朝霧作品

補佐という役職の本当の役割

第1章
 都内のとある高級住宅地。
 そこに成兼(なりかね)という大富豪の屋敷がある。
 屋敷内には大きな部屋がいくつもあるだけではなく、スポーツ施設などもあった。
 屋敷の主である成兼は、現在70歳で、その総資産は安く見積もっても数千億は有にあると言われていた。
 お屋敷には、数十人もの使用人が働いていた。 
 ある日、その豪邸がとある求人を出した。
 ”4月から、屋敷に住み込みで働ける清掃員の補佐としての使用人 一名募集”
 ”雇用期間は一年間(指導者として1ヶ月間の雇用延長有り)”
 ”主な業務内容は屋敷内の清掃員の補佐業務”
 という書き出しから始まっていた。
 名声を欲しいがままにする資産家の屋敷で働ける求人である。
 しかも、業務内容や給料は、他の求人と比べてもずばぬけていた。
 当然、この求人は、求職者たちの間で、少なからず騒ぎになった。
 一方・・・・・・。
 とある都立高校に、原桃香(はら ももか)という、ごく普通の、卒業後は就職を希望している女子高生(3年生)がいた。
 桃香は、150cmの小柄な体系にもかかわらず、その胸だけは発育良好でDカップまで育っていた。
 母親ゆずりの少し茶色い髪の毛を短く揃え、その髪の毛の左右で、白いリボンを使って小さな”ツインテール”をつくっていた。
 無駄なホクロ一つすらない綺麗な体は、同級生から一目置かれていたほどだった。
 「桃香、すっごく可愛いんだから、案外、あっさりと気に入られるかもよ?」
 休み時間。
 不意に、友達のひとりが、成兼邸の使用人に関する求人を持ってきて、桃香に見せながら言った。
 「ええ!?む・・・無理だよ。そんな立派なお仕事」
 「きっと応募者だってたくさんいるだろうし・・・」
 その場は笑ってごまかした桃香だったが・・・。
 「別に、不採用になっても、なにかされるわけじゃないもんね・・・」
 ちょっとした好奇心から、その求人に応募してしまったのだった。
 だが・・・。
 ダメでもともと、くらいの軽い気持ちで応募をしたところ、実際に屋敷での一部屋の清掃を行う”採用試験”に呼ばれてしまった。
 試験官として、現在”清掃員・補佐 指導員”という役職の沼田ゆうこという先輩に見られながらの制限時間内の、部屋の清掃業務を行った。
 (とにかく、今はやれるだけやってみよう・・)
 桃香は無我夢中で頑張った。
 そして、採用試験終了後・・・
 予想外の出来事が待っていた。
 この屋敷の主である成兼みずから、試験終了後に様子を見に来て、こう言った。
 「お疲れでしょう?全身マッサージのサービスを受けていくといい」
 どうやら、採用試験参加者全員に、屋敷専属のマッサージ師による全身マッサージを提供しているらしい。
 「あ、えっと・・・その・・・」
 「はい。ありがとうございます」
 桃香は一度、頭を大きく下げたのだった。
 
 ただ、本心では、桃香はこのマッサージだけは嬉しくなかった。
 「うう・・・・ふふっ・・・・・」
 「・・・・っ!?・・・・・・あっ・・・・」
 理由は二つ。
 まず一つ目は、格好。
 桃香は、このようなプロのマッサージなど、受けたことがなかった。 
 なので、完全個室で、たとえ相手が女性の先生であっても、全裸になり上にタオルを
 乗せただけの格好というのに抵抗があった。
 そして、二つ目・・・。
 こちらのほうが、桃香にとっては致命的な問題であった。
 (く・・・・くすぐったいよぉ・・・・・)
 (はやく・・・・はやく終わってぇ・・・)
 桃香は人一倍、くすぐったがりやだったのである。
 「ふひっ・・・・・っ!?・・・・」
 桃香は、自分が人一倍くすぐりに弱い自覚があった。
 だが、ここで、せっかくお屋敷側が提供してくれたマッサージを拒否したら、もしかしたら印象を悪くするかもしれない。
 そうなれば、この試験の結果にだって、悪影響だろう。
 だから、桃香は顔をくすぐったさに歪めながらも、こっそり口元を押さえ、必死に笑いを我慢した。
 (うう〜・・・・まだ?まだなの〜!?)
 (だめぇ・・・・・くすぐったいよぉ・・・)
 足の裏や、太ももまわり、わき腹を揉まれる度に、桃香に我慢しがたいくすぐったさが襲ってくる。
 桃香の表情がくすぐったさにゆがみ続ける。
 「・・・っ!!」
 それでも、なんとか、声を出さずに我慢し続けた。
 だが、”そこ”だけは、どうしても我慢できなかった。
 「ひゃあ!?」 
 マッサージ師の両手が桃香の両腋の下を通ったその一瞬。
 桃香ははっきりと驚いた声を出し、とっさに腋の下閉じてしまった。
 (やっちゃった!)
 「あっ、あの・・・」
 すぐに申し訳ない気持ちになり、思わず女性マッサージ師を見上げる桃香。
 一方のマッサージ師は微笑を浮かべていた。
 「ごめんなさいね。もしかして、腋の下は苦手だった?」
 どうやら、機嫌を損ねてはいないようだった。
 桃香は苦笑いを浮かべて、言った。
 「ごめんなさい。私、実はくすぐったがりで・・・」
 「特に腋の下は人一倍、敏感なんです」
 桃香がそういうと、マッサージ師は軽く頭を下げた。
 「そう。ごめんね。なるべく、くすぐったくないようにするから、もう少しだけ我慢してね」
 そういって、再び、マッサージを続ける女性。
 だが、配慮をしてくれたらしく、その後は確かにそれほどくすぐったくはなかったのだった。
 そして、マッサージ終了後、桃香は今後の合否の連絡方法等、事務連絡を受けてから、改めて一度、成兼に一礼をし、帰宅したのだった。
 
 それから、5日後・・・。
 桃香の自宅に封筒が届いた。
 そこには確かにこう書いてあった。
 ”使用人(清掃業務・補佐 従事)採用試験の結果、採用となりましたことをここにご通達いたします”
 「うそ・・・本当に?」
 桃香自身、まさか自分のような一般人があのような豪邸に雇ってもらえるとは思っても見なかった。
 「よーし、頑張ろう!」
 桃香は一人、採用通知書を抱きかかえながら気合を入れたのだった。
 
 こうして、桃香は4月から1年契約で、成兼邸で働くことになったのである。

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