雲一つない青空の下。舞姫女子学園高校の校舎は、昨日までとは見違えるような美しさを誇っていた。
殺風景だった壁は、様々な色に光り輝く紙を切って作られた複雑な模様で埋めつくされ、屋上の時計台には青く輝く三角形の屋根が取り付けられている。同じような屋根が、屋上の数カ所にも置かれており、遠くから見ると、校舎全体が異国の城のように見える。
校舎の前に広がる校庭では、様々な衣裳に身を包んだ生徒たちが、来場者たちにビラを配っている。
校庭を挟んで校舎の向かいにある正門の前には簡素な机が並べられ、数名の生徒が着席し、道行く人びとに目を走らせていた。
若い女性ばかり数名の家族連れが、校門に入ろうとした時、生徒の一人がすかさず呼び止めた。
「すいません。失礼ですが、免許書か保険証を拝見させて頂けますでしょうか」
生徒の言葉に応え、若い女性全員が服のポケットから何かを取り出して見せた。一人は運転免許証、残りの者は学生証だった。
生徒はそれらを確認すると、思わず声を上げた。
「あなた方はもしかして、柳沢美鈴さんの……」
「はい、家族の者です」
運転免許証を手にした最も年長の女性、柳沢聡子が答えた。机の前に座っている生徒たちを見回しながら、つけ加える。
「ずいぶんと厳重なのですね」
「はい。殿方の中には、女装してでも潜入しようとする邪な輩がいないとも限りませんので」
生徒はにこやかに笑いながらそう答えた。
壁や天井に隙間なく貼られた摸造紙には、木目や障子、それに仏像などが描かれ、教室の中を、まるでどこかのお社の内部であるかのように見せていた。
その教室が段ボールの壁でいくつかの区画に区切られている。もちろん、その段ボールにも木目の描かれた摸造紙が貼られ、手を触れなければ、まるで本物の木の壁のように見える。
入口を入ってすぐの所にあるスペースに並べられた椅子はすでに満席状態で、さらに十数名の女性が壁際に立っている。
「笑い巫女をくすぐって笑わせると、笑い声と同じ大きさの幸福がやって来るって、本当かな」
「バカね、そんな事、本当にあるわけないじゃないの」
「でも、その笑い巫女って、超能力者だっていう話だよ」
「単なる噂よ」
そんな言葉をヒソヒソと交わしているのは、入口付近の壁際に立つ、近くの女子高の制服を着た6名のグループ。
椅子に座っている女性たちも、隣同士で笑い巫女の噂話に花を咲かせている。
連れの子供に何やら熱心に指導する女性の姿も見える。
「手をこうやって、指をこういうふうに動かすのよ。さあ、やってみて。それでいいわ。とっても上手よ」
そんな彼女たちの様子を、美鈴は壁の陰から伺っていた。
「これじゃ私、他の教室を見て回る暇なんてないわ。そればかりか食事の時間も……。もうすぐお昼だっていうのに」
一緒にいるクラスメイト数名が紺色の和服を着ているのに対し、一人だけ白い着物に緋袴といった、いかにも巫女風の恰好をしている。
「仕方がないわ。これ以上あなたを希望するお客さんが増えない事を祈りましょう」
そう言いながら、クラス委員長の近藤真希子が、天井から降ろしたロープの端を振って見せる。
美鈴は小さく頷くと、委員長の所まで歩み寄り、両手を上に上げた。その両手首を、委員長がロープで縛る。
「それでは、次の方、どうぞお入り下さい。あ、お連れ様ですか、それではご一緒にどうぞ」
案内係を務めていた琴音が壁の向こうへ出て、新たな客を招き入れた。先ほど盗み見た、女子高生のグループだ。
「この子が、笑い巫女?」
彼女たちの一人が、両手を拘束されながらも落ち着いた笑顔を見せている美鈴を頭からつま先まで見回しながら尋ねた。
「そのとおりです、お客様。大声で笑わせれば、きっとあなたがたに幸福がもたらされるでしょう。もちろん、保証はいたしかねますが」
琴音はそう答え、先を続けた。
