「遊んでかなぁい?」
桃色の派手なドレスを着て道脇に立っている女が、甘い声音で呼びかける。
そのの視線は、ちょうど目の前を通り過ぎようとする小柄な人物を追っていた。
黒い野球帽に黒い革ジャン、そして黒いジーンズ。一見少年のように見えるその人物は、掌に映し出したナビ画像を眺めながら、まるで他人の声など聞こえないといった様子で歩いて行く。
ここは男子禁制の街。男がこの場を通ることは滅多にない。
儲けのチャンスを逃すまいと、女は少年の腕を掴んだ。
行き交う人々にまぎれようとしていた少年の足が止まった。女の方へ顔を向ける。
白く透きとおるようなきめ細やかな顔の肌が美しく耀き、丸みのある顎と小作りな目鼻立ちが、子供っぽい雰囲気を醸し出している。
「か、かわいいっ!」
女は思わず叫んだ。
これほどの美少年とあらば、街で何かをやらかして連行されてしまう前に、たっぷりと可愛がって、ついでに全財産を絞り取ってしまうに限る。
女はありったけの笑顔をふるまいながら、少年を掴んだ腕に力を込める。
少年は、迷惑そうに口を開いた。
「あたし、急ぐんだけど」
その不良っぽい声は、女の予想よりもはるかに高いソプラノだった。
視線を少し下げると、革ジャンに包まれた胸が少しばかり膨らんでいるのが見て取れる。
「なんだ、女か」
桃色ドレスの女が落胆の言葉を投げる。しかしそのの声はさきほどにも増して明るく、周りのの者たちにはっきり聞こえるほど大きかった。化粧気の強い妖艶な顔も、喜びに溢れていた。
――しまった!
黒ずくめの少年、いや、女は、声を出してしまった事を後悔した。
男に化けてきたつもりはないが、客引きにつかまらないようできるだけ地味な服装をしてきたつもりだった。しかしそれがかえって女の街の雑踏の中では、自分の姿を目立たせる結果になってしまったのだ。
しかも声によって女である事がばれてしまった今、今腕を掴んでる客引きに並々ならぬ興味を持たれてしまったらしい。
それに加え、小作りな顔立ちと艶やかな肌は、女というよりも少女といった方がぴったり来るほど、彼女を若く見せている。その外見上の若さが、客引きをより一層刺激したらしい。
掴まれた腕を振り払いながら、少女は前に進む足に力を込める。
次の瞬間、肩が柔らかいものにぶつかった。慌てて前を向く。
腕を掴んだ女と同様、桃色のドレスに身を包んだもう一人の女が立ちはだかっていた。誇張するかのように張り出した胸の膨らみが、黒い革ジャンの肩のすぐそばにあった。
「これは失礼」
避けて通ろうと向きを変える。
すかさず、どこからか現れた別な女が行く手を塞いだ。服装は他の二人と同様である。
少女は、桃色ドレスの客引き三人に囲まれてしまっていた。
間を強引にすり抜けようと動いた瞬間、目の前に立っていた女が予想外の行動に出た。いきなり顔を寄せて来たのだ。
「うぐっ!」
一瞬のうちに唇を奪われていた。必死にもがくが、女の両腕が少女の頭をしっかりと抱き抱えており、女の唇から唇を離す事ができない。
妖艶な女の唇が微妙に動く度に、少女の唇に甘い痺れが沸き起こり、口の中に広がる。女を知りつくした巧みな唇の動きだった。
両脇を固めていた二人の女も、ふくよかな胸を少女の身体に押し付けながら、革ジャンの内側を守っているTシャツの中にそれぞれの片手を潜り込ませて来た。
指先が素早く敏感な胸の尖端の蕾をブラの上から探り当て、なぞるように刺激する。残ったもう片方の手も後ろの方で下の方から革ジャンの内側に浸入し、いくつもの指先がTシャツの上から背中をなぞり回す。そしてお尻の方へと降りて行き、ジーンズに包まれた形のよい膨らみを執ように撫で回す。
両耳に近づいた二つの唇が耳たぶをくわえ、あるいは舌が耳たぶの後ろを微妙なタッチで舐め上げる。
それらの刺激の一つ一つが歓びの嵐となって、少女の身体の中を吹き荒れる。身体がガクガクと震え、立っているのがやっとだった。今にもくずおれそうな少女の身体は、今や三人の女たちによって支えられていた。
「ふふっ、ここ、こんなになってるわよ。可愛い顔してるくせに、とってもいやらしいのね」
脇に立つ女の一人が耳元で囁きながら、ブラの上から敏感な蕾をなぞる指を激しく動かす。そこはもう、自分でも分かるほど固くふくらみきっていた。
「うっ、くふぅっ!」
とめどなく咽から溢れる悲鳴は、唇を塞がれているせいで声にならない。
――ああっ、このままじゃ……だれか、何とかしてぇ!
