キャンサー作品

こちょくね

第三章
 失神状態から覚醒した美佐は、気を失うまでの事を鮮明に憶えており、目を覚ますと同時に飛び起き周囲を見回した。
 彼女の視界には敵対者となる存在は無かったが、周囲の様相はただならぬ物だった。
「電脳界・・・」
 美佐は瞬時に自分の居るところの正体を悟った。無機質な虚無の空間。それが彼女の周囲に広がっていたのである。未経験者であればパニックに陥るところであるが、この手の風景に馴染みのある彼女は、幸い取り乱す事はなかった。
 だが、自分の着衣がきわどいボンテージの様な下着である事には羞恥心を隠しきれないでいた。
 無理だろうと判りつつも彼女は、『自分』にいつもの、サミーのコスチューム装着を指示した。
 だが、やはりと言ったところか、着衣は装備されず、何の反応も無かった。これは、彼女を電脳界にリンクさせているシステムが、彼女愛用のプログラムによる物ではないことを意味している。
 つまり、自分が気を失っている間に別のシステムで強制リンクされた物だと言うことを示していた。
『やぁやぁ、お目覚めかな』
 虚無の空間に聞き慣れた、そして決して好意的感情を抱くことの出来ない声が響き渡った。
「見て分かるでしょ。どうせ身体状態もモニターしているくせに」
『そこはそれ、社交辞令ってやつだな』
「それで今度はどうするつもり?」
『前回の続きって言うのが妥当な所だと思うけど?少し中途半端だった上に、君も満足しきってなかったようだからね』
 そのからかうような発言に、美佐は、いや、この世界ではもうサミーと呼ばれる彼女は、自室での痴態を思い出し、頬を染めた。
「ば、馬鹿にしないでっ!」
『と、言おうが、拒否しようが、君の意志には関係なく事態は進行するように出来ているわけで、これも社交辞令の一環だと思って、行き着くところは自覚してもらいたいな』
「くっ・・・」
 サミーは歯がみした。確かに彼女には語る自由はあっても、身の処遇の自由はない。自らの意志で操れないダイレクト・リンク・システムによって電脳界にリンクしている現状は、神の掌にいる哀れな孫悟空同然の立場であり、手足の直接的な拘束が無いだけで、実際にはその身全てが相手の自由になるのである。
 ある意味、下手な幽閉より質が悪いとも言えた。
『ただ今回は、名乗りを出ていた各サイトのどこかへの御招待にしようかと思っている。そこで・・・』
 突如、サミーの周囲の幾つもの穴が生じた。
『君に唯一の選択のチャンスをあげよう』
「選択?」
『もう察しているかとは思うが、あの穴は各所にある特別サイトへの繋がる直通回線で、そこへ飛び込む事によって、自動的に運ばれる。どこに辿り着くかは運次第だが、各サイトでは君の・・・サミーの到着を心待ちにしているからね。どこに辿り着いても大歓迎してくれだろうね』
「それは光栄だけど、どれも嫌という選択もあり得るのよ」
『う〜ん、確かにそれも一つの選択だが、そう言ってこの空間にいると・・・・・・』
 そう言って男が言い惜しみしている間に、彼女の身体に突如として異変が生じた。
 身体に密着した状態であるボンテージ調コスチュームの裏地の各所に突起物が隆起し、ウネウネと蠢きだしたのである。
「ひっ・・あっ・・・ひひゃっはっははははははは!あはぁっはははははははははは!!」
 完全密着状態である衣装の裏側からの刺激は、指を突き立てられグリグリとこね回されるに等しい刺激を彼女に与え、彼女を笑い悶えさせた。その上、一見無意味に思えたボンテージのベルトラインは、女体のくすぐったく感じるポイントを的確に走っていたのである。
 サミーは全身に生じたくすぐったさに身を抱え込みながらのたうち回り、時には衣装を脱ぎ捨てようとベルトを精一杯引っ張った。
 だが、多少ベルトが伸び、位置をずらすことは出来ても、決して脱ぐ事は適わなかった。ベルトがゴム状になっており、もとの位置に戻るように設定されているだけではなく、ベルト同士がかみ合うような構造になっていたため、完全に脱ぐにはベルトを『切断』するしかない構造になっていたのである。
 こうした構造の着衣は、物理的に着せることも不可能ではあっても電脳界では容易であった。
