日本中がテレビに注目していた。
電気屋では客がテレビの前に群がり、家庭の食卓では家族全員が食事を忘れて画面を凝視していた。
「本日、厚生省から重大な発表がありました。人類始まって以来の革命がまさに今始まったのです。この番組では予定を変更して、その計画についての緊急速報をお伝えしております」
テレビ画面の中で、男性アナウンサーが視聴者に向かって番組の内容を紹介し、その顔を隣の席に座っているゲストに向けた。
「この計画は、人間のこれまでの歴史、いや、生命の歴史をも覆すほどの驚異的といいますか、かなり無謀とも言えるのではないかという気がするわけですけれども、そもそもどうして今、このような事をしなければならないのか、その辺りから説明願えないでしょうか」
グレーの背広を着た白髪混じりの男性が、アナウンサーの質問に答えるために口を開いた。
「まず、皆さんもご存知のとおり、未成年者の性行為が最近増加傾向にあって、早急な対策が望まれております。もちろん学校やPTAではそのような事を連想させるものから生徒たちを遠ざけようと努力しているわけですけれども、例えば西洋では女性の裸体は絵画芸術の中で重要な要素になっていて、こういったものは美術の教科書に載せないわけにはいかないわけです。これはどういう事かと申しますと、現在の芸術は人間の性欲の影響を少なからず受けた偽りの美的感覚によって生み出され評価されているという事であって、これを早急に改める必要があるわけです。また、そもそも子孫を残すために性行為というはしたない事をしなければならないという事そのものが問題ですし、またそのために多くの人間がそれに関連して恋愛とよばれるものに時間を費やすよりも、その時間を仕事や勉強に当てた方が経済成長にとって断然有利という事になるのは当然の事と言えるでしょう。他にも男と女の2種類の人間がこの世に存在する事によって起こる問題としては、セクハラや性差別など、さまざまなものがあります。現在これらの問題を早急に解決する事が、世界的に急がれているわけであります。この計画は、日本だけでなく、世界各国の研究チームが協力して長年に渡り準備してきたものです。最初に提案したのは日本でありますが、地球上の全ての国で同様の計画が近日中に実行に移されます。この計画は、現在の最先端の生命工学によって可能となったのです」
「今のお話にありました、最先端の技術について、その一部を記録したVTRを見ながら説明して頂けますでしょうか」
テレビ画面に、どこかの建物の内部のような場所の様子が映し出された。
暗く広い部屋に棚が並べられ、各棚にはガラスボールのような物が隙間なく並べられている。
棚の間を走る搬送車のクレーンに、ボールの一つが積まれた。
そのボールにテレビ画面がズームアップする。
ガラスで出来た部分は、球体の斜め下の部分を平面で切り落としたような形になっており、切り口を斜めに向けたままそれを支える台座に繋がっている。
円形の切り口の内側の面は凹凸のある桃色で、そこから紐のようなものが球体内部に伸び、その先は球体全体を占有する物体と繋がっている。
球体の中に満たされた液体の中で手足を激しく動かすそれは、まさしく人間の赤ん坊であった。
「今画面に映っておりますのが人工子宮と言いまして、この中に受精卵を入れて育てるわけです。この装置の実現のためには、内部環境を人間の子宮と同一にしたり、卵子の育成に必要な各種栄養素の投与料を微妙にコントロールするといった、いくつかの技術的課題を克服する必要がありました」
「という事は、この装置があれば、子供を産むのにもはや母親の身体は必要ないというわけですね」
「その通りです。でも、この計画を実行する為に解決しなければならない問題は、それだけではありません。中に入れる受精卵がなければ、人工子宮があっても子供を作る事はできないからです。当然、その問題も現代の科学によって解決する事ができたわけであります」
画面が再び切り替わり、パソコンに繋がれた大きな箱のような装置が映し出された。
パソコンの画面に暗号のような文字が並び、上の方へと流れていく。
画面中の1行は常に反転表示され、その脇に『生成中』と表示されている。
「今映っているのがそれでしょうか」
「そうです。核の中に遺伝子を持たない人工卵細胞の中に細い電極を差し込み放電させる事によって、その部分の蛋白質の分子配列を変化させ、DNAを構成する4種類の塩基、すなわちA(アデニン)・T(チミン)・G(グアニン)・C(シトシン)を生成し、それらを結合させる事によりDNAを生成します」
