたってもう橋の真ん中近くまできちゃったんだから仕方ない。前にも後ろにも進めずに、このままだと落ちるっていう焦りから余計に手足を取られ滑りどんどん深みに嵌ってゆく。足がついに橋からはみ出した。
「ちょっと待ってってば!落ちるって本当に!滑る滑る!」
 もうこうなったらどうしようもない。私は立ち上がろうと力を込めて、最後に盛大に滑って体が一瞬橋と完全に離れた。その後背中から白い坂に落ちてそのまま巨大な滑り台を成すがまま降りていった。
 無理やりとまるには傾斜が強すぎたし、この部分も油が塗ってあるみたいで、するするとジェットコースター並みの速度で坂を落下していった。夢じゃ死なないよねと歪んだ顔で祈りながら暗闇の奥へ吸い込まれる。光の届かないところまできて目の前が真っ暗になりもう駄目だと思いながら私は気絶した。



 と思った次の瞬間、体がポーンと飛んで何かにボサッて落ちて転がってまたどこかにドサッて落ちて止まった。一体全体どうなったのかさっぱり分からないままオレンジの薄暗い照明が照らす中で首だけ動かしてあたりを見回した。
 元の壁は白かったんだろうけど、オレンジ灯の明かりの色で全部がオレンジ色になっていた。私は上体を起こして全身を少しずつ動かしてみた。痛むところはおでこ以外ないみたい。
「きゃっ、な、何?」
 少し楽な姿勢をとろうと手を後ろにやると、何かふわっとしたものに手が触れた。ちょっと引き気味でそっちの方を見た。
 先ず初めになんでそれがこんなところにいるのかということに驚いて一瞬体を硬直させて、でも直にはっとしてそれをひょいと目の前に持ち上げてまじまじと観察した。なんだかとても可愛い。
「にゃんこちゃん!ちっちゃ〜い、白〜い、可愛い〜」
 私は、体のくすぐったさとは関係なく、微笑んだ。私はにゃんこにこの上なく目がない。鼻先を近づけるとにゃんと鳴いて舐めてくれる。私は顎を撫でてあげた。ごろごろと喉を鳴らした。
「でもなんでにゃんこ?ここは予測不能だわ」
 相変わらずにゃんこの顎を撫でながら私は呟いた。これだけのことをしてここに落としたのだからそれなりになにか関わりがあるはず。私を助けてくれるパートナーだったらいいのにと思ったけれど、その甘い夢は辛い現実の呼び水でしかなかった。
 にゃんこが私の手のひらから飛び降りるとちょろちょろと私の後ろに回った。なんだろうと後ろを振り向いたときにはもうにゃんこはそこにいなかった。
「ひゃうん!」
 私は足の裏に走った刺激にきゅっと足を丸めて背筋を伸ばした。急になんだと思ってそっちの方を見ると、さっきのにゃんこが私の足の裏を舐めていた。
「こらぁ」
 びっくりさせないでよと思いながら立ち上がってにゃんこの方へ行こうと思って手を付いた瞬間私はまたするっと元のように仰向けに倒れちゃった。
 何が起こったのか分かる前にまたにゃんこが私の足の裏を舐める。私はそこから逃げ出そうと踏ん張って体を起こそうとしたけど、またも元のように仰向けになることしか出来ず、断続的ににゃんこに足の裏を舐められた。
「くすぐったいよっ!にゃんこちゃんやめてっ」
 って言ったってにゃんこは言葉が分からないんだから止めるわけがない。でも逃げようにも体がイメージ通りに動かない。体を支えようとする手がするっと滑ってしまうことから、さっきの油がまだ私のことを邪魔しているのだということに気が付いた。これじゃあ立ち上がれないし逃げられない!
