ミニメロン作品

レズ汁 〜ミダラーナ帝国の淫謀〜

7
 朦朧とする意識の中でシルキーは、過去に戻っている自分に気が付いた。
 セーラー服を着たシルキーは、山奥にある教会の礼拝堂で他の生徒たちと共に机の前に座り、前方に立つシスターの話に耳を傾けていた。
「男たちがこの世から消えた事によって、男たちの持つ汚れた欲望は消え去り、女による汚れなき世界が実現したのです。我々はこの清らかな世界を未来永劫維持していかなければなりません」
 シスターのその言葉に、シルキーは概ね同意していた。
 シルキーが生まれた時、男たちはすでにこの世から絶滅していた。だからシルキーは男というものを、歴史の教科書でしか知らない。
 がさつで野蛮でいやらしくて、女との交尾にしか興味がない。それが男という生き物の生態であったと、歴史の教科書には書かれていた。
 そして人口のおよそ半分を占めていた男の持つそれらの生態は、子供は母親がお腹を痛める事により生まれるものであり、そうあるべきである、という現在では誤りとされる思想を強固なものとし、子供を工場で生産するという現在では当たり前となった生殖方法に関する研究を妨げ、それにより女性は皆、生理のわずらわしさや妊娠時の身体の不自由さ、そして出産時の痛みに長い間悩まされ続けていたとも書かれていた。
 そのような男たちがいなくなった今の世界は昔に比べれば確かに清らかな世界であり、その清らかさを維持していきたいと思うのは皆の願う所であろうと思った。
 しかしながら、シスターの次の言葉には少々の疑問を感じたのだった。
「我々はパンを食べる時、目の前に塩と砂糖があったなら、塩をかけて食べるよう教育されています。しかるに今、このケッペキーナからさほど遠くない場所にあるゴーリカ帝国では、砂糖をかけて食すべきと答える国民が大半であるというではありませんか」
 それではケッペキーナ帝国ではそうではないのだろうか、とシルキーは思った。自分ならばやはり砂糖をかけて食べるのではないかと思ったからだ。
「理由を問いただせば、砂糖と塩は見た目に大きな違いはなく、なおかつ砂糖の方が食べやすく、小さな子供にも食べさせやすいからなどという堕落した答えが返ってくる始末。その影響を受けてか、我が国にもそのように考える国民が増えているとの調査結果も出ているのです」
 シスターのその言葉は、砂糖の持つ様々なメリットをシルキーに気付かせた。
 しかし、そのようなメリットを追求する合理的な考え方というものは、大人にとっては受け入れがたいものであるという事も理解した。
 果たして合理性を追求する事は良い事なのか悪い事なのか、シルキーにはよく分からなかったが、静まり返った礼拝堂で彼女ができる事は、シスターの話をただ黙って静かに聞き続ける事だけだった。
「ケッペキーナ帝国としては、実力を行使してでもそのような堕落した考えを退け、格式ある伝統を守り抜いていかなければならないのです……」

「ああっ、そこ、すごくいいっ、あああっ!」
 女の人の甲高い悲鳴と喘ぎ声でシルキーは目を覚ました。
 天井付近の空間に文字が浮かんでいる。
『ミダラーナ帝国ニュース』
『10年ぶりの外国人旅行者受け入れ』
『法定伝染病の疑いあるも入国許可』
 布団の上に仰向けに横たわったままそれらの文字を眺めながら、シルキーは自分が任務のために仲間たちとともにミダラーナ帝国にやってきた事や、先ほどの恥ずかしい入国検査の事などを思い出した。
 そして、今彼女のいる場所が検査室とは明らかに様子が異なっている事にも気付いた。
 床には畳が敷かれ、襖や障子のある部屋の造りは、歴史の教科書で見覚えのある古き異国の建築様式を連想させた。
「ここは……ミダラーナ帝国の民家? って、この声は何?」
 何度も繰り返し耳に届く女の悲鳴と喘ぎ声に聞き覚えがある事に気づいたシルキーは、隣で寝ているシルヴィアに目を向けたが、彼女はまだ静かに眠っているようだ。
 シルキーは慌てて布団から起き上がった。すると、前方に全裸で身悶えながら恥ずかしい声を上げるセシルの姿が目に入った。
 セシルは積み上げた座布団の上に全裸で座り、大きく広げた太腿の間にはもう一人の全裸の女が顔を埋め、シルキーの女の部分に唇を押し当てていた。
