キャンサー作品

こちょくね

第二章
 ゲートをクリアしたサミーは程なくして、大容量のデーターが集積されている区画へ辿り着いた。
 せわしなく行き交う情報流の中央に勝ち誇った表情のサミーと、未だコミカルな姿で投影されている男が立っていた。
「やはり貴方も私の敵じゃ無かったわね」
「・・・・・・・・・」
「それでも、そこそこ楽しめはしたわ。それに免じて素直に敗北を認めたら今回はこのまま去ってあげても良いんだけど・・・・どうする?」
 一見、心の広い申し出に見えたが、実の所サミーはその事に執着していた。
 緒戦で自分を手玉にとり、子供の悪ふざけのような手段で自分を翻弄したこの男を屈服させる。そうしなければ「ナイトメア」の異名を持ち、電脳界で恐れられている自分自身の気が済まなかったのである。
 だが、今なお、相手には妙な余裕が感じられた。
「別に負けたとは思っていないがな・・・・・」
 その言い回しは思惑通りサミーの神経を逆撫でした。
「貴方分かってるのかしら?私の手持ちのウィルス弾が一つでも周囲のデーターに命中すれば全てに感染してデーターは消滅し、企業としてこれ以上ない損害が生じるのよ」
「それが・・・・・・できれば・・・・だろ?」
 男は敗北を認めなかった。
「そう、そうまでして私に屈服するのは嫌なの・・・・」
「あんたは従いたく思うタイプじゃない上に、負ける要素もない」
「ああそう!」
 ここに来て、僅かに存在していたサミーの慈悲は一気に吹き飛んだ。
「なら、後悔なさい!」
 何の前触れもなくサミーの体が光ったかと思うと、全身から数え切れない光弾が次々に飛び出していく。
『ウィルス・レイン』自動的にパターンを変更させたウィルスを断続的に、かつ全周囲に 放つサミーの必殺技で、まずネットワークの消滅は確実な攻撃であった。自分の存在する区画ごと消してしまうため、『自分』が居場所を失い、システムがダウンする欠点を持っていたが、そうまでして相手を叩きのめしたい気持ちが大きかったのだ。
「終わった」
 まもなくシステムダウンに入り、自分の意識は自室のポッドの中に戻るはずだった。
 だが、彼女の思い描いた現象は起きることは無かった。無数に放たれた光弾は周囲にあるデーターをすり抜け、目の前に立つ男すらも数え切れない光弾を全身で受けながら微動だにしなかったのである。
「な・・・・何故?」
 ここに来て、電脳界に自分が存在し始めて初めて、サミーは驚愕した。
「君は一人相撲しているのさ」
 男が言って、指をパチンと鳴らす。
 すると未来都市の様に周囲を彩っていた数多くのデーターの集合体が徐々に崩れて行き、1ドットも残さず綺麗さっぱり消え失せてしまった。
「な・・・・データーが消えた!?」
「ここは君みたいなハッカーを捉えるための空間さ。数回立ちはだかったゲートは、単なる防壁ではなく、こちらに誘い込むため迂回路式の罠だったって事さ。もちろんここには、君が壊せるようなデーターなど一つもない。あるのは罠にはまった相手と遊ぶちょっと変わったプログラムだけ」
「貴方まで無事な理由は?」
「君に『接触』した時に攻撃プログラムを解析させてもらった。自己進化型のウィルスでも進化パターンが分かっていればワクチンフィールドの形成は容易いさ。結局君も自らの慢心で詰めを誤ったな」
 サミーは驚愕した。確かに電脳ダイバーによる接触行為は、プログラムを解析する際の常套手段である。だが、彼女のデーターはランダムに変化する複数の暗号でプロテクトされているため、生半可な技術や機材では、表層データーすら読めないようにされていたのである。
 それを、接触・・・・くすぐり行為中に解析したと言う事は、サミーのマシンの処理速度に十分対応できるレベルと言う事になる。それは一般企業では考えられないほどの高スペックなマシンである事を意味している。
 その上、技術そのものも認めざるをえない。何しろ、あんなあっさりと自分のデーターが奪取されていた事に彼女は全く気づかなかったのである。
 サミーは相手の想像を上回る実力を、苦々しく実感するしかなかった。