 まだくすぐったさというものに慣れてなくて私はその弱々しい刺激にも翻弄されてしまう。体は動かせるのに抵抗できないというもどかしさに私は歯噛みした。歯を噛んでおかないとまた変な声が出てしまいそう。
「あれ!ちょっ、はっ!やめっ、何で」
 じたばたとその場もがきを繰り返していると、新しい刺激が逆の足の裏にも襲い掛かった。左右同時に足の裏をぺろぺろされてる。くすぐったさが二倍、というほどではないけれど、二割り増しくらいにはなった。私は何とか首だけ動かして足のほうを見た。にゃんこがもう一匹足の裏を舐めていた。
「ずるいよこんなの!油断ん!させといてぇ」
 次第に声が裏返るようになってきた。舐められると、舐められる度にくすぐったさが増す。というかくすぐったさが体に溜まっていくみたな感覚に陥った。もっとやられるともう笑ってしまいそうなところで、また更に新しいにゃんこが私の顔の横を通り過ぎた。
「あひゃっ!こらぁ!膝の裏は、はっ!あぅぅっ」
 新しいにゃんこは膝の裏に頭を摺り寄せそしてぺろぺろと舐めてくる。一気に私の体の筋肉が硬直する。さっきも思ってたけどやっぱり私の膝の裏は結構弱いみたいで今までの本当に倍ぐらいの刺激が私の体を襲った。くすぐったければくすぐたいほど焦って体はうまく動かせない。ちょっと膝を動かしたぐらいじゃにゃんこは逃げてくれないし。
「んもう、どっかいって!くすぐったい!…いやっ、何よこっち来なくていいってば。向こう行って!ねぇえ?いい、いい、駄目ってのさ。ほらしっし。もう駄目って言ってるじゃん〜。こっちこないでぇ〜。はぅ!」
 今度は私の顔の辺りににゃんこが現れた。手で払おうとしてみるのだけど、うまくそれを飛び越えてにゃんこはそろっと近づいてきて私の首筋にそっとキスをした。どんな男にも出来ないような刺激的なキスだった。私は一気に身震いした。小さな猫の顔は首をすぼめてもうまくそこに潜り込んで来る。抵抗する術を持たないまま私はそのくすぐったい刺激を受け入れるしかなかった。
「くっくっくっくっくっくくっ!駄目…ゾクゾクゥってする。もう寄ってこないでよひぃん!」
 声の裏返る涙声でにゃんこに懇願する。身を揺すってもにゃんこは退きもしない。そしてまた一匹二匹とどんどん数を増やしていく。次第に体の我慢が聞かなくなってどんどん声が漏れていく。脇腹も太腿もどんどん猫の刺激に占領されていって私はどうにもできなくなていた。もう笑い出す衝動を抑えられない。
「ひきゃぁあ!やめって、あははははははははあは!ずる、ずる、ずるい!くすぐったいって駄目!我慢できっ!ない!ひゃはははははは!」
 締まった脇腹を素早い舌の動きが刺激する。ほとんど人に触れられることなんてない刺激に弱い太腿や膝の裏がじわじわと嬲られる。以前なら少しも表情を変えるはずのなかった足の裏への刺激で悲鳴を上げちゃう。首筋がゾっとなって背筋がぞくぞくする。にゃんこなんかに私はいいように弄ばれている。くやしいけれど、滑って身動きが取れない。
「いやああああ!駄目!マジ無理!うひゃっ!はぁ!ぬふっ、はっ!くす、ふふふふふふふぐったい!もう駄目やめて!きゃはははははは!あぁう!はん!こらぁ!?服の中も駄目!ははははあははははは!」
 最初のにゃんこが足の裏に飽きてそのまま裾からパンツ―――パジャマの下のほうのことね―――の中に入ってきた。脹脛を意地悪な刺激で通過しながらよりによって太腿と膝の裏のちょうど間くらいのところで服の中の毛と絡まってびっくりしたのかすごくくすぐったくもがき始めた。
「ひゃうん!ふひひひひひひ!そんなとこ来るからだよ!あふふふふふ!ふはははははあはっははは!あはっははははははひひひははは!もうやめて、出して!あげるから落ち着いて!?ぇえええあはははははあはははあは!」
 もうにゃんこの悪戯はエスカレートしたまま留まることを知らない。また一匹が移動を始めそのたどり着いた先は、裕子も弱いおなかの上だった。こっちが準備するまもなくにゃんこはもぞもぞと服のすそを捲り始める。なんて器用な猫なの、なんて言ってる場合じゃない!とにかくすごくくすぐったくて息が出来なくなる!