テレビ画面に顕微鏡写真が映し出された。
円形の透明な物体に2本の針が差し込まれ、その内部にあるさらに小さな球体に刺さっている。
「このようにして、もともと遺伝情報を持たない人工卵細胞に遺伝情報が書き込まれ、これを人工子宮に入れて育てれば、人間の赤ん坊になるというわけです。
「それでは、その人工卵細胞は、どのようにして作るのでしょうか」
「この研究が始まった当時は生きている哺乳類の卵巣から取り出した卵細胞に遺伝子消去処理を施して使っていましたが、現在では人工卵細胞生成を専門に行う生物を人工的に作り、その身体から切り出して使っております」
再び画面が切り替わり、水槽が映し出された。
水槽の底には表面に凹凸のある赤く不気味な物体が置かれていた。
「今映っているのがそれでしょうか」
「そうです。一見真っ赤な岩のように見える体は小さな粒々が集まってできておりまして、その一つ一つを切り出せば人工卵細胞となるのです。あの塊の中心部にこの生物の本体がありまして、水槽の水に溶かしてあるアミノ酸を原料にして生きている間中卵細胞を作り続けます。普通の生物のように自分の子孫を残す機能はもっていませんが、寿命を終える頃にはデータベースに登録されたあの生物の遺伝情報を人工卵細胞の一つに書き込めばよいのです」
「人間の遺伝情報も、コンピュータに登録されているのですか?」
「そうです。この計画以前にも人間の遺伝子を使った研究がいくつかありまして、当面はそれらの研究で採取された遺伝情報を使います。それと、これらの装置はもともと子供ができない夫婦に代わって子供を作る、人工代理出産のために研究されていたもので、そのために人間の細胞から遺伝情報を効率的に読み取るための装置もありますので、そのような物も必要に応じて利用する事になるでしょう」
VTRが終わり、画面は再びスタジオのアナウンサーとゲストを映していた。
「それでは、これから生まれる人間は、全て前の世代と全く同じクローン人間というわけでしょうか」
「最初のうちはほとんどそうなるでしょう。生物の遺伝子は世代交代の度に少しずつ変化したり、もう片方の親の遺伝子と混ざり合ったりする事によって多様性を保ち、周りの環境変化に適応し進化しています。しかしその進化は、人間の意志とは関係なく起こるもので、人間は今までそれをコントロールする事ができなかったわけです。一方、人間は文明を築くようになってから、生物学的にはあまり進化していません。人間は自らが進化する事によって環境に適応するのではなく、環境を自分たちが適応できるものに改造しようとするものです」
「進化する必要がないからコピーでも問題ないというわけですね」
「そうです。ただし、将来意図的に遺伝子を書き換える事が必要になるかもしれません。例えば現在燃料としている石油が地球からなくなるまでの間にそれに代るエネルギー源が見つからなければ、人間を寒さに強くする遺伝子が必要になるでしょうし、人間が宇宙で生活するようになれば、事故などで周囲の空気が失われても、ある程度の時間は生命を維持できるような遺伝子が必要になるでしょう。人間が望む生物の形質をさきほどのATCGの4文字で直接表現する事は大変難しい事ではありますが、それと似た形質を持つ生物の遺伝子から共通点を探し、その部分を取り出して使う方法は一昔前の遺伝子組み替え食品などにも使われていましたし、遺伝子を乱数で生成し、それらがどのような形質を発現させるかについてシミュレーションを繰り返す事によって、望む形質の遺伝子を探索しようとする研究も始まっています。そのようにして集められた知識によって、人間は自らの遺伝子を自由に改造し、望むままの姿となる事ができるわけであります……」
美雪の目の前に、整然と立ち並ぶ高層ビル群が広がっていた。
高層ビル群の上を、美雪は飛んでいた。
いや、美雪はそこには存在していなかった。
目や首を動かし自分の身体を探すが、視線の方向は変っても、自分の身体はどこにも見当たらないのだ。
「ここは……」
「あなたの知っている日本の、100年後の姿よ」
美雪の耳に吉沢先生の言葉が届いた。
辺りをもう一度見回すが、吉沢先生の姿も美雪自身の姿も、やはり見つける事はできなかった。
建物の間に張り巡らされた道路は自動車で埋め尽くされ、空中にも飛び交っている。
ほとんどは大型車で、人が自分の移動のためだけに使うような車は数少ない。