「と、言うわけで今の君は全くの無力な上に、こちらの意志でどうにでも出来る状況にある。はっきり言ってチェックメイトだ」
「そう・・・・で、私をどうするつもり?」
 現実世界とは異なり、根性や偶然で逃げられるような世界ではないと熟知していたため、彼女もあっさりと現状を認めた。
「思いっきり楽しませてもらうさ。その体でね・・・・・」
 男の返答は思いっきり率直なものだった。
(やっぱりね)
 内心予想していた事ではあっただけに、彼女は顔に出して驚愕する事はなかった。

「それじゃあ早速・・・」
 男の台詞とほぼ同時にサミーの背後に拘束台が現れ、抵抗する間もなく彼女の四肢・腰を固定したかと思うと機械的な変形を行い、SM用の開脚磔椅子の形態をとった。『ナイトメア』の異名を持ち、電脳界で恐れられた魔女が今ここに屈辱的姿で囚われの身となった瞬間であった。
 サミーは上半身はY字、下半身はM字と言う、まるで男に媚びるようないやらしい体勢で体を固定され羞恥に頬を染めたが、その目は辛うじて気丈さを保っていた。試みに手足をばたつかせ、抵抗をして見せたが、やはり拘束具はびくともしない。
 拘束具全体から、彼女の行動を抑える信号が絶えず送り込まれているのが原因であった。
 説明はなされてないが、彼女が彼等のサイトに潜入した時から、現状は特別なサイトにて公開されており、事態が電脳界の女王サミーの公開陵辱ショーとなった事で、そのカウントは爆発的な上昇を見せていた。
「全く、男ってのはこんな事しか思いつかないわけ?」
「まだ始まってもいないのにこんな事ってのは無いだろ。大まかには君の想像通りだけど、ここは電脳界、空想が現実として存在できる空間だ。現実世界じゃ体験できない事をたっぷりと堪能させてやるよ」
「それは楽しみね。どんな体験が出来るのかしら?」
 現実には体験できない事・・・・・確かに電脳界ではそれらを体験する事は容易い。特に快楽に対する関連は数え切れないほどサイト・プログラムが存在する。彼女も幾つかの快楽を体験しているため、強がりとも言えるその言葉には、本当に若干の期待も隠れていた。
「それこそ、ありとあらゆる事だが、折角だからアンケートの意見を繁栄させてみるのも面白いかと思うんだ」
「アンケート?」
「こういう状況の女性にどんな責めをしてみたいか・・・・そんなアンケートを取っているサイトがある事くらいは知ってるだろ?」
「あの、何に繁栄する事もない無意味でくだらないアンケートね」
「でも今回は無意味ではないさ。こうして実施する対象が存在するんだからな。電脳界の架空キャラではなく、どこかに実在する本物の人間がね。もっとも、ダイバー達はこの世界では自分を美化する傾向があるそうだけどね」
 意味深に言って、自分を値踏みするような視線を送る男に、サミーはプライドを傷つけられた気がした。
「失礼ね、私をそこらの二流ダイバーと一緒にしてほしくはないわね!素性こそ隠してはいるけど、姿形は一切手を加えてはいないわ」
 それはある意味、問題発言であった。彼女は、知れ渡っているサミーの姿そのものが自分であると言い切ったのである。少し熱心な活動家であれば、容易にその住まいを調べ上げる事だろう。
「その公言だけでも反響は大きいな」
 だが、男はその公言を信じ切ってはいないようであった。厳密に言えば、どうでも良いとさえ思っており、高名な存在であるサミーを捕らえた事そのものに、満足していたのである。
「それじゃ、集計の途中経過を見てみようか」
 既にアンケートは行われていたようで、男は、自分の手元にボードを出現させ、現在掲示板で行われている処遇の希望を確認した。
 無論、サミーには内容を見せてはいない。自分だけが納得し、どの様な行為を行われるのかの不安感を煽っていた。
 事実、その行為は多少なりとも効果があった。口では強固な姿勢を見せている彼女も、今までに囚われた経験がないため、自由を奪われ、その運命が他人の掌中ある事に言いようのない不安を感じていた。
「ふ〜ん・・・・・」
 集計を見ていた男が意味深に笑みを浮かべた。
「だんとつトップのリクエストが一つあるな。もう、当選確実って言うやつだ」