「ああっ、そうよ、そこ、もっと…… あっ、ああああっ!」
 シルキーの女の部分に押し当てられた唇が動く度に、セシルの身体が激しくのけぞり、甲高い悲鳴と喘ぎ声が部屋に響く。
 セシルの股間を舐めしゃぶっている女にも、シルキーは見覚えがあった。先ほどの検査の時、検査室で自らの女の部分を猛々しい器具でかき回し続けながら変態ナースと呼ばれていた女だ。
「ちょっと、あんたたち、一体何をやってるの!」
 シルキーが思わず叫んだが、セシルは変態ナースの唇と舌の動きに酔いしれ、身を震わせながら淫らな声を上げ続けている。
「何って、お目覚めのご挨拶ですわ」
 変態ナースは少しだけ唇を離してそう答えると、その唇を再びセシルの女の部分に押し当て、舌と共に激しく動かし始めた。
「それのどこが挨拶なのっ? このド変態!」
 ケッペキーナでは上げる事の許されない淫らな雌の声をセシルに上げさせる変態ナースを激しく罵るシルキーであったが、その罵り声は変態ナースをかえって悦ばせる事となった。
「ああん、ド変態だなんて。異国の淑女の方にもお褒め頂けるなんて」
「別に褒めてないからっ!」
 シルキーは叫んだが、変態ナースの耳にはどうやら自分に都合の悪い声は届かないらしい。
「あたしますますはりきっちゃう! 後であなた様のあそこも私の指と舌と唇でたっぷりと喜ばせて差し上げますわ。でもその前に、この方をしっかりと昇天させるまで、しばしお待ちを」
 どうやら変態ナースには、シルキーもセシルのようにしてほしいのだという勘違いをさせてしまったらしい。
 シルキーの言葉をどのように解釈すればそのような結論になるのか不明だが、とにかく彼女はセシルの股間のみならず、シルキーの股間をもなめしゃぶる気満々のようだ。
「ああっ、そこ、すごいの、もっと、あっ、ああああぁっ!」
 セシルは何度ものけぞりながら淫らな喘ぎ声を上げるという、本国では違法とされる仕草を何度も強要されるのを見かねたシルキーは、布団から抜け出し、二人の方に歩みよった。
 途中で自分もまた全裸である事に気づいたシルキーであったが、今はそれどころではない。
「あんた、いい加減にしないとひっぱたくわよ」
 シルキーは手を上げて叫んだが、それもまたミダラーナの女には効果がないようだった。
「あら、あなた様はそのようなSなプレイがお好きなのですわね」
 本当にひっぱたこうと、セシルが振り上げた手に力を込めた時、もう一人の仲間がその手を掴んだ。
「やめなさい」
「隊長」
 布団から抜け出してきたばかりのシルヴィアもまた全裸であったが、彼女の態度はシルキーよりも冷静なようだった。
 シルヴィアはセシルの女の悲鳴と喘ぎ声の中でも聞こえるような大きな声で、しかしながらできるだけ丁寧な口調でミダラーナの女との交渉を試みた。
「私たちはサイバーエクスタシーのミカ・サイトウを逮捕するために来ました。国際協定違反の製品開発に関わる技術者らも逮捕しなければなりません。目的さえ果たせば、この国に用はありません。サイバーエクスタシーがどこにあるのか、ご存知でしたら教えて頂きたいのですが。えっと、その、変態ナースではなくて……」
 シルヴィアがミダラーナの女の名前を言おうとして、その名前を聞かされていなかった事に気付いた時、セシルがひときわ甲高い雌の悲鳴を上げた。
「もうだめ、もうだめぇっ、ああぁぁっ!」
 セシルは叫びながら何度も激しくのけぞりながら身を震わせ続け、やがてぐったりと動かなくなった。
 ようやくセシルの股間から唇を離したミダラーナの女はシルヴィアとシルキーの方へと向き直った。
「申し遅れました。わたくし、あなた方の保護観察者に任命されました、ユキ・ヨシモトと申します。保護観察対象とは言え、あなた方の入国が許可された以上、別にもう隠す事でもないでしょう。サイバーエクスタシーに関して私の分かる範囲でお答え致しますわ」
 ユキは自分の手で股間を探った。そこには布面積の小さなパンツを思わせる形状の器具が装着されていた。
 シルヴィアもシルキーもその器具に見覚えがあった。検査室でユキが手で握って自らの部分に出し入れしていたものだ。
 今は一見パンツのように見えるが、その内側では船底の部分から無数のイボイボイボに包まれた猛々しい強張りがそそり立ち、ユキの女の部分を深々と貫いているに違いない。
