ミカは学生時代、ロボット工学を専攻していた。小さい頃にテレビで見た少女向けロボットアニメの影響だった。このアニメの影響を受けた者は多く、女子大に工学部ができたものこのアニメの効果であると言われていた。もしもそのアニメが放送されていなければ、ミカの人生も今とは大きく変わっていたかもしれない。
授業では機械設計から電気回路設計、制御用マイコンのプログラム、そして造形デザインまで、ロボットを作るのに必要とされるあらゆる技術を学んだ。しかし、それらの知識が実際のロボット開発の現場においていかに役に立たないものであるのかを、ミカはまだ知るよしもなかった。
ミカがリアルメカニクスに入る事になるきっかけは、ある先輩からの忠告だった。
「現在ほとんどのロボットメーカーでは、もはや商品開発に人間は必要ないわ。だから、それらの業界に入れば本人の意志に関わらず、必ず営業部に配属される。でも、ある特定の分野における商品開発においては、まだまだ人間の介入する余地が残されている。なぜなら、それらの開発を自動化するための研究は、公的な研究機関でほとんど行なわれていないから。それは、人間の持つ、最も低俗な欲求を満たすためのもの。何のことか、分かるでしょ?」
もちろん、そんなものを作るために学校で勉強をしてきたわけではなかった。しかし、現在行われている営業活動がどのようなものであるかを聞かされた時、ミカに選択の余地はなかった。
リアルメカニクスの面接官は全員女性であったが、質問の内容は極めて腹立たしいものであった。
面接官に勧められて椅子に座った瞬間、お尻全体が撫でまわされているような感触に襲われた。
「い、いやっ!」
ミカは思わず立ち上がったが、面接官から注意された。
「だれが立っていいといいましたが?」
「は、はい、申し訳ありません」
ミカは再び椅子に座った。無数の指先が、ミカのお尻の下で動きま回っている。その感触に、ミカはたまらず腰をもじもじと動かしてしまう。
「ふふっ、その椅子はね、電磁誘導で末梢神経に刺激を与えるの。座り心地はいかがかしら」
「そ、そんな……」
ミカは思わず呟いた。面接官が再び注意する。
「『そ、そんな』じゃ、答えにならないわ。私は質問をしているのですよ。だれの、どこが、どのようにされていて、どのように感じるのか、きちんと答えられなければ、当社での製品開発はつとまらないわ」
ミカは、怪しい刺激と恥ずかしさに震えながら、面接官によるいくつもの恥ずかしい質問に答えなければならなかった。
それらの質問に答えられなければ製品開発はつとまらないという面接官の言葉は真実だった。入社して間もなく宇宙工場の第1開発に研修生として仮配属されたミカの主な仕事は、自動設計システムによって設計され生産された試作拷問マシーンの評価を行なう事だった。顧客からの恥ずかしい言葉で埋めつくされたアンケート結果を読み、拷問マシーンを自分の身体で試し、恥ずかしい言葉で埋めつくされたレポートをいくつも提出しなければならなかった。
提出されたレポートは会議で検討された後、自動設計システムに入力され、製品の改良の為に利用されるが、ミカの場合、内容が不明瞭という理由で、より恥ずかしい言葉で書き直さなければならない事がほとんどだった。
入社して3か月後、第2開発に正式配属された後も、全自動で生産された試作品を自らの身体で試し、恥ずかしいレポートを提出し続けなければならない状況に変わりはなかった。
「あなたって、あんな簡単なレポートを何度も書き直しさせられるなんて、ちょっと勉強不足なんじゃないかしら」
ある日、ケイコ・ミヤハラにそう言われた時、ミカは腹立たしさを隠せなかった。
――回路設計もろくにできない子が、よく言うわね。
思わずそう言い返そうとして、やめた。ミカが自分の手でロボットを設計したとしても、自動設計システムのスピードと精確さにはかなわないのだから。そしてそのシステムを使う以上、設計の質を左右するものはとりもなおさず、システムに入力する情報の質である事は間違いのない事なのだから。