 『切断』するためのプログラムも、脱衣用パスワードも知らないサミーにとっては、自力では決して脱ぐことは適わない物だった。
「やはははははははっっ!ああぁ〜〜〜っはははははは、やめ、やっやっやははぁぁははははは!!」
 くすぐったさから少しでも逃れようと、必死にベルトを伸ばしてのたうち回るサミー。だが、ベルトが伸ばされる度合いに合わせて隆起物の蠢きは激しくなり、各所のツボを刺激するようになっていたため、事態の好転には全く至らなかった。
「あはははははは!いやははははは!」
『ほらほら、そうしていても、その苦しさからは開放されないよ。それを止めるには・・・・分かってるだろ?』
 床の上でエビのようにのたうち回るサミーに男は言った。
「わかっ・・わかっっっっっっひゃははははははははっ、わかったらか、くひっっひひひひひ、わかったからぁ〜っっはぁっはははははははは!」
 どこかは分からない、少なくとも自分の辱める目的のサイトへ向かうためのホールの一つを選び、そこへ飛び込む。それでこの苦しみからは逃れられたが、新たな辱めが待っている。
 それが分かっているだけに、彼女のプライドと羞恥心がそれを拒んでいのだが、催促のくすぐり責めに、その抵抗も限界に来ていた。
「行くからぁ〜行くから止めてぇ〜〜〜〜ひゃぁっははははあははあはっははははあはははははは!!!」
『駄目だね。一旦作動したそれは、君がどこかへ移動しない限り止まらないよ』
 嘘だ。
 サミーの理性部分がそう判断した。この世界は彼の構築したプログラムである以上、彼の自由にならないことはない。だが、それを指摘し論議しても不毛な苦しみの時間が長引くだけであり、彼女にとって何一つ有益にはならない。
 無駄な抗議より、今の状況から逃げ出せれば・・・それこそが最優先事項となってしまっていた彼女は、激しいくすぐったさに悶えながら、床を転がり殆ど選ぶ間もなく手近な穴に転がり込んだ。
 どこへ辿り着こうと、結果的に彼女は辱めを受け、選択を後悔する事になる。
 だがそれは、彼女に与えられた『穴』全てに共通する結果であった。



 サミー飛び込んだ穴は滑り台のような構造になっており、彼女はその中を抗うことも出来ずに滑り続けていた。
 実際の滑り台とは異なるため、物理的摩擦による減速もなければ、抵抗ゼロによる加速もなく、ただ一定スピードで目的地に向かって暗黒の中を滑っていた。
 彼女の体感時間と実際の経過時間とでは大きな違いが生じている可能性があったが、体感時間は意外に長く、そのおかげで彼女は先程のくすぐり責めによる疲労から若干回復することができた。
 あるいはそれが目的なのか?
 ようやく落ち着きを取り戻した彼女の理性がそう思い始めた矢先、彼女の視界が眩い光に覆われた。
(着いた?)
 そう思った直後、彼女は、身体が疾走感から浮遊感に包まれたのを感じ取った。目的地と言うより、目的地上方に放り投げられたようなものだった。
 浮遊感はすぐに落下感へと変化し、彼女を軽いパニックが襲った。下方には霧のような物がたちこめ、距離が分からず、飛翔のためのプログラムも、今の彼女にはない。
 落ちるしかないと思われた瞬間、目の前に一本のロープが出現し、彼女は反射的にそれにつかまった。
『いらっしゃいませ』
 サミーが安堵する間もなく、彼女の前に頭がカメラのレンズのような物にすげ替えられたハトサイズの鳥(カメラトリ)が出現し、声をかけてきた。
『サミー様でいらっしゃいますね。よくぞ当サイト『S・R・T』を選んで下さいました。ご説明をお聞きしますか』
「ええ、できたらね」
 サミーという名詞が彼女にプライドを呼び覚ませた。
『かしこまりました。当サイトは罰ゲーム専門のサイトとさっておりまして、他の裏ゲームサイトの敗者に対する罰ゲームを請け負っております。各所でリンクしたゲームサイトで敗北した電脳プレイヤーはこちらに送り込まれ、様々な罰ゲームを受ける事になります』
「そう・・・・私はその敗北者の一人として来た・・・・そう解釈していいのかしら」
『はい』
 率直にカメラトリは言った。