快感の波にさらわれそうになるのを必死に堪えながら、思わず閉じてしまいそうになる目を必死に見開き周りの様子を伺う。
人々はさぞかし仰天している事だろう、と思ったのは間違いだった。
通行人はみな、道のまん中で繰り広げられている痴態が全く目に入らないといった素振りで平然と通り過ぎて行く。
――お、おい、可憐な乙女が怪しいおねーさんたちに絡まれているってのに、無視すんのかよぉ〜!
胸の中で叫んだ次の瞬間、異様な光景が目に飛び込んで来た。なんと、道の両脇で、二人の女が肩を寄せ合い、濃厚な口づけを交わしている。
改めて周りを見回すと、同様のカップルがいくつも見られた。互いの服の中に手を入れて胸を触り合っている女たちや、三人、四人で秘密の遊びにふけっている女たちもいる。
どうやらこの街では、このような異様な光景もさして珍しくはないらしい。
この辺り一帯に点在する怪しげな店の影響か、それとも女だけの街だからなのか。いずれにしても、このような事態に遭遇する可能性については、予想していなかった。
唇を塞いでいた女の片方の手が少女の頭から離れ、身体の上を滑るように動きながら前の方へと回り、いきなりジーンズのファスナーを降ろした。
純白のパンティの内側に素早く潜り込む。固くなった敏感なメシベを探り当て、軽くつまんで震わせる。
いくつもの恥ずかしい桃色の稲妻が少女の身体を通り抜け、ガクガクと痙攣させる。指の妖しい蠢きが、少女の理性を甘く溶かしていく。
花の中心の泉から熱い蜜が溢れているのが自分でも分かる。
――このままじゃ、パンティが、ジーンズが、ぐしょぐしょになっちゃう!
少女は革ジャンのポケットに手を入れ、小さな金属の筒を取り出した。
側面のボタンを押し、すぐそばの小さなランプが点灯したのを確認すると、中身を三人のドレスの襟元へ三等分して注ぎ込んだ。
「な、何これ」
「きゃはっ、くすぐったい!」
「ああっ、だめ、そんなとこ、きゃははは!」
女たちは慌てて少女への悪戯を中断し、地にうずくまって身悶え始めた。服の内側に注ぎ込まれた銀色の粉末が、早くもその効果を発揮し始めていた。
粉末の一粒一粒は精巧に作られた人工のノミ。前世紀の某漫画に登場した名称を避け、「笑いノミ」という商品名で防犯グッズとして売られているものだ。
しかし、その名前はこの製品の効果を表すには十分ではない、と少女は思う。
三人の女たちは腋の下をきつく閉じ、肘で胸の膨らみを押さえ身もだえながら、太腿を激しくすり合わせ、足の付け根の恥ずかしい部分をスカートの上から押さえ、淫らに腰を揺すっている。
甲高い笑い声に桃色の悲鳴と喘ぎ声が混ざり始めていた。服の中で全身に広がったノミの一部がパンティの内側の敏感な部分で執拗な悪戯を始めたのだ。
たった一匹が腋の下を這いまわるだけで激しい笑い声を上げさせる事ができる人工のノミが大群で全身を這い回り、同時に女の敏感な部分に群がれば、どんなに気丈な女もたちまち恥ずかしい悲鳴を上げながら淫らな身もだえをさらしてしまう。
しかもその身悶えは、ノミの体内に内蔵された加速度発電機により、ノミを動かす電力へと変換される。ノミはより高率良く電力を得ようと、より激しい身悶えが得られる場所を常に探し続ける。ノミのバッテリーが切れるのは、凄まじいくすぐりに耐え切れなかった女が気を失ってからさらに数時間が経つ頃だ。
もっとも、ノミは女を気絶させない加減というものを心得ている。ノミにたかられた女は狂おしい刺激の嵐の中で歓びの極みに何度も打ち上げられながら気を失う事も許されず、誰かがノミの回収操作を行うまで永久に猛烈なくすぐりの刺激に狂い身悶え続けるのだ。たとえその女が睡眠薬を所持していたとしても、激しいくすぐり嵐の中では懐からそれを取り出す事すら簡単ではない。第一、女が道のまん中で睡眠薬を飲むなど、正気の沙汰ではない。しかし、実際には激しすぎるくすぐりの嵐から逃れる為にその正気の沙汰ではない行動に出る女が後を断たないのだ。