勤務時間が終った後も、ミカの開発室には上司や同僚が頻繁に訪れた。そして、「特別研修」と称してミカの身体を責めなぶり、恥ずかしい悲鳴を何度も上げさせたのだった。それが、周りに娯楽施設のない宇宙工場での、彼女たちの数少ない楽しみの一つだったのだ。
技術部の社員には、一人に一つの開発室が与えられている。開発室は、同時に生活の為の部屋でもあった。すなわち、勤務時間帯は開発室、それ以外の時間帯はプライベートルームとなる。もっとも、勤務時間中は会議の連続で、開発室に入る事はほとんどないが。
部屋のドアを開けると、奥のベッドに一人の女性が腰かけていた。昨日地上の商社ビルで商品説明を行なったアンドロイド、メイドールだった。ベッドの向こう側には大きな窓があり、地上の緑の風景が映し出されている。部長室の窓と同じ風景だ。
テレビ映像に切り替えようと思う間もなく、メイドールが立ち上がった。
「先生、お帰りですか? 今日は早いのですね。どうかしたのですか? だいぶ疲れてるようですね。でも大丈夫ですよ。あたしが先生の疲れ、消して上げますわ」
メイドールは入口の方へ歩み寄ると、ミカの手を両手でしっかりと掴み、自らのミニスカートの奥へと導いた。熱い蜜がしとどに染みだし、太股を濡らしていた。
「あたし、今日はとっても寂しかったの。あなたの事を想いながら、一人で何度もいけない事をしてしまったのよ」
ミカは、その言葉が嘘である事を知っていた。その事は、メイドールに関する改善課題の一つとして、先日の検討会議で指摘されたばかりだった。
プライベートルームといえども、部屋の中の様子は常にビデオ撮影され、その映像は高度な画像理解能力を持つ監視システムによって様々な検索用キーワードが付けられた上で、最大3年間保存される。もちろん、それらの映像は会社のどの部屋からも瞬時に検索して呼び出す事ができ、製品開発の為の重要な資料として活用される。
女性向けメイド型アンドロイドの開発の際には、ロボットが人間の言葉や表情をどのように解釈し、人間と協調して行動するかが開発チームの最大の関心事だった。
しかし、先日の会議で問題となったのは、人間がそばにいる時ではなく、一人でいる時にどのように行動するかという事だった。女性向けアンドロイドの場合は、人間に頼まれた仕事さえ終らせれば、後は眠っていればよかった。しかし、男性向けの場合はそうではないというのだ。
先日の会議で、レイカ・モリヤマは言った。
「私の調査によると、男性は女性の一人部屋を隠し撮りしたがる習性がある生き物なの。当然ロボットは隠し撮りされている事を知らない。その時ロボットはどう動くのか。この日、主人が帰宅した時、メイドールはこう言っているわ」
会議室の中央の空間に、先日ミカが帰宅した時の部屋の様子が映し出された。
「あたし、今日はとっても寂しかったの。あなたの事を想いながら、一人で何度もいけない事をしてしまったのよ」
メイドールの映像はそう言った。
「しかし、この日のロボットの本当の行動は、こうよ」
映像が巻き戻されたのか、メイドールはベッドに戻り、ミカが外へ出て行った。その後、メイドールはベッドの上に座り、微動だにしなかった。時間が戻されている事を示すものは、数カ所に表示された記録時刻以外に何もなかった。その時刻が出勤時刻となり、再び部屋にミカが現れるまで、ロボットには何の動きも見られなかった。
「この日、メイドールは何をしていたのですか?」
ミカはレイカの質問に速答した。
「文献による学習です。男性の体が一日に必要とする各種栄養素の量や、それを満たすための料理の作り方に関する文献を通信回線経由で読んでおりました」
その答えに対して、他メンバーから意見が出された。
「それじゃ、料理の本で濡れたの?」
