ミニメロン作品

聖華学園の地下室

第5章 王子
 石造りの巨大な建物を朝日が照らしていた。
 世界にその名を知られた宮殿である事が一目で分かるほどの荘厳さと美しさを、太陽の光による輝きがなお一層際立たせている。
 その建物から門の方に向かって二つの人影が歩いている。
 一人は白いシャツに革のチョッキを着て背中に猟銃を背負い、一頭の馬を引き連れた青年。
 その後ろには、白いシャツに黒いチョッキとズボンを身につけた髪の白い老人が付き添っている。
「昨日の大雨が嘘のようだな。絶好の狩猟日和だ」
 青年は門を出た所で雲一つなく澄みきった青空を見上げた。
「しかしルイ様、今夜は大切な行事がありますゆえ、お早めに戻りなされ」
 老人の言葉にルイが振り向き、険しい視線を向ける。
「大切な行事とは、例の舞踏会の事か。本当に今日の深夜から行われるのか」
 ルイの不満そうな態度に、老人は驚きの表情を見せた。
「ルイ様ご自身の御提案とお聞きしておりましたが……」
 ルイは頭を振りながら片手の指で額を押さえた。
「確かにあれは私の提案だ。その提案を父上が言葉通りに真に受けるとは……。あのような行事を本気で行うなど、正気の沙汰ではなかろう」
「しかし……」
「安心するがよい。日没までには戻る」
 ルイは馬にまたがり、勢いよく走らせた。
 毎週日曜日、ルイは山の森へ狩りをしに出かける。
 その習慣は、ルイがまだ小さかった頃から続いている。
 昔は父と共に行くか、父が忙しい時には何人かの召し使いたちを連れて行ったものだが、最近はずっと一人で行っている。
 ――父上はその事を怪しんで、あのような話をしてきたのだろうか。
 ルイは数ヶ月前、父から婚約者を決めるに当たっての意見を求められたのだ。
 父が元気なうちに次期王妃を決めておきたいという考えも分からぬではないが、まだ15歳のルイにはあまりにも早すぎる話のような気がしていた。
 恐らく父は、自分の知らないうちにルイに恋人ができる事を恐れているのだ。
 あるいはルイの行動の変化がそのような事態を想像させてしまったのかもしれない。
 そしてその想像が的外れでないという事実が、ルイをさらに悩ませていたのだ。

