『組織』某支部某執務室。
影山に割り当てられているその室内は、およそ一幹部のそれとはかなり雰囲気が異なっている。
机の上に無秩序に積み重ねられた本・ファイル。タックシールに簡単にタイトルが書き込まれているだけのＣＤ＆ＤＶＤディスクの群。大量に横積にされて壁を形成するビデオテープ・・・・どちらかと言えば、どこかの出版社の編集部と言った方が万人に納得してもらえる様な情況であった。
そんな中で、影山は黙々と何かの資料を閲覧している。既に机は資料によって埋没している為、応接用のテーブルが彼の机となっていた。
「旦那様、そろそろお食事時間ですが、どうされます？」
館とは異なったタイプのメイド服に身を包んだメイが、影山の傍らで尋ねた。
通常、組織の幹部には秘書が最低一名は割り当てられるものであったが、影山は「性に合わない」などと言った理由をつけて、それを拒否していた。
だが、彼の性と執務の多忙さはなどは別問題であり、結局彼は、雑務の応援に秘書ではなく自分のメイドを任命していた。無論、メイド間でもめないようにローテーションを行い、影山に同行する事になっている。
特に何でもない事ではあったが、一部の者達の間では、影山が秘書を使った場合、事あるごとに自分のメイドに身体チェックをされたり、何かしらの理由をつけては支部に訪れて監視を受けたりして嫉妬の視線が痛いために、彼女達を秘書代わりにしたのだと言う噂が流れていた。
ちなみにこの噂に関して、影山はコメントを控えていると言う。
「あの・・・・旦那様？」
黙々と資料を読みふける影山に、再度メイが呼びかける。
「ん？あ・・・・何？」
この時初めて彼は傍らに彼女が立っている事に気づいた。
「お昼時ですけど、お食事はどうされます？」
「あれ、もうそんな時間か？お弁当は何だっけ？」
「おにぎりとサンドイッチですけど、他に買ってきましょうか？」
「いや、それで良いよ。丁度言い。あと、冷たいお茶を・・・・・」
「かしこまりました」
メイは受けた指示を遂行すべく、早速動き出した。メイド服に見事にマッチングするバスケットからお弁当を取り出してトレイに並べ、予め用意して冷やしていたお茶を、執務室備え付けの冷蔵庫から取り出し、コップに注ぐ。
内容としては質素ではあったが、これは彼女が今日の情況に合わせて用意したためである。ここ数日、影山は資料の閲覧にかかりっきりとなっており、食事の時間も忘れるほど熱中していた。そのため、食事の時間も惜しむ傾向があったため、同僚達との協議の結果、仕事にも支障の出にくいこのメニューとなったのである。
「それにしても・・・・・・・」
サンドイッチを片手に部屋を見回し、影山はしみじみ思った。
「我ながらずいぶんとまぁ、資料が増えたな・・・・」
「関連する全ての資料となると当然です。でも、何割かは無関係な資料ですよ」
「ん？どう言う事だ？」
目の前の書類全てが、自分が現在調べている『魔法・魔術』関連の物ではないと初めて知って、影山が疑問の声を上げた。
「他のセクションや開発部の方が一読お願いしますって置いていった回覧資料も結構たまってますから・・・・・・」
「そ、そんなの来てたのか？」
「もぅ、私やアリス達も何度も言っていましたよ。全然聞いていないなんて」
ほんの少し怒った素振りを見せ、呆れたふりをしつつもメイは、影山らしいと内心笑んだ。
「い、いや、済まない。未知なる分野の理解につい夢中になってしまって・・・・・取り合えず食後少し席を外すんで、その回覧資料を発掘しておいてよ」
ばつが悪そうに影山は言った。
「どちらへ？」
「資料室と開発センター。新しい資料が入ってるか見に行くのと、ハンド系開発専門の彼が新しいタイプを作ったんで見に来てくれって言ってたから、行って来る」