「そうじゃないわ。ただ単に、御主人の帰宅に備えてただけよ。そうでしょ?」
その指摘に、ミカよりも早く、レイカが答えた。
「そのとおりよ。この映像を見てちょうだい」
レイカが新たに呼び出した映像は、さらに数日前、ミカがメイドールからの質問に答えている時のものだった。
男性向けに書かれた官能小説には、女性が自分の恥ずかしい部分を悪戯して、その部分を濡らす場面が多く描かれているが、自分も一人でいる時にはそうすべきなのかという質問に対して、ミカはこう答えていた。
「本当にする必要はないわ。そんな事をするのは時間と体力の無駄使いよ。でも、男性としては本当にしてくれた方が喜ぶかもしれないから、していたふりはした方がいいでしょう」
その映像の直後、会議室は騒然となった。
「あんた、何考えてんの?」
「そんなんで客を納得させるつもり?」
「男っていうのは、女が自分のいやらしさを必死に隠そうとする所に萌えるものなの。そのへんの事、分かってるのかしら?」
「あの時の答えは間違いだったと言い聞かせるべきよ」
「そんなんじゃ不十分だわ。お客さんの手に渡ってから、前の答えを独り言で言われたりしたら大変よ」
いくつもの意見が同時に出されたが、決定された事は一つだった。問題となった質問への答えをメイドールの記憶から削除し、別な答えに置き換える事。その為には、事の次第の釈明と追加予算の申請書を上層部に提出した上で、メタルブレイン社という、メイドールの頭脳の開発元である会社に、依頼内容をまとめた文書とメイドール内の全データを送信する必要があった。本来はミカの担当となる所であるが、「出荷開始までに確実に実施されなければならない」という理由で、別な誰かが行なう事になった。その時手を上げたのは、ケイコ・ミヤハラだった。
ミカが開発部を去った後、モダンサムライ商会からの指摘事項に対する改良は、ケイコ・ミヤハラが引き継ぐ事になっていた。ミカは自分のメイドールをレイカ・モリヤマに預けた後、ケイコの部屋を訪れた。彼女もまた、自分のメイドールを教育の為に抱えていた。ミカが訪れた時は、なぜか二人とも裸だった。
「ミカ、待ってたわ。あたしたちといっしょに、いい事しましょ」
ケイコはミカの手を掴むと半ば強引にベッドの上に押し倒そうちした。
「ちょっと、あたしは引き継ぎの為に来たのよ」
ミカは、ケイコの手を振りほどいた。
「あら、ベッドの上のあなたの女としてのふるまいを伝授するのも、立派な引き継ぎよ。どうせ、あなたの担当していたメイドールには、そんな教育、しなかったんでしょ?」
「そんな事よりも、モダンサムライ商会からの指摘事項としては……」
ミカの言葉を、ケイコはあっさりと遮った。
「それなら、記録映像と営業部からのレポートを見たわ。でも、あれは私たちの仕事ではなく、メタルブレイン社の仕事ね。早速、依頼書を提出しておいたから、安心してちょうだい」
ミカはケイコの部屋を出ると、再び自室に戻り、ベッドに横になった。
まだ勤務時間中だったが、とても仕事をする気分にはなれなかった。それに、転属が決まり、引き継ぎも済ませた今となっては、ここですべき事はもう何もないのだ。
窓の風景は地上の緑から海の風景に切り替わっていた。
その海の水で、全ての不安を洗い流してしまいたかった。
もう既にケイコ・ミヤハラは、以前の会議で問題にされたメイドールの記憶の修正を依頼する為の恥ずかしい文書をとうに仕上げ、必要なデータと共に送信してしまったに違いない。しかし同じ事を自分がやる事になっていたとしたら、果たしてできたかどうか分からない。
――やっぱり、あたしはここにいる資格なんてないのかしら。
目を閉じると、昨日の光景が瞼に浮かんだ。
女の武器を使い、負傷したユキ。
女性向けの市場は限られている。だから営業部に入れば必ず男性市場に売り込みに行かなければならない。そしてだれもが女の武器を使い、負傷する。
「いやよ。あたしは絶体にいや」
