| 遺棄船の罠 |
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予定コースを離脱したコロンブス�犬禄臘瓦帽匚圓鯊海院�造船した企業の技術と最新鋭の肩書きを証明するかのように、実に通常船舶の２倍強の早さで現場宙域に到達した。 「各員、周囲確認」 エルザの指揮のもと、操舵室を離れられないファニーとポーラはレーダー等の器機を用い、レイラ達『客人』５人は各所の展望室から肉眼で周囲の捜索を開始する。 素早い現場到着こそ特筆に値したが、漂流物の多い空域での捜索には今の時代であっても肉眼の方が有効であったのだが、流石に５人では人手不足を拭いきれず、効率の悪さは否めなかった。 「周囲に金属反応多数・・・・多分、バーソロミュー�兇里覆譴硫未討諭ΑΑΑΑ� ファニーからの報告が無くとも、周囲に散乱する人工の金属片を見ればそう思う事だろう。頑丈に作られているはずの船体は、想定を遙かに上回る外的な力によって無惨にも引きちぎられ、ほとんどの原型を残さない程、バラバラになっていた。 「でも、データーベースによれば、バーソロミュー�兇倭ツ譴砲�なり大型の救難カプセル・・・・と言うより脱出艇が設置されているタイプだから、脱出が成功しているなら、救難カプセル共々反応があるはず、探して」 エルザに言われるまでもなく一同は生存者を求めて神経を尖らせた。もはや到着以前の軽い好奇心や功名心等は、眼前の惨事を前に綺麗さっぱり消えていた。 だが実際問題として、岩塊と破片の入り交じる中で、脱出艇や、それらより遙かに小さなカプセルを見つけるのは至難の技とも言える。 それでも遭難者の生命が自分達の行動にかかっていると言う責任感が彼女達に気の滅入るような作業を持続させていた。 だが、努力が必ず良い結果に繋がるという法則などは存在せず、彼女達の焦りをよそに、無情にも時間だけが経過し、生存者はおろか遺体の一つも確認できない無為な時間だけが経過していく。 「・・・・・駄目、全然反応が無いわ」 長時間モニターを見続けた事により、軽いドライアイになりかけたポーラは絶望感を滲ませた口調で呟いた。 『こっちも見つからないわ〜・・・さっきまで、残骸はたくさん見かけたんだけど、今はそれすら少なくなってる。事故現場通り越したんじゃないの？』 レイラが艦内通話機を通じて呼びかける。 「いえ、バーソロミューの言ってきた座標に間違いが無ければこの宙域のはずよ」 だが、バーソロミュー�兇�岩塊に衝突して航行不能になったのではなく、爆発四散したのであれば、爆風に飛ばされた救難カプセルなどは永久に宇宙を漂う事となる。 そうなると発見は困難どころか不可能に近く、唯一可能性があるとすれば、カプセルが放つ微弱な信号の有効範囲に人類の宇宙船が通りかかる事だけだった。 だがここには小さいながらも残骸が漂っている。少なくとも大規模な爆発はしていないと見て間違いはない。 となれば、どこかの岩塊の陰にでも隠れている可能性がまだ残されているのである。 それを見つける事も困難ではあるが、生きている可能性がある以上、見捨てる事ができるはずもなかった。 「船を転進させてもう一度違う角度で捜索してみましょう」 そう言ってエルザは操舵レバーを引いてコロンブス�犬料ゼ鵑慮�きを変えた。まさにその時であった、船体が予期しない振動に襲われたのは。 「！？」 エルザは自分の操船とは異なる動きに対応しきれずコンソールに頭を打ちつけ、ポーラとファニーもシートから派手に投げ出され尻餅をついた。 「っつ、二人とも、大丈夫？」 エルザは頭の痛みに耐えながら倒れた二人を見やった。この様子では展望室で目視していた面々も派手にひっくり返っているだろうと彼女は思った。 「何とかね・・・・新型は馴染まない？」 しこたま打ち付けた尻をさすりながらポーラが立ち上がり、隣で同様のファニーに手を貸した。 「ぶつけたの？新車・・・じゃなくて新船を」 「私じゃないわ」 事態が自分の責任になっているのを悟ったエルザは素早くそれを否定し、操舵レバーから手を離した。 