「パンフレットにも掲載のとおり、この子の身体にはくすぐりに対してこれといった弱点がありません。ですから、皆さんで手分けして、いろんな箇所を徹底的にくすぐってあげて下さい。手の位置を少しずつ変えながら、強弱に変化を付けて」
その説明に、さきほどの少女が笑顔で頷く。
「ありがとう。でも、ご心配には及びませんわ。何と言っても私たち、くすぐり部のメンバーなのですから」
「くすぐり部?」
「そう。私たちの学校では、簡単に新しい部を作ることができるのよ。だから私たち、くすぐり部を作って部を集めて、放課後集まってくすぐり合ってるの。といっても、部員は私たち6人だけだけどね」
「それでは、さっそく始めさせて頂きましょうか」
少女たちの別な一人のその言葉に、彼女たちは一斉に頷いた。手を上に上げた状態で拘束された美鈴を取り囲み、無防備な腋の下や脇腹、お腹や背中、太腿や脹脛に、服の上から指を食い込ませた。それらの何十本という指が、一斉に激しく動き始める。狂おしい刺激が美鈴の全身に送り込まれた。
「きゃはははっ、それ、凄いこんなの、きゃはははははぁ!」
それは、今日の学園祭で初めての凄まじい刺激だった。これまでの客とは明らかに違う、激しく変化する指の動き。そして、少しずつ位置をずらしながら、弱点を素早く探り出す卓越した技術。
着物と緋袴の布地は薄く、這い回る指の動きによる妖しい刺激を繊細な皮膚にくっきりと伝える。
動き始めてから数分程度で、彼女たちの指は美鈴の上半身に散らばるいくつもの弱点を探り出していた。そこから送り込まれる刺激の狂おしさは、長年に渡り美鈴をくすぐり狂わせて来た家族にも匹敵するほどだ。
その耐え難い刺激の嵐のなすがままに、美鈴の身体は激しく痙攣し、甲高い笑い声が咽を突いて迸り続ける。
その狂おしい笑顔を、思わず食い入るように見詰めていた琴音は、けたましいアラームの音で我に返った。机の上に置いたタイマーが、設定されていた時間の到来を告げていた。
「はい、時間です」
琴音がパンパンと手を叩くと、美鈴を狂わせていた無数の指が動きを止めた。
激しく息を弾ませる美鈴。その耳に、いくつもの拍手の音が届いた。顔を上げた美鈴は、思わず叫んだ。
「ちょっと、いつの間に!」
美鈴の視線の先で手を叩いていたのは、母親の聡子と姉の理奈、そして妹の詩織だった。三人とも、美鈴と同じ、巫女風の和装だった。
「委員長さんにお願いして、衣裳借りてみたの。どう? 似合ってるかしら?」
理奈が踊るように一回転して見せた。
「美鈴はそろそろ交代の時間だって聞いたわ。それなのに、あまりにも希望者が多くて、抜けられないそうね。私たちが代わってあげようか?」
「本当? それ、助かるわ」
美鈴は姉の申し出に、素直に喜んだ。
「その代わり、今夜、彼女たちを家に呼ぶのよ。それで明日の朝までみんなで楽しむの。どう? 素敵でしょ?」
姉のその言葉に、今度はくすぐり部のメンバーたちが手を叩いて喜んだ。
「どこから回ろうかしら」
制服に着替えて廊下に出た美鈴は、手に持ったパンフレットを開いた。一クラス2ページで各クラスの紹介が書かれている。大学ノートのどの大きさの一枚の紙の両面という限られた紙面で自分たちをアピールするために、各クラスとも様々な工夫を凝らしている。
それぞれの生徒のくすぐりに対する弱点などを事細かに紹介しているクラスもあれば、生徒たちの紹介を最小限度に留め、ページの大部分を占める絵で客の注目を引きつけようとするクラスもある。
美鈴のクラスのページには、どこかの宮廷で儀式を行なう数人の巫女たちの厳かな絵が大きく描かれていた。巫女たちの肌の白さや紅白の衣裳、それに背景の壁を彩る金銀の装飾が鮮やかだ。
その代わり、詳しく紹介されている生徒は、美鈴や、他数名のみとなっている。
「ねえ、ここ、あの人のクラスじゃないかしら」
琴音に言われて入口の標札を見上げる美鈴。いつの間にか、だいぶ歩いたようだ。廊下の脇には二年生の教室が並んでいる。
