新井美雪は、可憐な顔に期待よりも不安を浮き彫りにしながら、満開に咲き誇った桜の木に囲まれた、目の前の重々しい建物を見上げていた。
美雪は明日、全寮制の白百合女子学園に転入することになっていた。
古の美しさをたたえた目の前の建物が、その学園寮である。
新しい学園生活を前に、美雪は不安であった。
白百合女子学園への転入は、親が勝手に決めたもので、自分としては十分納得しているわけではないのだ。
ここに来る前の女子高で、美雪はこの学園について、気になる噂を耳にしていた。
「あなた、あの学園に、お嬢様として転入するそうね。あの学園のお嬢様って、とっても大変みたいだけど、頑張ってね」
前の学校での最後の日、美雪の友達の一人は言っていた。
「不自由って、どんなふうに?」
「なんでも、あの学校ではお嬢様はお嬢様としての厳しい教育が施されるそうよ」
「『お嬢様は』って、どういう事? 白百合女子学園には、お嬢様とそうでない生徒がいの?」
「あたしも詳しいことは知らないけど……。まあ、行ってみれば分かるんじゃない? どうせ知ってても、どうにもなることじゃないわ」
友達からは、それ以上詳しい話を聞くことはできなかった。
それに、美雪としては、自分はただ単に白百合女子学園に転入するだけだと思っていたのだ。
確かに親からは「お嬢様として」という言葉は聞いていたが、それはあくまでも、「今度の学校はお嬢様ばかりの学校なのだ」といった意味でとらえていたのだ。
しかし、友達の言葉からは、そのような常識的な意味とは違ったニュアンスが感じられた。
そしてその事が、美雪の不安を日増しに大きくしていった。
そしてその本当の意味を知る事なく、とうとう白百合女子学園での学園生活を明日に控えることになってしまったのだ。
両親はどうして自分をこの学園に転校させたのか。
その理由は聞かなくとも明らかだった。
美雪は何度となく忘れようとしてきた一ヶ月前の事件の事を思い出していた。
その日、美雪の家には、友達の聡美が遊びに来ていた。
一緒にテレビゲームをしたりおしゃべりをしたりしているうちに、聡美は最近見たテレビ番組の話をしはじめた。
「ねえねえ、この前やってた『トップスターお笑い拷問』っていうやつ、見た?」
「ああ、あの、ハリツケにされた芸能人の身体をくすぐって、その人の秘密を聞き出すっていうやつね。見たわよ」
その番組では、有名な芸能人が壁にハリツケにされ、他の芸能人たちによってたかってくすぐられていた。
芸能人は質問を受けた後、3分間だけくすぐられる。
その間に質問に正しく答えれば、くすぐりから開放される。
しかし、その質問の答えというのは、本人にとっては恥ずかしい秘密なのだ。
しかし、芸能人の秘密の内容はあらかじめ番組側で調べられており、もしもその芸能人が嘘を答えたら、さらに3分間くすぐられる事になるのだ。
男性の芸能人も、女性の芸能人も、容赦なくくすぐられていた。
しかし、ほとんどの者が3分間のくすぐりに耐え、自分の秘密を暴露してしまったのはほんの数人だった。
それが美雪にはなんとなく物足りなかった。
「なんだか芸能人の秘密ってのがあんまり聞けなくて、ちょっと残念だったかな」
「でも、あの人たち、あのくすぐりにあれだけ耐えたなんて、すごいと思わない?」
「そうかなぁ」
今までまともにくすぐられた事のない美雪は、あの番組に出てきた芸能人の感覚があまりよく分からなかった。
「ふふっ、美雪ちゃん、知らないのね。くすぐられるのってね、とっても辛いのよ。ためしに今くすぐってあげましょうか」
「え? あ、ちょっと、ああっ!」
聡美はいきなり美雪をベッドに押し倒した。
小柄な割に力のある聡美に、美雪は思うように抵抗する事ができない。
あっという間に両手を上に持ち上げられ、美雪の左手に掴まれたままベッドに押さえつけられてしまう。
すっかり無防備になった美雪の腋の下や脇腹、そしてお腹のあたりに、聡美の右手の指先が這い回り始めた。