ミカが呟いた時、ベッドの脇の電話が突然鳴った。
受話器を取ると、アナウンスの音声が聞こえて来た。
「こちらはヨミコールサービスです。通話料はお客様のご負担になります。通話なさる場合は1を、なさらない場合は2を押して下さい」
――母さんからか……。
いつものミカであれば、迷わず「2」を押す所であった。しかし今回は違っていた。
ミカの母は、ミカとはなかなか意見が合わなかった。ミカがリアルメカニクスに就職したのも、母の反対を押しきっての事だった。だから、今日は気のきいた事を言ってくれるかもしれない。
ミカは「1」のボタンを押した。
「ミカ、分かる? マミよ。今日は珍しく1回でで出てくれたのね」
「お母さん? 久しぶりね。いつも思うんだけど、母さんの声、生きていた時より若返った感じね」
ミカは思わず嫌味な言葉を口にしていた。それが死んだ母と話す時の挨拶代わりになっていた。最初は腹を立てた母も、今は気にしていないらしい。
「ふふっ、そう思うかしら? 声だけじゃないわ。顔も髪も、全てが若返ったのよ。ねえ、たまにはお互い顔を見て話しましょうよ」
ミカは、タッチパネルに光る「映像表示」の文字を見ながら答えた。
「悪いけど、あたし、幽霊を見る趣味はないの。声を聞くだけで沢山よ」
ミカの母、マミ・サイトウは、ミカが就職して間もなく病死した。墓地の不足により伝統的な墓石にマミの名を刻む事ができなかったミカは、代わりに電話会社の墓石に刻む事となった。名前だけではなく、マミの全てを。
電話会社は医療用のスキャナーを用いてマミ・サイトウの脳細胞の一つ一つの状態を全て読み取った上で遺体を処分した。マミの脳の機能はシミュレーションにより再現され、マミの希望する年齢の顔と声が与えられていた。
「ところで、いったい何の用かしら?」
「ミカが心配になったから、かけてみたのよ。経済誌の最新号に、あなたの会社もとうとう男性への売り込み強化に踏み切るって書いてあったからね。どう? 仕事はうまく行ってるの?」
いつもなら、「その雑誌の代金、だれが払うと思ってるの? 余計な心配するのはやめてよ」などと強がりを言う所であったが、今はそんな気分にはなれなかった。
「全然うまく行ってないわ。おまけに明日からあたし、営業部よ」
今まで明るかった母の声が、いきなり沈黙した。どうやら現在行なわれている営業活動の実態を、知らないわけではなさそうだ。電話会社の中にある仮想のあの世にいても、いや、電話会社の中にある仮想のあの世にいるからこそ、この世の事も難なく分かるのだろうか。
「もしもし、母さん、大丈夫?」
「え、ええ、大丈夫よ。そう、営業ね。さぞかし大変でしょう。あたしは以前から、ミカが今の会社に入るのに反対していたけれど、今からでも辞められないかしら」
「できる事ならそのつもりよ。だけど、転職先なんて、簡単に見付かるわけないわ」
「それなら、あたしが何とかするわ。後でまた電話があると思うから、必ず出るのよ」
高級ホテルの一室を思わせる広い部屋の窓辺で、マミ・サイトウは受話器を静かに置いた。窓の向こうには都会の夜景が広がっている。街の明かりを見ながら、マミは思う。ヨミに収容されている者たちの数は、この街の明りの数と、どちらの方が多いものかと。そして、その者たちと会って話をする方法はないものかと。
ヨミでの暮らしは、生きていた頃に聞かされていた電話会社の宣伝から想像していたものとは大きくかけ離れていた。
「ヨミの方々には高級ホテル並みの部屋での生活を保証致します」という宣伝文句に嘘はない。部屋の造りや装飾品は、ボタン一つで世界中の高級ホテルのそれに切り替える事ができるし、立体テレビで世界中の番組を見る事もできる。生きている者やヨミに暮らす他の者たちと連絡を取り合う事もできる。
しかし、想像と異なる事も少なくなかった。
例えば、部屋から出る事が一切できない事、そして突然訪れる来客を拒む事ができない事だ。