標札に書かれた文字を読んで、美鈴は思い出した。最近まで病院に入院していた相沢千春は、このクラスに入ったはずなのだ。
「クラスのテーマは魔女裁判だって。ちょっと不気味だけど、面白そうかも」
琴音が開いていた自分のパンフレットを見せてくれる。十字架に磔にされて、甲胄を着た兵士たちに、先が手の形をしていたり羽がついていたりする棒で寄ってたかってくすぐられる、黒衣の少女の姿が描かれている。
確かに魅力的な絵ではあるが、たとえそれがなくても訪れるべきクラスだった。今日という日を迎えられたのは、千春の懸命な説得があっての事なのだから。
窓が暗幕で覆われた教室の中は、暗かった。その闇の中で、壁に貼られた資料や絵がスポットライトで照らされている。
ギロチン台や十字架など、実際に魔女裁判で使われたとされる道具に関する資料。そして、実際に魔女の容疑者が火あぶりの刑にかけられようとしている場面を描いた絵。
激しく燃える炎の音に乗せて流れる不気味な音楽もまた、場の雰囲気を際だたせていた。そして、甲高く響く女性の笑い声。
見れば、並べられた椅子に座って順番を待つ客たちの前で、露出度の高いビキニ鎧姿の数名のクラスメイトに手足を拘束された黒衣の少女が、数名の客に脇腹や腋の下をくすぐられ、笑い悶えている。
「きゃはははぁ、だめぇ、くすぐったい、私、そこ弱いの、お願い、きゃははははは!」
客による容赦のないくすぐりに甲高い笑い声を上げているのは、病院で見たあの少女だった。
黒いレオタードの上に薄く黒い布を羽織り、肩から膝のすぐ上までを覆っただけという、密着度の高い服装。その布は、敏感な柔肌に指の動きをくっきりと伝え、刺激の嵐を容赦なく送り込む。
「やめてほしいか。ならば認めるのだ。自分はその妖しげな美貌と笑い声で人びとを惑わす魔女であると」
甲胄で頭からつま先までをすっぽりと覆った女性が、笑い悶える少女の前で叫ぶ。その声に、美鈴は聞き覚えがあった。
「あの甲胄、まさか……」
琴音も気がついたようだ。甲胄の中の者が、少女の姉であり、教育委員会の調査員であり、この文化祭のイベントを中止に追い込もうとしていた、相沢柚葉である事に。
先客は多く、美鈴と琴音は実際にはかなり長い間待たされていたのだが、上級生の笑い悶える姿を楽しみながらの待ち時間は、あっと言う間だった。
いよいよ美鈴たちの番という時になって、突然甲胄が声を上げた。
「しぶとい女だ。これだけ責め続けても、自分の正体を明かさぬとは。まあいい。今度はお前の仲間の番だ。仲間が身悶える姿を見れば、お前の考えも変わるであろう」
甲胄が、段ボールで出来た壁の向こうへと歩み去り、笑い疲れてぐったりとしながら激しく息を弾ませる千春の両手を抱えたビキニ鎧姿の生徒たちが後に続いた。
一体どうなっているのかと、他の客たちが騒ぎ始めた時、再び甲胄が姿を現した。そして、二人の生徒に腕を抱えられた黒衣の女性がその後に続く。しかし、彼女は千春ではなかった。
「あなたたちが責めたいのは、私ではなくて?」
黒衣をまとった相沢柚葉が、美鈴をまっすぐに見据えていた。
「遠慮などいらぬぞ。さきほどの魔女が正体を明かすまで、この者を存分に責め立てるのだ」
甲胄から聞こえたその声は、さきほどまで激しく笑い悶えていた千春の物だった。
美鈴と琴音は顔を見合わせ頷き合うと、椅子から立ち上がり、黒衣の柚葉に近づいた。
美鈴が後ろに、琴音が前に立ち、無防備な腋の下や脇腹に指を当てる。それらの手を、柚葉の張りつめた視線が交互に見つめる。指を服の上から食い込ませ、激しく蠢かせると、柚葉のクールな美貌が大きく歪み、甲高い笑い声が教室に響いた。
その笑い声に負けない大声で、甲胄の中の千春が紹介する。
「皆さん、さきほどの魔女の仲間と思われるこの女、実は現役の教育委員会調査員なのです。そして、彼女を責める二人の乙女は、くすぐりくするられる事により神の言葉を人びとに伝える笑い巫女。このような堅い女性が彼女たちのくすぐりによってどうなるか、とくとご覧あれ」