「良いですけど、今度はちゃんと読んでおいて下さいよ」
「分かったよ。一番目立つところに置いといて」
「本当に今度はちゃんと読んで下さいね」
「ああ、わかったよ」
メイに負い目が出来てしまった影山は、昼時間の終了するまでの間、昼寝をして過ごすのであった。
昼過ぎ・・・・・
気分転換も兼ねて出かけた影山であったが、資料室に新たな資料は入っていなかった。まだまだ未読で理解不能な資料が多いため、この件については特にがっかりした様子を見せることなく、彼は次なる目的地、開発センターへと赴く。
「いよっす！ルーキー！新タイプが完成したって？」
入室直後、影山は談話をしていた数名のグループの一人に声をかけた。彼が影山を呼びだした張本人で、本来の立場は影山直属の開発スタッフであったが、影山が個人的趣味とも言える『ＮＨシリーズ』に妙にこだわって、ベーシックタイプのマジックハンド使用タイプの開発が疎かになっている事から、彼自身が代行者として選出したのであった。
要は自分が好きな分野に没頭できるように用意された身代わりのようなものである。
それでも、彼が代行に選出するだけあって、その腕前は見事であり、マジックハンド使用タイプと言う機種に『分類』が必要なほどのバリエーションを作り出していたのである。
「ようこそ影山さん、今実験中です」
ルーキーと呼ばれた青年は影山に気づくなり、仲間内の会話を中断させ、彼の元へと駆け寄った。清潔感あふれる白衣が、くたびれたそれを羽織る影山と対照的であった。
「で、どの企画タイプか完成したんだった？」
「『養成ギプス』と『手枷』ですよ」
青年の言った名称はもちろん正式名ではない。影山がその形状からそう言っているだけで、試作型式番号しかない当マシーンを呼びやすくするため、彼の着けたあだ名を使用していたのである。
「どれ？」
影山は強化ガラスで仕切られている実験ブースを覗き込んだ。
「きゃっはっはっはー！！もう・・もういやっ！！あ〜っはっはっはっははははははは！！」
「おねがっ・・・お願いぃ！！あっはっははっはははははっあ〜っはははは！！お願いですからぁ！！」
「やめてぇ！！くくっくっくっく〜っっっっくはははは！もうやめてぇ！！きゃっはっはっは！」
「助けてぇ！！いやっはっはっはっは！！あっはっはっはっは！！きゃははははははははっはっははは！！」
「きゃぁぁぁぁっはっはっはっはっはっはっははっっは！！」
「これ以上はぁ・・・・ああっもうだめぇ！！きゃははははっははは！！これ以上くすぐられたらぁ死ぬぅっ！！死んじゃうううう！！」
「もうやだぁ！！狂っちゃうぅ！狂っちゃううう！！きゃははっははははっはっはは！！」 ガラス越しにそんな声が微かに聞こえた。そのブース内では、完成したばかりの試作くすぐりマシンによって数人の若い女達が下着姿でのたうち回っていた。
今回開発されたくすぐりマシンは、従来のマジックハンド型の基本とも言える完全拘束型ではなく最小限の拘束のみとなっている。そのため、被験者となった女達は、自身に襲いかかるくすぐったさから逃れようと、必死に体を捩り暴れていたのである。
『養成ギプス』は、背中に装着するタイプで、本体は背骨に沿って走る一本のフレームである。それを両肩・腰の拘束部によって固定させている。そして、本体及び拘束部からは、孫の手サイズにまで小型化に成功した「くすぐりハンド」が無数に伸び、装着者の体をくすぐっていた。
「息が・・・・息が・・できな・・・ひ〜ひっひっひっひっひひひひひひひひ！！」
「く、くるし、くるしぃぃぃぃぃぃ！！きゃぁぁっはっはははははははは！！」
「この、このっ・・・ぎゃっははははははははは！何で、はずれ・・・いひゃひひひひひひ！外れないのぉ〜」