「ある種、人気投票である以上、そう言う物は必ずあるのよ。男の発想なんてみんな低俗で独自性がない良い証拠ね」
 あくまで強気な姿勢を崩すことのないサミーではあったが、電脳界で行われる行為と言えば、常軌を逸脱している物もあるため、不安感は拭えない。
「とは言え、みんなが君に望んでいる物でもあるし、ありきたりだからと言って除外する訳にもいかないしな。君も減らず口が叩けるくらい暇みたいだから、その独自性のないリクエストをかる〜く実施させてもらうとするか」
「勝手にしなさい。どうせ私には拒否権は無いんでしょ」
「当然だ。ところで、試みに問うが、君は低俗と評価する男達がどんな事を希望しているか分かるか?」
「残念ながら、私には、そんな連中の心理なんて理解できないし、したくもありません」
「そう言うと思ったよ。だが、まぁ、答えに関してはその身で体験してもらう訳だから問題はないだろ。そんなわけで、リクエスト圧倒的1位の刑を開始しようか」
 言って男はパチンと指を鳴らした。
 本当に何が起きるか想像もつかず、辱めであると言う漠然とした事しか考えられなかったサミーは、未知なる行為に反射的に身を強張らせた。
 だが次の瞬間、彼女の身体を貫いた刺激は、一瞬で彼女の緊張を打ち破り、その身を激しく反応させた。
「はぁっ!!!・・・・あっ!ああっ!あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 サミーは奇声ともつかない悲鳴を上げて、許される限り激しく身を振り乱した。前後左右、不規則に暴れ続ける彼女の身体に、子供の手サイズ程のマジックハンドが幾つも群がり、彼女の肢体をくすぐっていた。
 陵辱を想定していた彼女に、この様な行為が行われるなど全く予想していなかった。
「はうっ・・・・はぁっ!いやぁ〜〜〜〜っ!ああっ・・・あ〜〜〜〜〜っっ!ふぅっっくくくくうくっくくくくくくく・・・・」
 必死に我が身をくすぐるマジックハンドを振り払おうと努力するサミーであったが、彼女がどの様に身体を捩ろうとも、四肢と腰を固定されている状況では殆ど効果もなく、マジックハンドも光に群がる蛾の様に、彼女の身体から離れようとはしなかった。
「どうかな?リクエスト第1位『マジックハンドによる全身くすぐり責めの刑』だ。お、早速、支持の書き込みも入っているな・・・・・『悶え方がツボです・・・』『必死に堪えている表情がそそる』『もっと激しくして笑い狂わせて下さい』・・・・てな」
 男はボードに表記された書き込みを適当に読み上げていく。どれもサミーの痴態の感想であって当人にしてみれば嬉しいはずはなかったが、それに対する抗議を行う余裕を、今の彼女は持ち合わせていなかった。
「はぁうっっっくっ・・・・な、何でっっくくく・・何でこんなのが・・・くひひっ・・1位なのよっ・・・・」
 こみ上げる衝動を必死に堪え、身体をばたつかせながらサミーは問うた。知らないと言いつつも、彼女も所謂『お約束』と言う物を知っていた。拉致された女がどのようになるかは想像がつく。だが、今彼女が直面している事態は、そんな知り得る『常識』の範疇には存在していなかった。
「まぁ、アンケートを行った環境故・・・・ってやつだな」
「どう、どう言う意味・・・くはぁぁぁぁっ!」
「今、君の状況を流しているサイトは、会員制の『くすぐり』フェチの専用サイトなのさ。俺も会員の一人だから、『仲間』に君と言う、滅多に無い生贄を見せてやろうと思ってな」
「ひっ・・・・っひっ・・・・ひっっくくくくくく・・・んんんあぁ〜〜〜〜っっ」
 サミーにはまともに会話を交わす余裕も無くなってきていた。マジックハンドは個々の動きは無造作であったが、必ず彼女の身体に群がるように動き、その上、数が多いため、どう藻掻いてもくすぐったく感じるポイントを責められ、その都度、身体が反応して身悶えてしまい、喉の奥から笑い声が出てきそうになり、それを堪えるのに殆ど全力を費やさねばならなかった。
 拘束された女性が、現状から逃れようと必死になって身を捩り悶える様相は、見る側にとっては実に刺激的な光景であった。