千春の言葉に、客席からはどよめきの声が上がった。
しかしそれらの声は、柚葉の悲鳴と笑い声にかき消され、誰にも聞き取る事はできなかった。
廊下に出た美鈴と琴音を見送るように、甲胄の頭部の兜だけを外した千春が出口に立った。
「柚葉さん、大丈夫かしら」
独り言のようにつぶやいた美鈴に、千春が答えた。
「心配する事ないわ。お姉ちゃんは、この文化祭を中止に追い込もうとした張本人ですもの。これぐらいやってもらわなきゃ。それに、一度あなたたちにくすぐられてみたいって言ってたから、お姉ちゃん、きっと嬉しかったと思う」
教室の中には、他の客数名にくすぐられる柚葉の激しい笑い声が響き続けている。
廊下を歩き始めた美鈴と琴音に手を振ると、千春は小脇に抱えた兜をかぶり、再び教室に戻った。
美鈴たちが次に訪れたのは、二年三組の教室だった。最近まで親に登校を止められていた、三宅真希子のクラスである。
入口の前には、メイド服姿の生徒二人が立っていた。
「いらっしゃいませ」
二人のメイドが声を揃えて挨拶し、美鈴と琴音を教室の中へ招いた。中で待機していた別のメイドが案内する。
壁には唐草模様の描かれた壁紙が一面に貼られ、所々に絵と文章で埋められた別な摸造紙が貼られている。様々な時代に世界各地で使われたメイド服に関する解説だった。
黒を基調としたエプロンドレスにカチューシャという、現代の一般人が考える標準的なメイド服以外にも、古代日本の家政婦が使っていたという質素な和服から、王国の宮廷で使われたという色とりどりの宝石で飾られたドレスまで、一口にメイド服といえど、その種類は千差万別である事が示されている。
教室の生徒たちが着ているメイド服は、皆に標準的と思われるタイプではあるが、よく見ると、カチューシャや胸元のタイの形、スカートのプリーツの数など、皆少しずつ違っている。
椅子の並べられた客席の前で、メイド服を着た三宅真希子が他の二人のメイドに左右それぞれの手を抱え込まれ、無防備な腋の下や脇腹、腰などを三人の若い女性にくすぐられ、笑い悶えている。
「お客様の前で粗相をしたお仕置きよ。笑ってたらダメでしょ?」
「そうよ。それじゃ反省の色が全く見えないわ。まだまだお仕置きが足りないのね。さあ、お客さん、もっともっとくすぐってやって下さい」
真希子の腕を抱える二人のメイドが、謳うように言い放つ。
その言葉に促されるように、客の女性たちの指の動きがますます激しくなって行く。
「彼女、よく学校に来れるようになったわね」
琴音は美鈴の耳許で囁いた。声をひそめたわけではないが、普通に話したのでは笑い声にかき消されて声が聞こえないのだ。
美鈴も琴音の耳許に口を近づけて答える。
「学園祭でのこのイベントの実施について教育委員会から許可が降りた後、担任の先生が家庭訪問に行って、親を説得したそうよ」
その事は、美鈴の担任である椎名先生から聞いた話だった。しかし、どのようにして説得したのかまでは、椎名先生も知らないらしかった。
真希子の母親は、人間が笑う事を不真面目な証として忌み嫌っていたと聞いている。くすぐりは脳を刺激して働きを活発にするし、笑い悶える事が有酸素運動にもなるから健康に良いのだ、とでも言ったのだろうか。
真希子の笑い声を聞きながら、美鈴は手に持ったパンフレットを今一度めくって見る。そこには、各クラスの生徒達が考えた、それぞれのくすぐりの形が描かれている。
巫女の儀式、魔女裁判、そしてお仕置き、その他にも拷問から女王様の秘密の趣味まで、実に多彩なくすぐりが紹介されている。
それは、人の口にする料理が地域や時代によって異なるのと似ている。食文化が多彩であるのと同様に、くすぐりもまた多彩な形態を持つ文化である事を、そのパンフレットは物語っていた。
メイドに扮した真希子をひとしきり笑わせ身悶えさせた美鈴と琴音は、その後もいくつかの教室を回った。
