「あ゛ぁ゛ぁあ〜〜ひゃっはははははっ!!! ひぎぃ゛ぃ゛〜〜ひひひひひひひひ〜〜あげぇぇへへへぇぇ゛ぇ゛!!?」
放課後、茂上先輩がのたうち回りながら笑う姿を見た。くすぐったさに暴れ、シャツの裾がはみ出し、ネクタイは緩み、スカートのホックが外れた。露出した素足をくねらせ、がに股になっても、お構いなしに笑い続ける。
芦浦は、彼女の足の指の一本一本をしゃぶり尽くした。
先週までは、芦浦がどうやって茂上先輩に近づくのか、単純に好奇心があった。しかし、現実に芦浦の虜となって笑い狂う彼女の姿を見ていると、言いようのない虚無感に襲われるのであった。
もしかすると、心の底で、僕は、茂上先輩ならば芦浦に抵抗できるんじゃないか、という期待があったのかもしれない。
だから、こうも簡単に崩れ落ちてしまった茂上先輩に対して、失望、悲愴といった感情が生まれるのであろう。
僕は、芦浦から今日の茂上先輩の動画と、新たに渡されたUSBの動画を編集して、DVDに焼くように言われた。
いまどきDVDなんて、と最初は思ったが、裏で売買するには現物のほうが回しやすいのだそうだ。
悪行に荷担していると思うと、僕は胸が痛くなった。
USBに入っている動画。……
金曜から月曜にかけて3日分12本の動画だった。本数が多いのは固定カメラの台数によるものだろう。
僕は自室にこもり、ヘッドホンを付けて、それらの動画をチェックしていく。
――
―――
――――「放しなさいっ……、こんなこと! 絶対に許さないんだから……!」
星野さんが金切り声を上げた。
強気の口調ではあるが、目尻に涙が浮かんでいる。おそらくかなりの恐怖と当惑があるのだろう。
彼女は、ソファの上で両手と両足を縦に引き伸ばして縛り付けられていた。清森悦子がくすぐられた部屋だった。
星野さんは、制服姿であるため、金曜日の学校帰りだと思われる。半袖のシャツにちょっと緩めたちょうちょネクタイ、裾を伸ばしたベスト、ギリギリまで折ったスカート、くしゅっと短めに穿いた白ソックス。いつもの星野さんだ。
呼び出したのか、拉致したのか、どういう手段を用いて彼女を部屋に招き入れたのかはわからない。……星野さんが、金曜の昼休みに芦浦のことを異常なほど警戒してたことを考えると、呼ばれてついていくようなことはないように思われる。ハムスターにつられることもないだろう。自然に考えると、無理矢理拉致されたということになるのか……。
「芦浦……! あんた、本当にクズね……っ、クズ! 言っとくけど、泣き寝入りなんてしないから。ぜ、絶対に、訴えってやるから……!」
星野さんは体をピンとIの字に伸ばし身動きが取れないまま、怒鳴る。
「俺だって、好きでこんなことやってんじゃねーよ。お前が邪魔するから悪いんだぜ? 自業自得ってやつだ」
芦浦が、星野さんの顔をのぞきこんだ。
すると星野さんは、ぺっと芦浦の顔に唾をはいた。
「このクソアマ……」
芦浦は星野さんをにらむと、右手を彼女へ近づけた。
「……っ!」星野さんはきゅっと目をつぶった。殴られると思ったのだろう。
しかし、芦浦は軽く立てた人差し指を、彼女の腋の下へと伸ばした。
「……――ひゃっ!?」
星野さんの体がびくんと上下に跳ねた。
予想外の刺激に驚いたのだろう。
芦浦がそのまま、ちょこちょこと人差し指を動かすと、
「ひゃはっ……ちょっ!!? くはっ……あははは、やめっ、あははははははははっ!!? やだっ」
星野さんは激しく声を上げて笑い出した。
「なんだよ。指1本でこれかよ。激弱」
「やめっ、いやははははははっ!! やだぁ、笑いたくないぃっ、やぁぁあはははははははははっ!! 意味わかんなっはっはっはっはっは、なんでこんなことぉ〜〜ふひははははは!!?」