実際、拘束などされておらず、四肢が自由な被験者の女達は狂ったように体を捩り、背中に張り付いた『養成ギプス』を取り外そうとしていた。だが、フックはびくともせず、中には壁に背中を叩きつけて破壊を試みる者もいたが、コンパクトタイプに使用する事を前提に新開発された材質で作られたボディは乱暴な扱いにも支障をきたす事はなかった。
「くすぐりハンド」は設置位置やリーチの関係上、装着者の全身を責める事は出来なかったが、弱点の多い胴体全域は責める事が出来る。その為、自由な両手で体をガードしたり「くすぐりハンド」を抑え込もうとしても全てを抑えることは不可能だった。
一方の『手枷』は更にコンパクトに出来ており、全長７０�造遼西�のユニットの両端に手枷が取り付けられており、実験体は両手首を拘束された状態になり、棒状ユニットのから伸びる５本の「くすぐりハンド」によって、胴体のあちこちをくすぐられていた。
「ぎゃはっはぁあああっはっははははははは〜！！くっくくくっ・・くすぐったいくすぐったいくすぐたいくすぐたいくすぐったいぃぃぃぃ〜！！」
「ひひひひひひゃはははははは！！！息が・・・できないいぃ〜！！ひっひいいいいい〜！！」
女達は暴れ、少しでも棒状ユニットを遠ざけようと腕を遠くへ伸ばしたりもしたが、「くすぐりハンド」のリーチはそれを十分上回り、逆に延ばした事によってがら空きになった脇の下や脇腹を的確に責めて行った。
「ひいいいいいい！うひっひひひひひひひぃ〜！！くっくく・・・・苦しぃ〜！！」
そのくすぐったさに思わず脇の下と脇腹を腕でガードすると、今度は太股や背中に回り込んでくすぐりを再開し、装着者に休む間を与えなかった。
こちらでも、機器を壁にぶつけて破壊を試みた者もいたが、そう言った行為は既に予想済であるため、装置は当然の事ながら頑強に作られている。
この両機種の利点は「くすぐりマシン」のコンパクト化と低価格化であり、施設設置型の1/10以下の予算での生産が可能だった。
だが、影山達が真に狙っていたのは、わざと体の自由をある程度持たせ、儚い抵抗をさせ、それが無駄に終わる様を楽しむたと言うものだった。
性格が悪いと評する者もいるかもしれないが、それを見て興奮する者も少なくは無かった。彼はそんな部類の人間だったのだ。
「息がぁ！！あひっはっはははははは！！息が吸えないぃ〜いひゃっはははははは！！」
「お、おかしくなるぅ〜！！おかしくなっちゃうわよぉ〜もう、もう許してぇひゃっひゃはははははははははははは！！」
「助けてぇ！！ああっはっはあっははあはっはぁぁあ！！」
「うん、なかなかいい調子じゃないか」
それぞれ悶え狂う様子を眺めて、影山は満足そうに笑んだ。
「影山さんがマジックハンドの小型化と、新しい材質と新しい衝撃吸収剤を開発してくれたおかげで、ようやく実用化できたんですよ」
手持ちのレポートをチェックしつつ青年は言った。
「必要な物であるからこそ、開発されて行くのさ」
「でも、あの技術は画期的ですよ。材質と衝撃吸収剤は一般企業の各部門から使用許可の申請が出ているのは知ってるんでしょ？」
「ああ、組織の技術と言うことで特許申請も行われているよ」
「それはそれは・・・・・収入が増えますね」
「ああ、これを元に新たなＮＨシリーズを開発するさ・・・・ん？おいあれは・・・」
ブース内を眺めながら会話していた影山は、実験被験者達の中に特別見知った人物がいる事に気づいた。
「なぁ、あれはひょっとしてマキじゃないか？」
言われて中を確認した青年は、上司の示す人物・・・・既にぐったりと横たわり気絶している少女を確認してこくりと頷いた。
「ええ、この前、影山さんが連れてきた娘ですね」
「実験に使ったのか？」
「と、言うより志願したんですけど・・・・・」
彼女が被験者に選ばれた事は自分は知らなかったぞと、抗議の意志を含めた影山の問いかけに、青年は軽く両手を振って彼の持つ疑惑を否定した。