「娘さんへの電話、終ったかしら」
不意にすぐそばで声がした。今までマミの他には部屋にだれもいなかったはずなのに、いつの間にか、マミのすぐ後ろに金髪の若い女性が立っていた。
「ええ、終ったわ」
マミは突然の女性の出現に驚く事なく静かに答えた。
「あたしたちの指示どおりに話したわね」
「ええ、あなたがたの指示どおりに話したわ」
それを聞いた女は満面の笑みを浮かべていた。
「ふふっ、上出来ね。あたしたちに逆らったらどうなるか、よく分かってるじゃないの」
不意にマミは、太腿の付け根の恥ずかしい部分に妖しい刺激を感じた。だれも手を触れていないのに、敏感なメシベがいくつもの細い毛に撫で回されているような感じだった。メシベはさらなる刺激を求めて起き上がり、マミの意志に関係なく勝手に蠢く。
「ああっ、いやぁっ!」
マミは思わず両手を肢の付け根へと持って行く。しかしその手はせつない部分を押さえる事ができず、何の抵抗もなく通りぬけてしまった。まるで自分の身体がそこに存在しないかのように。
「そ……そんな……ちゃんと言われたとおりにしたのに、どうして……」
切ない声で訴えるマミの耳元で、女が意地悪く囁く。
「言われたとおりにしてくれた御褒美に、あなたを楽しませてあげるの。さあ、あたしにお願いしなさい。マミのエッチな所を可愛がってくださいって」
マミは怒りと恥ずかしさに顔を赤らめた。
「だ、だれがそんな事を……あ、あうっ!」
恥ずかしい所を責めなぶる毛の動きが激しくなった。
さらに別な毛が周りの花びらを撫で回し、また他の毛が恥ずかしい花園の奥へと入り込み、襞の一つ一つを嘗めるように刺激している。
「ああっ、くうっ……んあぁっ!」
マミはヨミに来た時に取り戻した若かりし頃の可愛らしい顔を大きく歪ませ、恥ずかしい刺激の誘惑に必死に抵抗していた。
マミの両手は太腿の付け根にもぐり込み、刺激の加えられている部分を探し回っている。その部分に触れる事ができないと分かっていても、そうせずにはいられないのだ。
そんなマミの様子を、女は意地悪な笑みを浮かべながら見降ろしている。
「ふふっ、顔は可愛いのに、身体はとってもいやらしいのね」
「お願い、言わないで、ああっ!」
恥ずかしい刺激が再び激しさを増した。その刺激は歓びの稲妻となって全身を駆け巡り、ブルブルと震わせる。天の高みへと今にも打ち上げられそうだった。
「ああっ、あたし、もう、もうだめぇ、もう、ああぁぁっ!」
マミがかん高い悲鳴を上げた瞬間、それまでマミの恥ずかしい部分を激しく悪戯していた刺激が弱まった。マミを高みへと押し上げようとしていた波が引いて行く。それと入れ換わりに、激しい絶望感が押し寄せて来た。
「そんな……いやっ、お願い、お願い」
マミは思わずそう呟いていた。
今まで悪戯されていた恥ずかしい部分が刺激を求めて切なく震えている。花園から溢れた透明な蜜がパンティから染み出し、太腿を濡らしている。それが恥ずかしくてたまらないのに、今のマミにはその蜜を拭う事も、蜜の溢れを鎮める事もできないのだ。
「ふふっ、いい格好ね。この映像を男たちに売ったら、いくらになるかしら」
女の意地悪な言葉に、マミの顔が青ざめた。
「そんな……お願い、それだけはやめて」
マミは懸命に頼んだが、女の答えは冷やかだった。
「おなたに拒否する権利はないわ。もう死んでしまっているあなたに、肖像権を主張する事などできないのだから」
「そんな……あうっ!」
再び恥ずかしい刺激の波が押し寄せて来た。無数の波がマミの敏感な部分をそよがせ、恥ずかしい歓びのうねりとなって全身に広がって行く。
「ふふっ、どう? もっとしてほしい? それとも、やめてほしいのかしら?」
女の手が、マミのTシャツの上から胸のふくらみを包みこみ、固く膨らみきった蕾を指先が捕え、転がした。
「ああっ、お願い、やめないでぇ、もっとしてぇ!」