「ああっ、だめっ、ちょっとやだ、きゃははははははははぁ〜!」
美雪は聡美の指先から送り込まれる異様な感覚に、狂ったような笑い声を上げ、身悶えた。
「ふふっ、ここを徹底的にくすぐられるのって、どんな感じかしら」
「きゃはははは、くすぐったーい、お願い、もうやめて、きゃはははは」
「美雪ちゃん、ここ、とっても弱いみたいね。でもだめよ。あの番組に出てきた人たちは、もっともっとくすぐられたんだから、その感覚を美雪ちゃんにも体験させてあげる」
そう言いながら、聡美はなおも激しく指を動かす。
その度に、美雪の身体が激しく震え、悶える。
「きゃはははははははぁ、お願い、もうやめて、きゃはははは……」
美雪の狂ったような笑い声が部屋に響く。
家の人たちは、みな出かけている。
だから、いくら大声で叫んでも、だれも助けに来る可能性はなかった。
やがて笑いつかれて、聡美の指の妖しい刺激にぐったりした身体をピクピクと動かすだけになったところで、ようやく聡美はくすぐりの手を止めた。
それからしばらくの間、美雪はベッドに横たわったまま激しく息をはずませながら、動く事はおろか、聡美の声に返事をする事すらできなかった。
10分ほどして、ようやく美雪はベッドから起き上がった。
「美雪ちゃん、ごめんね。ちょっといじめすぎちゃったみたいね」
聡美が申し訳なさそうに謝った。
「ううん、いいの。くすぐりがあんなに苦しい事だったなんて、初めて知ったわ」
美雪は、もうなんでもないといった顔で答えた。
「あ、いっけない。もうこんな時間。私、帰らなきゃ」
聡美は時計を見て、立ち上がった。
「うん、じゃあ、また明日ね」
美雪は聡美を玄関で見送った。
聡美の姿が玄関のドアの向こうに消えた後、再び自分の部屋に戻り、ベッドに横たわった。
そして、スカートの中に手を入れ、パンティーの、布が二重になった部分を指で撫でてみた。
そこは、ぐっしょりと濡れていた。
いつの間にそうなってしまったのか、自分でもよく分からなかった。
触れると、ジーンとした快感があった。
「や、やだ、あたし、恥ずかしい……こんな事、しちゃいけない……」
しかし、その感覚をもっと感じたい気持ちに逆らう事はできなかった。
我慢できなくなって、パンティの中に手を入れ、なおも激しくその部分を撫でさすった。
指で触れた部分が熱く疼き、快感の波が次々と生まれ、美雪を高みへと押し上げる。
あまりの気持ちよさに、美雪は夢中でそこを触り続けた。
さきほど聡美にされた時の感覚を思い出しながら、もう片方の手で脇腹をくすぐってみる。
どんなふうにくすぐっても、さきほど聡美にくすぐられたほどのくすぐったさは感じられない。
しかし、あの気の狂いそうなほどのくすぐったさを思い出すと、胸の膨らみの先の小さな蕾が固く尖り、パンティの中のぐっしょりと濡れた部分がより一層激しく疼く。
そこを指で触ると、いくつもの快感の波が湧き起こり、美雪の理性をどこか遠い所へとさらって行く。
「あっ、だめ、もうだめ……あっ……ああああぁっ!」
大きな快感の稲妻が美雪の身体の中を通り抜けた。
高い波が美雪をさらっていく。
美雪が初めて味わった、恥ずかしい快感であった。
身体から急に力が抜け、ベッドにぐったりと横たわったまま激しく息を弾ませる。
その時、よく知っている声が美雪を呼んでいるのに気づいた。
「美雪、美雪、悲鳴が聞こえたけど、いったいどうしたの?」
し、しまった。
ママが帰ってきたんだ。
うっかりしていた。
しかし、ママが帰ってきたという事実は、その時の美雪には、どこか遠い所で起こっている事のように思えた。
やがて部屋のドアが開き、ママの悲鳴が聞こえた。
両親が美雪を白百合女子学園に転校させる事を決めたのは、それからわずか数日後の事だった。
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