星野さんは、芦浦のたった1本の指で、くねくね体をよじって笑い悶える。
綺麗なミディアムヘアを振り乱し、目に涙を浮かべ、眉をへの字にして、だらしなく大口を開けて笑う星野さん。さんざん悪態をついた相手に、こんな風に笑わされるのは、さぞ屈辱だろう。
「俺だってやりたかねーよ。無理矢理くすぐるのは俺の流儀に反するしな。でもな、お前調子乗りすぎたんだよ。俺の段取り邪魔したんだから、それなりのお仕置きは必要だろ」
「あはっはっはっはっはっはっは!? なはっ、なにがお仕置きよぉ〜〜くぅぅうぅぅひひひひ、はははははははは〜〜!!」
「お前、落ちるまでくすぐり続けてやんよ」
芦浦はそう言うと、両手で彼女の腋の下をくすぐりはじめる。
「ぶひゃぁああああ゛あ゛あ゛!!! やだぁあ゛はははははは〜〜!! くすぐりだけわひゃっはっははははっはっは!!?」
笑い声がさらに激しくなった。
両手拳を握りしめ、体中をびくびくと震わせ、膝をがくがく揺らし、揃えられた両足をくねくねとよじる。
星野さんの激しい反応。それだけでかなりのくすぐったがり屋であることがわかる。……意外な弱点にも思えた。
「やめて欲しいか?」
芦浦は、しばらく彼女の腋の下をくすぐって口を開いた。
「あははははっ、あだぁぁあ!! あだり゛ま゛え゛でしょぉぉ〜〜〜がははははははははははははははっ!!!」
星野さんは首をがくがく揺らして笑う。
芦浦は、人差し指の尖端を彼女の乳房の付け根あたりに差し込んで震わせている。たしか、木本さんもその部位をくすぐられて、激しく反応していた。女子共通の弱いポイントなのだろうか……?
「じゃあ『くすぐり気持ち良い』って言え」
「い゛いぃ゛ぃ〜〜ヒヒヒヒヒヒひっ!!? はぁあぁはっはっははっは!? そんなことっ、言うわけないでしょぉ゛ぉ゛あがはっはっはははっはははっはっはは!!!」
星野さんは、顔を真っ赤にして笑いながら叫ぶ。
「それなら笑い死ねよ」
芦浦はそういって、5本の指をアバラに突き立てた。
「ぐぎゃははははははははははっ!!!?」
星野さんの体が激しく波打った。
芦浦は、ごりごりとアバラの骨をしごくようにくすぐる。
「わがががひひひひひひひ!!! わがっだ、言うううう゛う゛ぃひっひひひひひひ、言うからやめでぇぇえへっへへへへっへ!!」
あまりにもくすぐったすぎたのか、星野さんはあっという間に前言撤回した。
「さっさと言え」
「うふひひひひひ、……く、くすぐり気持ちい゛ぃ゛ぃいいいいっはっはっはっはっはっはっはっはっは〜〜!!」
星野さんの目から、ぼろぼろ大粒の涙がこぼれた。
バカ笑いさせられながら、無様なことを言わされる。その精神的苦痛はかなりのものなのかもしれない。
しかし、芦浦はくすぐりを緩めること無く、
「気持ちが入ってない。もう一回」
「いぎぃいいいっひっひっひっひっひ!!? なによそれ゛ぇえ゛えぇえっへっへっへへっへ、言ったのにぃいいっひっひっひっひっひ、やう゛ぇでぇえ!!」
星野さんは激しく笑い続ける。
芦浦は無言でくすぐり続ける。
そのまま数十秒が過ぎる。
星野さんは耐えきれなくなったのか、
「ぐふふぅぅふふふふ、く、くすぐりきもぢぃいひひひひひひい!!!」
再び泣きながら叫んだ。
「もう一回」
芦浦は無慈悲に言う。
「嫌あ゛あぁあがはははははははは、ひぎぃいぃ〜〜っひっひっひっひっひっひっひっひっひ〜〜!!!」
星野さんは、そのまま1時間余り、ノンストップでくすぐられ続けた。泣きながら何度も何度も「くすぐり気持ち良い」を叫ばされながら……。
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