マミはもう限界だった。
「ふふっ、やっと素直になったわね。たっぷりと可愛がってあげるわ」
女がそう言ったちょうどその時、マミは身体を大きく震わせた。
「い、いやぁ、きゃははは、ああん、だめぇ!」
それまで恥ずかしいメシベと花びらを責め立てていた毛の動きがその範囲を広げ、お尻や太腿までをも撫で回し始めたのだ。女の指が弄んでいる乳首にも毛で撫で回されるような感覚が生まれ、それが胸の膨らみ全体へと広がり、さらに脇の下や脇腹、背中まで、無数の毛のうごめきに包まれていた。
「きゃははは、やめて、お願い、きゃはははは、ああん、んあぁっ、ああああっ」
マミは今や全身を包み込んでいる妖しい毛の動きに笑い声と悲鳴を上げながら、脇を閉じたり身体を手で押さえたりして、毛の動きを止めようとする。
「ふふっ、抵抗しても無駄よ。分かってるでしょ? その刺激はあなたの神経に直接送り込まれているの。ふふっ、あなたの笑顔、とってもかわいいわ。無駄な抵抗なんかやめて、あたしといっしょにもっと楽しみましょうよ」
いつの間にか女の姿は消えていた。しかし、女の声は耳元で囁き続けている。
「ふふっ、どう、これ、我慢できるかしら?」
全身の妖しい刺激が激しくなり、マミは恥ずかしい悲鳴と笑い声を上げ続けた。
やがて、ひときわ激しい笑い声を上げながら、恥ずかしい部分への恥ずかしい刺激による歓びによって天の高みへと打ち上げられていた。
「ああああぁぁっ、もうだめぇ、あああぁっ!」
マミは身体をガクガクと震わせ、かん高い悲鳴を上げ、やがて絨毯の上にぐったりとくずおれた。
熱い吐息を弾ませているマミの耳に、再び女の意地悪な声が響く。
「ふふっ、とってもよかったみたいね。動画データも高く売れそうだわ。でも、これで終りじゃないわ。まだまだこれからよ」
やがてマミを包む刺激の嵐はなおも激しく吹き荒れ、マミに恥ずかしい悲鳴と笑い声を絶え間なく上げさせるのだった。
突然の電話の音に、ミカはベッドの上で目を開けた。窓に映しだされた風景の空は、暗くなりかけている。そろそろ地上への旅に出発しなければならない時間だ。
ベッドから起き上がり、受話器を取る。
「はじめまして。わたくし、株式会社キャリアロータリーの、フジワラと申します。ミカ・サイトウ樣でいらっしゃいますか?」
落ち着いた、女性の声だった。
「は、はい」
「実は、マミ・サイトウ樣からご紹介頂きまして、お電話を差し上げました。ミカ・サイトウ樣は、転職を希望されているそうですね」
「え? は、はい」
ミカは思わず答えた。
――そうか、ママが紹介したのか……。
まさか本当に電話がかかってくるとは思っていなかった。
ミカは迷っていた。
これまでにもミカは転職を考えた事がなかったわけではない。しかし、今まで何ら行動を起こさなかったのは、転職が難しいからばかりではなかった。
例え転職ができたとしても、必ずしも事態が好転するわけではないのだ。
しかし、ママからの紹介とあらば、話だけでも聞いてみるのも悪くはないかもしれない。
「わたくしどもは、転職の斡旋をさせて頂いておりまして、資料なども豊富に取り揃えております。できれば、それらをお持ちしまして、説明にお伺いさせて頂きたいのです。ミカ樣は、明日から営業部勤務になるそうですね。という事は、リアルメカニクスの本社ビルに行かれるわけですね」
「はい、そうです」
「それでは、明日の仕事が終った後で、本社ビルの近くでお会いしましょう」
「は、はい」
ミカは、本社ビル前の喫茶店で待ち合わせる約束をして受話器を置いた。
――よかった。これで、営業の仕事を続けなくて済むかもしれない。
営業部に移る事への不安で闇に包まれていたミカの心に、希望の光が射していた。
これがミカの波乱の人生の始まりである事を、ミカはまだ知らなかった。
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