レディースデー |
窓のない会議室の机はコの字型に並べられ、サングラスをかけた男たちが座っていた。 ミカ・サイトウは、部屋の中央に、2人の女性と共に立っていた。 ミカは、自分たちを取り囲む男たちの視線を感じながら緊張していた。その顔は、猛獣の群れを前にして怯える小動物のようであった。このような場面は今まで何度か経験してはいるが、どうしても慣れる事ができない。 「サイトウさん、何も怯える事はありません。大丈夫。噛み付きはしませんから」 ミカの耳元で小声で励ます、ミカよりも年下のもう一人の女性の顔が、いつにも増して凛々しく美しく見える。 しかし、ミカは知っている。この凛々しい女性の表情は、見せかけだけなのだ。本当はミカと同じくらいに不安でたまらないはずだ。その不安を表に出さずにいられるのは、彼女が今までこのような状況を何度も切り抜けてきた経験を持っているからなのだ。 ミカには、自分を励ます目の前の女性が、自分よりも可哀相に思えてきた。このような状況を何度も経験する事など、ミカには耐えられない事なのだから。 「ありがとう、ヨシモトさん。心配しないで、大丈夫だから」 ミカは気を取り直して営業スマイルに努めた。 ユキ・ヨシモトの言うとおり、確かに噛み付きはしないだろう。しかし興奮して襲い掛かってくる可能性は十分考えられる。それでも、やるべき事はやらなければならない。それが仕事である限りは。 ユキが男たちに向かって話し始めた。 「皆さん、本日はお忙しい所を集まっていただき、誠にありがとうございます。早速、我が社の新製品を紹介したいと思います」 ユキは、そばに立っているもう一人の女性の肩に手を掛けた。 その女性は、ミカやユキとは明らかに違っていた。ミカやユキがスーツ姿なのに対し、その女性はメイド服姿だった。そして、その質素な顔は、しっとりとした落ち着いた笑みで満たされていた。 彼女は男性たちに深々とお辞儀をした。顔を上げた彼女の口から、落ち着いた声が流れた。 「はじめまして。リアル・メカニクス社製メイド型アンドロイド、メイドールです。もちろん、『メイドール』は商品名ですので、お買い上げ頂いた後でお客様のお好きな名前に変更可能です。メイド型アンドロイドという商品名のとおり、私たちはあらゆる家事をプログラムされております。掃除、洗濯はもとより、料理については格安の材料を使いながらも高級料亭にも負けない味をお約束します。栄養士の知識もインプットされておりますから、お客様の健康管理も完璧です。アダムズ計画の発動により婚姻制度が廃止されて、今年で20年。今や男性のみならず、女性たちの中でも、家事の正しい知識など心得ている者は少なくなってきております。私のベースとなった製品は、そのような若い女性たちにご購入頂き、彼女たちの生活を支援しております。その働きぶりは、彼女たちに大変好評であります。今回男性向けの新製品とするにあたり、夜のご奉仕に関するプログラムを大幅に追加・見直ししてございます。なにとぞご愛顧のほど、おろしくお願いいたします」 自らの製品紹介を終えると、メイドールは再び深く頭を下げた。 製品紹介を聞き終えた男たちは、隣同士顔を見合わせながら、小さく囁き合った。 その様子を見ながら、ミカはさきほどにも増して不安にかられていた。 男たちのこの反応は、これまで契約を取り付けた場面では見られなかったものだ。たいていの場合は、メイドールの礼儀正しさと、家事能力のスペックに驚嘆し、責任者は二つ返事で契約書にサインしてくれたものだ。それなのに、この男たちは何を問題にしてヒソヒソ話をしているというのか。 メイドールの自己紹介の内容が信用できないというのだろうか。いや、メイドールに関する女性客の評判は、彼らとて調査済みのはずだ。それではなぜ? ようやく意見がまとまったらしく、会議室は再び静寂に包まれた。 メイドールの正面に座っていた男が口を開いた。 