 直接関与するのは、進行役とも言える男であったが、それをネットで傍観する者達も意見を反映してもらう事で、少なからず参加者としてサミーを陵辱している気分にはなれた。
 実際、かなり熱くなってひっきりなしに書き込みを行っている人物さえ存在していた。 サミーは男を惑わすような艶めかしい動きで身悶え続けた。本人にしてみれば、くすぐったいマジックハンドから逃れるための必死の行為なのであったが、それは当人以外から見れば、淫らな動きにしか見えなかった。
『誘ってる様にも見える。ひとまず1度楽にしてあげてはどうか?』
 彼女の動きに関してはそんな書き込みも寄せられ、その意見に男も内心で同意した。
「掲示板にも意見があったけど、耐えるのも苦しいだろ?楽にしてやるよ」
 サミーの顔を覗き込んで男は言った。そして本人の意見も聞かないまま、新たな行為の発動を意味する、指鳴らしを行った。
 その瞬間、彼女の身体をくすぐっていたマジックハンドの動きが変化した。今まで担当範囲内を無造作に動き回っていたそれが全て、確固たる意志を持ったかの様に動きだしたのである。
 脇の下を指先で突っつき、時には引っ掻く。胸の付け根をこね回し、脇腹を絶妙な力加減で揉み回す。足の裏の土踏まずに『の』の字を書き続ける。どれも彼女が強烈にくすぐったく感じる責め方であり、先程とは比較にならない程の衝撃が身体を駆けめぐる。
「あくっ・・・あっ・・・あぁっ・・・あ〜〜〜〜〜!!!!」
 サミーは身をガクガクと震わせ、大きく喘いで声を詰まらせた。
 絶え間ないくすぐったさの並が彼女の身体を無慈悲に駆け抜け、やがてそれは彼女の限界と言う堤防を決壊させた。
「あひっ!あはっ!あ〜っっっっはははははははははははあはははあははははははっ!!いやぁ〜っっはははああははははははははははははははは!!!」
 サミーは気が狂ったかのように笑い悶え、激しく身体を捩らせた。責め手が人間であれば、その狂気の反応に躊躇し、手を休めることだろう。だが、不幸なことに今彼女を責めているのは、プログラム通りに対象を責めるだけの、彼女を持たないマジックハンドである。
 マジックハンドは彼女がどんなに奇声をあげて笑い悶えようとも、戸惑うことなく的確に彼女の弱点を責め続ける。
「もうだめ、もうだめ、やめっ・・・やめっ・・・・やめぇえっっへへへへへへ!!」
 もはや彼女に、自称していた電脳界の女王の風格など微塵も無かった。いま、ここにいるのは捕らえられ、くすぐり拷問によって笑い狂う、哀れな女奴隷であった。
「なかなか男悦ばせな反応だ。この記録データーはきっと高く売れる・・・・と言いたいが、流石に同じ構図じゃ飽きるからな。少しポーズを変えてみようか」
 これにもサミーの同意など必要は無かった。彼女の返事すら待たずに男は合図として指を弾くと、彼女を拘束していた台座が粘土状になって変形を始めた。無論、拘束はされたままであり、形状に見合わずその構成は頑強で、ものは試しと行った抵抗にも粘土状になった拘束台はビクともしなかった。
 そして再び硬化が行われ違う形状に変貌したとき、より屈辱的な格好となっていた。
彼女の身体は手足を大きく伸ばしたX字型に固定された上で、背中から押し出され、あたかもブリッジを行っているかのような体勢で固定されていた。
 突き出された格好になった下腹部は、アングルによってはこれ以上ない、誘いのポーズに見て取れた。
「ん〜刺激的な格好だ。現実界で見せたら、何人の男が理性を保ってられるか興味あるな」
 実に楽しそうに自分の股間を眺める男を前に、サミーは羞恥で頬を染めた。
「いいねぇ、羞恥の表情は艶やかな化粧だ。それが苦悶に、あるいは愉悦の表情に変わる所がまた、格別なんだよ」
「くぅっ」
 自分の反応全てが、目の前の男、ひいてはこの状況を閲覧しているネットの男達を悦ばしている事に、サミーは屈辱を感じ歯がみした。既に、あれだけ笑い悶えて乱れた姿を晒した今となっては、これまで培われていた威厳も地に落ちたと言える。電脳界で恐れられていた自分が・・・である。
「それじゃ、くすぐり悶絶第2弾・・・・・行ってみようか」
 再び男が合図として指を鳴らすと、サミーの周囲で待機していたマジックハンドの先端が『手』から『羽』へとその形状を変化させた。