これほどの効果を持つノミは、「笑いノミ」よりもむしろ「狂女ノミ」と呼ぶにふさわしい。
周りに人だかりが出来始めていた。いくら人前で日常的にあられもない情事が繰り広げられる街とはいえ、三人の女が恥ずかしい部分を自らの手で押さえ、悲鳴を上げながら笑い悶えている姿は、行き交う人々の興味を少なからず刺激したらしい。
少女は乱れた身なりを調えると、空になったノミの筒を野次馬の一人に押し付け、そそくさとその場を後にした。再び掌にナビ画像を表示させ、目的の場所を目指す。
数分後、小さなビルの前で足を止めた。
「着いたわ」
少女はビルを見上げた。
見慣れた看板が目に入る。色を変えながら揺れる店名の下で、レザースーツと網タイツに身を包んだ美女たちが、妖しく腰を揺らしながら手招きをくり返している。
彼女達の前には椅子が並べられ、同様の服装の女たちが座り、手足をロープで拘束されている。彼女たちの一部の顔には、モザイクがかけられていた。
その看板の下にある自動ドアの前に、少女は立った。
「んあっ、くふぅ、きゃははは、ああっ!」
山吹色の照明に照らされた狭い部屋に、ミカ・サイトウの桃色の悲鳴と喘ぎ声が響く。
壁や天井には、形と色がゆっくりと変化する複雑なレースの絵柄のような美しい幾何学模様が浮かび上がっている。
ベッドの上に仰向けに横たわるミカの身に着けているものと言えば、シンプルなフリルで飾られた小さな黒いブラとパンティのみ。
パンティからは透明な恥ずかしい証しがとめどなく溢れ、シーツに大きな染みを作ってしまっている。
身体はヘビのような蠢きをくり返し、時おり大きくのけぞる。しかし大きく開いた手足はピクリとも動かない。
そんなミカを、ベッド脇に立つ美女が見下ろしていた。ゆるくカーブした金髪は、肩の下まで伸びている。
彼女自身の命令により、ミカはその金髪美女を「女王樣」と呼んでいる。
白くつややかな肌、型の良い大きな胸、美しくくびれた腰、そして肉付の良いお尻と太腿。
それらが全て人工培養で作られた細胞組織であることを、ミカは知っていた。そして彼女の身体の動きや表情が、どこか別な部屋に置かれた人工の頭脳により作りだされたものである事も。
「女王樣」はミカの監視役兼調教係のアンドロイドなのだ。メーカーはサイバーライフ。以前ミカが勤めていた会社のライバルだ。
ミカの身体がのけぞる度に、金髪女性は妖しい微笑みを浮かべる。
「ふふっ、ミカったら、こんなに激しく身体をくねらせて、はしたないわね。それに、ここもほら、こんなにぐっしょり」
金髪美女の手がミカの太腿の付け根に伸び、パンティから染み出している透明な蜜をすくい取る。それをミカの目の前に持って行き、指を開いたり閉じたりする。
指の間に透明な恥ずかしい蜜が糸を引く。
「いやっ!」
相手が人間でないと分かっていても、ミカは思わず顔をそむけようとする。そして、それができないことに絶望する。
ブラの内側には細かな毛が無数に生え、それらがいっせいに蠢き、ミカの胸の膨らみを撫でさすっている。敏感な尖端の蕾には長い毛も無数に群がり、執拗に撫で回している。
パンティの内側にも同様の仕掛けが施されている。細かい毛がお尻の膨らみや下腹部を撫でさすり、後の谷間に長めの毛が浸入してくじり立てる。
前の方では無数の毛が割れ目に浸入し、固く膨らみきった敏感なメシベをしつように撫で回す。莢との隙間にも毛が容赦なくもぐり込み、根元をくじり立てるように刺激する。桃色の稲妻がメシベを、そしてミカの全身をビクビクと痙攣させる。