「それでは質問させてもらおう。夜の奉仕というと、具体的にはどのような事ができるのかな?」 その質問に、ミカは愕然とした。 真っ先にそのような下品な質問が飛び出して来るなど、女性市場への売り込みではまず考えられない。予想はしていたものの、それが現実になるのを目の当たりにした今、嫌悪感を抑えずにはいられない。 アダムズ計画が発動されてから、女性の数は確実に減少している。計画の目的は、人間から動物的な欲望を性別と共に排除する事であったはずだった。しかし現実には、生産された男たちの中に、おぞましい欲望を以前にも増して強く持つ者たちが少なからず存在すると聞く。男児を生産する地下工場マザーファクトリーの遺伝子管理に不備があった事が原因ではないかとの意見も出されているが、工場関係者はこの意見に対するコメントを避けている。また、計画の発動前に生まれた現在20歳以上の男性は、昔と変わらぬおぞましい欲望を持ち合わせている。 いずれにしても、ミカは今、女性にとって非常に危険な場所に立っている事になる。なぜなら、ここは男たちの土地、男たちの勢力圏であり、この部屋にいる女性は3人、いや、人間の女性は2人だけなのだ。彼女たちをこの建物までパトホバーに乗せてきてくれた婦警は付き添いを申し出たが、ユキはそれを断わった。メイドールの言葉に興奮した男たちが襲ってこないという確証があるのか、それとも、襲われた時のための備えを隠し持っているのか。ミカとしては、そのどちらかでも当たっている事を願うしかない。 メイドールが男たちの質問に答えている間、ミカはその具体的な言葉の一つ一つに嫌悪感を覚えずにはいられなかった。 清楚な雰囲気をたたえた慎ましやかな女性の口から淡々と流れる淫らな言葉の数々。動作確認時に一度見た光景ではあるが、何度見ても慣れるものではない。 不意に、ミカはこのロボットがとても哀れに思えてきた。淫らな言葉を意味も分からないままプログラムに従って喋り続けるこの清楚な少女が可哀相でならない。 「もう結構だ」 質問をした男が手を上げて、メイドールの発言を制した。 「お気にめしましたでしょうか」 ユキが男に訊ねた。 「いや。君たちの製品を当社で販売する事は、どうやら見送った方がよさそうだ」 ミカは男の言葉に驚きを隠せなかった。 一体何がいけなかったのだろうか。さきほどの発言内容に問題があるとすれば、改善案を考えなければならない。しかし、ミカにはどこが悪いのかさっぱり分からない。ミカの感覚では全てが悪いように感じられるのだ。しかし開発部による調査結果に照らし合わせれば、男性客に売り込む事を前提にした場合に限れば、さきほどの発言内容は全く問題ないはずだ。それではなぜ? 顔を強ばらせて自問するミカをよそに、ユキの方はいたって冷静だった。 「申し遅れましたが、メイドールには特殊合成樹脂によって作られた人工の生体組織が使われております。特に、女性のあの部分の品質は最高のものと自負しております。夜の生活におきましては、本物と寸分違わぬ感触をお約束いたします。詳細につきましては開発担当のサイトウがお答えいたします」 「それでは、質問をしてよろしいかな?」 男の顔がミカの方に動いた。 サングラスのレンズの中央に自分の顔が映るのを見てミカは一瞬たじろいだが、気を取り直し、男の顔を見据えた。 男は続けた。 「君たちはそのロボットの開発に際して、我々の店に出入りする客が女性に対して抱く妄想や趣向をどのように調査したのかね」 ミカは答えた。 「男性の女性に対する心理につきましては、心理学者の論文を主に調査しました。また、男性作家による著名文学作品に登場する女性たちの描写をも参考にしております」 男の口元に、笑みが浮かんだ。嘲りの笑みだった。 「そのような方法では、残念ながら我々の扱えるロボットは作れないだろう」 男は手元のリモコンを操作した。 会議室のドアが開き、一台の台車が入ってきた。