車に窓はなく、中に乗る人の存在を確かめる事はできない。
美雪は自分の意志とは関わりなく、一つのビルの窓へと近づきつつあった。
窓から覗く建物の内部には事務机が整然と並び、その前に座る社員らしき人々は、机の上に置かれたノートパソコンと格闘していた。
他の階のどの部屋も、似たような光景だった。
さらに他のビルの窓にも近づいたが、やはり中の光景は同じだった。
美雪が奥の壁を見た時、偶然そこにあったエレベータの扉が開いた。
中から箱の形をした物体が勝手に進み出て机の脇に敷かれたレールの上を移動し、時々停止すると内臓されたロボットアームが郵便物を社員の机の上に置いた。
郵便配達が済むと、箱は再びエレベータへと戻って行った。
美雪は再び周りの建物を見回し、それから部屋の中を見渡した。
「女の人がいないわ」
美雪の言葉どおり、会社の事務所には女性の姿はなく、商店街など女性のいそうな場所も美雪の周りには見当たらなかった。
「そう。当初の計画どおり、地球上の人間はすべて工場で生産された男性よ。しかも遺伝子の改造によって性欲は完全に取り除かれ、他の欲求に関わる遺伝子もほとんど削除され、そのかわりに企業戦士と呼ばれた人たちに共通して含まれていた遺伝子を全て持っているから、起きている間は社会人は休まず働き続け、学校の子供たちは一心不乱に勉強に励んでいる。当然家に帰る必要もないわ。生産や物流は全て自動化され、それらの効率化や改善、そして新たな商品開発などもまた人工知能によって自動的に行われ、学校教育もロボットによって行われる。人間が行わなければならない仕事は、自分たちの企業の商品を売るための営業活動が中心だったわ。営業活動と言っても、取引きの交渉は全てネットワーク上で行われるから、社員が会社の外へ出る事はほとんどないわ。また、この計画の目的として、人間の文化・芸術の健全な発達という事が唄われていたとおり、芸術分野で数々の作品を生み出す人々も大勢いたわ」
周りの光景が薄れ、別な光景が現れた。
美雪はどこかの美術館を思わせる建物の中にいた。
といっても、やはり自分の身体は見えなかった。
周りの壁に多数の絵が飾られている。
何が描いてあるのか分からない高度な抽象絵画がほとんどだった。
中には静物や風景などを描いたと思われる作品もあるが、形も配色も実物とはかけ離れているらしく、何が描かれているかが容易に判別できるものは数少ない。
吉沢先生の声が建物の中に響く。
「彼らの作品は、人間の欲や煩悩とは全く別の所から生まれてくる純粋な美的感覚により評価される事を目指したものだった。人々は直感ではなく、ある種の理論的根拠に基づいて彼らの作品を評価し、その美しさを認めたわ。けれども欲を失った人々はお金を出してまでそれらを手に入れようとは思わなかった。企業が生産する商品についても同じ事が言えたわ。人々は必要最小限度の物しか買わなくなった。だからやがて、世界的な不況に襲われることになった。その対策のために、人間は再び自らの遺伝子に手を加えたわ。抹消した欲の遺伝子の一部を復活させたの。ところが、会社に寝泊まりして仕事をし、娯楽施設の全くない世界は、少しでも欲を持った人間にとっては適応し難いものだった。人々の不満は爆発し、立て続けに起こった凶悪犯罪が内乱へと発展し、やがて世界中で戦争が起こったの」
美雪のいた建物が突然大爆発を起こし、巨大なキノコ雲が頭上に浮かんだ。
次の瞬間、美雪は空を飛んでいた。
立ち並ぶ高層ビル群のあちこちで爆発が起こり、街が巨大な火の海に飲み込まれていく。
美雪のいる場所は、はさらに高度を上げていった。
「もともと男というものは、戦いを好むものだわ。そしてそれは企業戦士として必要な形質でもあった。だから人間の遺伝子から削除される事はなかった。もはや男たちが夢中で戦っても、それで悲しみ戦いを止めさせようとする者たちはいない。もしも彼らが再び欲の遺伝子を削除すれば、戦争は治まっていたかもしれない。しかし、それは戦闘本能をも弱める事につながり、彼らにとっては大変危険な事でもあった。だから彼らは逆に欲の遺伝子を追加し、戦闘本能を次第に強化させていった。当然、戦争はさらに激しくなり、地球環境は汚染されていった」
美雪はいつの間にか、丸い地球を宇宙から見ていた。
青かった地球の海が、少しずつ赤黒い不気味な色に変わっていく。
「遺伝子の改造により汚染された環境に適応しようとはしたけれど、ついに限界を迎え、人々は宇宙へ飛び出して行った。戦火は彼らを追うように太陽系へと広がり、多くの人々が再び夢中で戦い始めた中で、ごく少数の人々が互いに集まり、もっともっと遠い宇宙へ逃げる事を思い立った」