 深い森の入口でルイは一旦馬を止め、辺りを見回した。
 遠くに目を凝らし、誰も後をつけて来ていない事を慎重に確認すると、再び馬を走らせた。
 森に飛び込み、道なき道を奥へと進む。
 密生しているいくつもの木々をよけながらしばらく走った所で、木の生えていない開けた場所に出た。
 泉だった。
 ルイは馬を降り、水のすぐそばに生えている木の一本に手綱を結び付けた。
 馬が水を飲んでいる間、ルイは泉の岸に片膝を立ててしゃがむと、シャツの内側から細い鎖に繋がれたペンダントを取り出した。
 首にかかった鎖を外し、指でペンダントの脇を強く押した。
 ペンダントが貝のように開き、その中にある驚くべきものが姿を現した。
「はうっ、ああ……もうだめ、もう我慢できないわ!」
 美しい顔を苦痛で歪め、灰緑色のズボンにぴったりと包まれた太腿を懸命に擦りあわせ、その付け根の恥かしい部分を両手で懸命に押さえながら必死に身を捩っているのは、まぎれもなく少女だった。
 身体の大きさは王子の小指の先ほどしかないが、その美しさは彼女の着ている粗末な服をも特別なもののように見せ、彼女の切羽詰まった仕種は彼女が女の子であるという事の魅力をより一層際立たせていた。
「ジュリア、何が我慢できないのだい?」
 ルイはペンダントの中で身悶える少女に顔を近づけ囁いた。
「そんな恥かしい事、言えないわ……ああっ、もうだめぇ!」
 少女は泣き出しそうな顔で訴えながら、必死に身を捩り続けている。
「そうか。それならこのまま君の素晴らしい腰振りダンスを見物させてもらうとするか。いつまで続けられるか楽しみだ」
 ルイの顔はますます嬉しそうだ。
「そ……そんな……意地悪ぅ……んああっ!」
 少女は顔を赤らめながらも、その恥かしい仕種をやめる事はできず、恥かしい女の子の部分を押さえる手の力をさらに強めつつ、全身をガクガクと震わせる。
 そして太腿をさらに激しく擦り合わせ、腰を大きくくねらせる。
「ああん、もうだめぇ!」
 少女が甲高い悲鳴を上げた瞬間、彼女のズボンの手で押さえていた恥かしい部分に濃い色の染みが生まれていた。
 染みはみるみるうちに広がり、ズボンの裾に達すると、足首を水が伝い降りた。
 水は彼女の粗末な靴を濡らし、やがてペンダントの底に水溜まりを作った。
 少女は真っ赤な顔で涙を流しながら水の流れを止めようと必死に身を捩っているが、か弱い女の子の部分を散々悪戯していた水が、一旦押し開いたその部分の哀れな抵抗など問題にするはずはない。
 水はついにペンダントを満たし、少女の太腿の半分を沈めた。
 溢れた水が土の上に滝のように落ちる。
 土の上に大きな水溜まりができるほどになってから、ようやく水の流れが止まった。
「君のダンス、今日も素晴らしかったよ」
 手で顔を覆いすすり泣く少女にルイが囁く。
 ルイがペンダントを土の上に置くと、少女はペンダントの外に出て土の上に降り立った。
 その直後、彼女の身体に驚くべき変化が現れた。
 彼女の身体が彼女の着ている衣服と共に膨らみはじめたのだ。
 ゆっくりと続く彼女の身体の膨張は、やがて彼女の背丈がルイよりも少しだけ低い程度になったところでピタリと止まった。
 普通の人間の大きさになってからも、彼女は閉じた目から涙を流し続けている。
 その泣き濡れた顔の耳元で、ルイが囁く。
「いい天気なのに、足が濡れているね。君の足を濡らした水はどこから出てきたのかな? 可愛らしい少女にふさわしい答えを期待しているよ」
 悪戯っぽく笑っているルイの意地悪な質問に答えず、少女は泣き続けている。
 ルイの顔から笑みが消えた。
 少女の肩に手を置き、静かに語りかける。
「ごめん……でも……君の……我慢している姿、とっても可愛かった。それに、君がその……水の力に負けてしまう姿も……。頼むから、もう泣かないで……」
 ルイの言葉もむなしく、ジュリアはまだ泣き続けている。
「ジュリア?」
 ルイはジュリアの肩に置いた手を軽く揺すった。
「ルイ……やっぱり私はあなたのそばにいてはいけないのかも……」
 ルイはジュリアの言葉に目を見開いた。
「ジュリア、どうしてだい。僕の結婚の事なら心配する必要はないさ。君の魔法によって全てがうまく行くんだ」
「でも、他の大勢の女の子たちが犠牲になるわ」
「構うものか。君のためなら、私はどんな事でもするつもりだ」
「ほんと? 嬉しい!」
 ジュリアの泣き濡れた顔は、嬉しさに満ち溢れていた。
「さあ、今日は早く帰らなければならないんだ。早速獲物を探しに行こう」
 二人は馬を泉のほとりに残したまま、森の奥へと消えていった。

「行ったみたいよ。もう下へ降りても大丈夫じゃないかしら」
 生い茂った木の葉の陰で、美奈子が囁いた。
「もう少し待った方がいいわ。今動いたら、獲物と間違って撃たれるかも」
 ジャスティンが囁きかえす。
「さっきのジュリアっていう女の人が、昨日言ってた本物の魔女なの?」
「恐らくね」
 優子の質問にジャスティンが答えた。
 ジャスティンは昨日とは打って変わって、白い夏用のセーラー服を着ていた。
 この服装であれば、宮殿に忍び込んだ後で誰かに見つかっても、明日の舞踏会に出席するためという言い訳が通用する可能性がある。
 三人は湖のそばの木の枝の上から下を覗いていた。
 ベルサイユ宮殿を目指して森の中を歩いている間に、遠くの方から馬の泣き声が聞こえたので、木の上に身を隠したのだ。
 そして、後をつければ何か分かるかもしれないと、枝の上を慎重に渡りながらここまで追って来たのだ。
 幸運にも、馬に乗っていた人物は、明日の舞踏会で婚約者が決定されるというルイ王子であり、さらに彼の持っていたペンダントから魔女が出現するという光景を目にすることができたのだ」
「ねえ、ジュリアが小さくなるのに使った薬、あなた持ってないの?」
 優子はジャスティンに聞いた。
 小さくなって、馬の毛の間にでも潜り込む事ができれば、宮殿に忍び込めるかもしれない。
「私は持ってないわ」
 ジャスティンは即座に答えた。
「そう。……何か他にいい手はないかしら」
 優子は湖とそのそばに立ち尽くしている馬を見ながら思案を巡らせた。
 ――そういえば、あの馬、さっきから泉の水を飲んでないわ……。一体いつからかしら……
 突然、優子は目を見開いた。
「美奈子、ジャスティン、名案が浮かんだわ」