ある教室では「世界の王宮」の名のもとに、くすぐり合う女神たちを描いた精巧な絵が壁に飾られ、女王様のようなドレスを着た女子生徒をくすぐる事ができた。
またある教室では「夏のバカンス」の名のもとに、南国の海岸の風景の写真が壁一面に貼られ、ビキニ姿の女子生徒をくすぐる事ができた。
「日本の女子校、世界の女子校」と称して、世界中の様々な学校の制服を着た女子生徒をくすぐれる教室もあった。
それらの教室を回りながら、美鈴は改めて、くすぐりという文化の幅広さと奧深さを実感したのだった。
ただ一つ、全ての教室に共通していたのは、くすぐられている生徒ばかりでなく、くすぐる客や、それを見ている客たちも一緒に笑っていたという事。
たとえどんな姿であろうとも、くすぐりは全ての人に笑いをもたらす。それはとても素晴らしい事なのだと、客や生徒たちの笑顔を見ながら美鈴は思うのだった。
校舎内に絶え間ない笑い声を響かせた文化祭は、日没と共に幕を閉じた。
後片付けを済ませ、家に戻った美鈴を出迎えたのは、さきほどくすぐり部員を名乗った女子高生たちだった。
理奈や詩織も彼女たちの後ろでにっこりと微笑んでいる。
「それじゃ、さっそくさっきの続きをしましょうよ」
女子高生たちの一人がそう言ったのを合図に、彼女たちは一斉に美鈴に襲いかかり、あっと言う間に地下室のX字のハリツケ台に拘束してしまった。
無防備な美鈴の身体に、くすぐりを究めた無数の指が一斉に襲いかかる。脇腹や腋の下、腰やお腹、肩、背中、太腿や脹脛など、あらゆる敏感な部分に凄まじい刺激が送り込まれ、耐え難い嵐が全身に吹き荒れる。
「きゃははは、くすぐったい、だめ、もうだめぇ、お願い、きゃはははははぁ!」
美鈴の口から甲高い悲鳴と笑い声が迸る。
女子高生たちのくすぐりは、凄まじく耐えがたい物だった。無数の指の一本一本が、すでに学校で探り出していた美鈴の弱点をしっかりと覚えていた。
それらの弱点を責められるのに、どうにか慣れ始めたと思うと、それらの指は少しずつ場所を変えながら、新たな弱点を的確に見付けるのだ。
彼女たちの指は、蠢き始めたその時から、美鈴の身体を知りつくした家族をも凌駕するほどの刺激を送り込み続けていたのに、時間が経つにつれて、さらに激しさを増して行く。
「きゃはははぁ、もうだめ、きゃははは! もう、もう……」
耐えられない、と思った。でも、やめて欲しいとは思わない。
母の聡子をも上回る凄まじい刺激に、今にも意識がバラバラに砕かれそうだった。痛みとは全く異なる甘い刺激、決して身体を傷付ける事はないのに激しく耐え難い不思議なその感覚を、いつまでも味わっていたい。
身体が勝手に反応し、手足を閉じて刺激から逃れようとするのを、手足の拘束が防いでくれるのがありがたい。
いくつもの甘く凄まじい風が美鈴の理性に突き刺さり、砕き始めていた。身悶えていた身体から少しずつ力が抜けて行く。
風は次第に甘さを増し、重いゼリーとなって美鈴の身体を飲み込んだ。そのゼリーの海の底へ向かって、美鈴は力なくもがきながら、ゆっくりと沈んで行った。
数日後の帰りのホームルームで、文化祭における各クラスの売り上げ順位が発表される事になった。
担任の先生によって簡単な連絡事項が伝えられた後、生徒達はみなスピーカーから流れるはずの声を、固唾を飲んで待った。
「それでは、集計結果を発表します」
放送部員の明るい声が、後者に響いた。
「第1位は、一年五組!」
美鈴たちの教室で喚声が上がった。ある者は両手を上げて飛び上がり、ある者は手を叩いて喜んだ。
そう。一年五組は美鈴たちのクラスなのだ。
「やったぁ、明日から一週間私服登校よ」
「それに、好きな先生を存分にくすぐれるのよね」
そんな声が教室のあちこちから聞こえて来る。
「次に第2位、と言いたいところですが、時間がないので省略しまぁす」