美雪は太陽系を離れていく、巨大な球形の宇宙船へと近づきつつあった。
「彼らは政府や研究機関のコンピュータに記憶されているほとんど全ての情報を盗み出し、空母数隻を奪ってアルファ・ケンタウリへと飛び立った。途中に降りた惑星で、旅に必要な資源を確保した。政府のコンピュータから盗んだデータの中には炭素と水から食料を作る方法や宇宙船の作り方などが含まれていた。さらに、空母内にある道具や装置を使ってそれらを実現する方法についても、コンピュータが適切なアドバイスをしてくれた。そのおかげで、彼らは内部に都市を持つ長期航海用の宇宙船を作る事ができたわ。しかし食料に限りがある宇宙船の中で目的地に着くまでの長く退屈な時間に、欲の強い男たちが耐えられるとは誰も考えなかった。再び欲の遺伝子を削除すればよかったかもしれないけれど、彼らは欲の遺伝子に手を触れる事を恐れるようになっていた。そのかわり、彼らは身体の形を変える事によって、この問題に対処したの。これが現在の人間の姿よ」
美雪は壁をすり抜け、宇宙船の内部に入った。
そこにはロッカーのような棚が並び、その一つ一つに見慣れぬ物体が置かれていた。
ロッカーの下の方に存在する端子台らしきものに接続されている容器の中の下部に貼りつくように存在し、表面の一部を脈動させているその物体は、本来ならば頭蓋骨の中になければならないものであった。
美雪は声を震わせて呟いた。
「こ……これが……人間? ……か……身体がないわ。それに顔も……」
「そのとおり。無駄な体力を使わないために彼らが自ら選んだ姿よ。彼らは船内の工場で生まれるとすぐ、彼らが生まれながらに持っている神経プラグによってコンピュータの信号ケーブルに接続され、この世界で生きていくための教育を受ける事になるわ。彼らは仮想現実の中で、さまざまな事柄や概念を、見たり聞いたり疑似体験したりしながら学習する。あなたの知る時代に行われていた、文字ばかりの教科書を使った言葉だけの退屈な授業とは違って、欲の強い彼らにも受け入れられたし、万が一暴れ出す事があったとしても、それは仮想空間での事だから、だれも傷つく事はないわ」
美雪の周りの風景が再び変わった。
学校の理科室らしき部屋に、小学生くらいの少年が一人、実験に取り組んでいた。
部屋に響く何者かのアドバイスに従って器具を操作する。
現実の世界での姿と異なり、ここでは彼も昔の人間と同じように五体満足の身体を持っているのだ。
少年が質問をすると、理科室は分子模型が飛び交うさらに広い空間へと変化し、実験によって起こる反応が彼の周りのいたる所で再現された。
美雪の周りが再び変り、別な少年が現れた。
壁に掛けられた地図の前で、天下統一を目指す少年が家来と共に今後の戦略について議論しているのだ。
そこへ敵の来襲を告げる報告が入り、次の瞬間、鎧に身を固め馬に乗った少年が味方の兵を引き連れ、草原の向こうに並ぶ敵軍と対峙していた。
「彼らは学校を卒業した後も、ほとんどの時間を仮想現実の中で過ごすわ。建築や医療、それに宇宙船を動かすのに必要な特定の職業に就いた少数の人々は、都市や船の様子やその中の人間の身体の様子を知るためにロボットのカメラを通して現実の世界を見ているけれど、ほとんどの人々は現実の世界を目にする時は限られている。彼らの生活する住まいもまた仮想現実の中にあるのだから。また、仮想現実の中に作られたさまざまな娯楽施設は人々の欲を満たすと共に、経済の安定維持にも貢献したわ。そしてついに彼らは娯楽の一環として、仮想現実の中に女性を復活させたのよ。彼らはプログラムで動く仮想の女性を使ったさまざまな遊びを考えた。その最も初期のものがこれよ」
先生の言葉と共に、再び周りの様子が一転した。
人込みでにぎわう繁華街。
街行く人々の中には女性の姿もあり、服装も建物も街の様子も、あの計画が実行される前のものだった。
その人込みの中を、一人の男性と共に3人の若い女性が歩いている。彼女たちの顔は3人ともそれぞれ異なる美しさと可愛らしさをたたえていた。
美雪はおもわず彼女たちの美貌に見とれてしまっていた。
女性をも魅了する彼女たちを男性が初めて見たら、平常心ではいられないだろう。
連れの男性は今、そんな彼女たちのすぐそばにいるという幸福に恵まれているのだ。
しかし、彼女たちの美しい顔に浮かぶ表情は切なく、時々眉根を寄せては目を閉じ、可愛らしい口から小さな悲鳴が漏れる。
