聖華学園の地下室 |
「ああっ、もうだめぇ!」 「あ、あたしも、ああっ!」 美奈子と優子は甲高い悲鳴を上げた。 すでに二人は女の子の部分のあまりの切なさに、しゃがみ込んでしまっていた。 女の子の部分にしっかりと両手を当てがい力を込めて押さえながら、太腿を激しく擦りあわせ、全身を震わせている。 通路の出口はまだはるか遠くにあって見えない。 二人は立ち上がろうと足を動かすが、閉じ合わせた太腿が少し動いただけでも女の子の部分が悲鳴を上げ、恥かしい水が今にも噴出してしまいそうになる。 しかし恥かしく意地悪な水の悪戯にじっと耐えている事もできず、勝手に太腿や腰が動いてしまう。 すると水はそれを待っていたかのように、さらに意地悪な悪戯で女の子の部分を激しく悩ますのだ。 大自然の大いなる力は着実にその強さを増す一方、それに逆らう女の子の力はスカートの上から押さえる手やぴったりと閉じ合わされた太腿の力に支えられながらも、もう限界だった。 「もうえあめぇ、もう……ああああっ!」 「あたしも……もうだめぇ……ああああっ!」 二人が悲痛な悲鳴を上げた瞬間、激しい水の音が通路に響き渡った。 恥かしい部分から吹き出した熱い水がパンティの内側に激しく渦巻きながら染み出し、スカートと太腿とお尻を濡らしながら通路の床に落ち、水溜まりを広げて行く。 「お願い、見ないで!」 「ああっ、見ちゃいやぁっ!」 美奈子と優子が同時に叫んだ時、水溜まりの広がった床の中に二人の足とお尻が沈んだ。 「ちょっと、何よこれ」 「いやぁっ!」 二人は急いで水溜まりから這い上がろうとしたが、水溜まりの端まで手がとどかず、水溜まりの中についた手は床の中に難なくめり込んでしまう。 二人は悲鳴を上げながら、水たまりの中へ沈んでいった。 次の瞬間、二人は暗闇の空間に投げ出され、大量の水の中へと落下した。 二人は手足で必死に水をかき、水面に顔を出した。 「なんとか助かったわ」 美奈子が安堵の声をもらした。 「それよりも、ここはどこかしら」 優子は辺りを見回した。 辺りは真っ暗で光がほとんどなく、その場所の広さを知る事すら困難だった。 その時、上の方から異様な声が聞こえた。 「ああ、だめだぁ、オシッコしたーい!」 空気を揺るがすほどに大きく響いたその声は、若い男性のもののようだった。 「美奈子、あれを見て」 声に驚いて上の方を見ていた美奈子は優子の指差す方向に目を凝らした。 暗くて分かりづらいが、よく見ると水面に小さな渦が生まれていた。 その渦が、目にもとまらぬ早さで大きくなっていく。 「の……飲み込まれるわ!」 美奈子が叫んだ瞬間、二人の身体は渦に捕らえられた。 激しく振り回されながら次第に水面の中央に引き寄せられていく。 「あたしたち、どうなるのぉ?」 「知らないわ……きゃああああぁぁぁぁっ!」 美奈子と優子は叫びならが渦の中心に勢いよく引き寄せられ、激しく回転しながら水の中に引きずり込まれていく。 いつの間にか、二人は長い管の中を水に流されながら右へ左へと揺さぶられていた。 二人の上げる悲鳴も無数の泡となって二人と共に激しく揺さぶられながら管の中を流され続ける。 突然二人は空中に投げ出された。 咄嗟につかの間の息をついた二人の目の前に、再び水面が迫っていた。 「きゃああああぁぁぁぁ!」 二人は大声で叫びながら水の中へと真っ逆さまに落下した。 落下の勢いで水中深くまで沈んだ二人は夢中で手足を動かし水面を目指した。 頭を水面に出した二人は、激しく息をつきながら周りを見回した。 遠くに見える石の壁が、二人の周りをぐるりと取り囲んでいる。 二人は石でできた巨大な水槽の中にいるのだ。 どうやら外へ出られたようではあるが、空にはどんよりとした雲が広がっている。 