スピーカーから聞こえたその声に、今度は不平の言葉が教室に充満する。
それを聞き付けたかのように、放送の声が続く。
「なお、2位以下の順位については、明日発行される校内新聞に全て記載されるそうですので、詳しくはそちらをご覧下さい」
その言葉で、不満の言葉は治まった。
「ちなみに、最下位のクラスには、全校生徒によるくすぐりの刑が課せられます。執行日は今日。そのクラスの生徒たちには、すでに刑を受ける準備をして頂いています。それでは受刑者の皆さん、それぞれ割り当てられたクラスの教室へ入りなさい」
皆はその言葉に驚き、教室の入口へと視線を向けた。
扉が開き、体育着を着た二人の生徒が教室に入って来た。
そのうちの一人の顔を見て、美鈴は驚きの声を上げた。
「鳴瀬先輩! どうして……」
叫んでから、思わず両手で口を塞ぐ。しかし、すでに出て行ってしまった言葉を取り戻す事はできない。
「どうしてって、どうしてでしょうね。多分、みんなに信じてもらえてなかったからじゃないかな。私たち、魔術研究会の事を。もちろん今は違うけど、最初はみんな準備に身が入らなかったのよ。私たちが研究対象としているくすぐりなんて、気持ち悪くてやりたくないって言ってね」
クラス全員で相談した結果、彼女たちは二つの班に分かれた。
真弓をくすぐるのは、美鈴と琴音を含む班となった。
班の中で決められた順番に従い、二人の生徒が真弓の左右の腕をそれぞれ抱えこんで拘束した。
残りの生徒のうち4人が両手を広げた真弓を取り囲み、無防備な身体に手を伸ばす。
制服の上から腋の下や脇腹に指が食い込み、激しく動き始める。同時に太腿や脹脛にもいくつもの指が這い回る。
「きゃはははは、だめぇ、そこだめぇ、きゃははははははぁ! お願い、もうやめて、お願い、きゃははははははぁ!」
体中の敏感な部分を責め嬲る意地悪な指の動きに、身体を激しくくねらせ身悶え、甲高い悲鳴と笑い声を上げる真弓。
もう一人の受刑者もまた、数名の生徒たちによってくすぐられ、激しく笑い悶えている。
くすぐる生徒達の指が疲れ、その動きが鈍ると、順番に従って他の班員と交代するのだ。そのため、受刑者の身体は、活発に蠢く意地悪な指の刺激に常にさらされるのだ。
腕を拘束する二人も他の者と交代してくすぐる側に回り、班員全員がくすぐった後は、再び最初の人に順番が戻る。
いつまでそれを繰り返すかは、それぞれの生徒の自由。飽きた順に帰宅して構わない。
二つの班の人数に格差が生じたら、人数の多い方から少ない方へ、希望者から優先して移動する。
そうしてクラス全員が教室を出るまで、受刑者は全身を寄ってたかってくすぐられ続けるのだ。
そして、担任である椎名先生もまた、生徒達に混ざってくすぐりに参加している。
彼女はクラスの責任者であるゆえに、クラス全員が帰らない限り自分も帰らず、執ようなくすぐりを繰り返すのだ。
やがて校舎の外が闇に包まれた時、一人、また一人と帰る者が出始めた。
その頃には二人の受刑者は身悶える力すら残っておらず、両手を拘束する生徒たちによって、かろうじて立っていられる状態だった。
「それなら、いっその事、床に寝かせちゃおうよ」
生徒の一人から上がった声で、二人の受刑者は床の上に押さえ付けられた。そして、生徒たちのなすがまま、凄まじい刺激の嵐に身を委ねるしかなかった。
ついに二人が力尽き、反応がほとんどなくなると、飽きる者も多くなり、ほとんどの生徒が帰宅した。
ただ、美鈴と琴音だけは最後まで残り、もはやピクリとも動かない真弓の身体に食い込ませた指を激しく蠢かせ続け、刺激を与えた部分に起こる僅かな肉の震えを楽しんでいた。
その間、椎名先生もまた、ほとんど無反応となったもう一人の受刑者から更なる身悶えを引き出そうとするかのように、激しく指を蠢かせ続けた。
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