「ちょっと、それって本気に効き目あるの?」
 美奈子は優子の名案とやらを聞いて、大声で叫んだ。
 三人の少女は泉の岸に立っていた。
 馬は、突然木から降りてきた見知らぬ人間にも騒ぎ立てる事はなく、三人の少女たちを興味深そうに眺めている。
「やってみなければ分からないけど、うまく行く可能性はあるわ」
 腕組みをしていたジャスティンが泉を見つめながら答えた。
「そんなぁ、また我慢しなきゃならないの?」
 泣きそうな顔で駄々をこねる美奈子に、ジャスティンは泉を見つめたまま答える。
「ここの女の子はみんなそうよ。家から出かける前には美容のために大量の水を飲み、やがてその水が女の子の最もか弱い部分を悪戯するのを、家に帰るまで必死に我慢し続ける。それができない女の子は、私のように魔女として追い回される事になるわ」
 ジャスティンは泉の前にしゃがみ、水を手にすくって飲み始めた。
 優子もジャスティンの隣に座って飲み始めた。
「……わかったわよ、仕方がないわね……」
 美奈子もしぶしぶと二人に従った。
 水を飲み続ける美奈子の脳裏に、女の子の激しく恥かしい切なさがよみがえってきた。
 もう二度と体験したくない辛さ。
 しかし宮殿に忍び込んで謎を解かなければ、この世界で魔女として追い回される事になるのだ。
 元の世界に帰るためには、目の前の大量の水を飲まなければならないのだ。
 しかし、いくら飲んでも彼女たちの身体には何の変化も起こらない。
「やっぱり、あんまり効果ないような気がするけど……」
 美奈子の呟きに、ジャスティンが答える。
「あの薬は、ほんの少し飲むだけでも効果があるの。しかも、身体の外に排出されやすい性質を持っているから、さっきジュリアの作った水溜まりから土に染み込んだものが泉の中に染み出しているはず。それを飲めば、私たちも小さくなる事ができるわ」
 言い終わると、ジャスティンはなおも水を飲み続けた。
 優子も同じように飲み続ける。
 美奈子も再び飲始めた。
 しかし、しばらくすると三人とも息が苦しくなってきた。
「一度には無理ね。休みながら何度かに分けて飲みましょう」
 ジャスティンの提案で三人は立ち上がり、近くの木に手を掛けて息を弾ませた。
 しばらくして息が整うと、美奈子は辺りを見回した。
 そして、周りの物が今までよりも大きく見える事に気が付いた。
 足元を見ると、美奈子のはいている靴は、それと同じ形の一回り大きい窪みの中にあった。
 その窪みはまぎれもなく、美奈子の足跡だった。
 他の二人もあっけにとられたような顔で辺りを見回し、自分の身体を見回していた。
「もしかして私たち、小さくなったの?」
「どうやらそのようね」
 美奈子の興奮した声に、優子が答えた。
 三人は再び泉のそばにしゃがみ、水を飲み始めた。
 馬が彼女たちの様子を身じろぎもせずに眺めていた。

「ジュリア、気分でも悪いのかい? さっきから顔色がよくないみたいだけど……」
 後ろから歩いて来るジュリアの、何か不安そうな表情が気にかかり、そう訊ねたルイに、ジュリアは笑顔で答えた。
「何でもないわ。ちょっと疲れただけよ」
 ジュリアの答えにルイは安堵の表情を浮かべた。
「そうか。それじゃ、ちょっと休もう。俺も用があるからな」
 ルイは、銃と共に灰色の布袋を肩に下げていた。
 あまり大きな袋ではないが、下の方が血で赤く染まっている。
 その袋を地面に降ろしたルイは、すぐ近くの木に向かって立ち、ズボンのファスナーを降ろした。
 せせらぎの音が聞こえ始めた時、ジュリアは袋のそばにしゃがんだ。
 ジュリアの顔には再び不安の色がくっきりと浮かび、じっとりとした汗が額を濡らしている。
 ルイが見ていない事を確認すると、袋の紐をほどき、中身を探った。
 袋の中身は、さきほどルイが銃で仕留めた一羽のウサギだった。
 その身体のまだ血で濡れていない足をそっと掴んで動かしてみる。
 後ろ足の間に、今ルイが手で触れているはずのものに相当するものがついている事を確認すると、ジュリアの顔からようやく不安の色が消えた。
 ルイが用を足し終えた時には、袋の紐は元の状態になっており、ジュリアはその脇に腰をおろし、すぐそばに生えた草の小さな花を指で触って眺めていた。
「ありがとう。おかげで疲れが取れたみたい」
 ジュリアは明るく笑いながら立ち上がった。
 ルイは再び袋を背負い、ジュリアの先に立って歩き始めた。

