鎖の夏合宿 |
その兆しが現れたのはいつ頃からだったろうか。美園が練習練習の疲れのためにまどろんでからしばらく経つと、幸江はある生理現象に悩まされるようになった。 排尿。 性欲と並んで、口にするのも憚られる動物的な欲求。しかしそれが本能的な欲求であるだけに我慢し続けることはできない。幸江の下腹部に溜まった水は、体外に溢れ出ようと彼女の意識を攻め苛んだ。 普段だったら、ただ黙ってトイレに行けばそれで済む。だが今の幸江にはそれができない。足首を繋がれているため、幸江は一人で行動することができなかった。つまり、寝ている友人を起こして、恥ずかしい生理的欲求を告げなければならない。 尿意に耐えるため、幸江は膝を抱えるようにして体を丸めた。さらに太股をもぞもぞと擦り合わせる。 くうっ・・・こんなことになるならコーヒー牛乳なんて飲むんじゃなかった。練習中にも水をガブガブ飲まなきゃよかった。もれちゃいそう・・・ 恥をしのんで美園を起こすしかないわ。 「美園・・・目を覚まして。起きて・・・」 幸江は小声で囁いた。瞼を閉じて眠っている友人の姿は、同性から見ても悩ましく美しい。うたた寝を邪魔されて、かすかに美園はみじろぎをした。 うす目をあけ、気怠い様子で幸江を見る。 「ん・・・寝ちゃった。どうかしたの、幸江」 「うん・・・」 いざ言葉にしようとすると、やはり恥ずかしい。 「どうしたの。体の具合でも悪いの?」 体をエビのように丸め、何かに耐えるかのように縮こまっている幸江の様子に、美園はただならぬものを感じた。しかし、トイレに行きたい、という口に出したくない欲求までは察してくれなかった。しかたがなく幸江は、か細い声を絞り出した。 「わ・・わたし、その・・・お・・・おしっこが・・・したくなっちゃったの・・・」 細身の体を小刻みに震わせつつそう告げるのが精一杯だった。緊張に青ざめていた顔が、一転して火照るのがわかる。 美園は全てを了解した。 「ごめん。気がつかなかった。とにかくトイレを探そう」 幸江は、肩を抱き寄せられ、なかば引きずられるようにして、入り口の脇にあるドアに向かった。 「ううっ・・・」 漏れちゃう、という言葉を幸江は飲み込んだ。下腹部に力を込め、美園との二人三脚に気を向ける。が、膀胱を締めると二人三脚が疎かになり、二人三脚に集中するとはずみで失禁してしまいそうになる。 「幸江、もうすぐだから」 トイレは部屋の中にあった。幸いにも。入り口脇のドアの中が洗面所になっていて、トイレと風呂とがついていた。 美園がトイレの扉を開けると、幸江は慌てふためきながら駆け込んだ。足を繋いでいる鎖が短いため、美園も狭いトイレに入らざるをえない。薄い壁すらへだてない状態で、他人に見られながら用を済ますのは初めてだった。 しかし、今はそんなことは気にしている場合ではない。幸江の尿意は限界に近づいていた。膀胱はパンパンに膨れ上がり、はやく排尿してくれと悲鳴をあげている。 幸江は喜々として便座に腰かけようした。が、すぐにその安堵感は凍りつく。 手の動きを封じられている幸江は、自らの短パンと下着とを下ろすことすらできない。太股と太股とを落ち着かな気によじり合わせ、必死に排泄をこらえながら、べそをかきつつ幸江は美園に訴えた。 「お…お願い。脱がせて…」 「うん」 幸江の短パンに美園が手をかける。美園の手が幸江の下腹で動くたびに、幸江は股間を緊張させなければならなかった。ボタンが外れ、ファスナーが下ろされる。あっさりと幸江の短パンは、彼女の腰からすべり落ちた。 下着の白が目に飛び込んでくる。何の飾り気もない面の下着が、少女の股間にはりついている。それをも脱がそうと美園が手をのばした時、 「や…」 幸江は反射的に腰を引いた。友人に性器を見られることへの羞恥がそうさせた。 「目を…つぶって」 美園は、幸江の気持ちをくんで、目を閉じたまま友人の下着を下ろした。 腰の周りにあるべきものがなくなり、幸江は何か頼りない気がした。 やっとおしっこができる。どすんと便座にすわり、幸江は全てをかなぐり捨てて尿道の筋肉を弛緩させた。見慣れた自分の性器から尿が吹き出す。汚水が便器の内側にあたり、かすかな音が響く。かすかな音ではあるが、幸江の頭の中には異様な大きさで響きわたる。