僕が給水タンクの上から降りると、芦浦はにやにやしながら、木本さんの両腕を万歳にして押さえた。
「馬乗りになって、腋の下くすぐってやれよ。こいつ、腋の下のちょうど乳の付け根あたりくすぐられるの好きだからさ。澤部、お前も乳好きだろ?」
「そ、そんなことは……っ」
僕は顔が熱くなるのを感じた。
たしかに木本さんは、小柄な割に胸が大きいから、1年生の頃、初めて見たときからずっと気にはなっていたけれど……。
「澤部くん……、1年の時、私のこと、ちょっと好きだったでしょ……」
「えっ!?」
急に木本さんにそんなことを言われ、ドキリとする。
「……ずっと見てるんだもん。わかるよ……。でもごめんね。あのときは桃井くんの方が好きだったから、気付かないふりしちゃってた……」
なんだか、複雑な気分になった。
ずっとおしどりカップルとして、見守っていたかったのに……。
「澤部」
芦浦に呼ばれて見ると、
ぶちぶちぶちっ。
木本さんの黒いベストがいつの間にかまくり上げられており、ブラウスの前ボタンが引きちぎられるように開かれた。
「あぁん、もう……。好男くん、乱暴」
木本さんは嫌がる様子も無い。
彼女の白いフリルの付いたブラ、乳房が露わになった。
白い肌、きれいなくびれ、おへそ……。僕には、目の前の光景が理解できない。
「ほら。お前、好きだったんだろ? さっき俺がやったみたいに、くすぐってやれよ。好きな子が馬鹿みたいに大口開けて笑うの、興奮するんだろ?」
僕は、言われるがままに、ゆっくりと二人に近づく。
「愛香の太もも当たりに馬乗りになれ。腹は乗るなよ。いくらお前がガリガリでも、愛香の子宮がつぶれちまう」
断る言葉が出てこなかった。
「そうだ。手、出せ」
芦浦が、僕の両手をにぎる。
そのまま、木本さんの腋の下へ持って行く。
僕の目の前に、木本さんの顔があった。彼女は期待するような瞳を向けていた。
「う゛……」
僕は、指を動かすことができない。
桃井への罪悪感があった。
すると、木本さんが、
「……やるならさっさとやれよ。意気地無し」
いままでに聞いたことが無い口調で、軽蔑した目を向けてきた。
かちん。
僕の中で、何かが崩れた。
気付くと僕は、彼女の腋の下、ちょうど乳房の付け根辺りを、こちょこちょくすぐっていた。
「あはっ、あははははははははは!!! やだっ、澤部くんっ、変態ぃいあいあっはっはっはっははっはっはっはっははは〜〜!!」
そんなことを言われてもかまうものか。
お前が挑発してきたんじゃないか!
僕の指の動きに合わせて、木本さんが首を左右に振って笑う。
目の前の乳房が、ぷるぷると左右に揺れていた。まるで水風船のようだった。
「おう。澤部。お前、なかなか筋が良いじゃねーか。愛香もめっちゃ喜んでるし」
芦浦は、へらへら笑って言った。
「ひゃはははは、喜んでないぃっ!! 喜んでないもんぅううははははははははっははははは〜〜!!!」
彼女は、明らかに僕のことを舐めていた。
僕の中で、彼女への清らかな好意が薄れていくにつれて、彼女をこのままくすぐり犯したいという邪悪な考えが強くなっていった。
僕は、さきほど芦浦がやていたように、人差し指を立てて、くりくりと木本さんの乳房の付け根をほじくるようにくすぐった。
「きゃひひひひひひひひひひひっ!!? あ゛はぁぁぁ゛ぁ゛〜〜っはっはっっはっはっはははっは、それだめぇぇええあっはっははっはっはっはっはっははっは〜〜!!」
パシャリ。
「え!?」
僕は音に驚いて、くすぐる手を止めた。
芦浦が、僕と木本さんに向かって、スマホを向けていた。
「ほれ、よく撮れてるだろ?」
芦浦は僕にスマホの画面を見せてきた。
そこには、半裸の木本さんの腋をくすぐる僕の姿が、はっきりと映っている。
「え、……どういう」
僕は現状がうまく飲み込めない。
「ひゃはは、澤部、お前、天然か! 口止めだよ口止め! お前、仲良しの桃井クンにチクるつもりで覗いてたんだろ? でも、この画像でもうチクれなくなったよなあ?」
あ……。
ようやく自分の愚かしさに気付いた。
木本さんもグルだったのだ。
僕を挑発してきたのも、僕に木本さんをくすぐらせて、口止め写真を撮るための、演技……。
「澤部くん、ごめんね♪」
木本さんはてへ、と笑う。僕は、ずっと憧れだった女性に、殺意を抱いた。
それでも、彼女の笑い狂う姿を思い出すと、股間が熱くなる。……それが、悔しくて、悔しくて。
僕は意気消沈していた。
すると、芦浦が肩を抱いてきて、
「まーそう気を落とすなって。秘密を共有してくれんならさ、俺の使用済み、お前にもくすぐらせてやんよ。もちろん愛香も貸してやるよ」
「もう、好男くんったら」
木本さんのキャラクターがどんどん僕の中で壊れていく。
「あ、澤部くん。最後のくすぐり方は、ちょっと良かったよ? 好男くんには及ばないけど」
「だとさ、よかったなあ! 澤部!」
笑い合う二人の声が、遠くに聞こえた。
僕にはもう、選択肢は残されていない。
その日の晩、桃井から電話があった。
「澤部、面倒かけて悪いな。愛香、……どうだった?」
「……」
「澤部?」
「……ったよ」
「うん?」
「別に、おかしなことはなかったよ。……心配いらない」
「心配いらないって……、今日もあいつ、部活いってないだろ? ブラバンの奴に聞いたら――」
「だから! 本人に直接聞いたんだって……。最近体調あんまよくないから、休んでるって。部長さんにはちゃんと伝えてるらしいよ」
「そうだったのか……。部長に言ってあるなら心配ないな」
「素足で靴履くのも、ホントに心境の変化というか、最近暑いからそうしてるだけらしいよ……」
「そか。俺が勝手に誤解してただけみたいだな! 澤部、手間取らせて悪ぃ。サンキューな!」
桃井との電話を終えた後、僕は木本さんの笑い悶える姿を思い起こして、抜いた。
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