朝霧作品

補佐という役職の本当の役割

第3章
 先輩を見送った後・・・その日の10時頃だった。
 執事4名に呼ばれ、客室に行くと、そこにはすでに成兼がいた。
 そして、満面の笑みを浮かべて行った。
 「桃香さん。改めて、研修終了、本当におめでとうございます」
 「さっそくですが、これから特別学習を受けていただきますよ」
 いきなりだった。
 一気に桃香に緊張感が走る。
 「はいっ!私、精一杯、頑張ります!」
 一方の桃香は何もわからないまま、とりあえずお辞儀だけした。
 
 そして、以前、先輩に"立ち入り禁止"と言われた違う色のじゅうたんの続く通路をあるいていく。
 (・・・先のほうは、こうなってたんだ・・・)
 どうやら、その先には、さらにいくつか部屋があった。
 そのうちの、ひとつの前で成兼が止まった。
 部屋の入口には"第一 特別学習室"と書いてある。
 「さあ、桃香さん。中へどうぞ」
 成兼がそういって、桃香に入るように指示をした。
 「はい。失礼します」
 ゆっくりと部屋へと入っていく桃香。
 「・・・・・・えっ?」
 途中で、思わず歩みを止めた。
 「あの・・・・、ご主人様。これは・・・・」
 すでに明りのつけられた部屋に入った桃香。
 その視界に入ってきたのは・・・"T"の字の形の張り付け台だった。
 明らかに拘束するためだろう。
 その手首、足首、腰のあたりには革製のベルトがあるのが見てわかる。
 (勉強のための部屋・・・・だよね?)
 自然と、鼓動が早くなっていく桃香。
 一方の成兼は、笑顔のままで言う。
 「さあ、桃香さん。その張り付け台に背中を合わせるようにして立ちなさい」
 そして、当然のように、そう言った。
 「あの、ちょっと待ってください・・・」
 さすがに戸惑う桃香。
 「これって、人を動けなくするためのものですよね?」
 「私、何か罰せられるようなことをしましたでしょうか?」
 桃香には、なにも拘束されるような失敗をした覚えはなかった。
 いや、そもそも磔台に拘束するという行為自体、あきらかに異常に思える。
 「もし、私のせいでしたら、せめて、なにか別の償い方を・・・」
 まだ、桃香が話している最中にもかかわらず、成兼は4人の若い執事に言った。
 「お前たち、桃香さんをこの磔台に拘束しなさい」
 すぐに、4人の執事はうなずき、桃香へ近づく。
 「ちょ!ちょっと待ってください!」
 「だから、なんでこんな!・・・・」
 いくらなんでも4人の若い男に、桃香がかなうはずがなかった。
 「ちょ・・・お願いです!まっ・・・」
 必死の懇願もむなしく、桃香はあっさりと磔にされてしまった。
 「なんでですか!?いったい、これはどういうことですか!?」
 すでに、左右の手首・足首・腰の計4ヵ所で、丈夫な革ベルトで拘束されてしまい、首以外、満足に動かすことのできなくなった桃香が、怒りをあらわに成兼に問う。
 一方の成兼は、あわてた様子など、一切ない。
 懸命に拘束を解こうと体をクネクネを動かしている桃香に、笑顔さえ向けながら、言った。
 「いいですか、桃香さん」
 「今日から、あなたに本格的に"特別学習"を行います」
 そんな成兼に、あきらかに怒った様子で言う桃香。
 「だから、こんな状態で何の学習をするっていうんですか!?」
 そんな強気の態度を崩さない桃香に、笑顔のまま、成兼が言った。
 「性行為の中でも特別な価値を持つもの」
 「くすぐりに関する学習ですよ」
 その言葉を聞いた途端・・・。
 「えっ・・・・・・・!?」
 今まで声を荒げていた桃香が急におとなしくなった。
 (あれ?・・・今・・・・)
 (くすぐりって・・・言った?・・・)
 徐々に桃香の中で、恐怖心が膨らんでいく。
 (うそ・・・嘘だよね?)
 今、桃香は両手を真横に伸ばし、両足は揃えた状態で丈夫な革ベルトで拘束されている。
 そのうえ、腰の部分にもベルトが巻かれ、もはや満足に身動きすら取ることができない。
 まして、桃香は自他ともに認める、"くすぐったがり"である。
 以前、全身マッサージの際にも、笑いを堪えるのに必死だった。
 それを、このようなT字磔の格好で行われたら・・・。
 (・・・・・・)
 あぜんとし、もはや、反論すらできない桃香の磔台のすぐ後ろに回った成兼。
 桃香はすでに泣きそうな表情を浮かべ、懇願した。
 「お願いです!ご主人様!どうか・・・どうかくすぐりだけはご勘弁を!」
 「私、本当にくすぐりに弱いんです!身動きできない状態でのくすぐりなんて、本当に命にかかわります!」
 もちろん、成兼は止めるつもりなどまったくない。
 ゆっくりと、むき出しになっている桃香の脇の下へと両手を伸ばしていく。
 「・・・!?あの、執事さん!」
 「お願いです!ご主人様を止めてください!」
 このままくすぐられてはたまったものではないと、たまらず、桃香を拘束して以来、傍観を続けている執事たちにすら、助けを求める桃香。
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 もっとも、当然のごとく、執事はただただ立ち尽くしているだけだ。
 誰も桃香を助けようとはしなかった。
 そしてついに・・・。
 こちょこちょこちょこちょ・・・
 こちょこちょこちょこちょ・・・
 桃香が最後まで拒否し続けた刺激が、むき出しの左右の脇の下から送られ始めた。
 「ひゃあ!嫌!だめ!」
 「きゃは!きゃーはっはっは!あーっはっはっは!」
 成兼が磔にされているため、無防備になっている桃香の脇の下をくすぐり始めた途端・・・。
 たまらず、桃香が大声で笑い始めた。
 「あっはっは!きゃーはっはっは!」
 「だめです!いや・・・あーっはっはっは!」」 
 「きゃはははは!あーっはっはっは!」
 桃香は元々、くすぐりに弱い。
 そのうえ、脇の下は、桃香がもっともくすぐりに弱い"弱点"でもあった。
 くすぐり責めが始まって数分後には、もう桃香は涙を流し始めていた。
 「あっはっは!やめてぇ!ひゃーっはっはっは!」
 桃香は、必死に全身に力を入れ、何とかくすぐりから逃げようとした。
 だが、両手首・両足・腰をしっかりと磔台に固定している革ベルトは丈夫で、拘束が解ける様子はまったくない。
 「あっはっは!きゃーはっはっは!」
 もちろん、桃香とて、今までくすぐられたことがないわけではない。
 だが、今までは長くてもせいぜい数秒間・・・もちろん、拘束などされてはいない状態でのくすぐりだった。
 このように弱点の脇の下を、身動きできない格好で集中してくすぐられるなど、まったくの初体験だった。
 「あっはっは!あーっはっはっは!」
 笑い狂いながら、桃香は思った。
 (こんなの、絶対におかしいよ!)
 (絶対に・・・絶対に・・・)
 (絶対、許さないんだから!)