「あはっはっはっはっははぁ!素肌は舐めたら!息できな…は、いよ…ぅく!駄目ぇぇぇぇぇ!あははははははは!くすぐったい!くすぐったく、て駄目!死んじゃう!」
 もうそろそろ本当にやばいかも知れない。時々は吸えてた空気がくすぐったさで段々減ってってる。
「え?はぁ!?んぁあん!ちょっ、何処舐めて…はぁ、ん!」
 急ににゃんこが私のなんていうか、えっと、非常に危険な部分を舐め始めた。じわじわとした感覚が其処に広がって私は身震いした。今までの強烈なくすぐったさと違って刺激が波のように高まったり低くなったりして逆にくすぐったさよりも耐え難い。当然くすぐったいのも終わってないから体がぴくぴくと痙攣して治まらない。
「くすぐった…い?やだ、やめて!ふひひっ、ふあっ、くぅん!」
 だんだん自分でもやばい感じになってるのが分かる。滑るとか滑らないとか関係なしに抵抗できなくなってきてる。どうしようもないズクズクとした感覚があの一点から広がってる。もうっ、ダメッ…我慢できなっ……。
「ぅえっ?」
 そう思った瞬間にゃんこ達が一斉に私の身体を弄ぶのをやめてしまった。あぅっ、じゃない。やめた、やめた、ね。何が起きたのかわかんなくて私は身体を起こした。と同時に気付いた。身体が油で滑らないことに。
「くくっ、もう、早く出てってよ」
 膝の裏で絡まってる猫を取り出して他のにゃんこのほうに降ろしてあげた。にゃんこたちはさっさと暗いほうへ走っていった。私はなんとなく理解した。
「お約束のエロ漫画みたいでへこむなぁ…わたしゃにゃんこの餌かい」
 むかつくぐらい漫画的だなぁ。それに抵抗も出来ないままやられっぱなしの自分もむかつくし。でもなんかちょっと残念な気も…いやいやいや。そんなことないってば。んなこたない。たもさんじゃないけど。絶対残念とか思ってないから。もう、さっさと先行かなきゃさ。はぁ、もうヤダ。
 私は先に進むためにこのくらい部屋の中を暫く調べてみた。なんかもう慣れの早い自分が恐ろしい。このまま慣れすぎて夢の住人にならなきゃいいけど。あ、今上手いこと言ったな。
 5分くらい探して漸く部屋の壁と同化した扉を見つけた。暗い中でよく目を凝らさないと扉の隙間から漏れる光とその横に取り付けられたボタンを発見することが出来ない。さっきからこんなの好きだなぁ。とか思いながらボタンを押した。ガシャッと扉が開くと眩しいぐらいの光が溢れてきて私は目を細めた。目の奥がずきっとする。でもそれを気にしてもいられないし、さっさと中に入った。勢い良く扉が閉まった。やな感じ。
 入ってみると中はなんか思ってたよりも狭くて直径1メートルくらいの円柱型をした小さな部屋だった。周りには鉄の無骨な壁で覆われてて多分約数センチぐらいかな感覚で丸い穴が開いてる。そしてこの部屋の真ん中には私の手が届くか届かないかぐらいのところにいロープの先に30センチくらいの棒つるされていた。部屋というよりはなんかエレベーターみたいな感じがする。でも階数ボタンは何もなくて代わりに入り口のところにコルクボードみたいな板に貼り付けられた説明書きの紙があった。
「えぇ〜棒引っ張って〜エレベーターが動く…か。面倒くさいなぁ」
 要約するとそんなとこ。実際はこう書かれてる。
『上に行きたいときはそこの棒を引っ張ってください。そしたらエレベーターが動きます』
 あんま変わらないか。
 でも流石に直ぐに行こうかって事もできないよね。またなんかトラップとか有りそうだし、さっきあんなのがあったばっかりだし。大体どう見ても怪しすぎるし。
「でも他もないかぁ〜」
 この棒を引っ張ったら大方どうなるか予想は出来るけどやるしかない。本当に次あったら覚えておきなさいよあのくそ親父。私は恐る恐る棒に手を伸ばした。結構高い位置に棒があって私は背伸びして手を思いっきり伸ばした。そして直ぐに手を引っ込めた。
「腋がくすぐった〜い。やっべぇ、私凄く敏感になってるかも」
 むぅと膨れながらでも媚びうるみたいなポーズしたって何も効果ないことを分かりながら引っ込めた手を見る。裕子もきっといつもこんな感じなんだろうなぁ、可哀相なことしてた。なんて反省する気も無く無事ここから出られたら今の分たっぷりいじめてやろうとか考えてる私。そのためにもさっさとこんなのクリアしないと。
「んん〜、っと」
 体がびっくりしない程度に手を伸ばして棒を掴んだ。今度は何だ?このまま紐を引いたらむさい男衆でもやってきて私をくすぐりに来るか?それともにゃんこちゃんの次はわんこくんか?本当にさっさか終わらして早く休みたいのよ私は。