「・・・？何か問題があったか？」
青年の語尾に若干の戸惑いがあることに気づき、影山はそれを問うた。
「彼女、弱すぎますよ。実験を初めて５分もしないうちに気絶しちゃいました。特別な調教してたんですか？」
今度は青年の方が疑問を投げかける。
「いや、最初に会った時に、メイ達にくすぐらせて改心させたんだが・・・・その時から弱かったが、それ程とはな・・・・・」
「ふ〜ん、そうなんですか・・・・って、あのメイドさん達がくすぐり側に参加したんですか？」
さらっと言ってのけられた意外な事に、青年は声を上げた。メイ・シャディ・アリス、影山の専属メイド３人娘は、彼の直属の存在でありながらくすぐり・くすぐられに一切参加しない稀有な存在として知られていた。それが非公式ながらもくすぐりに参加した事は、彼を知る者にとっては意外な出来事だった。
「ああ、調教師を利用する程の事でもない上に、俺がすると趣味に走って目的を忘れそうでもあったから、彼女達に『経験』と称してやってもらった」
「うああああああ・・・・・！！見たかったです！！」
青年は心底そう思った。実は彼、制服マニアの気があり、影山メイドのファンだったりもする。その３人が、そこで失神しているマキをよってたかってくすぐる光景は、青年にとってはまさに涎ものだったに違いない。
「あれ？『組織』の裏広告見てなかったのか？限定販売でその記録テープ売ってたんだけど？」
それこそ意外そうに影山は問いかけた。
「ええええっ！本当ですか！？ずっと、これの開発の追い込みだったんで最近の広告スペース全く見ていなかったんですよ」
「それは気の毒に・・・・・手配してやろうか？」
「はい！もちろんお願いします！！」
「内緒だぞ。それと・・・・」
「分かってます。ＮＨシリーズの開発の際には優先で・・・・でしょ」
言わずとも・・・と言った様子で青年は軽い敬礼の真似をした。
「分かってればいいさ。それじゃあ『手枷』と『養成ギプス』の実験の継続よろしく。記録データーはいつものようにね」
「了解。それじゃあ、こっちもお願いしますよ」
「ああ」
影山は軽く手を振ると、開発センターを後にした。
と、言うわけで、一通りの事を済ませた影山は一路執務室へと戻った。
「お帰りなさいませ、旦那様。はいこれ」
帰ってくるなり影山は数冊のファイルの束をメイに手渡された。
「何？これ？」
「さっき旦那様が言っていた回覧資料です。返却期限が過ぎてるのもあるので、早く目を通しておいて下さい」
「何か、予想の数倍有るんだけど？」
数冊のファイルを両手に抱え、影山は冷や汗を流す。
「それだけため込んでいたんですよ。今日はそれを確認し終えるまでは帰っちゃ行けませんよ」
秘書そのものになりきったようにメイは言った。
元々溜め込んでいた原因を持つ影山はしぶしぶファイルを開くのだった。
「『魔法部門の研究費臨時投入とそのお知らせ・・・・』？反対しても通るんだろ。『第３ブロック改装による移転と停電のお知らせ』？全く関係なし。『納涼花火大会・・・』って、この前終わってる！」
この様に、批判的独り言を漏らしつつ、ファイルに目を通していった影山は、ある項目で興味を引く表題を見つけ、その態度を一変させた。
「『メイドロボ試作機完成の兆し・・・・』？ひょっとして３年くらい前から技術部と精密機器部とプログラマーチームが作って見たいって、酒の場で事ある毎に言っていたアレか？本当に完成するのか？」
「どうなさいました？」
紅茶を運んできたメイが問うた。つい今し方までソファーにもたれかかり、足をテーブルに投げ出して投げやりな態度だった主がいきなり仕事モードに入っていたのだ。何かしらの事があったのだろうと誰でも気づくだろう。
