キャンサー作品

ホーリーアーチ

プロローグ
 22世紀初頭、人類は持ち前の宇宙開発力を飛躍的に進歩させ、太陽系の全惑星にその足跡を残せるに至っていた。
 だが、宇宙は果てしなく広大であった。物理的な距離も、知識的な事実も・・・・・・限られた空間での常識しか知らない彼等に、「異なる常識」の存在など、夢物語でしかなかった。





『私は外惑星域哨戒船『フロンティア号』一級航海士レミ。この通信を最後に冷凍睡眠に入り救助を待ちます。設定惑星である火星圏到達は1998日後。救助されることを期待します』
 薄暗い宇宙船のコクピットの中で、救助信号を交えた通信を送り終わった女性は、通話マイクを戻すと大きく息を吐いた。
(信じられない・・・・・あれは本当に現実だったのかしら・・・・・・)
 つい数時間前、実際に体験した事を思い起こして尚、彼女はそれを信じきれずにいた。だが、出来事は事実であった。冷静に、客観的に見る者がいればアレをどの様に判断したかは分からない。だが、当事者である彼女達は生命の危機に直面し、仲間も失っている。
 だが、それも今や過去の事。過ぎ去って戻ることのない事であった。その事が、唯一の彼女の救いと言えた。


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