可憐な花びらの合わせ目にも毛が浸入し、執拗に刺激しながら、長く伸びた毛の集団が濡れそぼった泉の中へともぐり込み、襞の間をかき分けるように進みながら蠢き刺激する。
恥ずかしい蜜がとめどなく溢れ、シーツの上に大きな染みを作っている。
女の敏感な恥ずかしい部分を同時に責め嬲る毛の悪戯は、ミカを何度も天の極みの目の前へと突き上げるが、決してそこへ辿り着かせてはくれない。それああまりに切なく、その切なさがはずかしくてたまらないのに、思わず自らの手で恥ずかしい部分に恥ずかしい刺激を与えようとしてしまう。そして、手が動かない事に絶望するのだ。
「ふふっ、どうしたのかしら? 自分の手で恥ずかしい所を悪戯したいのかしら?」
ミカが手を動かそうとする度に、金髪美女がミカの耳許で淫らな言葉を囁く。ミカが手をどのように動かそうとしたのか、脊髄に取りついたナノマシンのせいで全てが金髪美女には筒抜けだった。
相手がロボットだと分かっていても、人の形をした物に図星を言われるのは恥ずかしくてたまらない。
この部屋には隠しカメラと隠しマイクがいくつも設置されており、それらのとらえた映像と音声は店と契約した人々に配信されると聞いている。その人々が10人なのか100人なのか、そしてその中に男性が含まれているのかいないのか、ミカには分からない。
それでも、恥ずかしい悪戯による猛烈な刺激に、身体の恥ずかしい蠢きと咽を突いて溢れ出す淫らな声を堪えることは出来なかった。
「ああっ、もうだめぇ、ああああぁぁっ!」
ミカは何度目かの甲高い悲鳴を上げた。パンティの悪戯に耐えていた敏感なメシベと濡れそぼった花の中心が激しく痙攣する。
次の瞬間、それまで激しかった毛の動きが緩やかになった。
ミカの理性を狂わせ、絶頂寸前まで追いつめておきながら、そこへ辿り着こうとする瞬間絶妙なタイミングで弱まる毛の動きは、どこまでも意地の悪いものであった。
「あっ、ああぁぁ……」
ミカの歓びの悲鳴が満たされぬ欲望への哀しみの嘆き声に変わった頃、ミカの手と身体が動いた。上体を起こし、ブラのホックを外す。
執拗な悪戯のせいで固く膨らみ切った蕾が露わになる。
その恥ずかしい蕾を金髪美女の視線から隠したくてたまらなかったが、手はなおも勝手に動き、外したブラを金髪美女の手に渡す。
ついでパンティに手をかけ、下へ降ろす。布をぐっしょりと濡らしていた蜜がねっとりと糸を引く。足から抜き取ったパンティの底の内側にたっぷりと蜜が溜まり、外側へ染み出した蜜が糸を引いてポタポタと床に落ちる。
その恥ずかしいぐしょ濡れのパンティが、金髪美女の手に渡される。
責め具がミカの身体から外されたという事は、その理由として2つの事が考えられる。一つはこれからミカへの新たな調教が始まろうとしている事。そしてもう一つは、客がやって来た事だ。
ミカの足がシャワー室へ向かった時、今回の理由が後者である事を確信した。
シャワー室でも手が勝手に動き、全身から噴き出した汗と太腿に貼りついた蜜を洗い流す。
シャワー室を出ると、金髪美女は部屋からいなくなっていた。
ミカの足は再びベッドへと向かった。さきほどまでぐっしょりと濡れていたシーツは、すでに新しいものと交換されている。
ベッドの上には衣裳が用意されていた。シンプルな水色のワンピースだった。その傍にはブラとパンティも置かれている。もちろん、それらにどのような仕掛けが施されているかは分からない。今回は珍しい事に、ベッド脇に靴も用意されていた。店が用意した靴である以上、これにも何らかの仕掛がほどこされている可能性がある。しかし、だからといってミカがそれらの着用を拒む事はできない。ミカの手足が勝手に動いてそれらの衣服を着用した。