「アンドロイド・・・って分類かな？それが近々できるらしい」
「アンドロイドって、映画に出てくるアレですか？」
「ああ、多分ね」
ページをめくって詳細を読み出す影山。
「人間を襲ったりしませんか？」
冗談にも聞こえるが、本気で心配しているらしいメイの発言に、影山が思わず失笑する。
「大丈夫だよ。いきなり量産も出来ないし、何より「組織」の開発だから用途は予想できるよ」
「く、くすぐり用・・・ですね」
少し照れながら応えるメイ。
「あるいはくすぐられ用か、その両方か・・・・・技術も進歩したなぁ・・・」
自分もその技術の一端を担っている立場にあるにも関わらずの発言であった。本来なら、開発に声がかかってもおかしくないのであるが、やはり周囲の評判がメンバー選考に影響したに違いなかった。
「旦那様は購入されるおつもりですか？」
やや不安げな表情を見せてメイは尋ねた。彼女に限らず女性なら大半が、ああ言った物の存在に対し、自分の立場に危険を感じる事だろう。
「俺には間に合ってるよ。アンドロイドには興味はあるけど、全員が同じ物を持っていたら有難味も無いだろ。結局の所、妙な批判になるけど、大きくて高価な人形の販売だよ。メイドや相手に不足・不満があったら購入も考えるけど、当面問題はない」
それはメイ達を思いやった言葉でもある。もちろんお世辞ではなく本心から言っている言葉であたった。
影山が意識したことではないが、メイの好感度は自然にアップしていた。
「『学習型人工知能を搭載し、ユーザーに最適な行動パターンを把握し貴方だけの僕に出来ます』・・・か、出来なければ無意味だよな。『名称は外観・基本プログラムから、＜○チ＞を予定するものの、一部の批判もあり却下され、自己登録となりました』・・・これ、伏せ字になっていないぞ・・・・・・・だが、そう言うタイプなのか・・・マニアックな・・・・・・」
ファイルを読む影山の独り言は、メイには意味不明の部分が多かった。
「完成したら見てみたいな・・・・・・ん？『性格プログラミングの構成につきましては影山氏他の御助力を得られた事を感謝します』？何のことだ？」
影山は覚えのない行為に対するお礼の言葉に当惑し、本日の秘書であるメイを見やった。
メイも又、戸惑っていたが、当事者故か僅かながら心当たりを思い出す事が出来た。
「あの、ひょっとして昨年、旦那様が私達にさせたアンケートの事じゃ無いですか？」
「アンケート？」
「人工知能プログラムの性格設定とか、判断パターンの参考にするからとかで、膨大な量のアンケートをさせたじゃないですか」
「ああ、ああ！！」
思い出したと言わんばかりに影山が手を叩く。
「アンケート用ビデオ＆ＣＤ付の総ページ数１２８ページの大アンケートか！」
「そうです、ほぼ１日を費やしたあれです」
「アレってそのためのアンケートか・・・・・って、事は少なからずメイ達の性格も反映している訳かな？」
「そう言うことになりますか・・・・ちょっと恥ずかしいですね・・・」
「欲しいか？」
メイの微妙で複雑な表情を見やって影山は尋ねた。資料から想像するとかなり外観は幼いため、彼女がそれを妹みたいに位置づけても不思議では無いだろう。
「そんな、私の意見で購入を決めるなんてなさらないで下さい」
「そうか・・・まぁ、市場に出回った後の評判を聞いてからでも問題は無いだろ。おもしろい奴であれば考えるとしよう・・・・」
「そうですね」
「ん・・・・だけどな・・・・・」
「え・・・何か？」
「メイにシャディにアリス・・・・・・君達の性格がそろって反映されている個性が面白くないはずは無いよな」
「え・・・・・あ〜旦那様ひぉどい！」
別に非難ではなかった。だが、ある意味でからかわれている事を悟ったメイは少し拗ねてみせるのだった。
