三人はそれぞれ大きな袋を背負い、強い雨の降りしきる山道を歩いていた。
その細い道も間もなく消え、深い森が目の前に広がっていた。
「あたしたちの小屋は、この森の中の奥深くにあるの。もう少しだから頑張ってちょうだい」
そう言うと、ジャスティンは森の中へ入って行った。
美奈子と優子も後に続く。
二人は山道を歩き慣れていないせいで激しく息を弾ませ疲れきっているのに、ジャスティンは元気そうに道なき道を進む。
辺りの木や草の種類や生えかた、倒れた木など、辺りの風景の微妙な特徴や、あるいは自分の距離感などによって、進むべき方向を選んでいるのだ。
美奈子と優子は鬱蒼と生い茂る暗い森を時折淡く青白く不気味に照らす雷光や激しく轟く雷鳴におののきながら、草に足を取られそうになりつつも、必死にジャスティンの後についていく。
そこはまさに本物の魔女のすみかにふさわしい森だった。
歩きながら、美奈子と優子はジャスティンが魔女として追われる事になったいきさつを聞いた。
女性は外出時に大量の水を飲む事がマナーであり、外出先では利尿紅茶を勧められる。
それらのもたらす女の子の恥かしい欲求を噴出する事のできる場所はどこにもなく、自分の家に帰るまでの間に粗相をしてしまった場合には、魔女として人々に恐れられ、警官に追われる事になる。
ジャスティンもそうなってしまった女の子の一人だった。
ジャスティンは、その美しさからか、高校の同級生の女子生徒から、白い目で見られていた。
ある日、ほんのささいな事でクラスメートとの間で言い争いとなり、ジャスティンは水を大量に飲まされる事になった。
もちろん女子生徒はみな登校前に大量の水を飲んでおり、一時間目の授業の始まる前に利尿効果のある紅茶を飲んでいる為、その日授業が終わって家に帰るまで、彼女たちの女の子の部分は内なる水による激しく執拗な悪戯に絶えず悩まされ続けている。
そこへ新たに大量の水が加わるのだから、たまらない。
その日、ジャスティンは普段の日の数倍も激しい女の子の部分への悪戯に、ぴったりと閉じ合わせた太腿を必死に擦り合わせ、スカートの上からその部分をしっかりと押さえる両手に渾身の力を込めながら必死に耐え続けた。
それは女の子にとって気が狂うほど恥かしい仕種ではあったが、次第に激しさを増していく内なる水の悪戯はその恥かしい仕種を容赦なく強要した。
その日の最後の授業の前の休み時間、激しく恥かしい意地悪な自然の力に必死の抵抗を続けていたジャスティンは、もはや自分の席から立ち上がる事すらできなかった。
その前の授業の終了時、先生への挨拶のために起立するだけでも相当の覚悟が必要だったのだ。
もちろん立ち上がる事ができたとしても、女の子の部分を責め苛む意地悪な水を解放できる場所などどこにもあるはずはないが、せめてどこかに逃げ出してしまいたかった。
どこか誰もいない場所で、恥かしい水の悪戯をやりすごしてしまいたかった。
ジャスティンの席の周りには、さきほどジャスティンに大量の水を飲ませた女子生徒たちが集まり、ジャスティンが恥かしい水に苛まれ続ける女の子の恥かしい部分にスカートの上からしっかりと手を当てがいきつ閉じ合わせた太腿をもじもじとせわしなく擦り合わせるという恥かしい仕種を繰り返すのを楽しそうに見つめていた。
ジャスティンは内なる水の意地悪な悪戯をどうする事もできないまま次の授業を受ける事となった。
先生が教室に入ってきて、起立の号令がかかった。
ジャスティンが勇気を振りしぼり、せつなくてたまらない女の子の部分に全身の力を集中しながら、スカートの上から押さえていた手を放し、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
気を付けの姿勢を取れば、太腿の付け根の女の子の部分を援護する力が弱まってしまう。
片足をもう片方の足にすり寄せるような不自然な姿勢で何とか皆にとがめられずに挨拶を済ませ、ゆっくりと席に座った。
――よかった。これで大きな関門は突破したわ。
しかし、これから授業を終えて家に帰りつくまでにはまだ何時間もあるのだ。
その間、内なる水による女の子の恥かしく激しい欲求に懸命に耐え続けなければならない。
それは女の子にとってあまいにも辛い戦いだった。
先の事を考えれば考えるほど、女の子の部分の悲鳴はますます激しく切なくなっていく。
いくらその部分に力を込めても、太腿をきつく閉じ合わせて擦り合わせても、手でスカートの上から力いっぱい押さえても、もうその部分は今にも恥かしい水にこじ開けられてしまいそうだ。
そしてついに、ジャスティンはその部分が巨大な恥かしい力によって強引にこじ開けられるのを感じた。
――だめっ、お願い、出ないで、やだっ、まだだめぇ!