『こちらに来た際、そのロープにすら掴まれなかった者は、そのまま落下して罰ゲームのフルコースを受けて頂くところだったのですが、幸いサミー様はロープに掴まる事ができたため、これよりルーレットにチャレンジしていただきます』
「ルーレット?」
『はい。サミー様を球と見立てた・・・・・です』
 言ってカメラトリは下にレンズ(頭)を向けた。それに合わせてサミーも下を見ると、下方を覆っていた霧が突風で吹き飛ばされ、その中から巨大なルーレットが姿を現し、彼女の下で回転を始めた。
『もうお判りですね。サミー様は好きな時に手を放し、落ちていただく。そして落ちたポイントにある罰ゲームを堪能していただくと言う訳です』
「悪趣味ね・・・・」
『はい』
 侮蔑を込めた一言を、カメラトリは素直に受け止めた。
『ですが、観る側にしてみれば娯楽です。特にサミー様はネットアイドルでいらっしゃる故、高視聴率は確実でございます。参考までに今回の罰ゲーム項目ですが、細かく言うと100種近くになりますが、一言で言えば『くすぐり』系となっております』
 その明言に、たちまちサミーの顔が青ざめた。
『おや、お気に召しませんでしたか?』
「あ、当たり前でしょ。どう言った経緯でそう言うメニューになるのよ」
『先方・・・つまりはサミー様を送り込んだサイト・・・ですが、そちらからの要望がありまして、効果的であるという指摘を受けましたもので・・・それに、会員からも反対がありませんでしたので、決定した次第であります』
「い、嫌よそんなのっ!」
『と、申されましても、拒否権はありませんので、早速始めさせて貰います』
 そう言ってカメラトリはサミーとの距離を取った。それは彼女の全身を頭のカメラで撮影しているようにも見え、ボンテージ調衣装に身を包んだサミーは羞恥心を感じたが、ロープを放してまで手で身体を隠す事も出来ないため、その恥辱に耐えるしかなかった。
 サミーは手で、そして太股でロープをしっかりと掴み、自分が相手の思惑通りルーレットに落ちないように勤めた。
 だが彼女には分かっていた。電脳界はそのサイトの管理人が支配者であり、他者を自由にできる『神』だと言うことを。
 かつてはその『神』とも言える管理人を害し、その世界を滅ぼす事ができた彼女も、今や哀れな生贄にすぎず、今こうして堪えても、相手がロープを切断する指示を送れば彼女の命運は決まる。
 とは言え、自ら身を投げ出す決心もつかないが為、彼女は懸命に今ある生存手段にすがっていたのである。
 そしてその考えは当たっていた。
『さて、一分が経過しました。これより規定により、妨害作戦を開始します』
 カメラトリの言葉はサミーではなく、視聴者に向かって語られたのであろう。その証拠に彼女の同意など求めておらず、たちまち周囲に変化が生じた。
「!?」
 彼女の頭上から多数の物体がひらひらと舞い落ちてきた。不規則な孤を左右に描きながら舞う物体。それは『羽』であった。
 舞い振る羽は、揺れ動く中で彼女の身体を掠めて行き、その身体に微妙な刺激を送り込んだ。
「えっ?・・・・うっ・・・くぅっ・・・はぅっ!」
 二の腕の内側を掠める羽、腹や腰を掠める羽、背筋や太股を掠める羽もあり、各所に生じたむず痒い感覚に、サミーは微かな声を漏らしながらピクピクと身体を捩らせた。
だが、羽の悪戯はそれだけに止まらなかった。
 止めなく降り続け、身体を掠め続けていた羽が重力に逆らい滞空を始め、見えない手で操られるかのように、彼女の身体にまとわりつき責め始めたのである。
「ひやぁ〜〜〜〜あっあっ!やはぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!」
 それは的確に彼女の弱点を探りあてていた。脇の下、脇腹、臍回り、背筋、内股、そうしたポイントを一斉に羽で撫で上げられ、彼女の身体は激しく震えた。
「やぁっ!あっ!はぁんっ!あっ・・・やっ、あっだめぇ!」
 手を放して振り払う事も適わず悶えるサミーを、羽の群は言いように撫で回し続け、彼女の手を放させようと奮起した。
 刺激に反応し身悶えれば身悶えるほど、彼女の体力は奪われ、ロープを握る手から力が失われていった。
