「弘志、起きなさい! 学校でしょ」
母親の一声で、弘志は目を覚ました。昨晩の戯れのせいか、二時間ほどしか睡眠が取れなかった。
弘志が眠たげにリビングルームに行くと、制服姿の亜矢が食事を取っていた。いつもなら気軽に話し掛けるところだが、どうも遠慮がちとなってしまった。
「お、おはよう」
弘志は、ボソッと呟いた。
「う、うん」
亜矢も応答はしたが、弘志の顔を見なかった。
(嫌われちゃったのかな。確かに調子に乗りすぎだよな)
弘志が食卓に座ると同時に、亜矢は食事もそこそこに席を立ち、
「行ってきます」
と、小声で言った。
(もう、絶対くすぐったりなんかしないから)
弘志は心の中で念じながら、亜矢の後姿を追った。玄関の閉まる音がすると、母親は心配そうに言った。
「ねえ。あの子、具合でも悪いのかしら」
「そ、そう」
とぼけて見せたが、自分の責任であることを弘志は痛感していた。
「何かボーとしているみたいだし。それに……」
「それに?」
「朝、洗濯機に行ったら…」
(ひょっとして、ばれちゃったのか)
実は、弘志は寝る前にパンツを取り替えていた。亜矢をオカズにしたオナニーで精子まみれとなってしまったからである。
(水で洗っておいたはずなのに……)
「亜矢もまだ、子供なのかしら。中学生になってまで、おねしょだなんて」
「おねしょ?」
「亜矢は、ちっちゃい時からおねしょをする子じゃなかったのに…。朝も変だったし、風邪でも引いてなければいいんだけど」
弘志は、適当に相槌を打った。
(やっぱり、俺の責任だよな。おもらしまでさせちゃって。夜にでも、きちんと謝ろう)
* * *
塾から帰ってきた弘志は、玄関で亜矢の靴を確認した後、亜矢の部屋へと向かった。亜矢の部屋の前で立ち止まり、弘志は一呼吸してから、
「亜矢ちゃん、開けてくれる?」
弘志は緊張しながらドアのノブを見つめた。ノブが動き、ドアはゆっくりと開いたが、亜矢はずっと下を向いたままであった。
弘志は部屋へ入るなり、ドアを閉め、亜矢に言った。
「昨日はごめんね。亜矢ちゃんがくすぐったがってたのに無理やりくすぐったみたいで。その……亜矢ちゃんが可愛い声をだすから、調子に乗っちゃって……」
弘志は、チラッと亜矢を見た。亜矢は変わらずに下を向いたままだ。
「もう、絶対にしないから。約束するよ。だから、お兄ちゃんのこと、許して欲しいんだ」
弘志が甲高い声を上げると、亜矢は小さく頷き、
「体、大丈夫なの?」
と聞いた。
「あ、当たり前だよ」
「良かった」
亜矢は軽く微笑んだ。弘志は、そんな妹に申し訳なく思えた。
(もうやめよう。亜矢をオカズにするのも、くすぐるのも)
そう決心し、弘志は亜矢の部屋を出た。その後、食事をし、風呂に入った後、弘志は気分を新たに、自室で受験勉強を始めた。
* * *
夜中の一時となり、弘志の受験勉強も一段落ついた。昨晩の疲れも手伝い、今日は早めに寝ることにした。部屋の電気を消そうとした時、部屋に近づく足音が耳に入った。
弘志が耳を澄ますと、今度はノックの音へと変わった。
(こんな時間に誰だろう)
ドアを開けると、枕を両手に抱いた亜矢が立っていた。
「あ、亜矢ちゃん」
昨晩とは逆の展開に、弘志は返答に困った。
「その…お、お兄ちゃん…」
「どうかしたの?」
「う、うん。あ、あの……さっきは…」
しどろもどろの亜矢を弘志は優しく庇った。
「分かってるよ。お兄ちゃんのこと、怒ってるんでしょ? 当たり前だよね。真夜中に突然来て、妹をくすぐって、挙げ句の果てにおねしょまでさせちゃう兄貴なんて……さっきも言ったけど、もう絶対にあんなことしない」
「……」
「俺、亜矢ちゃんに嫌われたくないんだ。だから、許して欲しい」
「私、お兄ちゃんのこと、嫌いになったりしないよ」
「そう言ってくれると、嬉しいよ」
「で、でも……」
亜矢の顔は、少し曇った。
「うん。でも?」
「絶対にしなくても………いいよ」
「えっ!」
弘志は、亜矢の言っていることが理解できなかった。亜矢は恥じらいながら、
「その…く、くすぐる…こと…」
「だ、誰を?」
「あ…亜矢のこと…」
「まさか、くすぐって欲しいの?」
「う、うん」
「だって、昨日、あんなに……」
弘志は言いかける途中で、亜矢の考えをやっと理解した。人より敏感な亜矢は、くすぐりの虜になってしまったのではないか。
「あんなに苦しかったのに…今日は一日中、頭の中がモヤモヤして、お兄ちゃんにくすぐられたことばかり考えてたの。そうしたら、寝付けなくて…」
亜矢は、一呼吸してから、
「お、お兄ちゃん、お願い。私のこと、くすぐって…私、お兄ちゃんになら、何されてもいいの」
自分の気持ちを伝えた亜矢は、少しだけ涙目となっていた。あらぬ事を想像していた弘志には、亜矢を独り占めできる嬉しさがこみ上げてきた。
「じゃあ、二人で一緒に楽しもうね」
弘志は亜矢の髪をなでながら、言った。亜矢は屈託のない顔で、弘志に抱きついた。
その顔が、苦悶の顔に変わるのは、数時間後の話である。そして、それは、二人が禁断の扉に入る第一歩でもあった。
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