「どうしたの? 大丈夫かい?」
彼女たちに声をかえる男もまた、かなりのハンサムだった。
「な、何でもありません。大丈夫です」
薄いブラウスの下にミニスカートを穿いた女性は男の問いかけにそう答える。
しかし彼女たちの表情の切なさは少しずつ確実に大きくなっていく。
歩くペースも遅くなり、一歩一歩を慎重に進んでいる。
綱渡りをするかのように一本の直線を踏むように歩いていた足が、さらに内側へと動き、何かのパフォーマンスではないかと思えるほど太腿をきつく交差させながら歩いている。
「ああっ、もうだめぇ!」
ミニスカートの女性が悲鳴を上げた。
顔をしかめ前かがみになりながら、きつく閉じ合わせた太腿の付け根をミニスカートの上からきつく押さえてしまう。
「ああっ、あたしもぉっ!」
「もうだめぇ!」
ブラウスにロングスカートの女性とTシャツにジーパンの女性も同時に悲鳴を上げ、ぴったりと閉じ合わせた太腿の付け根を両手できつく押さえてしまう。
「どうしたの? 本当に大丈夫?」
男の問いかけに、ミニスカートの女性が小さな声で答える。
「あ、あたし……け……化粧室へ行きたいの」
「化粧室って、もしかしてトイレの事?」
男の口から出た分かりやすい言葉に、彼女は顔を赤らめながら頷いた。
「オシッコ?」
さらに恥かしい言葉に、彼女は顔を真っ赤にしながら小さく頷いた。
「ここでしちゃえば?」
「そんな……できません」
「そう……。あ、そうだ。実はボクも今までずっと我慢してたんだっけ」
男は近くの電柱に歩み寄ると、ズボンのファスナーを下げた。
中から取り出した男の物は、彼女たちの美しさと可愛らしさ、そして女の子の部分を責め嬲る大いなる自然の力に必死に抵抗する恥じらいの仕種のせいで、固く大きく膨らんだ男の欲の塊となっていた。
その先から勢いよく熱い水流が吹き出し、電柱を叩いた。
「いやぁ、こんな所で……」
「自分一人だけなんて、ズルい!」
「あたしも、したぁい!」
女性たちが口々に叫ぶ。
そして恥かしい部分を押さえる手の力をさらに強める。
そして、もじもじとお尻をゆすってしまう。
水流がおさまり、自分の物をズボンの中にしまうと、男は女性たちにささやいた。
「君たちもここですればいいじゃないか」
その言葉に、彼女たちは悲鳴を上げた。
「そんな事できるわけないじゃないのよ!」
「あたしたち、女の子なのよ」
「こんな所でお尻をまくるなんて、できないわ!」
男は彼女たちの仕種と言葉のために膨らんだズボンの前をさりげなく手で隠しながら言った。
「だったら、あと20分くらい我慢してもらわないといけないね」
男の顔は、好奇心で輝いていた。
これから彼女たちがどのように身悶えどのような悲鳴を上げるか、楽しみで仕方がないといった表情だ。
彼女たちは必死に太腿を閉じ合わせ、恥かしい部分を手で力いっぱい押さえながら、男の言葉に従って歩き続けた。
男は先を行くのではなく、彼女たちの後ろから彼女たちの身悶えぶりをじっくりと観察しながら、必要に応じて彼女たちに進むべき方向を言葉で伝えるのだ。
「ああっ、もうもれそう……」
「あたしも……もうだめぇ……」
「一体どうしたらいいのぉ?」
彼女たちが腰をもじもじと揺らしながら切羽詰まった切ない言葉を漏らす度に、男が手で隠している部分も少しずつ膨らみ、男の顔が悦びと苦痛に歪む。
「ぼ……ボクももうだめだ……」
男はついにズボンから大きく膨らんだ欲の塊を取り出し、手で強く握ると前後に激しくしごき始めた。
「やだ、あの子たち、あんな格好で……」
「可愛いのに、あんな所を押さえながら人前を歩いてるなんて……」
「はしたないわ……」
彼女たちの姿を見た人々が彼女たちのはしたなさを囁くが、その後ろではしたない行為に耽りながら歩いている男についてはだれも何も言わなかった。
まるで男の姿は街の人々の目に映っていないかのようだ。
一人の通行人が女性たちに気を取られ、男に衝突しそうになったが、その人は男の身体をすり抜け、何事もなかったかのように女性たちのはしたなさに注目し続けた。
通行人の囁き声が彼女たちの耳に届く度に、彼女たちは恥かしさに眉根を寄せ顔を赤らめた。
しかし彼女たちの女の子の部分を責め苛む内なる水は容赦なくその恥かしい力を強め、彼女たちはその悪戯に抵抗すべく恥かしい出口を守る女の子にさらなる力を込め、閉じ合わせる太腿にさらなる力を込め、恥かしい部分を押さえる手にさらなる力を込めなければならない。