 その上、全身を含めた掌からも汗が滲み、その摩擦力を奪っていった。だが、全身に生じる刺激に気をとられ、その事に彼女は気づかないでいた。
 彼女がその事態に気づいた時には、彼女の手はロープの最端部に来ていた。
「あ!!」
 そう思った直後、ロープが彼女の手から滑り抜けた。
 唯一の支えを失った彼女の身体は真っ逆さまに落下し、回転を続けるルーレットの一面に吸い込まれていった。

 『落下』したサミーは、ルーレット面に接触した瞬間、その面に該当するステージへと移動させられた。無論衝撃などあろうはずもなく、全く無傷のまま彼女は決定した『罰ゲーム』ステージにたどり着く。
 瞬間移動で放り出された形となったサミーは、不思議な感触のある床面に落ち込んだ。
「う・・・ここは?」
 結局は相手の思惑通りである事に悔しさを感じながら、サミーは周囲を伺った。どんな趣向であっても行き着く内容はくすぐりと明言されていただけに、彼女の内心は穏やかではなかった。
 周囲には彼女を狙うような存在は確認できなかったが、電脳界である以上油断はできない。と、同時に自分の防御プログラムを持たない身では、警戒すらも無意味な行為でしかない。
 どんなに警戒しようと、また逃げようと、彼女にとって逃げ場のない世界である以上、結果は同じ。それが分かっていて諦めがつかないのは、これから行われるだろう責めがどれほどの苦しみを味わうか判っているからであった。
 矛盾ではあると知りながらも彼女は、できるだけ耐えなければと思った。だが、そんな決心も、次の瞬間には瓦解することとなる。
「?・・・・ひっ!!」
 自分の足元である床に、妙な違和感を感じたサミーは視線を下げた瞬間、小さな悲鳴を上げた。
 彼女が立っていたのは床ではなく、数え切れないほどの触手状物体が絡まり合った物の上だったのである。
「しょ、触手責め!?」
 その形状のおぞましさにサミーは狼狽えた。およそ人間に好感を持たれないだろう不気味な『触手』が、サミーをくすぐろうと言うのである。冷静でいろと言うのが無理な話であった。
「いやっ、いやぁっ!」
 サミーはなりふり構わず逃げ出した。プライドより生理的毛悪寒が勝ったのである。
 だが、彼女のいる世界全てがその触手床に覆われており、彼女に逃げる道など初めからなかった。そして触手も彼女が逃げ出すのを待っていたかのように動き出し、絡まっていた触手を解き放ち、いとも簡単に彼女を捕らえてしまった。
 手首足首の四肢を何本もの触手に絡め取られ、サミーは大の字の状態で立たされたままそ の動きを拘束されてしまった。
「うっ・・・くっ・・・」
 サミーは手足をばたつかせ、無意味な抵抗を試みたが、絡みついた触手は硬化したようにピクリとも動かず、彼女に開放の希望を持たせようとはしなかった。
 そして彼女が儚く抗っている間に、他の触手が周囲から近づき、その先端を蛇の様に曲げ、鎌首をもたげた。
「い、いやっ・・・」
 何が起きるかは分かっていた。だがじっとしてはいられない恐怖が彼女にはあった。
 やがて触手の数本が彼女の身体に近づくと、彼女のボンテージ調衣装の各所に軽く接触した。
 すると、決して脱げない構造になっていたボンテージが、触手の接触部分より崩壊し、粉状になって消滅した。
 それは開放プログラムを入力された結果であり、これによってサミーは一糸まとわぬ姿となってその身をさらけ出した。
「くっ・・うううぅ・・・・・・」
 全裸とされたサミーが羞恥に頬を染め身を揺する。裸体を隠そうとしても隠せない状況がいっそう彼女の羞恥心を煽った。
 だが、その程度の辱めが罰ゲームではないとばかりに、周囲の触手がいよいよ本格的な活動に入った。
 周囲の触手がそれぞれ先端を身体に突き立てた時、サミーは先程まで着ていたボンテージのように、先端を蠢かせた刺激を送り込んでくるものと思い、それに対する心構えをしながらぐっと身体を強張らせた。
 しかし、実際に施された責めは彼女の想像とは異なっていた。
 突き立てられた触手の先端は、蠢くと言うより小刻みに震えたバイブレーションを加えたのである。その外見とは異なる機械的な刺激は、彼女の予想範疇を超えた不意打ちとなった。
