ミニメロン作品

妖恋記
〜男たちの知らない巫女〜

參 思い出
 朦朧とする意識の中で鈴音は目を開いた。その目の前で、可憐な少女が切なげな表情でしきりに訴えている。
「鈴音さま、私、おしっこがしたくなってしまいました」
 その可憐な少女の恥ずかしそうな顔を見た瞬間、鈴音は我に返った。
 そう。彼女は人里に降りた際に偶然見付けた少女。彼女を新たな民として迎え入れるべく、鈴音は山奥にある自分の村を目指して彼女と共に歩いていたのだ。
「ふふっ、だめよ毬藻。あなたのような可憐な乙女がおしっこなんていう言葉を口にしては」
 鈴音は自分の恥ずかしい欲求を訴える少女の赤く染まった顔を楽しみながら答えた。
 毬藻は今朝目覚めてから女の子の最も女の子らしい仕草を一度も見せていない。恐らく先に目を覚ましていた鈴音に見られたくなくて、今まで我慢していたのだろう。
 だが、着実に強く激しくなっていく恥ずかしい水圧に、毬藻のか弱い女の子の出口は恥ずかしい限界を迎えつつあるのだ。
「ああん、鈴音さまの意地悪ぅ」
 今にも泣きだしそうな顔で必死に前を押さえ、太股をすり合わせる毬藻。
 その仕草があまりにも可愛らしくて、鈴音の中に意地悪な好奇心が生まれた。
「しょうがないわね。それじゃ、見ててあげるから、ここでしなさい」
 鈴音のあまりにも破廉恥な言葉に、毬藻は必死に反論する。
「いやよそんなの、恥ずかしいわ。言うだけでも恥ずかしいのに、している所を見られるなんて」
 しかし鈴音にはその破廉恥な仕草を毬藻にさせる正当な理由がある。それを諭すように毬藻に語る鈴音。
「でも、この森であなたを一人にする事はできないわ。あなたはまだ妖怪を制する術を身につけていない。それに女の子はおしっこをする時とても無防備になるわ。そんな時に万一の事があったら……」
「でも、でも……ああん、もうだめぇ! もれちゃうぅっ!」
 目をきつく閉じ、いよいよ切羽詰まった激しさで太股をすり合わせながら前を押さえる手に力を込める毬藻。
 それは、どれほど可憐な乙女にも容赦する事のない大いなる自然の力に女の子の身体の恥ずかしい部分が屈しようとしている恥ずかしい証であった。
 女の子の水門に渾身の力を込めながら、その水門を責め嬲る凄まじく恥ずかしい水圧に、身を捩りながら耐えつづける毬藻。
 彼女の口から激しく恥ずかしい悲鳴が迸る。
 そんな毬藻の可愛らしい仕草をもっともっと堪能したい。
 最後には女の子の最も秘めやかな部分を鈴音の目の前に晒し、その部分から勢い良く迸る恥ずかしい噴水を見せてくれるのか。それとも激しい足踏みを繰り返しながら両手で押さえ続けている恥ずかしい部分をこじあけてあふれ出す恥ずかしい水に着物と太股をぐっしょりと濡らすのか。
 だがもしも毬藻のそのような場面を目の前でまじまじと見つめてしまったら、もしかしたら毬藻に嫌われてしまうかもしれない。
 鈴音は激しい衝動を必死に抑えながら、近くに見える小さな茂みを指さした。
「仕方がないわね。それじゃ、あそこの茂みの陰でしてらっしゃい。遠くへ行ってはだめよ」
「分かった」
 毬藻は必死に前を両手で押さえ、なおも激しく太股をすり合わせながら、鈴音の指さした茂みへと急いだ。
「見ないで下さいね」
 毬藻の姿が茂みの向こうに隠れ、そこから恥ずかしげな声が聞こえた。
「分かったから早く済ませなさい」
 鈴音が答えると同時に、茂みの向こうからせせらぎの音が聞こえてきた。
 ぷっしゃあああぁ。