そしてその度に、身体がガクガクと震えてしまうのを、どうする事もできないのだ。
やがて彼女たちは、男の指示で立ち止まった。
「さあ、着いたよ」
激しい欲求を前かがみになりながら必死でこらえていた彼女たちが顔を上げた。
人通りのひときわ激しい歩行者天国の交差点の中央に、電話ボックスを思わせる透明な箱が一つだけ置かれており、その中に白い洋式便器が一つだけ置かれていた。
「まさか……」
「そんな……」
「ここで……しろって言うの?」
彼女たちは水の執拗な悪戯の切なさに歪んだ顔を、男に向けた。
そして、彼が固く膨らんだ自分の物を激しく弄んでいる事を見て取った。
「あなた、まさか……」
「あたしたちが必死に耐えているのを見ながら、一人で楽しんでいたわけ?」
「いやらしいわ……」
男性は笑いながら女性たちに答えた。
「君たちがオシッコを我慢する姿も、とってもいやらしいぜ。そのいやらしさを存分に楽しませてもらったまでさ。それよりも、入らなくていいのかい?」
「こんな所で、できるわけないでしょ。もっとまともなトイレはないの?」
「今とは逆方向に1時間も歩けば、別なトイレがあるにはあるけど、そっちの方がいいかい?」
「そんな……」
彼女たちの顔が、絶望に歪んだ。
すぐにも内なる水がその悪戯に必死に耐える女の子の恥かしい部分をこじ開けてしまいそうなのに、1時間も耐え続けるなどできるわけがない。
「はうっ……」
「はぁっ……」
「もうだめぇ……」
彼女たちは恥かしい水の耐え難い悪戯に再び顔を下に向け、切ない部分とそこを援護する太腿と手に渾身の力を込めた。
「やっぱり、あたし入る!」
ミニスカートの女性がそう言うと、透明なボックスへと必死に歩き始めた。
「ああっ、ずるい、あたしも……」
「ああっ、あたしもぉ……」
他の二人がミニスカートの後を追う。
ボックスに入口のドアはなかったが、ミニスカートの女性の身体は透明な壁をすり抜けて内部に入った。
男も自分の物を握りながら、女性の後を追って中に入った。
他の二人の女性も後も、太腿を擦りあわせ切ない部分を手で懸命に押さえながら後を追ったが、ボックスの壁は彼女たちにとっては本来の壁として働き、中に入るのを拒んだ。
中の女性が急いでスカートとパンティを降し、洋式の便器に座った。
すると、今まで白かった便器も透明になった。
同時に便座の太腿の触れた部分が変形し、彼女の太腿をしっかりと掴んで左右に開かせた。
「いやぁっ、何なのよこれぇ!」
彼女は大声で叫んだ。
男は開かれた太腿の間に顔を入れ、彼女の太腿の付け根で激しく震えながら内側からの恥かしい悪戯に耐え続けている恥かしい部分をつぶさに観察し、顔を後ろに振り向かせては外で太腿を擦りあわせ恥かしい部分を押さえながら恥かしい悪戯に耐え続ける二人の女性の激しい身悶えを観察しながら、自分の欲の塊をしごき続けた。
「いやぁね、あの子、こんな所でオシッコするつもりなのかしら……」
「女の子なのに、はしたないったら……」
「歩いて一時間くらいの所にちゃんとしたトイレがあるっていうのに、こんな所で済まそうだなんて。女の子なんだからそのくらいスマートに我慢しなきゃ……」
「そうよ。女の子がはしたない事をしないという精神は、何物にも勝るべきものだわ……」
通行たち人が、便器のボックスと、外で女の子の切なさに必死に耐えながら待っている二人の女性を取り囲み、ひそひそと話している。
しかし、彼女たちの何物にも勝るべき精神は、恥かしい自然の大いなる力によって激しく打ちのめされ砕け散ろうとしていた。
「ああっ、もうだめぇ……」
「ああっ、いやぁぁぁぁっ……」
「見ないで、見ないで、お願い……」
「ぼ、ボクも、もうだめだぁ……」
3人の女性と一人の男は同時に悲鳴を上げた。
便器に腰掛けた女性の恥かしい悪戯に耐えていた部分から、熱い水流が吹き出し、男の顔を叩いた。
そして外で身悶えていたロングスカートの女性の必死に手で押さえていた部分から染みが広がり、同じように身悶えていたジーパンの女性の手で押さえていた太腿の付け根からも染みが広がった。
熱い水が足を伝い、二人の女性の足元に水溜まりが広がっていった。
外の二人も中の便座に座る女性も、恥かしさに顔を真っ赤に染め、涙を流していた。
そして、男のしごいていた欲の塊の先から白いものが吹き出し、ボックスの床に飛び散った。
女の子のか弱い部分を責め続けていた恥かしい水の噴出を終え恥かしさにすすり泣く3人の女性と彼女たちの恥かしい仕種に情欲の証しを吹き出し肩で息をする男の姿を空中から呆然と見下ろしていた美雪の耳元に、先生の声が再び聞こえた。