「はぁっ?あはははははははははははははあ〜っははははははははははははあああはあはははははははは!!!」
 たちまちサミーは身体を震わせ、激しく笑い悶えた。それは不意打ちによる効果だけではなかった。
 ローターなどによる適度かつ断続的振動は、性感帯に対して適度な快楽を与える事が主目的ではあるが、僅かな力加減や接触ポイントのズレによって、それはくすぐったさへと変貌する。
 特に身体の官能に火がついていない状態では、性感帯と言えどもくすぐったさが先行するのが常であった。
 触手はその先端に施されたバイブレーション機能により、彼女の身体の性感帯をくすぐったく感じる力加減で責めだしたのである。
 そうした全く未経験の感覚は、耐えようのない刺激となってサミーの身体を貫き、その肢体を翻弄した。
「いやっっははははははっはははははは!ああああははははははははは!やははははあぁ〜〜〜〜〜っはははははははははははは!!」
 もはや堪える堪えないの状態ではなかった。今まで彼女が受けたくすぐりは、時間の差はあるものの、徐々に限界に近づき、吹き出すと言った感覚であったが、この刺激はいきなり耐え難い感覚が襲いかかり、触れた瞬間に彼女の身体は電流でも走ったかの様な反応を見せ、たうち回った。
「いやぁ〜〜〜っはははははははっははははは!や、やははははははは、やめっ、いひひひひひひひひひ!ひひゃははははははは!や、やめっへひゃぁはははははははは!!」
 もはや生理的嫌悪感を生じさせる物体に絡みつかれているなどと言う事は、感覚を紛らす要因にはならなかった。それを遙かに勝る刺激が絶え間なく彼女を襲い、拒絶の一言もまともに放つことさえ許さなかったのである。
 傍目からは身体の各所を触手の先端が這い回っているだけではあったが、肉眼では殆ど確認できない小刻みな振動が加えられ、また、絶妙な動きでくすぐったく感じるポイントを移動していたのである。
 例え彼女が出来うる限り身体を捩らせ、それらのポイントをずらそうとしても、無数に蠢く触手全てから逃れることなど不可能であり、それらの反応が逆に、彼女の弱点を学習させる事になり、より一層のくすぐったさを招き入れる結果へと繋がった。
 そんなくすぐり責めの中で、2本の触手がそれぞれ彼女の両脇の下の窪みに先端を押しつけ、小さな円を描きだすと、彼女はこれ以上なく、まるで限界を超えるような勢いで身体を痙攣させた。
「きぃ〜〜〜〜あっあぁぁぁぁっっっっ〜〜〜〜〜〜〜」
 たまらず声を詰まらせるサミー。だが、触手はそれだけでも不足かと言うように更に群がり、汗でしっとり濡れた彼女の全身を撫で回した。
 人間の指などであれば時間の経過と共に僅かでも疲れが生じ、少なからず緩急が生じるものであったが、プログラムによる責めにはそうした疲労など存在せず、学習によって責め方の上達はあったとしても、その逆はあり得なかった。
「あひはははははははは!!ひぃ〜ひひゃははははははははは!!!!!!」
 絶え間なくわき出すくすぐったさにサミーはまともな思考力を奪われた状態となっていた。そんな状態で彼女が思ったのはただ一つ、いつ自分は楽になれるか、と言う事であったが、制限時間も知らされずまた、設けられてもいない状況では、考えるだけ無駄な事であった。

 それからサミーにとって数時間とも思える苦しみの数十分が経過した。
絶え間ない刺激に笑い続けた彼女の声は既に掠れ、痛々しい物になっているはずだったが、電脳界ではそれすら修正されていた。
 だが、痛烈な刺激により修正も追いつかないほど悶え狂った彼女がいよいよ意識を失おうとした瞬間、群がっていた触手が一斉に離れ、彼女を解放した。
 何故、何を企んでいる?などと言った疑問を浮かべる余地もなく、彼女はただただ不足していた酸素を招き入れるために呼吸に専念した。
 時折、身体を余韻が走り、彼女は表情を歪めたが、抵抗する力も無くした彼女は四肢を触手に絡められたまま、ぐったりと項垂れ、汗にまみれの火照った体をさらけ出していた。
 そうして何もしないまま数分が経過し、彼女の呼吸が若干落ち着いたのを見計らい、触手は活動を開始した。