不思議な事に、水面のあちこちから巨大な水の柱が絶え間なく吹き出している。 激しく降っている雨は空にたちこめる雲のせいではなく、これらの水の柱のせいだろう。 周りの様子から、自分たちのいる場所について理解しようと考えをめぐらせている間に、またもや周りの様子に驚くべき変化が現れた。 「美奈子、様子が変よ。なんだか周りが縮んでいくわ!」 優子の言うとおり、周りのあちこちに噴き上がっている水の柱がみるみるうちに小さくなていく。 そればかりか、遠くに方に見えていた石の壁も次第に二人に近づきながらそのその高さを低くしていき、深かった水も次第に浅くなっていく。 やがて二人は水の底に足をつき、腰から上を水面の上に出して立っていた。 そこはどこかの公園の噴水の中だった。 石で出来た円形の水盤の水面のあちこちにいくつもの噴水が噴き上がり、二人はその水盤の中にずぶぬれで立っていた。 水盤の中央には石の台がもうけられ、その上に一体の石造があった。 裸の男の子が股間のシンボルを両手で持ちながら生理的欲求を満たしている姿を表現した、いわゆる小便小僧だった。 「あたしたち、あそこから出てきたんじゃないかしら」 石造を指差す美奈子に優子は頷いた。 女の子であれば決して見られたくないはずの恥かしい水を人前で堂々と噴出し続けている少年の銅像を見上げながら、優子はイヤミな言葉をこぼす。 「男の子はいいわよね。アレがあるおかげで女の子より我慢しやすいのに、女の子が必死に我慢しなければならない時でも堂々とできるんだから」 「ほんとほんと。男の子は羨ましいなぁ」 美奈子は銅像を見上げながら呟いた。 「それにしても、どうして私たち、地下室の外へ出られたのかしら」 先生が別れ際に言い残した言葉は、通路の途中で粗相をしてしまった場合には、教室に戻される事を意味していたはずだった。 優子は銅像を見上げたまま、自分の考えを言った。 「努力の努は女の又の力と書くわ。『又』は『再び』という意味と同時に『股間』という意味もある。女の子のその部分には、奇跡を起こす力があるのかも……」 「お前たち、そこで何をしているんだ!」 突然聞こえた叫び声に二人が振り向いた。 水盤のある広場の入口に、青い制服を着た二人の警官が立っていた。 厳しい目つきで美奈子と優子の方を見つめている。 一人の警官がもう一人の耳元に口を近づけた。 「あの娘たち、びしょぬれですよ。もしかしたら、何かを隠す為に水盤に飛び込んだのかもしれませんね」 「そうかも知れん。とにかく、調べてみる必要がありそうだな」 もう一人の警官も、頷いた。 二人の会話は美奈子にも優子にも聞こえないが、厳しい表情を変える事なく近づいてくる警官たちに対してただならぬ不安を覚えていた。 「優子、ちょっとやばい雰囲気じゃない?」 「そうね。あたしたち、多分この世界ではよそ者だし、捕まったらまずいかも」 二人は水盤を出ると、広場の脇にある木立に向かって全速力で走り出した。 「あ、こら、待て!」 警官たちも慌てて追いかける。 広場を出て大通りや狭い街路を走り回るうちに、美奈子と優子はいつの間にか大きな商店の立ち並ぶ繁華街にいた。 「待て待て! おーい、みんな、魔女だ! そこの逃げ回っている2人の魔女を捕まえてくれ!」 常識を逸脱した言葉を叫びながら、警官たちはなおもしつこく追いかけてくる。 「ちょっと、魔女だって」 「怖いわ!」 「早く捕まえないと大変な事に……」 「うちの子供をさらわれたら大変……」 繁華街を歩いている人々の間にどよめきが走る。 「まさか、みんな本気にしてるんじゃ……きゃぁ!」 美奈子は何者かに襟首を捕まれた。 Tシャツを着た体格のいい男だった。 