すると、彼女の意志の関与が無いにも関わらず船が再び大きく弾けるように揺れた。 「な、何？」 自らの意志を持ったかのように、勝手に動く船をファニーが不気味そうに見回した。 「流されてるわ・・・・」 「な、流されているって、ここ宇宙じゃない」 『どうしたのよっ！なんて運転してるのっ』 ポーラとほぼ同時に、スピーカーから展望室組であったキャロルの怒声が響いた。やはり彼女もどこかしら体をぶつけたようである。 「磁気嵐よ」 ポーラ達の疑問にも同時に答える形でエルザは言った。 「何かに引き寄せられているみたい。しばらく揺れるから展望室組は何かに捕まってて！」 言うが早いか、エルザは再び操舵レバーに手をさしのべ、バランスを崩している船体を立て直す事に全力を費やし始めた。 だが、彼女がどんなに苦心しても、流れる船体を安定させる事は適わず、不安定な磁場に振り回されるフロンティア�犬漏峠蠅之�な軋みをあげ始めていた。 「・・・・・・・動力を切るわ」 しばしの奮闘の後、ぽつりと放たれたエルザの言葉に、その場にいたキャニーとポーラは目をむいて驚いた。 「しょ、正気？この状態で動力を切ったら、余計に体勢が不安定になるわよ」 「抵抗しても無駄なのよ。機関を全開にしても脱出もできない、その上、磁気の影響でナビゲーションシステムにもトラブルが出始めてるのよ。流れに任せて、治まるのを待つ方が得策よ」 そうエルザは主張するものの、操船に関しては素人の二人にはそれが本当に得策かは判らなかった。だが、唯一操船のできる彼女がそう言うのであれば、彼女達にそれ以上の手段は無いという事であった。 「そう言うなら仕方ないけど、万一の時は・・・・・」 「恨み言なんて言う事も、聞く事もできなくなってるわよ」 きっぱりと言い切られ、ファニーは苦々しい表情となって、座席のシートベルトを更にきつくした。 「みんな、更に揺れるから覚悟して！」 エルザがこの場にいない者達へマイクを通して告げると、返答を待つ間もなく動力レバー全てを一気に一番下へと下げた。 今まで必死に磁気嵐から逃れようと奮起していたエンジンノズル全てから荒々しい炎の噴出が止まり、推力を失ったコロンブス�犬歪餽海里垢戮鮖�たない木の葉の様に、見えない磁場の流れに流され始める。 右に左に、上に下へと激しく揺れる船内で、一同は必死に自分の位置をその場に維持する事に専念し続けた。 それから数十秒程の、彼女達にしてみれば数十分以上に該当するだろう時間の経過とともに、船体の揺れが徐々に治まり始めた事を彼女達は感じた。 やがて両手両足に渾身の力を込めなくていいようになり、操舵室の面々がほっと一息ついたのとほぼ同時に、またも船内スピーカーから展望室組から、恐怖に引きつり誰かも分からない悲鳴が飛び込んできた。 『後ろぉ！！！衝突するぅ〜〜〜〜！！』 「！！」 エルザは反射的に後方カメラのモニターを睨み、ファニーは磁場で狂ったレーダーの機能をリセットした。 「目標至近！！！」 一瞬もないレーダー波の反射光点を見てファニーが叫び、同時にエルザが反応した。 「急制動！エアブースト全開！！」 咄嗟のエルザの対処に、船体各所に配置されていたユニットから圧縮蒸気が噴出されて制動をかけ、かなり緩慢になっていたコロンブス�犬瞭阿�は、指摘された障害物の眼前で完璧に停止した。 『・・・・・しょ、衝突回避・・・・』 律儀に行われた報告を聞き流し、エルザもほっと息を吐いた。 「・・・・・これで安全は確保されたかしら・・・」 できればそう願いたいと思うエルザであったが、レーダーを睨み続けていたファニーはその意見に賛同できかねていた。 「・・・・そうとも・・・・言えないかも」 「どういう事？」 「後ろの、ぶつかりかけた物体・・・・・・・・・・・人工物みたい」 自分でもそう表現して良いのか？そんな戸惑いが感じられる発言だった。 「何ですって？」 エルザは驚きの声を上げて、後方の画像をメインモニタに映し出し、それを広角モードにして全体像を映し出させた。 エルザもポーラも、その映像を目の当たりにして、その意見に同意した。 当初大きな岩塊かと判断して対処したそれは、あまりに近くを見ていたが故の誤認であった。