「よっしゃこーい。しゃーんなろー」
 ガコッと手応えを感じて踵が地面についた。一寸だけ力を込めないと棒は上に引っ張られそうなぐらいで、私は周囲を見える範囲だけ目だけで確認しながらそれに耐えられるように構えた。ウィーンと機械音がしてエレベーターが浮く感じがした。すでに服の中の毛で軽く吹き出しそうな感じがしててちょっとだけ耐えられるか不安だった。
 変化は直に現れた。もったいぶる気はあんまないみたい。壁一面に開いた穴のところどころから直径2cmぐらいの棒が伸びてきた。特にどこかで曲がったりとかしてる様子も無くただ真っ直ぐに私に向かって伸びてきた。私はその棒に無抵抗のまま取り囲まれた。
「っふ、…何、このくらいっ?なら全然へっちゃらよ」
 棒はそのままゆっくりと私の体に触れた。熱くも冷たくも無い感じでただ触れられたことによって服の中の毛が揺れて私に刺激を与える。続いてゆっくりとうまく棒同士の間隔を取りながら私の線をなぞるように体の周りを這い始めた。でもそれだけで決して振動したり突付いてきたりぐりぐりしたりはしてこなかった。予想よりも大分ソフトな攻めでだから私は少し油断してた。
「っっっ、むずむずするだけ、じゃない。思ったよりも楽でよかった」
棒はひたすら私の体をなぞり続けた。時々止まったり早く動いたりして変化はさせてきてたけど全然問題なく我慢できる程度だった。
 でも大体の場合一寸お遊びするぐらいのくすぐりでは思いっきりこちょこちょってするよりもつついたりなぞったりする場合の方がいい反応をもらえたりする。くすぐりはひとによってどの遣り方が一番くすぐったいか違うって某所のホムペで見たことがあるけど、多くの人がそれ系の攻撃に弱いのはなんでなんだろう。場合によってはこっちにその気が無くても勝手に反応してこっちをその気にさせたりすることもあるよね。
 以前結構顔の可愛い教育実習生をいじめたことがある。彼女がそういう立場でなかったら私は親とか校長とかを召喚されて非常に面倒なことになりそうなぐらい。
 「先生髪の毛結んだ方が可愛いですよ」なんて言って無防備になった脇腹をつんつく突付いたり「先生写真取りましょうよ」とか言って友達に腕を掴ませて身動きできないようにしてからくすぐらせたり隙だらけの耳元に息を吹きかけたりと非常に楽しかった2週間だった。一回は人気のないところで「彼氏いるんですか」と拷問したりしたこともあったけど―――可愛い顔なのに内気だったから実は1回しかその経験がないらしんだってさ―――一番反応してくれたのは会話の途中でさりげなく近づいてすすすっと脇腹をなぞるのだった。私より4つ上なのに「ひゃん!」とかいって悲鳴上げるのは可愛かった。地味なダメージが一番蓄積され易いってことなのかな?
 なんて考えてる間に棒はやる気を失くしたのかいつのまにか穴のかなに収納されてった。もうクリアかなと私は内心、基実際にニンマリした。甘かった。
「ひゃはっ!」
 背筋に電撃が走った。脊髄に近い背中は感じやすいってテレビに言われたことがある。半信半疑だったけどそれはもう疑いようがなかった。
「ひあっ、はっ!やぁ!くぅ、ふぅぅっ」
 続けざまに攻撃される背中は考えてたよりも容易く私の意志を捻じ曲げようとした。直に手を離して前の方に逃げたかった。一瞬で我慢できないところまで追いやられた。
 何でなぞりが効きやすいか分かった。それは攻撃が不意だから。事故は予測不能だからありきたりの話でも車の中身が死んでしまったりする。同じように急に仕掛けられるからそれが予想できなくてイメージ以上のダメージを受ける。突っつきなら最初の一発しかない。こちょこちょなら逆に最初にあまりダメージが無くて徐々にくすぐったさを増す。なぞりだからこそ不意のダメージが大きい。
 背中の方で何をしているのかその様子だけでも見たいのに両腕が力を込めて棒を引っ張っている所為で腕が邪魔で振り返ったりすることが出来ない。
「いやっ!ふひっ、ちょまっ、やるならっ!両方、いっぺんに来てよぅ!」
 今まで背中のみに集中していた棒の攻撃が急に脇腹を襲った。しかも右をすっと撫でた後に余韻を残さず左に攻撃を仕掛ける。それだけならまだしも偶にそれが逆になったりして攻撃を予測させない。予測できない攻撃はもっとくすぐったい。いや、本当に、くすぐったいっての!