ベッドの上に仰向けに横たわり、手足を広げ、ミカの身体の動きは停止した。
首から上だけは自由に動かせる。客が反応を見て楽しむためだ。機械により生成された反応ではなく、ミカ自身の反応を。
ミカは、天井でゆっくりと形と色を変える複雑な曲線の組み合わせを見つめながら、客の入室を待った。
ミカがこの店のこの部屋に閉じ込められてから1年が経とうとしていた。
ミカにとっては何十年にも思えるこの1年、部屋から一歩も外へ出る事はできなかった。部屋にはテレビも電話もない。ケータイリングも取り上げられてしまっている。もっともそれらがあったからといって、使う事が許されなければどうにもならない。外の様子を知る手がかりといえば、客から僅かばかり聞く話だけ。自分の手足すら、自分の意志で動かす為には客から店側に頼んでもらうしかない。
店に来る客のほとんどは、刑務所の元囚人たちだった。刑務所の中で妖しげな拷問マシーンにさんざん弄ばれた腹いせに、それらのマシーンを作った者たちに自分たちと同じ苦しみと恥ずかしさを味わわせたいという思いでやって来るのだ。
ミカが今いる部屋は、リアルメカニクスやその他のメーカーで作られた女体拷問用の様々なマシーンによってベッド以外のスペースが埋めつくされており、壁の棚にも様々な妖しげな小道具が並べられている。ミカの寝ているベッドにも、いくつかの妖しげな仕掛けが施されているのだ。
客はどこで説明を受けたのか、それらのマシーンや小道具の使い方や特性を、驚くほど良く理解していた。そしてそれらを駆使して、ミカを存分に責め嬲り、身悶えさせ、甲高い悲鳴と笑い声を上げさせるのだ。
ミカのあられもない姿に満足し、客が帰った後も、ミカの身体への耐えがたい悪戯は終るわけではない。
ミカが客の相手をしていない時は、必ず金髪の「女王樣」がそばに付添い、時には様々な道具で、時には自らの手と身体と唇で、ミカの身体を執拗に悪戯し続ける。
その悪戯は深夜まで続き、その悪戯による妖しい刺激の嵐の中で意識が砕け散るのを感じながら、ミカは毎日のように深い眠りへと落ちていくのだった。
ドアの錠が外れる重たい金属音に、ミカの顔がこわばった。音のした方へ目を向ける。
ドアが開き、現れたのは、黒い革ジャンと黒いジーンズを身に着けた、小柄な人物だった。ミカは一瞬、少年かと思い、恐怖に身を震わせた。
ミカはこの店で一度も男性の相手などした事がない。1年前テレビで見たニュースや、ユキの受けた手術の事がミカの脳裏をかすめた。男性への恐怖心に、身震いする。
客が頭の上の野球帽を外すと、その中に隠されていた美しい黒髪が、肩の下まで降りた。
それを見て、ミカは少しだけ安心した。しかし、すぐに新たな疑問が浮かぶ。
その客の幼さの残る顔立ちは、どう見ても女というより少女だった。少なくとも、20歳にはなっていない。
この若さで過去にどのような罪で刑務所に入れられたのかと、ミカは思った。
しかしそれは、自分がこれからこの少女にどのように弄ばれるのかという疑問に比べれば、取るに足らないものだった。
外見上の若さは、クリニックで高額な費用を支払えば、いくらでも手に入るのだから。
「あなたがミカ・サイトウね」
澄み切った少女の声が、ミカの本名を言い当てた。別に珍しい話ではない。ここに来る客には全て、ミカの名前や、ミカがリアルメカニクスに入社後数か月間拷問マシンの開発に関わっていた事などが公開されていた。
「ええ、そうよ」
ミカは緊張を隠し平静さを装ながら答えた。
少女は左の掌を自分の顔の方へ向け、そのそばで右手の指を何かのまじないをするかのように動かした。ケータイリングに何やら複雑な指令を入力しているらしい。
部屋の照明が一瞬消え、再び元に戻った。