「うくっ」
 見るからに柔らかそうな羽の群を見て、サミーは思わず息をのみ身震いした。羽が身体を撫で上げる感覚を想像しただけで皮膚が震え、むず痒い感覚が背筋を駆け抜けた。
 その上、今の彼女は、先のくすぐりにより、刺激に対してはかなり過敏な状態になっており、本人もそれを自覚していた。
「この羽は凄いよ〜何度も実験を繰り返して、女体に最適の柔らかさと滑らかさ、それに肌触りを与えるようにインプットして構成した羽だからね。きっと気に入るよ」
 そう言って男が指を鳴らす。
 それが、サミーにも閲覧者にも分かるようにした行動開始の合図である事は既に理解できていた。
 男の実行指令を受けたアームは、イソギンチャクの触手のように不必要にアームをうねらせ、羽を蠢かした。
 これにはサミーの恐怖心を煽り、閲覧者の期待を煽る意図が含まれている。
(私を弄んで楽しんでいる)
 この事実は既に判っている事だった。だが、羽がすぐに自分に襲いかからない事で、改めてそれを実感させられた。
 自分が刺激に反応し乱れる姿だけでなく、これから始まる陵辱に震える姿を見せるだけでも、男の利益になるだけである。
 結局行き着く結果は同じなのだが、嘲笑をうかべた男の表情を見ると、彼女に残されたプライドが、出来るだけ堪えてみせると決意してしまうのであった。
「うくっ・・・・う・・・・あぅっくっ」
 だが、羽が蠢きながらゆっくりと近づくだけで、彼女の身体は振れた際の刺激を勝手に想像してしまい、ムズムズと沸き立つ感覚に身悶えた。
 下手に意識すべきではない、何も考えてはいけない。そう意識すればするほど羽の動きが目に止まり、いつ触れるとも知れない感覚に翻弄され続けた。
「はぁ・・・・ぁ・・・・くぁ・・・」
 ブリッジ状態のため、身体が伸びた状態であるため、身を動かす事がかなり制限されているサミーはプルプルと身を震わせる。
「おいおい、ま〜だ触れてもいないのに、もう感じているのかい?それとも、待ちきれないのかな?」
「そ、そんなわけ・・・・・」
 男の挑発に思わず反論したサミーであったが、言葉は途中で途切れた。反論で注意のそれた僅かな瞬間を狙って周囲の羽の群れが、遂に彼女の身体に触れたのである。
 それは触れるか触れないかという微かな、掠める程度の接触であったが、彼女には十分すぎるほどの感覚となって、全身を駆け巡った。
「はぁああああああああああっ!」
 堪えきれない感覚に、遂に彼女は喘ぎ声をあげ、首を仰け反らせた。伸びきった手足は拘束されたままピクピクと痙攣し、自由にのたうち回りたい欲求を押さえ込まれていた。
 羽は容赦なくサミーの全身を掠め続け、性感帯を的確に、かつ広げるかのように刺激を与え続ける。                           
「あっ・・・あぁっ・・・・はぁぁぁっ!!」
 乱れた自分は見せたくはないと、恥じて堪えようとするものの、最初の羽責めで陥落した彼女に、もやは耐える術など無かった。
 羽は絶え間なく巧みな動きでサミーの全身を掠め続けた。
 乳房の周りを掠める物もあれば、耳や首筋を掠める物もあり、かと思えば脚の付け根部分から内股、膝頭、脇腹、腰、背筋、下腹部、二の腕・・・などと、ソフトタッチで感じるポイント各所に的確に触れ、そのパターンもポイントも予期されないように不規則であり続けた。
 彼女は刺激を受け、喘ぎ声が漏れる度に、意識を集中して、その甘美な刺激に耐えようとしたが、羽は注意がそれた瞬間を狙うようにして刺激するポイントを変更し、けっして全身を同時に責めようとはせず、弄ぶかのようにポイント責めを続けた。
「いやっ・・・・・はぁん・・・ああぁっ・・あっ」
 サミーはすぐに快楽に溺れるような淫らな女を見せたくはないと思っていた。しかしそれでも、羽が肌に接触する度に彼女は過敏に反応し、身を震わせ艶やかな声を漏らし続けた。身体を反らしたまま身悶えるサミーの肢体は、物足りなさに身体が疼いているかのようにも見え、当人以外の人間を視覚的に興奮させた。
 やがて羽の何本かが乳房を同時に撫で、乳首を掠め始めると、そのこそばゆい快感に彼女の身体の反応は更に激しくなった。