 近づいた触手は1本だけであったが、項垂れた彼女はその接近に気づかないでいた。
 触手は彼女の右乳首にその先端を軽く触れさせた。
「くふぅっ!」
 性感帯の一つに対する刺激に、サミーの身体がピクリと跳ねる。
 だが、疲労がたまっているのか、彼女は顔を上げる事なく、今し方の刺激も余韻であったかのようにそれ以上の反応を示さなかった。
 今度は左乳首に触れる触手。
「うくっ」
 サミーは今度も反応を示したが、それだけに止まり事態を確認しなかった。
 そんな反応が不満だったのか、触手は一旦間合いを取ると、責めの手法を変化させる行動に入った。
 引き下がった触手は十分な長さを確保すると、まるで蛇のように飛びかかり、彼女の身体に巻き付いた。
 右膝当たりから右回りで太股を1周し、腰、脇腹、左脇を通る形で巻きつき、締め上げるような状態を形成した。
「な、何?」
 今までになかった事態に至り、さしものサミーものんびりと項垂れてはいられず、重い頭を上げて自分の身体に巻き付いた触手を見やった。
その表情にはこれから何をされるか、内容は分かっていても手法に見当がつかない事による不安と恐怖が入り混じっていた。
 そんな彼女の反応を待っていたかのようなタイミングで触手は次のステップに入る。
 巻き付いた触手は、サミーの身体に接している部分に、先端部と同様に振動する隆起物を幾つも浮き上がらせ、その振動で彼女の身体を刺激した。
「いひゃ、いひゃははははははははははははは!!」
 それは、ここに来る前に行われたボンテージでの責めに似ていたが、触手の責めはそれに止まることはなかった。
 ズリュ・・・・
 触手はあたかも蛇が巻き付いた枝を登るかのごとく、下から上へと移動を始めたのである。それに伴い、腰や脇腹と言ったくすぐったく感じる部分に巻き付いたラインに添って震動隆起物も移動し、彼女の身体に先程とは異なったくすぐったさを加えた。
「ちょっ・・・・やめっ、やぁはははははははは!」
 たまらず身を揺するサミーであったが、四肢を固定された状況での抵抗では幾重にも巻き付いた触手を振り払うことなど適わず、言いようにその蹂躙を受けるしかなかった。
 おおよそ10メートルほどあった触手がゆっくりとした速度で通過し終える頃、たまらない刺激に身悶えまくっていたサミーは再び体力を消耗し、荒い息を吐いてぐったりとなった。
 そんな反応に満足したのか、周囲の触手も色めき立ったかのように一斉に蠢き、また新たな触手が彼女の身体に巻き付いた。
「やぁっ!やめてっ!」
 その責めの効果をじっくりと味わってしまったサミーが思わず悲鳴を上げる。だが、その悲痛な叫びに同情して活動を停止するような慈悲を、この触手は持ち合わせていない。
「あぁっ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 先程とは正反対に巻き付いた触手が容赦なく這いずり、その柔肌に震動隆起移動責めを行った。
「いやっっははははははははははははははは!あひあははははははははは!!」
 身体の中に沸き起こった新たな刺激にサミーは笑い悶えて動かぬ身を捩らせた。
そして再び終わり無き責め苦が始まった。
 一本の触手が通過し終えると、また新たな触手が順番を待っていたかのように飛びかかり、巻き付き、震動隆起の移動という刺激を連続して加えた。
 しかも一本一本が異なった巻き付き方をするため、決して同じ感覚繰り返される事がなく、彼女には微塵の慣れも生じるゆとりがなかった。
 ある触手は腰回りに何重にも巻き付き、ある触手は豊満な胸の付け根を絞り込むような形で巻き付き、ある触手は全体を細身にして全ての足の指の間を蛇行した。
「はぁ〜っはははははっはっははははははははははは!!」
「ひゃははあはははっはあっはははは!ああああ〜〜〜っっははははははははは!!」
「きひぃっっひゃっははははははは!ぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っっははははははは!!」
 サミーは触手が這いずる都度、狂ったように笑い声を上げ、その身を限界まで振り乱した。