「名づけて、『街行く乙女の恥じらい』。脳以外の肉体を全て失った彼らの身体には、もはや以前のような排泄器官は備わっておらず、食事と同様に身体に繋がった専用のパイプによって行われるようになっているけれど、脳の中には以前の男性が持っていた感覚の神経が全て備わっているわ。だから男性の感じる尿意やその他の感覚については、神経に刺激を与える事によって体験する事ができる。彼らは学校の歴史や古典文学の授業で行われる、あの計画の発動前の人々がどのような身体を持ち、どのように生活していたかを学ぶための体験学習の中で、尿意とその我慢を体験し、その仕組みや限界、放尿のしかたやその時の恥かしさなどが男女で異なっていた事を学ぶわ。女性は男性に比べてオシッコを我慢しにくいのに、女性がオシッコをするためにはパンティを降ろして恥かしい部分を見せなければならなず、女性が安心してオシッコをする事ができる機会は男性よりもかなり限られている事も、仮想現実の女性の仕種を見たり話を聞いたりして理解する。従って、女性は男性に比べて、よりオシッコに悩まされながら生活していたという事は容易に想像できるわ。でも、それを男性が体験しようとしても、女性の感覚については体験する事はできない。だから女性とオシッコとの関係は、男たちにとって興味の対象であり続けた。そしてそれは今でも変わってないわ。また、女性には他にも男性にない身体的特徴やそれに伴う感覚を持っている。それらについても男たちの興味を大いに引き付け、彼らの想像力によって、ありとあらゆる遊びが生まれたわ」
美雪の目の前を、さまざまな光景が通り過ぎていく。
学校で恥かしい部分を押さえながらトイレに駆け込もうとするのを他の生徒に邪魔される女の子、体育の時間に食い込みパンティのもたらす恥かしい刺激に身悶えつつ必死に耐えながら授業を受ける女の子、学校や職場で敏感な恥かしい部分に貼りつき弄ぶ小型ボールの振動や筆の悪戯に身悶え耐え続ける女子生徒やOL、病院の治療室のベッドの上に縛られて腋の下や足の裏をくすぐられながら、胸の蕾や太腿の付け根の花園を筆でくすぐられローターの振動で弄ばれ指や唇や舌で悪戯され、それらの刺激に身悶える女性、そして拷問所のような場所のハリツケ台に縛られ、前身をくすぐられ笑い悶えながら敏感な部分をさまざまな道具でじらすように悪戯され、恥かしい言葉を言わされる女性……。
彼女たちの可憐さと美しさ、くすぐりに耐え切れずに上げる悲鳴と笑い声、そして恥かしい悪戯を受けながら身悶えつつも、それに必死に耐え続ける恥じらいの仕種は、男性の持つあらゆる妄想の再現であり、その悩ましさはどのような男性をも悩殺せずにはおかないほどのものであった。
「やがて男たちは、仕事をしていない時間は常に自分の周りに何人もの女たちをはべらせるようになった。彼女たちはそれを動かすプログラムに組み込まれた事であれば男たちのどのような求めにも応じ、パラメータの変更によって好みの容姿や性格を選択する事ができる。やがてプログラムの改良により、パラメータで指定できる項目の数は爆発的に増えていった。彼女たちの容姿や性格、周りの風景や雰囲気、自分の相手をする男を喜ばせるコツを素早く習得するための学習規則などに関する膨大なパラメータのほとんどは、男性が直接指定して選択する事は少ないけれど、男たちをどれだけ魅了し悩殺したか、その実績の良し悪しによって、あるパラメータの組み合わせは淘汰され、あるパラメータはお互いに一部を交換し、またごく一部をランダムに変化させる事によって、絶えず自ら進化し続けるようになった。そして男たちは男にとって理想の姿となるべく進化した風景の中で、男にとって理想の姿となるべく進化した彼女たちと共に戯れ続ける。彼らにとってはまさに楽園の生活だった。人類の歴史の中で、人間が最も幸福だった時代だったかもしれないわ。けれども、最近になって新たな問題が発生したのよ」
美雪の視界に、再び宇宙が広がった。
濃い雲で覆われた小さな星が、美雪の方に向かって近づきつつあった。
「あの星は……」
「観測班が偶然発見した遊星よ。遊星には人間の生活に必要な資源が大量に眠っている可能性があった。だから調査のために探査機が投下された。ところが、実はあの星は自然にできたものではなく、彼ら以外の人間の手で人工的に作られたものだった」
美雪の視界に、濃い霧で覆われた荒野が広がった。
遠くの方から数人の人影が近づいてくる。