「あっ、ああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!」
 快楽に呑まれる姿を見られたくないためか、与えられた快楽にじっと出来なくなったのか、サミーは出来うる限り身体を振って羽から逃れようとしたが、伸びきっている身体はまともに捩る事も出来ず、理想的とも言える曲線を持った乳房を僅かに揺らす程度に止まった。
 同じ『くすぐり』と言われる行為で、ここまで感じ方が異なるものなのかと思いながら、内から沸き上がる感覚を必死に抑えるサミーではあったが、女としての欲求が徐々に快楽を求め始めていた。
 絶え間ないくすぐったさにより笑い悶えるよりも、ソフトな刺激によって送り込まれる快楽の方が、受け側にとっては良いに決まっていた。
 だが、彼女のそんな欲求を完璧に満たせるほど、この羽の刺激は本格的では無かった。掠める程度である刺激は、堪えようとする者を陥落させ、身体に火をつけるには有効だったが、燃えだした火を煽って炎とし、一気に爆発させるにはあまりに緩慢であったのだ。
「うくっ・・・・・うあっ・・・・はっ・・・・・はぁん・・・」
 切なげな喘ぎ声がサミーからもれ、本音が彼女の身体を淫靡に蠢かせた。
 ムズムズとする身体に更に激しい刺激を送り込み、火照る身体を一気に絶頂へと導く快感を味わいたい。
 何も語らなかったが、彼女の身体は露骨にそう訴えかけていた。
 プライドと欲望と言う本音が葛藤し、彼女自身に精神的な疲労を加えた。その瞬間であった。突如彼女の意識が不鮮明となり、その視界がブラックアウトしたのは。


 せき立てるような緊急アラームを鳴り響かせながらダイレクト・リンク・システムは、機器類に過負荷がかかりダメージが加わる事も省みず、ネット界の接続を中断すると、中にいるサミーを開放した。
 精神的な不安定さを感知した事により安全装置の設定が働いたのである。
 その強制切断により、弾けるように覚醒したサミーこと美佐は、軽い目眩を感じながらも自分の身体を見回し、忌まわしいネット界での拘束から解き放れたことを実感し、安堵の息を吐いた。
 だが同時に、身体の疼きも残っている事に気づく。
 仮想空間と出来事とはいえ『体験』した事は情報として脳に伝えられ、実体験として確かに実在していた。
 あの体験は確かに苦しいものではあった。だが同時に甘美な部分があったのも事実であり、余韻として今も美佐の身体に燻っており、それが彼女の脳に新たな快感・・・と言うより、快感の続きを要求し始めていたのである。
 こちらの世界ではまず不可能な体験。美佐は先程の出来事を思い起こし、不覚にも流されそうになった自分、そしてそれに至った自分の不甲斐なさを恥じた。
 電脳ダイバーに対し、特殊な快感を与える特殊な闇ネットは確かに存在し、その数や種類は彼女の知るだけでも20近くある。一度ならずも彼女も体験したことはあったが、先程経験した、苦しさの中に隠されたような快感は、今まで彼女が味わってきた物とは大きく異なっていた。
 その異質の刺激が鮮明に脳内に残り、彼女の心を誘っていたのである。
「あんな・・・・あんな目に遭うのは御免だわ」
 一人呟き、辱めの中で生じた快楽に対する身体の欲求を否定する美佐であったが、凄腕の電脳ダイバーであろうと、結局のところ彼女は若い女性であり、泉のように沸き上がる性の欲求を抑えきる事は出来なかった。
 美佐はその身をベットに沈めると、シーツで身体を覆い、不本意ながらも先程味わった官能を思い起こして自慰を始めた。
「うぅっく・・・・はぁぁ・・・・・ぅっぁあっ」
 もそもそと動くシーツの中で、秘所を好みの力加減でまさぐる美佐は、己の指の動きによって引き出される快感を味わいながら、喉奥からもれる声を必死に噛み殺した。
 ただただ官能に身を任せて派手な喘ぎ声を上げる事は、彼女のプライドが許さなかったのである。それが例え、他に人がいない空間であってでもである。
 それは些細なこだわりであった。人それぞれに好みの行為がある以上、彼女の部屋で彼女がどの様な行為に興じようと自由ではあったのだが・・・・