 ユキがその器具の外側の、パンツの船底のように見える部分に指を這わせると、目の前に立体映像が浮かび上がった。
「現在のサイバーエクスタシーは特定の場所に存在するわけではありません。生産は全て外部企業の持つ完全自動化された工場に委託。経営管理及び技術開発は、出荷された携帯電話を始めとする各製品同士の通信によって機能する分散型人工知能グローバルブレインによって行われています。この国の携帯電話のほとんどはサイバーエクスタシーの製品ですから、いわば携帯電が使われているこの国全土がサイバーエクスタシーの頭脳であり、ミカ様はその巨大な頭脳に所属する唯一の人間です。しかし、彼女の現在の居場所なら検索する事ができます」
 彼女が再び股間の器具に手を触れるのを見てシルヴィアが確認するように尋ねた。
「もしかして、それがあなた方の携帯電話?」
「そのとおりですわ。着振も会話も、とっても気持ちいいのです」
 ユキはその携帯電話を本当に気に入っているようだ。
 シルキーは学生時代に山奥の教会で行われたシスターによる講釈を思い出していた。
 あの時のシスターの言葉どおり、ケッペキーナには合理的な物の考え方を忌み嫌う文化があるように思える。例えば、今ユキが装着している携帯電話がその代表的な一例となりうるであろう。
 ケッペキーナ帝国の携帯電話はこの世に男たちがいた時代と比べて大きく形を変えてはいない。
 その形状は普段は小さな鞄かポケットにしまって携行し、使う時は手に取って操作する事を前提としたものである。
 そのため、ケッペキーナの携帯電話はマナーモードに設定した時に露呈するいくつかの問題を抱えている。
 もともと着信音によって他人に迷惑がかからないようにと考えられたマナーモードのはずなのに、その状態で机の上などに置かれていたりすると、着信した時には通常の着信音よりもはるかに耳障りな音を立てる。
 また、鞄にしまって持ち歩く場合、うっかりマナーモードの解除を忘れていたりすると、着信があっても気づかないという問題もある。
 そのような問題を抱えつつもケッペキーナの携帯電話がその形を変えないのは、その形が昔からある携帯電話の伝統的な形であり、その伝統を未来永劫守り抜くのがケッペキーナ帝国国民としての美徳であり良識ある態度であるという思想が根底にあるからなのだ。
 それでは、ミダラーナの携帯電話の場合はどうだろうか。
 常に柔らかい女の部分を貫くように装着されているのであれば、着信時の振動によって机の上に置かれたケッペキーナの携帯電話ほど迷惑な音が出る事はないだろう。
 そして、着信時の振動は女の最も敏感な部分に直接伝わるのだから、着信に気付かないなどという問題も起こりえないのだ。
 そう考えると、ミダラーナ帝国の携帯電話は女性専用として非常に理にかなった姿をしていると言って間違いないだろう。
 男がこの世にいた時代であれば別な問題を起こしそうな携帯電話ではあるが、男がどこにもいない現代であれば、少なくともミダラーナ帝国の国民にとってはメリットはあってもデメリットは何もないはずだ。
 当然、ケッペキーナ帝国では到底受け入れられるものではないが。
 空間に浮かんでいた立体映像が切り替わり、ユキが口を開いた。
「出ました。現在ミカ様は来月開園予定の地下遊園地にいらっしゃるようです。その遊園地に設置されている遊戯設備のほとんどはサイバーエクスタシーからの納入です。恐らく彼女は開園前特別招待券を大量に渡されているのでしょう。そしてその招待券、実は私も持っていたりするのです。皆さんの分もありますから、よろしければ私と一緒に参りましょう」
「ありがとうございます。でもその前に、私たちの服を返して頂けないかしら。この格好ではどこへも行けませんから」
 外出の準備のために衣服の返却を求めたシルキーに、ユキは首を縦には振らなかった。
「いいえ、その格好で全く問題ありませんわ。それよりも、私と一緒に食事などいかがですか? あなた方も今朝から何も食べていないのでしょう?」


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