「ムッ無理ぃ〜!」
 私はあっという間に陥落させられて、棒を離してその場にへたり込んだ。棒はへたり込んだ私を襲ってはこないで、役目を終えるとさっと穴の中へ閉じこもった。私は暫く荒い息を吐いていた。
「はっ、はぁ、はぁ〜。こんなん聞いてないよ〜。やばっ、ちょっと力はいんない」
 見てみるとなんか腕がぷるぷる震えてる。手を握り締めようとしてもうまくいかない。筋肉が弛緩してるのが分かる。それはとっても変な感じがする。なんか凄く犯されたみたいな気分になった。
 だんだんと体にくすぐりに対する弱さを刷り込まれていっている気がする。難しいオリエンテーリングをしてるというよりはそれの過程を辿らされるデキレースみたいな感じ。人に従ったりするのは嫌いだけど今は弱点を握られて私は相手の思い通りに動くしか道が無い。
「くそぅ」
 やけっぱちに近く私は棒に飛びついた。とにかくさっさとこれを終わらせて一旦どこかで休憩を取りたかった。すぐさま獲物を見つけた棒が飛び出してきた。こうなるともう成すがままの思う壺だった。
「ひゃはっ!うぅ〜、ふぃっ!ひっ!」
 何処をなぞられても背中に伝わるむずむずした感じが止まらない。背中、脇腹、太腿、裏腿と膝、胸の周り、腰。なぞられて弱いところは徹底的に狙われ、なのにちっとも体が慣れてくれない。気絶するほど激しくも無いから我慢できそうに思えるけど我慢すればするほど体が辛くなって力が入らなくなってくる。あぁ、もう駄目っ〜、ちょっと本当にこの辺で一旦止めてくれないとさっきのにゃんこちゃんとのあれも加わってまずい!
「ああっ!」
 限界の二文字が浮かんだ瞬間に私はもうしゃがんで力尽きて、本日二回目になる…。んと、え、あの、おもらし……を、した。人もだれもいないのにいいように扱われて子供みたいにこんなことをしてしまったことが凄く恥ずかしくてお腹の底から震えて。涙が流れた。
「っっっ、っひっ、…っ、っく、っひんっ、んんっ」
 こんなくだらないことでとか思うかも知れないけど今まで他を虐げて生きてきた私にとってこれほど屈辱的なことは無かった。虐げられることなんてないと思っていた私は心底自分を惨めに思っていた。でもそれも許さずにまた攻撃は始まった。
「きゃあっ!」
 涙と広がった液体で作った水溜りのしたから棒が突然飛び出して来た。ただ泣くことでストレスを発散できるという俗説を信じてそれに固執していた私は心底驚いて飛びのいた。するとその飛びのいて追いやられた壁際で棒が二本ずつ両手首を交差して壁に貼り付けにした。足首やらなにやら体の動かせるとこ全てをそうしてあっという間に捕らえて私は身動きが出来なくなった。
「棒引っ張って無いじゃん!なんでよ」
 私の言うことなんか露ほども聞かずに棒は私の体をまさぐり始めた。もうそれに怯えて抗う気力も無い私は当然抵抗力を持たずに再び先ほどと同じぐらいのところまで上り詰めさせられた。跳ねようとする体を棒は押さえつけていて、各部の感じやすいところには世界一器用な棒が私をいじめてやろうとどんどんなぞってくる。ついにはあの危険な場所にも棒は迫ってきた。そうなったらもうやることは一つ。笑うだけ。直後に始めての体験は訪れた。一番思い出したくない記憶の時にも無かったその感じは気持ち悪くも怖くもありでも心地よくてなんだか安心した。その記憶の時の話については後の方でゆっくり話したいと思うのでちょっと待ってて。





 ぐったりとして疲れきった私は私を捉えていた棒に解放されてしかも邪魔だとばかりにエレベーターからはきだされた。そこで私の目の前に広がってきたのはなにやら見覚えのある広い空間で、やけに明るく地面が照明の光を反射させてた。それが一面に広がっているプールだってことに気付いたのはノンレム睡眠から覚めたおよそ1時間半後だった。実際の時間に換算できるとするなら。


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