 だが、この時の彼女は、快楽を求めるあまり、周囲に対する注意力という物が欠落していた。あるいは、自分の部屋の中と言う状況が絶対安全と言う間違った判断を下し、油断を生んだのかも知れない。
 その室内に、彼女以外の存在がいる事に全く気づいていなかったのである。
「お取り込み中、悪いけど・・・・」
 その唐突な呼びかけに、美佐はこれ以上ないほどに動揺した。
 思いもよらなかった部外者。その部外者の前で痴態を晒していた事実に、冷静さを失い、頬を真っ赤に染めた彼女は、シーツで身を覆いながら、正体不明の侵入者を見やった。
「誰よ貴方!一体何のつもり!ここは私の部屋よ、勝手に入ってこないで欲しいわね」
「棚上げな・・・」
 美佐の剣幕に動じる事なく、その男は言った。
「なんですって?」
「ネット界を蹂躙し、企業データーの多くを抹消している方が言う台詞じゃないって事だ」
「!?・・貴方、何者?」
「さっきまでお付き合いしていたじゃないか。くすぐり責めで・・・」
「貴方が!?」
 美佐は驚いた声を出して改めてその男の顔を見やった。そして相手が先程の男であることを悟った。
 もともと電脳界では『実体』を表示させる者は希であったが、少なからず『自分』をベースにする傾向があった。だが、あの世界の男の場合、あまりにコミカルな姿であったため、現実の姿とのギャップがありすぎ、実感が得られなかったのである。
 しかし、先程までの電脳界での出来事を知っているとなれば、嘘とは到底思えなかった。
「どうやってここを?」
「捕獲さえすれば回線の逆探知は容易いさ。俺にはね。で、せっかく捕らえたネットアイドルを一夜のお楽しみで終わらすには惜しいと思って、本体の捕獲に来たって訳だ」
「でも、貴方もさっきまで電脳界にいたはずよ」
「あぁ、あれかい?ネット界で対決したのは俺自身だけど、悪戯してたのは、俺がプログラムした人工知能さ。君がその人工知能と楽しんでいる間に俺は回線を逆探して、ここに辿り着き、君が戻るのを待っていたって訳だ。だが、いきなり一人遊びするとは思わなかったがな」
 嘲るような言い様に、美佐は思わず頬を染めた。
 油断とは言え、自分の痴態、しかも生身でのそれを見られた事に、これ以上ない屈辱を感じた。
 プライドが高い彼女にとっては覆いがたい汚点であり、この事が彼女を軽いパニックに陥らせた。そしてその状況下の脳が下した判断は、汚点の抹消。つまり、その原因となった存在の抹殺であった。
 美佐は己のプライドを守るべく、すぐさま行動に移った。
 彼女は、ベットの枕元に常に忍ばせていた護身用短銃を手にすると、問答無用で相手に突きつけ、引き金を引いた。
 パン!
 乾いた銃声が室内に響き、硝煙の臭いが美佐の鼻を突いた。
 高速で放たれた金属が無機物を粉砕する音が響き、壁に掛けられていた時計が砕けて落ちた。
「くっ!」
 彼女の放った弾丸は外れたのである。ネット界では正確無比な攻撃を行える彼女も、実際の射撃経験は皆無であり、その腕は素人同然であった。狙いもまともにつけずに放った弾丸が命中するはずもない。
 男もいきなりの発砲に面食らったものの、この手の反撃を一応は予想していたのか、次なる対処は早かった。
 彼は懐から銃に似た物を取り出すと、先端に装着されていた二本の細い針を射出した。銃弾とは比べようもない速度ではあったが、こちらは武器の使用に慣れていたらしく、針は見事に命中した。
 細い針は痛みをほとんど感じさせなかったものの、薬物の塗布を警戒し彼女がそれを抜き取ろうとした瞬間、その身体に激しい衝撃が走り、彼女は一瞬で気絶した。
 彼女に刺さった針には細いコードが伸びており、それは男の持つ針の射出機に繋がっていた。そしてその射出機は彼の腰の小型バッテリーに繋がっており、そこから送られた電流を受けて、彼女は失神したのである。
「さて、お楽しみはこれからだ・・・・・」
 気を失って倒れている美佐の裸体を眺めながら、男は物静かに呟いた。


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