「探査機は惑星の先住民によって捕獲され、彼女たちは男たちが惑星の近くに来ている事を知った」
「彼女たち?」
「そう。人間が生命工学による革命を行う直前に地球を離れた、女性による女性のためのフェミニスト団体、『フィメール・スピリット』よ」
美雪の視界が移動し、大きな岩山の麓の洞窟へと近づいていく。
洞窟の中は自動移動式の道、そしてエレベーター。
それを降りると、目の前にジャングルが広がっていた。
人工太陽がジャングルを明るく照らし、奇妙な形をした木の上を何人もの女性が行き来し、あるいは木の上に作られた小屋のような場所に出入りしている。
女性はみな一糸まとわぬ生まれたままの姿だった。
男性の姿はどこにも見当たらない。
原始的な種族のように見えるが、遠くの方に近代的な巨大建造物も見える。
「例の計画に最後まで反対の立場を取り続けていた彼女たちは政府との永きに渡る交渉の末、宇宙で生きていくための知識と必要最小限度の物資を政府から譲り受け、地球を飛び立った。そして、小惑星帯に達した時、いくつかの小惑星にロケットを取り付け、それらと共に旅に出た。太陽系から十分離れた所でそれらの小惑星を合体させて一つの星を作り、その地下に居住区を作った。そして星と共にアルファ・ケンタウリへと向かっているのよ」
美雪の視界が、近代的な建物へと近づいていった。
一糸まとわぬ全裸の女性たちが、さまざまな文字や画像を表示するモニター画面の前で働いている。
そしてその地下には、いくつもの巨大な円錐形をした金属の物体が不気味に眠っていた。
視界が再び宇宙へと戻った。
雲に包まれた星が遠ざかり、身体を失った男たちの乗る船が視界に入った。
「彼女たちは調査の末、本船の位置を突き止めると、政府とコンタクトを取り、船内の人間たちの姿を見た。そして彼らの意識が住んでいる仮想現実がどのようなものであるかを見せるようにと迫った。再び戦争に突入する事を恐れた政府は、それに従うしかなかった。彼女たちは、仮想現実の中にだけ存在する女たちが男たちの妄想のままに弄ばれ、それによって男たちが女性に対するさらに過激な妄想を膨らませている実態を目の当たりにした。彼女たちにとって、それは許し難い事実だった。彼女たちは仮想現実の女性を使った娯楽を禁止するよう求めたけれど、それは今となっては不可能だった。だから交渉は今でも続いている。ここまでが現在の学校で男の子に教えられている歴史。そしてここから先はあなただけの授業よ」
いつの間にか美雪は学校の教室の机の前に座っていた。
黒板の前に吉沢先生が立っている。
美雪自身の姿もあるべき場所に存在していた。
横長の机、そして窓の外の自然に囲まれた風景、そして美雪の着ている制服……。
美雪は白百合学園の教室に戻ってきたのだ。
吉沢先生が口を開いた。
「交渉の中で、ある案が最近提案された。男性の欲と妄想によって進化させられた女性ではなく、本来の女性の人格を持った女性を男性たちの妄想の作り出した環境に置き、然るべき期間の後にその女性を交渉役として彼女たちに会わせるというものだった。そして彼女たちは本船の仮想現実の技術が、日本のある大学で別の目的のために行われていた研究の成果を少なからず取り入れたものであり、その大学で使われていたコンピュータのデータが全て船に積まれている事を知っていた。彼女たちの指示で、大学から盗んだデータを詳細に調べた結果、何人かの女性の脳内神経細胞シナプス結合パターンデータが見つかった。そしてそのうちの一人が指名された。彼女は高校生だった。そして転校してもおかしくない理由を持っていた。だから彼女の転校先として、男性たちのあらゆる妄想を取り入れた高校を作り上げる事になった。それがここ、白百合女子学園よ」
美雪はしばらく呆然としていた。
そして、震えながら呟いた。
「そんな……うそです」
「うそじゃないわ。あなたが信じようと信じまいと、もうすぐ向こうの交渉役があなたに会いに来るわ」
「その時、あたしは何と言えばいいのですか」
「それを私の口から言う事はできないわ。向こうの質問に対してどう答えるかは、あなた自身で決めなければならない。それが向こうの出してきた条件なのよ」
雲に包まれた遊星の映像が、黒板に映し出された。
その中央に黒い点が現れ、それが一隻の宇宙艇である事を明らかにしながらその姿を次第に大きくしつつあった。
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