台車の上には、鉄筋が箱形に組まれており、その中にセーラー服を着た一人の少女がいた。 両手首を頭上の鉄筋にロープで縛られている為、腕をまっすぐ上に伸ばしたまま曲げる事ができず、両膝と両足首もまた台車の両脇にしっかりと固定されている為、立て膝で立ちながら太腿が大きく開かれている。 少女の穿いている紺色のスカートはあまりにも短く、大きく開かれたなまめかしい太腿をほとんど隠す事ができず、そればかりか周りの男たちが少し目の位置を低くすればたちまち太腿の付け根までもが見えてしまいそうなほどだ。 少女は拘束からなんとか逃れようと身体を懸命に揺すっているが、何の効果もない。 少女を乗せた台車は進む方向を自動的に調整しながらゆっくりと部屋の中を移動し、男の目の前で止まった。 少女の目が男のサングラスを睨んだ。 「またあんたか。さっさとこのいまいましいロープをとりやがれ!」 少女は拘束された手足を今までよりもさらに強く揺すって見せた。 その様子を楽しんでいるのか、サングラスの男が笑みを浮かべながら立ち上がった。机が脇に滑り、男は前に進み出て少女のすぐ目の前に立った。 少女の目が男のサングラスを鋭く見据えている。 「まあ、そんな目で睨むな。今日は客人がいるんだ。あちらの方々が君に対抗するロボットのアピールに来ている。今、あちらのロボットの夜の奉仕に関する機能について説明があった。お前も自分の夜の奉仕に関する機能について説明してあげなさい」 男の言葉に少女がきっぱりと答えた。 「何言ってるのよ。あたしは女の子よ。夜の奉仕だなんて、そんな恥ずかしい事するわけないじゃないのよ」 「そうかな?」 男は少女のスカートのファスナーに指を滑らせた。 「いやっ!」 少女の悲鳴と共に、スカートがハラリと台車の上に落ちた。少女のむっちりとしたお尻と、それを包む可愛らしい純白のパンティが男たちの目に晒される。 「それでは本当にできないのか確かめるとするか」 男は少女のパンティの腰のゴムに手を掛け、その部分にあるホックを外した。 「それはだめっ、いやぁっ!」 少女の叫びもむなしく、ついに少女の恥ずかしい部分を守っていたパンティまで少女の身体から離れた。 「だめぇ、見ないで!」 女の子に秘密の部分が露になってしまった少女は、その部分を男たちの目から隠そうと必死に身悶える。しかし、台車の上に拘束された脚は閉じることを許されず、頭上に拘束された両手もまた、大切な部分を隠す事など許される筈がない。そしていくら身をよじっても、周りを取り囲むいくつもの視線から恥ずかしい部分を隠す事などできるはずはなかった。 男たちだけではない。ミカもまた、少女のその部分をじっと見つめていた。 そこは、ほの暗い陰りなど存在しない、生まれたままの姿だった。 ミカは自分の過去を思い出してみた。陰りが出来はじめたのは中学に上がる少し前だったはずだ。背の高さやメリハリのある体つきは中学生よりも年上のように見えるが、その部分だけは中学生よりも低年齢の少女を模して作られているのだろうか。それとも、ただ単に省略されただけなのだろうか。それとも、それが彼らの店の客の趣向だとでも言うのだろうか。 「いやぁ、何すんのよ、エッチ! そんな所、触っちゃいやぁ!」 少女が甲高い悲鳴を上げた。 サングラスの男が少女の生まれたままの部分に左手を伸ばし、小さな割れ目を指で大きく広げたのだ。 男のもう片方の手には、いつの間にか習字用の筆が握られている。 その筆の穂先が少女の大きく広げられた割れ目の内側に入り込み、前後に動き始めた。 「だめぇっ、何これ、ああっ、いやぁっ、エッチ! ああっ、んあぁっ!」 少女の甲高い悲鳴が部屋に響く。 その悲鳴が聞こえないかのように、男は少女の敏感な恥ずかしい部分を悪戯し続ける。 「いやぁっ! もうやめて、ああん!」 「本当にやめて欲しいのか? それじゃ、これは何かな?」 男は少女の割れ目に指を滑らせると、その指を少女の目の前に持って行った。 