残業を済ませ、館に帰宅した影山はシャディとアリスに出迎えられ、いつもと変わりないまま自室に戻ったものの、そこで鎮座している見慣れないコンテナに遭遇した。気づいてもらえるように部屋の中央に置いておいたと言う気遣いなのだろうが、十二分に大きいコンテナは、部屋の何処に置いても気づかれたであろう。
縦１６０�族�９０�孫發毅毅悪造里修譴和霰枴悗世辰燭蕕靴�、隅に伝票がしっかりと残されていた。
「第４開発部からか・・・・水沢さんの認可印付って事は、何か注文してたっけ？」
そう自問しつつも、彼の指はコンテナの開閉レバーとフックに伸び、中を確認しようと動いていた。特に細工が施されたわけでは無いコンテナは容易にロックが外れ、おまけに爆発する事もなく、まるで自動型の棺桶のように上面部分を開いた。
「・・・！！・・！？」
中を見て影山はリアクションに迷った。
中に入っていたのはメイよりも幼さが残る少女だったのである。体も小柄で１５０�造砲眞�していないであろう身長とそれに見合った体型。特徴的なのはその髪で、外見に合わせたかのように頭の両側でポニーテール調に束ねていたが、それでも腰に届こうとする長さを誇っていた。おろせば多分髪が床に着くだろう事は確実だろう。
だが、何より影山を困惑させたのが、その少女がスクール水着姿で眠っていた事である。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これで何をしろと？」
思わずぼそりと呟く影山。
「組織は俺にどうしろと？」
そうして途方に暮れていると実にタイミング良くシャディの声が近づいて来た。この手の情況での登場タイミングに関しては、彼女は絶妙である。
「旦那様ぁ〜お客様ですよ〜」
と、ノックから一秒もしないうちにドアが勢いよく開けられた。このシャディの、拒否する間もない訪問パターンに影山は何度も驚かされている。着替え中の時だった事も数多く、本人はついうっかりとコメントしているが、絶対に狙ってやっていると、彼は思っている。
だが、今回の情況は久々に冷や汗ものとなっている。箱詰めにされ、横たわっているスクール水着少女の傍らに佇む男（影山）・・・・この時、現れる別の女。いきなり誤解だと弁明して、納得してもらえるかどうかなど、想像しなくても良いだろう。
「お客・・・さ・・・ま・・・」
案の定、中の様子を目の当たりにしたシャディは要件もすっぱり忘れて硬直した。このシーンに女性側の立場で建設的発想を出せる者など、そう多くはいないだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
影山とシャディ、二人は何を言って良いのか分からないまま硬直を続けたが、先に均衡を破ったのは全く情況が分かっていないシャディの方だった。
「だ、旦那様がまた新しい女を連れ込んでる〜！！しかも何で、何であんな貧弱そうな体型の少女なの！目の前にぴちぴち巨乳の美女が泊まり込んで奉仕しているってのに〜！！あああっ、しかも日本特有のスクール水着！いくら私が着れないからって、そんなの当てつけだわっ！！」
「だかましぃっ！」
意味不明の叫び声を上げながら影山の気合いが一閃し、シャディの顔面を『シャディ突っ込み用』と書かれたハリセンで叩いた。
「毎回毎回、同じような取り乱し方をするな！こっちが喚きたかったってのに・・・・」
「うにゃ・・・・」
顔を赤く腫らしてシャディが唸った。
「今日届いていた荷物だ。俺の知らない事だよ」
「え？旦那様が買った新型ダッチワイフじゃないんですか」
スパァーン！！！！！
本日二度目のハリセンがシャディの顔面を直撃した。
「うにゃにゃ・・・・」
大きな絆創膏を、顔面に×字に貼りつけると言う古典的な手法で痛さを表現しながら、シャディは床に突っ伏した。