心の中で懸命に叫んでも、か弱い女の子を一度押し倒した恥かしいぬくもりは勢いよく噴出し続け、パンティの中で激しく渦巻き溢れ出すのをどうする事もできない。
水は太腿を伝い、脹脛を伝い、靴下と上履きを濡らし、あるいはスカートを濡らしながら床の上に滝のように流れ落ちて足元に水溜まりを作る。
そのピチャピチャという水の音に近くの席のクラスメートが気付き、飛びすさった。
「やだ、なによこれ」
「きたない!」
「女の子なのに何て事なの!?」
たちまちクラスじゅうが大騒ぎになった。
懸命に耐え続けていた恥かしい欲求に負けてしまった悔しさと、クラスのみんなの前で醜態を晒してしまった恥かしさのせいで、ジャスティンの目には涙が溢れていた。
先生がジャスティンを指差し、生徒たちのざわめきの中でもはっきりと聞こえる声で叫んだ。
「ジャスティンは魔女よ! 神聖なる教室でこんなはしたない事をするような女の子は、可愛い顔で人々を惑わす魔女に決まってるわ!」
美奈子は以前に高橋先生や浩章から聞いた過去のフランスの女性に関する話を思い出していた。
「彼女たちは自分の身の清楚さを示すため、その家を出るまでずっと平静さを装ってスマートに我慢しつづけなければならなかった。それができない女性は、汚れた身を持ちながら外見の美しさで人をまどわす魔女として、処刑される事すらあったと言う」
もしその話が本当なら、自分たちが今いるこの世界は過去のフランスという事なのだろうか。
「着いたわよ」
ジャスティンの言葉で美奈子は我に返った。
ジャスティンの隠れ家は、高い木の上の鬱蒼と生い茂った葉の中に隠れるようにして建っていた。
「ジャスティンよ。今戻ったわ」
雨と風に揺さぶられている葉の茂みに向かってジャスティンが叫んだ。
暗い茂みの中から、縄梯子が降りてきた。
優子と美奈子はジャスティンの後に続いて縄梯子を登った。
太い枝の付け根に円筒形の小屋が建っている。
小屋の周りは柵のついた狭い足場が取り囲み、縄梯子はその柵の一箇所から降ろされていた。
そのすぐそばで、一人の女性が梯子を昇る三人を見下ろしていた。
三人が昇り終えると、彼女は縄梯子を回収し、小屋の中に案内した。
彼女はジャスティンの母親だった。
娘よりも少しだけ背の高い彼女は地味な服装をしていながらも、美しい金髪と整った顔に浮かぶある種の意志の強さが娘とは違った美しさを漂わせている。
彼女はジャスティンが魔女として追われる事になった時、ジャスティンと共にここに逃げて来たのだ。
美奈子と優子とジャスティンは、ジャスティンの母親が出してくれた服に着替えた。
小屋には部屋が一つしかなく、その中央に囲炉裏があり、壁には食器棚や洋服箪笥、机や本棚などが所狭しと並んでいる。
四人は囲炉裏の周りに座った。
「ここにいれば当分は安心よ。この森は魔女の森と呼ばれて、街の人たちも警官も、この森には恐れてだれも近寄らないわ」
ジャスティンの母親はスープの入った皿を配りながら説明した。
この森にはかつて本当の魔女が住んでおり、この小屋ももともとはその魔女が作ったのだ。
その魔女がいなくなってから、魔女として街を追われた少女やその家族が住むようになった。
「でも、ここにばかりいるわけにもいかないわ。月に何度かは食料を取りに街へいかなければならないから。ここに以前住んでいた女たちはみんなその時捕まってしまったのよ。私たちもあとどのくらいこうしていられる事かしら」
母親は深いため息をついた。
「大丈夫よ。私は絶対に捕まらないわ。今日は新しい仲間が増えたんだから、そんな暗い話はしないでパァッといきましょうよ」
ジャスティンは今日街で仕入れてきたばかりの肉をほおばりながら明るく笑って見せた。
「そうそう、あなたたちはどうして魔女として追われる事になったのかしら。やっぱり学校で粗相をしてしまったの?」
ジャスティンの母親の質問に、美奈子と優子は顔を見合わせた。
本当の事を話した所で信じてもらえるかどうか分からない。
しかし、本物の魔女がいたという話にしても、常識では考えられない話には違いないのではないか。
という事は、自分たちの話のほんの一部でも信じてもらえるかもしれない。