 どの様に藻掻こうと、四肢の拘束からは逃れられないのは理解していたが、激しいくすぐったさが、彼女の身体を大人しくさせることを許さなかったのである。

 長時間ほとんど反射的に笑い続けていたサミーは、さすがにプログラム補正も追いつかないほどに疲労が蓄積し始め、その身体状態をモニターしていたプログラムが、責めプログラムにその情報を伝達した。
 情報を受けた責めプログラムは、彼女のが限界に至り気を失うより先に、悶絶させようと、最後の責めに入る。
「はっ・・・はぁっ!?」
 息も絶え絶えのサミーは、数本同時に巻き付いた触手の位置を知り、驚愕した。
 数本同時という状況もそうであったが、数本が確実にくすぐったく感じる弱点部分に正確に巻き付いている他、両乳首そして股間を前後から通る様に巻き付いている触手まであったのである。
 これが同時に動き出した事態を瞬時に想像したサミーは恐怖に引きつった。
「ああっ、やめ、やめてっ!そ、それだけはっっっ!!」
 たまらず叫ぶサミーであったが、触手はその言葉こそが起動の合図と言わんばかりに、触手は容赦なく移動を開始した。
「あっ!あぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」
 一際大きな悲鳴が上がった。
 くすぐったさと快楽が同時に、しかも大挙して彼女の身体に襲いかかり、その到底許容不可能な刺激に大きく仰け反った。
「はぁっはぁん、はぁっはははあはははははやははははははははぁぁぁん」
 度重なる責めにより、くすぐりに敏感となっていた身体が過敏に反応し、乳首・股間を中心に生じた快楽が、そのくすぐったさを徐々に快楽へと変貌させて行った。
 股間と胸を中心に生じた官能はジワジワと広がりを見せ、全身が性感帯へと変貌させられている感覚をサミーは味わっていた。
 それは堕落への、性欲に満ちた世界への落とし穴とも言えた。その危険な感覚に抵抗するだけの精神力も奪われていた彼女は、絶え間なく生じる快感に身を震わせるしかなかった。
 せめて触手が途切れればと言う切望も僅かにあったが、それさえも見越されているのか、触手は一向に途切れる様子を見せなかった。
 触手の先端と後尾が接合したのか、または他の触手が連なったのか、彼女の身体を這いずり回る触手は途切れる様子を一切見せず、無限ループのまま、彼女の弱点を責め続けたのである。
「あああぁっ!!も、もう、もうっ」
 これまでにも何度かくすぐりに隠れた快楽で絶頂に至った事はあった。だが、それを堪能する暇もなく、加えられ続けるくすぐりに笑い悶え、快感の余韻は強引に流されてしまっていた。だが、そんな物も比較にならない絶頂が押し寄せようとしているのをサミーは感じ取っていた。
 くすぐりと快楽が一体となった奔流。
 サミーは呑み込まれる感覚に思わず抗ったが、容赦ない刺激はそれを後押しし、遂に彼女は現実界では到底味わうことの出来ない絶頂を迎えた。
「あっああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 仰け反りながら痙攣をした姿勢で彼女は絶叫をあげ、そのまま一気に気を失った。
 電脳世界と言う牢獄から気絶と言う形でやっと開放されたサミーは、その罰ゲームステージから呆気なく姿を消した。

 ダイレクト・リンク・システムは、圧縮空気を吐き出す音と共に各機器を開放し、完全に気を失った美佐を開放した。
 システムによって受けた『体験』は、脳に直接影響を及ぼすため、例え仮想世界であっても実体験と言えた。
 痛烈な快感を味わった美佐はシステム解放後もすぐには覚醒せず、荒い呼吸をしながら眠り続けていた。時折、ひくひくと痙攣する様は、その余韻を現していた。
 今回の一件で彼女が官能、あるいはくすぐりの虜になったかはまだ分からない。だが少なくとも恐怖の対象となった電脳ハッカー『ナイトメア・サミー』は姿を消す事になるだろう。
 今後、彼女が姿を現すのは、裏サイトの陵辱の対象としての存在としてである・・・


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