視野の範囲を広げてみるとそれは一目瞭然であり、自然的にはとうてい形成されないだろう、滑らかな曲線と鋭角にして左右対称な各部、コロンブス�犬料コ暗瑤砲�すかに照らされる表層は、加工された金属物の光沢を見せていたのである。 そして何より、 「なんて大きさなの・・・・・」 そのサイズ故に、先程は岩塊と思ったわけだが、それは地球人類の所有するどのステーションをも上回り、単純に見積もっても３倍以上はあるだろう巨大な建造物であった。 その中で最も彼女達の関心を引いたのが形状である。巨大な皿を上下に合わせ尻尾を生やしたような、あるいは鉄アレイの片側のウェイトが紛失したようなシルエットをしたそれは、およそ人類の規格とは外れた構成となっているのが素人目にもわかるのである。 それはすなわち、地球人類以外の文明圏による構築物である事を示唆している。 誰もがその事に気づきながらも口にしないのは、事態の大きさに声を出す事すら忘れているからである。 存在の可能性だけはあるとされながらも、接触はおろか痕跡すら見つける事は現在の科学では不可能とされている異種宇宙文明との接触。 その映画の１シーンのような状況が、今まさに現実の話となって、彼女達の手の届く位置に存在しているのである。 「・・・・・・・ポ、ポーラ・・・・アレの形状照会・・・・あの物体の規格に少しでも類似する宇宙空間構築物がないか、検索して・・・・」 発見による興奮からか、未知なる物体を前にした恐怖からか、エルザの体は震えていた。 実際、彼女には自分の出した指示の答えが予想できていた。だが、自分の知識以外の、確実なる証拠がどうしても欲しかったのである。 今、彼女は欲していた名声を確実に手にするチャンスに直面していたが、それは当初の予想を遙かに上回る物であり、宇宙史どころか人類史に名が残るだろう騒ぎなのである。 エルザの求めていた確証はすぐに得られた。 「該当・・・・・なし。私たちより素直なコンピューターは、あれを・・・・・・地球外生命体の建造物と認識したわ・・・・」 目の前に実物がありながら、言葉だけでは信じてもらえそうにない台詞をポーラはようやくにして言った。 「ど、どうする？」 ファニーがこの船の責任者である人物に問うた。 「どうする・・・・ったって・・・・」 流石に今回ばかりはエルザも判断に窮した。宇宙人の存在確率などは学者連中がかなりの確率であると語っているものの、遭遇率となると算出さえまともには行われてはおらず、天文学的数値という極めて曖昧な言葉で済ませていた。 そんな環境において、こうした事態が非常対応マニュアルに考慮されているはずもなく、いうなれば現状の対応は、当事者の判断だけが全てであったのである。 「ま、まず、地球に連絡よ。はっきり言ってこんな大発見、私達だけではどうしようもないわ」 「了解」 すぐさまファニーが通信席に座り、手慣れた動きで通信機を操作した。が、スピーカーから流れるのは耳障りなノイズだけだった。 「何？故障？破損？」 「わかんない。自己診断では故障や破損は確認されていないんだけど・・・・ひょっとしたらまだ近くで磁気嵐が続いてるのかも知れない」 耳障りなノイズを放つ通信機のスイッチを切り、ファニーが推測した。 「あるいは、その磁気嵐で周囲の岩塊が磁性を帯びて電波を攪乱させているか・・・・ね」 「それじゃどうするの？」 ポーラが問う。 「とりあえず状況を整理して、対応を協議しましょう」 エルザの提案に、二人は頷いた。
さすがにこの緊急事態に、操舵室を留守にするわけにはいかず、各員は本来民間人立入禁止のその場に集められ、事の次第を簡単に説明されると、当然のように驚きつつモニターを凝視し、ようやくその真偽を自らの目で確認するという儀式を経て、一同は『これからどうする？』という至極当然の問題を話し合う。 だが、結果的に、これによって彼女達は悲運となる。
しかし彼女達はまだ知らない。知る由もない。 |
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