美園の耳にもその音が届いている かと思うと、幸江はさらなる恥辱に身を焼かれた。 「美園… 水を流して…」 「ごめん。そうよね」 水を流すためのレバーを探すために美園が目を開けた途端、幸江と美園との視線が交錯した。気まずい空気が流れる。 幸江の小水は勢いを失い、ぽたぽたと滴ったしずくが便器の底の水面を打っった。今更おそいのだが、美園は水を流してくれた。排尿の音を聞かれ、汚水をしぶかせる性器を見られ、幸江は羞恥地獄に苦しんだ。それに…恥ずかしいことはまだ終わっていないのに気づいた。顔から血の気が引き、くらくらする。 「み…美園。あの…拭いて欲しいの」 「あ…そうか」 幸江の顔は青ざめ、美園の顔は紅潮した。足首まで下げられた短パンと下着。白いふくらはぎと太股。裸になった下半身。股間には、体内から排泄された水を滴らせている陰裂と陰毛とがあらわになっている。排尿を終えた以上は、紙で拭かなければならない。しかし、幸江にはそれすらも許されず、他人に性器を拭いてもらわなければならなかった。幸江は横を向き、瞼をかたく閉ざし、羞恥と屈辱とに耐えた。 「いくよ」 後ろ手に拘束され、下半身を裸にしたまま為すすべもなく震えている美少女の股間に、美園は紙をあてた。湿り気を紙が吸い取る。 「うう…」 十六年間、誰にもふれられたことのない神聖かつ不浄の箇所に、同性とはいえ互いによく知っている親友の指先を感じ、幸江はうめいた。しかし敏感な粘膜を紙でこすられると、奇妙な刺激が幸江の背筋を貫いた。自分で紙を使った時には感じたことのない感覚に、思わず幸江は脚をすぼめてしまった。 美園は紙を便器に捨て、水を流す。そして着衣の乱れを直してくれた。その間、幸江は目を閉じて身を堅くしていた。 「終わったよ、幸江」 美園にやさしく声をかけられ、幸江はこらえきれずにすすり泣いた。 「何で…何で私が後ろ手に縛られたの? どうして美園じゃなくて私なの」 嗚咽する幸江を美園は胸に抱きしめた。幸江は嫌がりもせず、美園の胸に顔を埋めた。風呂上がりのほのかな香りが、幸江の鼻をくすぐる。 「どうして私が縛られなかったのかは、私にもわからないわ。先輩の気まぐれかしら。けど安心して。私が守ってあげる。それに…トイレのことはお互い様。幸江にだけ恥はかかせないから。」 ゆっくりと抱擁を解くと、美園は自分からズボンを下げた。 「な…何を…」 幸江は呆気にとられた。真っ白なショーツをも美園は足首まで下ろした。 「言ったでしょ。幸江だけに恥はかかせないって。考えてみれば、いずれは私もおしっこに行かなきゃならないんだし」 見てはいけない。親友の恥ずかしい姿なんだから。理性はそう告げていたが、幸江の体が言うことを聞かなかった。黒々とした恥毛に飾られた親友の陰裂から目を離すことができなかった。 「や…やっぱり見られると恥ずかしいね。私のアソコの毛、濃いでしょ。他の場所はそれほどでもないんだけれど」 顔を赤らめながら美園はつぶやいた。 「剃ってもいいんだけれど、それはそれで何だか卑わいでいやらしい感じがして。幸江の薄い毛が羨ましいわ」 「そ…そんな」 美園から卑猥で恥ずかしい告白を聞かされ、幸江はうろたえてしまった。 今までは、二人きりになった時でもこんな話題はなかった。なんだか美園との距離が縮まったような気がして幸江はうれしかった。 「幸江、どいて。今度は私がおしっこするから。」 狭い室内で場所を交代したために、二人の体は密着してこすれた。便座に腰かけると、美園は、見やすいように脚を広げて股間をさらけだした。 「ふふ… 便座に幸江の体温が残っている」 「もう、いや」 「よく見てね…」 幸江はうなずいた。友人の濃い縮れ毛の陰から、普通なら決して人目にふれるはずのない改易が漏れだした。他の女性の排尿を目の当たりにしても不思議と嫌悪感や違和感はなかった。それが友人のだったからだろうか。それとも自分も見られたからだろうか。 美園は、あらかじめ水を流して音を消そうともしなかった。耳慣れた低い音がする。おしっこの音は同じなんだ、と幸江は思った。排泄を終えると美園は後始末をした。 「美園、私、拭いてあげられなくてごめんね」 「いいの。気にしないで。さ、戻ろうか」 |
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