 それはまさしく毬藻の恥ずかしい噴水の音。毬藻が女の子の恥ずかしい部分をさらけ出し、その秘めやかな出口から毬藻の身体を知りつくした恥ずかしい水を吹き出す様子が目に浮かぶようだった。
 そんな毬藻の最も女の子らしい姿を一目みたいという衝動を必死に抑えるように、鈴音は毬藻のいる茂みから顔を背けたまま待った。
 やがて、毬藻の恥ずかしい水音が勢いを弱めたその時。
「きゃあああああぁっ!」
 突然耳を貫いたかん高い悲鳴に、鈴音は血相を変えた
「どうした、毬藻っ!」
 慌てて茂みの方へ飛び出す鈴音。だが次の瞬間、その足が凍りついた。
 さきほどまで毬藻のいたであろう地面から数本の触手が伸び上がり、不気味に蠢いている。そしてそれらの触手の先の伸びる先の頭上では、無数の触手がひしめいていた。
 そしてそれらの触手の一本に、毬藻の身体が絡め取られ、空中高く持ち上げられていたのだ。
「そっ、そんな……いつの間にこのような化け物が……」
 さきほどまで妖怪の気配など感じられなかった。だから油断していたのだ。
 まさか巫女である鈴音に気配を感じさせぬ妖怪がいようとは思わなかった。
「鈴音さま、助けて、私、恐い!」
 毬藻が目を見開き、必死に叫んでいる。
「待ってなさい、毬藻。今助けるわ」
 鈴音は矢を構え、毬藻の身体を持ち上げている触手に狙いを定めた。その矢尻に青い炎が点る。
 放たれた矢は触手に命中し、炎がそれを焼き切った。
 だが木々の間に蠢く触手の群から伸びてきた別な触手が、落下を始めた毬藻の身体を絡め取った。
 毬藻の身体があっという間に触手の群へと引き寄せられた。そして、あろう事か、その身体が不気味に蠢く触手の群の中へと飲み込まれてしまったのだ。
「いやぁっ!」
 毬藻は触手の群から首だけを出した格好で必死に叫びながら、その首をも飲み込もうとする触手の蠢きに必死に抵抗し続けている。
「毬藻っ!」
 鈴音は新たな矢を触手の群へ向ける。
「くっ!」
 放たれた矢は毬藻の周辺の触手よりも前に、新たに群から伸びて来た別な触手に当たった。
 すかさず新たな矢を放つ鈴音。だが次々と伸びて来る触手にことごとく邪魔され、毬藻を飲み込んでいる群の本体には一行に届かない。
 それでも諦めず次の矢を繰り出そうと背中に手を伸ばす鈴音。だが、その手はもはや新たな矢を掴む事はできなかった。
「しまった! もう矢が!」
 矢を使いきってしまったとなれば、あの妖怪とどのように戦えばよいというのか。
 鈴音が不安にかられたその時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「あの妖怪はそなた一人では倒せぬ。二人が強力しなければ」
「美琴さま」
 鈴音のすぐ後ろに立っていたのは、鈴音の村を守るもう一人の巫女だった。
 彼女は鈴音の恩人だ。鈴音は戦で家族をなくし、生まれ育った土地を占領した軍の兵士たちに追われていた所を美琴に助けられたのだ。
 鈴音に巫女としての力与えたのも美琴だった。
「お迎えに参りました事、誠に幸いにございました」
「やはり、もうあれしか方法がないという事か」
 鈴音の問いに、美琴が頷いた。
 鈴音は意を決してその身を美琴に預けた。
 美琴は後ろから鈴音の身体に身を寄せ、鈴音の両腕を自分の両腕と鈴音との身体の間に挟み込んだ。両手の自由を奪われた鈴音の腋の下に、美琴の指先が食い込む。
 美琴の指が激しく蠢き始めた。凄まじく異様な感覚が鈴音の身体に送り込まれ、身体の中で渦巻き、凄まじい笑い声となって爆発した。