指には透明な蜜がネットリとまつわりついていた。 「どうだい、俺の事をエッチだとか何とか言ってたくせに」 男が指を開いたり閉じたりする度に、透明な蜜が糸を引く。 それを見せ付けられた少女は、顔を背ける。 その顔に男はさらに指を近づけ、恥ずかしい証しを見せ付ける。 「こんなに生意気でエッチな子にはお仕置きが必要だな。だれか、この少女にお仕置きをしたい者はいるか?」 「それでは、私が」 男の席の隣に座っていた部下らしき男が前に進み出た。そして、少女の背後に回った。 「な、何をする気? いやっ、それはだめっ、きゃははは、やめて、お願い、きゃははははは……」 少女が甲高い笑い声を上げた。 少女の背後の男は少女の腋の下にセーラー服の上から手を当てると、指を妖しく蠢かせ始めたのだ。 少女は激しく笑いながら腋の下を必死に閉じようと、拘束された腕を激しく揺するが、一向に効果がない。 「やめて、もうやめて、お願い、きゃはははは、もうだめぇ、きゃはははは……」 「本当にやめてほしいのかな?」 少女の目の前の男は再び少女の生まれたままの割れ目を指でくつろげた。 透明な恥ずかしい証しが零れ、指を伝う。 「さっきよりもビショビショじゃないか。本当はもっとくすぐってほしいんじゃないのか?」 「そんなわけないでしょ! きゃはははは、もうやめてぇ!」 「ますます生意気なお嬢さんだ。どうやら別なお仕置きも必要なようだな」 男は、大きく広げられた少女の割れ目の内側に再び筆の穂先を差し入れ、静かに動かしはじめた。 「ああっ、そこ、だめぇ、きゃはははは」 少女の甲高い笑い声に桃色の喘ぎ声が混じり始めた。 筆が動く度に、少女の身体が震え、身悶える。 筆の動きが少しずつ激しくなるにつれ、少女の淫らな身悶えと喘ぎ声も激しさを増し、それが恥ずかしくてたまらないとでもいうように、少女の可愛らしい歪んだ顔が赤く染まって行く。 「ああっ、もうだめぇ、もう、ああああぁぁっ!」 少女がひときわ高い喘ぎ声を上げた瞬間、身体がビクビクと震えた。 男の筆がイタズラしていた部分から、透明な一筋の噴流が迸り、男の手を濡らしたかと思うと、台車の上を激しく叩き、飛沫を上げた。 「いやぁっ、お願い、見ないで!」 少女が叫んでいる間も噴流は勢力を失わず、台車の上には水溜まりが広がり続け、床の上に流れ落ちる。 床の上にさらに大きな水溜まりができた所で、ようやく噴流がおさまった。 少女の腋の下をイタズラしていた男は、いつの間にか少女のそばを離れ、自分の席に戻っていた。 少女の目の前の男は満足そうな笑みを浮かべながら、恥ずかしげに目を閉じ真っ赤な顔を震わせている少女の耳元で囁いた。 「大勢の人たちの前でおもらしとは、ずいぶんと恥ずかしいお嬢さんだ。後でもっともっとお仕置きをしてあげるから、少し待っておれ」 男は席に戻ると、再び手元のリモコンを操作した。 台車が動き出し、自動的に開いたドアの向こうへと消えていった。 男は濡れた手をおしぼりで拭きながら、ミカの方に顔を向けた。 「今のはサイバーライフ社の主力製品『ギャルロイド』だよ。昨年発表されて以来、我々の取り扱う商品の中で最高の売り上げを維持している。なぜだか分かるかね?」 ミカはスーツのポケットから小さな測定器を取り出すと、床の上に広がりほのかな湯気を漂わせている水溜まりにプローブを浸した。測定器のディスプレイにいくつかのグラフや文字が映し出された。 「彼女の身体には、本物のヒトの生体組織が使われていますね」 「そのとおり」 ミカの言葉に男が答えた。 「人間の遺伝子から、脳の形成や我々の客の嗜好にそぐわないいくつかの物の形成に関わる部分を削除し、代わりに無線通信組織を形成する為の遺伝子を組み込む。その遺伝子を人工卵細胞に入れて孵化させ、育てたものだ。コントロールは外部のコンピュータから無線で行なう。