少女はまじないを終えると、ミカの耳もとで囁いた。
「ここから、出たいと思わない?」
それはかなり珍しい質問だった。
「思わないわ」
ミカは即座に答えた。この部屋で滅多な事を口にすれば、いつもよりもなお一層厳しい調教が待っている。
「そう。それは残念ね。あなたがその気なら、ここから逃がしてあげられるのに」
危険な台詞を平然と口にする少女に、ミカは警告せずにはいられなかった。
「ここでの会話、監視されてるわよ」
少女は顔色一つ変えなかった。
「普段はそうでしょうね。でも、今は大丈夫よ。カメラ回線にはダミーの映像を流してあるから」
少女は掌をミカに見せた。そこには、身動きのできないミカが少女にくすぐられて身悶える映像が映し出されている。恐らく、今までに配信された映像を使って合成されたものだろう。
「あなたの脊髄に取りついた虫を退治できれば、ここから逃げるのは簡単よ。どう、それでも、これからずっとここに居たい?」
「いいえ、逃げるわ」
ミカはとっさにそう答えた。その直後、ある疑問が浮かんだ。
「でも、どうせただじゃないんでしょ。報酬はいくらなの?」
「お金はいらないわ。そのかわり、条件があるの。実はあたし、女スパイ養成学校の生徒で、実戦訓練でここに送り込まれたの。あなたをここから連れ出して、養成学校に入学させるのが、あたしに与えられた課題なの」
「あ……あたしが、スパイ養成学校に?」
少女の突拍子もない言葉に、ミカは唖然とした。女スパイの養成学校がこの世に存在するなど、今まで聞いたことがない。ましてや、なぜ自分がそんな所の生徒に選ばれたのか、大いなる謎であった。
「今詳しく説明している時間はないの。ダミー映像がいつ見破られるか分からないから。どう? あたしたちの学校の生徒になる?」
「なるわ」
ミカはそう答えるしかなかった。入学しても、どうせ自分はスパイなどになれるわけがない。素質がない事が分かれば、学校としても自分をそれ以上生徒として学校に留めておくような事なないだろう。
「ふふっ、これで決まりね。それじゃまず、あなたの脊髄に取りついた虫を退治しましょう」
少女は戸棚の方へ歩いてくと、扉ごしに中身を物色した。そして捜し物が見付かると、扉を開け、中から小さな金属の筒を取り出した。
「あー、良かった。これがここにもあって。さすがはくすぐり専門店って感じよね」
ベッドの方へ向き直った少女の手の中の物を見て、ミカの顔に再び緊張が走った。
「ちょ、ちょっと、何すんのよ!」
ミカの声は恐怖に震えていた。
少女の手に握られていた物。それは、「笑いノミ」の筒であった。そのノミの耐え難き効果はこれまで何度も体験させられてきた。
「あなたの脊髄から虫を除去する為には、激しいくすぐりの刺激が必要なの。死ぬほどの刺激を与えられながら、それでも気絶せずに手足を動かそうとし続ければ、調教が完了したと見なして脊髄から離れてくれるわ。さっそく始めるわよ」
少女は筒の側面のキーを操作して動作モードを「狂乱モード」から「気絶モード」に変更した。そうする事で、ノミは電力確保の為の手加減を忘れ、たかる相手が気絶するまで容赦なくくすぐり続けるようになるのだ。
これまでの客の中で「笑いノミ」をそのモードで使った者はいない。「気絶させては面白くないですよ」などと言って、店が推奨していない為だ。
「ちょっまって、その調教っていうのは一体……」
少女はミカの質問に耳を貸さず、モード変更の完了した筒を、ミカのワンピースの襟元の上で傾けた。
銀色の粉がミカの首にこぼれ落ちる。粉はワンピースの内側にもぐり込みたちまち全身に広がって行く。細かい粉末がいたる所で渦を巻くように這い回りながら、耐え難い刺激をミカの身体に送り込む。