「きゃははははは!」
 地を揺るがすほどの激しい笑い声が鈴音の喉から迸る。
 美琴の指は、鈴音の身体の弱点を知りつくしている。その指によって紡ぎ出されるくすぐりの刺激は鈴音の笑い声を思うままに操り、強大な力を持つ妖怪をも倒す霊力をその笑い声に込める事ができるのだ。
「我らの笑う門に来たりし福の神よ、邪なる妖怪を祓いたまえ!」
 美琴が叫んだ瞬間、上空で蠢いていた触手の群が青く光り始め、やがて光の粉となって砕け散った。
 恐怖で気を失っていた毬藻の身体が、青く燃えながら溶け散る触手から開放され、地面に投げ出される。
 そこへ鈴音が駆け寄った。
「毬藻、大丈夫か?」
「鈴音さま」
 毬藻が目を開いた。
 鈴音がほっと胸をなで降ろした時、突然毬藻が身悶え始めた。
「ああっ、ああぁぁっ、か、身体が、身体が熱い」
 激しく喘ぎながら、片手をさきほど恥ずかしい水を噴出させたであろう場所へと持っていく毬藻。そしてもう片方の手は、自分の胸をはだけ、着物の中に隠されていた胸の膨らみを露にする。
 鈴音は息を飲んだ。毬藻の恥ずかしい場所は女の子の蜜をしとどに滴らせ、その蜜のあふれ出す中心に、毬藻の可愛らしい指が差入れられ、激しく蠢き始めたのだ。
 そして上の方では毬藻のもう片方の手が、胸の膨みを激しく揉みしだく。
「ああっ、いやぁっ、鈴音さま、見ないで下さい、見ちゃいやぁっ!」
 恥ずかしさに涙を溢れさせ、かん高い悲鳴を上げながらも、毬藻は自らの指を止める事はできない。ぬれそぼった花園の内側をかき回す指の蠢きの激しさに、とめどなく溢れる蜜が大粒の飛沫となって辺りに飛び散る。
「毬藻っ、一体どうしたのっ?」
 慌てて叫ぶ鈴音の問いに、美琴が毬藻に代わって答えた。
「どうやらさきほどの妖怪は淫魔だったようです。消し損ねた一部が彼女の身体の中へ逃げ込んだのでしょう」
「そんな…… 一体どうすれば」
 鈴音は低くつぶやきながら、鈴音が過去に体験したある事を思い出していた。
 それは、巫女としての修行の一環として鈴音に施されたものだった。
 鈴音はある種の薬草を飲まされた後、縄で後ろ手に縛られた。
 最初は意味が分からなかった。
 しばらくすると、足の付け根の恥ずかしい花園がムズムズしてきた。まるで無数の小さな虫が女の子の花びらや敏感なメシベの辺りを、そして秘めやかな部分の内側を這い回っているような感じだった。
 むずがゆさに切なく蠢く女の子の花園を、自分の指で思いっきりかき回したい。そのような事を考える事など乙女にとって恥ずかしくてたまらないが、どうする事もできなかった。
 だが両手を縛られていては、その恥ずかしく切ない欲望を満たす事はできない。
 やがて、他の巫女たちがやって来ると、鈴音の敏感すぎる花園を指先や筆で無遠慮に撫で回す。
 するともっと刺激がほしくて思わず恥ずかしい悲鳴が鈴音の口から迸る。
 だが、それは巫女としてあるまじき事なのだ。
 鈴音の恥ずかしい訴えにより、筆や指による悪戯はさらに激しさを増していくが、同時にそれらの筆や指は、さらに強力な媚薬を鈴音の花園に塗り込み、その部分にさらなる妖しく淫らな欲望を生み出し、鈴音にさらに恥ずかしい悲鳴を上げさせるのだった。
 今思い出すだけでも恥ずかしい部分が甘く疼いてしまうほどの凄まじい女の恥ずかく淫らな欲望。
 あの時、鈴音の花園からは、女の恥ずかしい蜜がとめどなく溢れていた。
 だが、今目の前で毬藻の迸らせている蜜の飛沫は、その比ではない。