 「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
 それから、1時間後。
 ようやく、成兼がくすぐり責めをやめた。
 絶え間なく送られてきたくすぐったさから解放され、桃香は何度も何度も、荒い呼吸を繰り返す。 
 「お疲れ様。桃香さん」
 終始、くすぐりを止めなかった成兼が、罪の意識のかけらも感じさせないような態度で、桃香に話しかけた。 
 その途端だった。
 「いい加減にしてください!ご主人様!」
 桃香は怒りの限りを込めて、成兼に向かって叫んだ。
 「おやおや、気持ちよくはなかったかね?」
 一方の成兼は反省の色など微塵もない。
 その態度が、さらに桃香の怒りを膨らませていく。
 「こんなの、全然、使用人の仕事ではありません!」 
 「今、ご主人様がなさったことは強姦です!立派な犯罪です!」
 桃香は自身がいまだに磔にされていることすら気にせず、気丈に成兼を怒鳴りつけた。
 一方の成兼はあきれたような表情をしている。
 「やれやれ。今回のはたった1時間ですよ?」
「・・・最初からこれでは先が思いやられますね」
 その、成兼の余裕の態度に、ようやく頭が冷えた桃香。
 嫌な予測が頭をよぎる。
 (まさか、反論したお仕置きとかいって、またくすぐったりしないよね!?)
 成兼は桃香の様子など気にすることもなく執事たちへ言った。
 「お前たち、桃香さんの拘束を解きなさい」
 「今日の業務は終了だ。以降、彼女は自室待機をさせるように」
 それを聞いた桃香。
 (・・・ほっ・・・)
 自身の状況を考えずに言い過ぎた自覚があったため、その後の追加のくすぐりがないことに素直に安心した。

 その後、本当に桃香の拘束はすぐに解かれ、自室へと連れて行かれた。
 念のため、廊下の物音を確認してから、ゆっくりとカバンの中から携帯電話を取り出した桃香。
 「絶対に許さないんだから・・・」
 迷わずに電話を掛けた。
 数回のコールの後、電話は繋がった。
 桃香がかけた相手、それは・・・。
 「もしもし?警察ですか?」


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