「もう……んあっ……これぐらいで……ううっ……いいんじゃないかしら」
 美奈子は太腿を擦り合わせ腰を揺すりながら大きな声で聞いた。
 ついさきほどまですぐ近くにいたはずの優子やジャスティンが、ずっと遠くに見える。
 小さな土の塊や草なども、今は自分の背丈ほどもあある。
 しかしそんな事は美奈子にとってはどうでも良かった。
 それより、今まで飲んだ大量の水が、早くも女の子の恥かしい所に恥かしく意地悪な悪戯を始めている。
 もしも誰にも見られずにその悪戯から逃れられる秘密の場所に行く事ができるのなら、今すぐ走って行き、そこで意地悪な恥かしい水を存分に噴出してしまいたい。
 しかし、これからベルサイユ宮殿に着くまでの間はその悪戯に懸命に耐え続けなければならないのだ。
 足を擦り合わせ身体を揺すっていなければ、居ても立ってもいられない。
 それは優子やジャスティンも同じだった。
「そのくらい小さくなれば、十分でしょう」
 美奈子の質問に落ち着いた声で答えたのは、彼女たちの聞き覚えのない女性の声だった。
「ちょっと……」
「い……今の、誰?」
 美奈子と優子は顔を見合わせた。
 自分たちが小さくなるのを他の人に見られたのか。
 三人は慌てて辺りを見回す。
 泉のそばに立って三人の方をじっと見ている馬に、目が止まった。
「も……もしかして、今の、あなた?」
 ジャスティンが馬に話しかけた。
「その通りよ」
 馬ははっきりと答えた。
 美奈子と優子は驚いた拍子に、水に責められている女の子の部分から一瞬力が抜けそうになった。
 慌てて力を込め直し、今にも吹き出そうとしていたはずかしい 水を必死に食い止める。
「びっくりするのも無理はいわね。馬が喋ったんですものね。でも、私も昔はあなたたちと同じ、人間だったのよ」
「人間? あなたが?」
 ジャスティンは目を見開いた。
「そうよ。私だけではないわ。この森には私のように魔法の力によって動物の姿にされた女の子がたくさんいるわ。その姿のまま猟銃で撃たれてしまった子もね」
 馬は悲しそうに視線をそらし、上の方を見上げた。
 空は暗くなり始め、星がいくつか瞬いているのが見える。
「そろそろルイたちが戻ってくる頃だわ。宮殿に行きたいのなら、早く乗ってちょうだい」
 馬は腰を下ろし、尻尾を三人の方へ向けた。

 ――ああっ、神様!
 ――もうだめ、振り落とされる!
 ――もう、漏れそう。我慢できない!
 ジャスティン、優子、美奈子の三人は、激しくなびく馬の尻尾にしっかりとつかまりながら、女の子のか弱い部分を責め嬲る恥かしい水の悪戯に必死に耐え続けていた。
 毛の束から手を放せば一瞬にして放り飛ばされてしまう状況下では、その手を女の子の部分へ持っていく事はできず、激しい揺れは意地悪な水の力を倍増させる。
 その猛烈な恥かしい自然の力に、三人はか弱い女の子自身の力で必死に抵抗し続けなければならないのだ。
 三人の顔は苦痛に大きく歪み、汗でぐっしょりと濡れている。
 薄闇の中で馬を走らせているルイは、そんな三人の事などはもちろん想像するはずもない。
 ルイのペンダントの中では、ジュリアが美奈子たち三人と同じように激しく揺さぶられているはずだ。
 しかしジュリアは三人のように馬の尻尾に必死にしがみつく必要もなく、また恥かしい女の子の部分に渾身の力を込め続けている必要もない。
 さきほどジュリアが泉のそばで再び小さくなる時、ルイはジュリアに泉の水を大量に飲むように言ったのだが、ジュリアはそれを拒否した。
「だって、もしも宮殿に入る前に漏らしてしまって他の人の目の前で元の大きさに戻ってしまったら、大変な事になるでしょ?」
 ジュリアのその一言に、ルイも納得しなければならなかったのだ。
「ああっ、もうだめ、漏れちゃう!」
「だめよ、美奈子、がんばるの」
 顔を大きくしかめながら小さな悲鳴を上げる美奈子を優子が目をきつく閉じたまま叱咤する。
「そうよ。もう少しで宮殿だから……んんっ……んんああぁっ!」
 ジャスティンも美奈子を励ましながら、女の子の激しい切なさに思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
 三人は女の子の最もか弱い部分に対する水の悪戯の凄まじい切なさに耐え続けながら馬の尻尾の毛の束にしっかりとしがみついていた。


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