 今毬藻を悩ませている女の恥ずかしい淫らな欲望の凄まじさは、鈴音に想像できる範囲をはるかに越えているのだ。

「きゃははははは、お願い、もうやめて、くすぐったくて死にそうなのぉ。きゃはははははははぁ! くすぐったぁい!」
 村の中央に建つ神殿から、凄まじい笑い声が村中に響き渡りつづけている。
 この村に連れて来られたばかりの毬藻が一糸纏わぬ生まれたままの姿で部屋の中央にある磔台に手足を拘束され、美琴や彼女の弟子たちによって全身をくすぐられ続けているのだ。
「もうだめぇ、くすぐったすぎて死ぬぅっ、死んじゃうぅっ!」
 美琴のしやなかな指によって脇腹や腋の下に送り込まれる刺激と、弟子たちの指によって足の裏や脹脛などから送り込まれる刺激が毬藻の身体を激しく身悶えさせ、毬藻にかん高い悲鳴と笑い声を上げさせる。
 大きく開かされた足の付け根に息づく女の子の恥ずかしい部分は、淫魔の影響によってか淫らに蠢き続け、花園から溢れ滴り続ける蜜が、毬藻のお尻を支えている磔台の張り出し部分を濡らしている。
「きゃははははは、もうだめぇ、お願い、もうやめてぇっ! きゃははははは」
 敏感な部分から休みなしに送り込まれるくすぐりの刺激はなおも激しさを増し、毬藻の笑い声もまた激しさを増して行く。
 くすぐりの刺激から逃れようと必死に身を捩ろうとする毬藻。だが彼女の身体を磔台に拘束している縄はそれを決して許すはずはなく、毬藻の身体は巫女たちの巧みは指の蠢きを受け入れるしかない。
「美琴さま、始めてからもうすでに半時になります。せめて少しばかり休ませる事はできませぬか」
 今にも気が狂ってしまいそうといった毬藻の笑いと身悶えを見かねて鈴音が美琴に声をかけた。
 だがその提案はあっけなく却下された。
「そのような事をしていては、この儀式はいつまでも終わらぬ。それでもよいのか?」
「しかし……」
「思い出すのだ、そなた自身のここでの修行の日々を。ここでそなたは十日間に渡って休みなしにくすぐられ続けたのだ。それに比べれば、この程度のくすぐりなど大した事はなかろう。それにこの娘の悲鳴は肉体と感覚を共有している淫魔の悲鳴でもあるのだ。耳を貸してはならぬ」
 確かにそのとおりだ。かつては鈴音もまた、この磔台に縛られ、美琴や他の弟子たちにに全身をくすぐられ続けたのだ。
 彼女たちの指のもたらすくすぐりの刺激の激しさにかん高い悲鳴と笑い声を上げ続け、大きく開かされた足の付け根の花園から恥ずかしい蜜が滴ると、ぬれそぼった花びらや固く尖っためしべを筆でくすぐられた。
 くすぐったさと恥ずかしさで今にも気が狂いそうだった。
 もう気が狂う。と思った時、鈴音の意識はどこかこの世とは別な世界を漂っていた。そして鈴音はそこで得体の知れない神聖な何かに出会ったのだ。
 それは長い間全身をくすぐられ続けた者だけがたどり着く事のできる境地だった。
 鈴音があの時出会った神聖なもの。それが神なのか、別な何かなのかは分からない。だが、それが何であったとしても、もしかしたら毬藻の身体から淫魔を追い払う力を持っているかもしれない。
 いや、現に美琴のくすぐりは、今まで何人もの人の病を癒してきたのだ。今はその力を信じるしかない。
「きゃははは、腋もあんよもくすぐったくてたまんない! 助けて、鈴音さま」
 毬藻に名前を呼ばれた鈴音は、ただ毬藻を説得する事しかできなかった。
「ごめんなさい、毬藻。これはあなたのためなの。もうしばらくがんばって」