「ちょっと、そんな、やめてよ、ああっ、やだぁ、ああっ、きゃはははは、だめっ、そこは、ああっ、きゃはははははぁ!」
ノミの刺激に、ミカはたまらず甲高い笑い声を上げる。
無防備な腋の下や脇腹、臍の回り、そしてブラに包まれた胸の膨らみ。それらに与えられる妖しい刺激のどれもが、ミカの理性を狂わせる。
胸の膨らみの先端の蕾はすでに固く膨らみきっている。そこにブラの内側に浸入したノミの集団が容赦なく襲いかかる。その刺激の妖しさに、蕾はますます固さを増し、小刻みに震える。ミカの中を無数の稲妻が通り抜ける。
ノミの集団はさらに範囲を広げ、パンティの内側に浸入し、足の付け根へと達した。無数のノミが割れ目に潜り込み、敏感なメシベと花びらに取りつき、細かい手足で刺激しながら這い回る。ぐっしょりと濡れそぼった花の中心へも容赦なく入り込み、襞の一枚一枚を撫でさする。
恥ずかしい女の部分に幾つもの歓びのさざ波が生まれ、互いに重なり合いながら少しずつ大きくなり、全身に広がって行く。やめて欲しいのに、その部分は勝手に刺激を求め、せわしなく蠢いている。パンティの底に、恥ずかしい染みが広がっていく。
「ああっ、そこ、ああっ、いいっ、んああぁっ、くふぅ、きゃははは〜!」
ミカの甲高い笑い声が、桃色に染まって行く。恥ずかしい喘ぎ声が混じり始めていた。
お尻の膨らみへと広がった集団も、敏感な柔肌を撫で回し、妖しい刺激に蠢かせる。
太腿、脹脛、そして足の裏までノミの集団が達すると、ミカの笑い声が再び激しさを増した。
指の間と土踏まずを同時に刺激されながら、ミカは足を震わせる事もできないまま、甲高い笑い声を上げ続ける。
ミカは気が狂いそうだった。狂ってしまいたかった。しかし、ミカはあえて必死に正気を保ち、遠くなりかけている意識を引き留めていた。
ノミに全身を這い回られ、激しく笑い悶えるミカを見下ろしながら、少女はさらなる責め具に手をかけた。
ベッド脇にあるボタンを操作すると、ベッドの下から何本もの細い腕が伸び上がった。ミカの脇腹と腰に群がり、指をワンピースの上から柔肌に食いこませて揉むように動かす。
「きゃははは、ちょっと、何すんのよ、きゃははは、だめぇ、きゃははは、やめて、お願い、きゃははは……」
皮膚のいたる所をノミに這い回られながら、敏感な脇腹や腰の深く埋もれた神経を揉みしだかれてはたまらない。
ミカは妖しく狂おしい刺激の稲妻と嵐の中で、ひときわ甲高い悲鳴を上げた。動かない身体と手足に渾身の力を込める。
その瞬間、突然腕が動いた。腋の下を閉じ、そこで蠢いていた腕を押さえ込む。
「やったわ。ついに脊髄の虫が壊れたのよ。さあ、早く逃げましょう」
少女は歓喜の声を上げた。
ミカはベッドの上で身悶え続けている。腕の攻撃に必死に抵抗しつつ、全身に広がったノミを払い落とそうと、狂ったように腕を動かす。
ノミはミカの身体の下敷きになっても、なおも激しく小さな手足を動かし、ミカの肌に耐え難い刺激を与え続ける。
少女はベッド脇のボタンを操作して人工の腕の動きを止めると、ノミの入っていた容器のボタンを再び押してからベッドの上に横たえた。
ノミの集団がミカの身体から離れ始めた。服から這い出し、ベッドの上に降りて列を作り、筒を目指して進んで行く。
全てのノミが筒の中に回収されると、少女は蓋を閉め、革ジャンのポケットに入れた。
少女は、息を弾ませながらぐったりと横たわるミカの手首を掴み、無理矢理ベッドから引き下ろした。
「さあ、逃げるわよぉ!」
少女は勢い良くドアを開け、廊下に踊り出た。
ミカはおぼつかない足どりで倒れそうになりながら、少女に手を引かれるまま、ただひたすら走った。
パンティの底から溢れた蜜が内腿を僅かに濡らしている。そこを通り抜ける風が、ひんやりと冷たかった。
|