キャンサー作品

遺棄船の罠

プロローグ
時は西暦2404年。
人類は外惑星進出時代に突入していた。
既に隣星とも言える月・火星・金星には居住可能な施設が数多く建築され、億単位の人々が移住し、故郷とする事で人口密度問題は遙か過去の出来事となった。
各惑星の地下に眠る資源・エネルギー源の採掘のみならず、太陽(恒星)から放たれる恒星風をエネルギーに変換する技術、宇宙空間に漂う物質を有効利用する技術が確立され、宇宙での活動が難しい物ではなくなり、人類の進出は火星を離れたアステロイド(小惑星帯)を超え、木星圏に達し、木星の各衛星の開発にまで及んでいた。
しかし、そうした人類の生活圏が拡大しようと、拭い去れない問題があった。各惑星へ至るまでの航海の間の危険である。
開発が進んでいる各惑星圏では、その宙域の安全は確保されていたものの、隣の惑星までの距離は人類にとっては途方もないもので、ご近所の道を歩くなどと言う気楽な気分では行き来する事はできなかった。
特にアステロイド帯より先では、その空間があまりにも広大であるため、保証された安全な航路も確立されておらず、木星圏に達する迄に何割かの宇宙船が、帆船時代の船による大航海同様、何らかのトラブルを起こしていた。
それは機械的・人為的ミスとあらゆる内容で様々とあり、人類の更なる宇宙進出の課題にもなっているのが現状であった。

この物語はそんな世界の片隅で始まる、些細で奇異な出来事である。


戻る 1章