生体組織の成長に伴う無線通信組織の特性変化には、通信ソフトの持つ補正機能で対応する。他メーカーからも生体組織を使ったロボットは多数発表されているが、いずれも制御コンピュータ、あるいは金属製の通信機を体内に埋め込んでいる。無線通信組織の遺伝子に関する特許をサイバーライフ社が握っているからだ。サイバーライフ社の製品は、生体組織に触れる金属部分の腐食や生体組織の成長に伴い必要となる高額なメンテナンスを必要としない。それに、医療の専門知識を持たないユーザでも制御コンピュータのバージョンアップを簡単に行なう事ができる。それはつまり、今流行のプログラムを自分のロボットに実行させる環境が、コストをかける事なくいつでも簡単に整えられるという事なのだ。 ちなもに、さきほどお見せしたプログラムは、アンドロイド用フリーウェアを開発しているボランティアグループにより作られた『調教不良娘』だ。ロボットメーカー製のこの手のソフトは、教えられた芸を一度で覚えてしまうが、『調教不良娘』はその名の通り、何度調教を繰り返しても、教えられた芸をただの一つとして覚える事はない。しかし、その代わりにいたいけな少女のさまざまな反応を楽しめるというわけだ。それも基本反応として用意された512通りだけではない。このプログラムは芸こそ覚えないが、ユーザの調教に対して自分の表出したどんな反応がユーザをどの程度興奮させたかをユーザの表情や態度や言葉、声の変化などから解析でき、そうして得られた履歴に基づき、より有効な新たな反応を無数に生成する事ができるのだ。無償のプログラムでありながら、我々の間でもかなりの話題になっている。君たちも名前ぐらいは聞いた事があるだろう。だが実際にその動作を見てみると、ロボットを作る立場の者ではなく、使う立場の者が開発しただけあって、ユーザのツボというものをよく捕らえており、そのツボに高度な技術が集中的に注ぎ込まれている、そう思わないかね?」 ミカには、そのツボというものが何なのかさえ分からなかった。 だが男が言いたい事は分かった。『調教不良娘』を実行する事のできないロボットは、男たちの市場には受け入れられない、という事だ。 ミカは答えた。 「おっしゃる事はよく分かりました。早速改良案を検討して参ります」 それは、今回の説明会で、メイドールを売り込む事を諦めた事の意思表示に他ならなかった。 『調教不良娘』が動作するからには、ロボットの身体は生体組織である事が望ましい。その場合、ユーザにメンテナンスコストをかけさせない為には、体内に埋め込む無線通信機もまた生体組織である方が望ましいのだ。しかしそれを真似すれば、特許を侵害する事になる。特許侵害をまぬがれる為には、代案を考える必要がある。 男たちの要求を満たすためにはさらなる開発期間が必要た。今回は素直に諦め、問題を解決した後で出直すしかない。 「それでは、次回の新製品に期待しているよ」 男たちが席を立とうとしたちょうどその時、ユキの声が部屋に響いた。 「待って下さい!」 男たちの動きが止まった。 「私にもう一度、新製品の魅力を説明させて下さい」 ユキは男のサングラスを見据えながらそう言うと、視線を動かさずにミカに小声で伝えた。 「あなたは先にホバーに戻ってて。あたしもこの『説明』が終わったら、すぐ行くから」 「わ、分かりました」 ミカはユキの周りに漂う張り詰めた空気に気圧されるように部屋を出た。 ユキはドアが閉まったのを確かめると、サングラスの男に向かってゆっくりと歩き始めた。 「いくらギャルロイドが生体組織を使っているとはいえ、その心はしょせん偽りの人工物でしかないわ。本物の心を持った女と偽りの心を持った少女、どんなふうに違うか、たしかめてみたくないかしら?」 ユキはそう言いながら、スーツのボタンに手をかけた。
――遅い! |
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