「おーい、捕まえたぞ、魔女だ、早く来てくれ!」 男は大きな声で警官に呼びかける。 優子はとっさに美奈子を掴んだ男の手首に思いっきりかみついた。 「ギャッ! この魔女め!」 男がひるんだ隙に、美奈子は男の手を振りほどき、優子と共に繁華街を逃げ回った。 二人を捕まえようとする人々の手が何度も二人に接近する。 その度に二人はその手を必死に振りほどきつつ走り回った。 人通りの少ない裏通りにさしかかっても、二人を追う大勢の人々の足音がなおも執拗に追いかけてくる。 「……たとえどこかに隠れられても、これじゃ……」 優子が息を切らしながら呟いた。 隠れる場所を探しても、追っ手は足跡をたどってすぐに探し当てるだろう。 全身ずぶ濡れの二人が走ってきた道には、水の足跡がしっかりと残っていた。 「せめて雨が降ってくれれば……」 優子が呟いた時、二人の立っている辺りの地面に小さな水の斑点が生まれ始めた。 手を差し出し、空から落ちてくる水を確認して優子が叫んだ。 「雨よ、雨が降ってきたわ」 「でもまだ小降りだわ。早く隠れる所を探さないと……」 二人が辺りを見回している間に鋭い叫び声が聞こえた。 「いたぞ、あそこだ!」 声のした方に振り向くと、再び大勢の人々が二人めがけて走ってくるのが見えた。 その中には棒やフライパンなど凶器を手にしている人たちも少なくなかった。 「どうしよう……」 「雨が降り出すのがちょっとだけ遅かったみたいね」 美奈子と優子が再び走りはじめようとした時、追っ手ではない何者かに腕を捕まれた。 そのまますぐそばの細い道に引き込まれる。 ほどなくして追手の人々がその場に到着した。 「こっちだ!」 一人の男に続いて他の大勢の人々も一斉に二人の消えた細く暗い道を走っていく。 全員が走り去った後、しばらくして道の入口に置かれていたごみ箱の蓋がかすかに動いた。 「大丈夫。行ったみたいよ」 ごみ箱の蓋が外れ、地面に落ちた。 中から立ち上がったのは、白いシャツに茶色のズボンを穿いた少女だった。 美奈子や優子と同じくらいの年齢に見える少女は、地味な服装ではあるが、長い金髪と真っ白な肌が日本人離れした美しさを感じさせる。 彼女に続いて美奈子と優子がごみ箱から姿を現した。 「あたしはジャスティン。あなたたちと同じように、魔女容疑でお尋ね者にされてるの」 金髪少女の顔はどう見ても日本人には見えなかったが、不思議な事に、美奈子と優子には少女の言葉がまるで日本語であるかのようにはっきりと理解できた。 そういえば、二人を追いかけていた警官も、街の人たちも、どう見ても日本人には見えなかったが、彼らの言葉もまた二人には日本語のように聞こえていたのだ。 彼女の奇想天外な自己紹介に、美奈子と優子はキョトンとした顔を見合わせた。 「魔女って……あなた、本当に魔女なの?」 美奈子は大きく見開いた目をジャスティンに向けた。 「まさか。周りの人たちがそう言っているだけよ。あなたたちにも分かるでしょ? 女の人はだれでも、いつそうなってもおかしくないっていう事が。そうならないようにする事が女の子にとってどんなに大変な事か、分かるでしょ?」 「もしかして、大変な事って、オシッコを我慢する事?」 美奈子の問いかけに、ジャスティンはあっさりと答えた。 「もしかしなくても、その通りよ。もしかしてあなたたちにとっては大変な事じゃないの?」 ジャスティンの返してきた質問に、優子が答える。 「あたしたち、ずっと遠くから来たの。あたしたちの所には、魔女なんて信じている人なんかいなかったの。よかったら、この辺りの習慣について、詳しく教えてもらえないかしら」 |
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