クスグリトラレ |
「お邪魔しまーす」 三つ編みの1年生、清森悦子がリビングに入ってきた。 彼女は学校の制服姿。紺のベストのサイズがちょっと大きいような気はするが、ブラウスは第一ボタンまでちゃんととめているし、ネクタイもちゃんとしている。スカートは膝丈。ソックスは短めのクルーソックスだ。 「わあ! これが先輩の言ってたハムスターですか! 超可愛い」 清森悦子は、リビングの壁際に置いてある籠に駆け寄ってはしゃぐ。 「おう。これ餌」 と、芦浦が彼女にひまわりの種を渡してやる。 「え、私がやってもいいんですか!」 「いいぜ」 「わ、もきゅもきゅしてる! 可愛い!」 清森悦子は、ハムスターにつられて、芦浦の家までやってきたらしい。あまりにもチョロすぎる。 ただ、彼女の妙に馴れ馴れしいところというか、人なつっこさは、なんとなく憎めない人柄に思える。 芦浦が飲み物を用意し、彼女が受け取る。 二人は、まるでベッドのように大きなソファに並んで腰掛けた。芦浦の家はずいぶんと広く見える。大型液晶テレビや空気清浄機が置いてあり、天井まで詰まった本棚には難しそうな本がずらり。芦浦は金持ちなのだろうか。 しばらくとりとめのない話をした。だれそれ先生の授業はわかりにくい、とか。あそことあそこが付き合ってる、とか。 一呼吸置いたところで、 「悦子って、気遣いできてホントえらいよな」 「えー、そんなことないですよ」 「いやいや謙遜すんなって。年上の扱い方を心得てるし。相手が気持ちよく話せるようにちゃんと立ち回るじゃん。んで、クラスでは級長もやってムードメーカーなんだろ? ぶっちゃけ神経かなり使ってるだろ。どれ、ちょっと診せてみろよ」 芦浦はさりげなく彼女の後ろに回り、両肩に手を置いた。 「あぁ……っ」途端に色っぽい声を上げる彼女。 「うわ、悦子、肩がっちがちじゃん! やっぱムードメーカーちゃんとやってる奴、肩凝るんだよな。俺、マッサージできるけど、やってやろうか?」 「え、いいんですか!? それじゃあ、……是非!」 清森悦子はあっさり承諾した。 そして芦浦に言われるがまま、彼女はソファにうつぶせに寝そべった。 芦浦は彼女の腰の上に馬乗りになると、そっと彼女の肩に手を添える。 「んぁ……」彼女の艶めかしい声。 よほど肩が凝っているらしい。 芦浦は、彼女の肩から背中を、揉みほぐす。 「んふぅ……先輩、……ん、ホントに、……上手いんですねぇ。……ちょっと、このままだと寝ちゃいそう」 彼女は、ぐでっと体を伸ばし、リラックスしきっている様子だ。 芦浦は、親指で背中の筋をマッサージしながら、人差し指をそっと彼女の腋の下へ伸ばす。 「……んぅ……――んひゃははっ……!? ちょ、先輩。人差し指、腋にあたってくすぐったいですよぅ」
彼女は顔を上げて言った。 「きゃははははっ!! ちょっ、先輩ぃい!! あははははははっ、ダメですって〜〜! くすぐった〜〜い、ははははははははは!!」
清森悦子はじたばたと手足を動かして笑う。 「きゃっはっはっはっはっは!? あはぁぁ〜ぅぅ、ひっひっひ!! そこはぁぁはっはっはっはっは、んあぁぁあ〜〜ははははは!!」
彼女はときどき嬌声をまじえながら笑っている。 「あははははははは、せんぱあぁい、それぇぇぇひひひひひひ、マッサージですかぁぁはっはっはっはっは〜〜!?」
いつまでもくすぐり続ける芦浦に、さすがに彼女も疑問を持ったららしい。 「あはぁぁあん……!! あぁあぁぁあはははははははは、そこぉぉ〜〜〜ひひひひひひひひひひ!!? そこなにぃぃっひっひっひっひっひっひ!!」 「脇腹のツボって奴だな。お前ここ、ゆるっゆるのこりっこりじゃん。マジでくすぐったいだろ?」 「あひあっぁああん!! くすぐったいぃぃっひひひっひっひっひ、くすぐったいれしゅぅぅひひひひひひひひひひ〜〜!!」
彼女は涎まで垂らして笑っている。
たった5分程度、腋から脇腹、背中をくすぐっただけで、清森悦子の顔は完全にとろけてしまった。ぐでっと四肢を投げ出すように脱力している。 「ひひゃぁああんっ!」
清森悦子は、艶めかしい悲鳴をあげた。 「んふふぅぅ……あひぃぃ。ひぅううん〜〜……あぁぁ」
彼女はマッサージが気持ちよすぎるのか、痛いのか、くすぐったいのか、身をよじって声を上げる。 「ふひゃぁぁんっ……エジプトがらってなんれすかぁ……〜〜」
「しかも、それぞれ指の股が広い。好奇心旺盛な良い足だ」 「んほほほほおぉぉっ!! あはぁぁ、しょれぇ〜〜……そんなこともわかるんれすかぁぁ、うひひひ〜〜」 ぐりぐりと指を動かすと、彼女は身もだえする。
芦浦はその後もべたべたと彼女の素足を触りまくり、 「くひゃははははははははは!!? んごぉぉ〜〜〜ひほほっひひゃひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」 清森悦子は、びくんと弓なりにのけぞり笑い出した。 「にゃにゃにゃぁあはっはっはっはっは!!? なやぁぁあっはっはっはっはっはっはっはっは〜〜!!?」
なにか言葉を発しているようだが、なにを言っているのかまったくわからない。よほどくすぐったいらしい。 「おごほほほほほほほっ、ふひぃぃい〜〜っひっっひっひっひっひ!!? んはやぁっはっはははっはははっははっはひぃぃ〜〜っひひいぃぃぃ!!!」
清森悦子は、上半身をはげしくねじり、首をがくがく震わせて笑い狂っている。 芦浦は、じゅるりと舌なめずりをすると、その親指にむしゃぶりついた。 「ふにゃぁぁあああ!? ちょぉおおおお先輩ぃいいひひひひひひひひひ、しょれわぁぁぁひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
さすがに彼女も足指を舐められるのは抵抗を感じたらしい。しかし、芦浦の見つけたツボがよほどくすぐったいのか、すぐに大笑いによって押し流される。 「んはぁああぁ〜〜……っ! ひははははははははははは!!! くひぃぃんっ、ひゃっはっはっははっはっはっはっはっは〜〜!!?」
艶めかしい喘ぎ声と、激しいバカ笑いを繰り返す清森悦子。 彼女が帰り際に、脱いだクルーソックスを穿き直すことはなかった。
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