「だめぇっ! これ以上されたら、おしっこが、おしっこが出ちゃうぅっ! きゃははははははぁっ!」
 毬藻の笑い声と身悶えがひときわ激しくなった時、美琴が告げた。
「そろそろ来る。鈴音さま、構えなされ」
「分かったわ」
 急いで矢を構える鈴音。矢尻に青い炎が点る。
 その時。毬藻が激しく身を震わせながら、かん高い悲鳴を上げた。
「もうだめぇっ、もう…… ああああぁぁぁぁっ!」
 次の瞬間、彼女の大きく広げさせられた足の付け根から凄まじい水流が迸った。
「鈴音さま、見ないで、見ないでぇっ!」
 涙を流しながら訴える毬藻。
 彼女の花園から噴出した水流は、床の上に巨大な水たまりを作っていた。
 だが、それはただの水たまりではなかった。
 辺りに散らばった水の雫が、まるで意志を持っているかのように床を移動し、巨大な水溜へと合流する。
 やがてその水溜に更なる異変が生じた。透明だった水溜の表面から、何本もの赤い触手が伸び始めたのだ。
 その水たまりの中心に狙いを定め、矢を放つ鈴音。
 次の瞬間、水たまりの中央に巨大な赤い目が現れた。
 その目がカッと見開かれた瞬間、矢は赤い炎に包まれ爆発した。
「な、なんと」
「あやけしの炎が効かぬとは」
 鈴音と美琴が凍りついている間に、水溜はさらなる変化を遂げた。もはや水りは赤い触手の群と化し、何本もの太くて長い触手が激しく暴れ始めた。
「いけない、鈴音さま、伏せて!」
 美琴が叫ぶと同時に、もう一つの悲鳴が聞こえた。
「きゃぁぁ!」
 毬藻だった。暴れていた太い触手の一本が毬藻の身体を磔台ごと絡め取ったのだ。
「毬藻っ!」
 鈴音のその叫びは、凄まじい破壊音によってかき消された。触手の群が神殿の屋根を、壁を、床を、一瞬のうちに粉砕したのだ。
 やがて瓦礫と土煙の中からようやく這い出した鈴音は、空高く舞い上がり村を離れていく触手の群を見て叫んだ。
「毬藻、毬藻っ!」

「毬藻っ!」
 鈴音は叫びながら布団から身を起こした。
 一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
 やがて、そこが毬藻を探す旅の途中で立ち寄った村の屋敷の一室である事を思い出した。
 布団の上で寝たのは久しぶりだった。
「またあの夢か」
 自然と涙がこぼれた。
 毬藻が妖怪に拐われたあの日から、鈴音は何度も同じ夢を見た。
 あのような事になるなら、森で毬藻が女の子の恥ずかしい欲求を満たす、最も女の子らしい姿をこの目に焼き付けておくべきだったのだ。
 少なくともあの時鈴音がずっと毬藻のそばにいれば、妖怪に捕まるような事はなかったかもしれない。
 たとえそれによって毬藻に嫌われたとしても、こうなるよりは良かったはずなのだ。
「毬藻……」
 今ごろ毬藻はどうしているのだろうか。まだ生きているのか。それとも……
 いや。毬藻は必ず生きている。そう信じているからこそ、こうして旅を続けているのだ。今はただ、そう信じ続けるしかないのだ。それが、毬藻のために今の自分ができるただ一つの事なのだから。
 ふと、鈴音は外から聞こえるけたましい鐘の音に気づいた。
 障子を開け、空を見上げる。
 次の瞬間、鈴音は大きく目を見開いた。
「あれは……」
 鈴音の脳裏に冬華の言葉が甦った。
 ――だから守り神に守ってもらわなければならぬのじゃ。


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