優子はジャスティンの母親に向き直った。
「あのう、それに結構近いんですけど……それを話す前に、教えて頂きたい事があるんです」
「どんな事かしら? 私に分かる事なら教えてあげられるけど」
ジャスティンの母親は、優しく笑いながら優子の言葉を待った。
「それでは教えて下さい。ここは一体、西暦何年ですか?」
ジャスティンと母親は、美奈子と優子の話に熱心に耳を傾けていた。
「という事は、あなたたちは未来の日本から来たといういうわけ?」
母親が興味深そうな面持ちで訊ねた。
「ええ、多分そうだと思います」
優子が頷いた。
ジャスティンと母親は、大きく見開いた目を見合わせた。
「あの……どうかしたのですか?」
美奈子は二人のフランス人の様子にただならぬ物を感じていた。
普通ならばだれも信じないような話に最後まで耳を傾けてくれたこの人たちは、本当に自分たちの話を信じてくれたのだろうか。
もしそうだとしたら、この二人は常識では考えられないようなどのような話も何の疑いもなく簡単に信じてしまうのだろうか。
この小屋にかつて本当の魔女が住んでいたという話も本気で信じているのだろうか。
そしてそれは事実なのだろうか。
二人のフランス人が美奈子と優子に向き直り、母親が口を開いた。
「あなたたちの話が本当なら、恐らく明後日にベルサイユ宮殿で行われる舞踏会が、あなたたちの言う問題の舞踏会よ」
ジャスティンが先を続けた。
「実はあたしも本当はその舞踏会に招待されていたの。魔女として追われているからもう行けないけどね」
今度は美奈子と優子が大きく見開いた目を見合わせた。
ジャスティンが先を続けた。
「本物の魔女は現在行方不明っていう事になっているけど、宮殿にいるっていう噂もあるの。あそこでは何が起こっても不思議じゃないわ」
美奈子と優子はフランス人に向き直った。
優子がジャスティンの方へ身を乗り出す。
「その魔女って、本当に魔法を使ったりするの? 手品か何かっていう事はないの?」
ジャスティンは母親の方へ視線を向けた。
母親が頷いて見せると、ジャスティンは立ち上がり、部屋の奥の戸棚へ向かった。
戸棚から古めかしい木箱を取り出すと、それを持って美奈子たちの前に座った。
「これは魔女が置き忘れて行った魔法の箱よ。この中に壊れた物を入れて呪文を唱えると、壊れる前の状態に戻す事ができるの。試してみる?」
「ええ、面白そうね」
優子は囲炉裏の上に干してあるスカートのポケットから携帯電話を取り出した。
水に濡れた時に壊れてしまっていたため、電源ボタンを押しても何の反応も示さない。
優子が携帯電話を箱の中に入れると、ジャスティンは蓋を閉め、蓋に書かれた文字を読み上げ始めた。
その文字はどこか異国のものらしく、美奈子にも優子にも意味不明だった。
再び蓋が開けられ、優子が中の携帯電話を取り出した。
電源ボタンを押すと、表示画面が明るくなり、文字が表示された。
「凄い! なおってるわ!」
「本当に魔法の力なの!?」
常識では考えられない不可思議な力を目の前ではっきりと見せつけられた優子と美奈子は思わず大声をあげた。
「そう、これが本物の魔女の力なの。ところで、それは一体何なの? 火がないのに光ったり、ペンがないのに文字が現れたりするなんて、そっちの方が不思議だと思うけど」
ジャスティンは箱から取り出されたものを指差して訊ねた。
その質問に優子が答える。
「これは私たちが遠くにいる人と話をする時に使うものよ。これを持っている人同士なら、お互いに遠く離れた場所にいても話をする事ができるの。ただ、この世界では交換機がないから使えないけどね」
優子は試しに登録してある番号の中から一つを選んでみた。
「ごめんなさーい。ここ、電波が届かないのぉ……」
携帯電話の発する優子の声に、ジャスティンと母親は目を見張った。
「すごい、こんな小さな箱がしゃべるなんて……」
ジャスティンは目を丸くして驚きの声を上げた。
そして、にんまりと笑った顔を優子に向けた。
「こんな不思議な物を持っているなんて、あなたたちも案外本物の魔女かもしれないわね」
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