「相変わらず漫才やってるな」
そんな声と共に、シャディの来た方から姿を現したのは水沢っだった。彼女の言っていた客とは彼の事だった。
「おかげさまで・・・・で、おっしゃる漫才の発端となったこれ、何です？」
影山は眠れるスクール水着の少女を指さし、全てを知っているのだろう人物に問いかけた。でなければ、これほどタイミング良く彼が訪問してくるはずはない。
「お前へのプレゼントだよ」
意味ありげな笑みを浮かべて水沢は言う。
「一部の技術者が共同研究して開発をしていた、くすぐりメイドロボの事は聞いた事はあるだろ？」
「ええ」
頷きつつも、今日知ったとは言えない影山。
「・・・あれはその試作１号機だ」
「えっ！？」
思わず影山は唸った。シャディがダッチワイフと称した様に、影山もそれが精巧に人間の少女に似せた人形だとばかり思っており、『ロボ』と言う発想が出なかったのである。
「ロボ・・・ですか・・・これが・・・・人形じゃなくて・・・」
『それ』を凝視し、指で軽くつつきながら感嘆の息を漏らす。単純にこれをロボと分類していいのかと思えるほどの完成度だったのだ。
「人造人間・・・・ってのも、正しい表現じゃないし、アンドロイド・・・が一番近いと思うんだが、連中は『くすぐりメイドロボ』が良いと、言ってる」
「メイドロボ・・・ですか・・・奉仕の意味合いでは良いかもしれませんが、そもそも、何でそれがここに送られるんですか？くすぐり、くすぐられのテストなら組織の施設があるし、メイド自体にもこっちは不自由していませんよ？」
「まぁ、それなりの理由があっての事さ」
こころなしか、水沢の態度は素っ気なかった。
「当然、当事者たる自分には教えてくれるんですよね？」
何やら面倒があるなと察し、影山は詰め寄った。
「話せば長い事ながら・・・・」
「では、手短にお願いします」
「本来の用途に関して致命的欠陥があった」
影山の希望通り、本当に率直に水沢は言った。
「・・・・・・・すみません。もう少しだけ詳しくお願いします・・・・」
自分の発言を後悔しつつ、影山は言った。
「これを作った連中もある意味、作品にはお前並のこだわりをもっててな、もともと企画があって開発費も出るのを良い事に、思いっきり趣味に走ったのを開発したんだ」
「それがあの、幼い感じを残すロリ体型のメイドロボだったと・・・・・するとあのスクール水着も・・・？」
「そう、開発者連中の趣味の一環だ」
とんでもない事実をきっぱりと言ってのける水沢。事実である限り仕方ないが、影山は妙な脱力感を感じたのだった。
「熱意は認めます。私の口から彼等を非難することなどできはしませんし・・・・」
「それは、置いといてだ・・・・・あまりに趣味の実現に力を注ぎすぎた連中は、完成時に基本的ミスを犯したことに気づいたんだが、何か分かるか？」
「基本的ミス？量産タイプとしてのコストですか？」
「いや、くすぐり奴隷と言うか、くすぐりに関して作られたと言う、本来の存在意義をプログラムし忘れてた・・・・と言うより、しなかったのさ。そのため彼女は目的を持たない、限りなく人間に近い思考持ち、悩む・・・・所謂、『友達』としての感情を持つ人型ロボットとして完成してしまってた訳だ」
「・・・・・・・ある意味、開発連中は喜んでいませんでせんでしたか？」
「・・・・・・確かに・・・・」
妙な所で察しがつくなと水沢は思い、影山もそんな心情が理解できる自分に内心汗を一筋流していた。
「でも、カタログデーターには学習能力もあるって記載されていましたし、趣味に走った連中が、その機能を省略したとも思えませんけど？」
「ああ、確かに、学習能力は持っている。ついでに『個性』までもな」
「でしょうね。いいよな〜自由に予算を使えて・・・・と、それはともかく、学習能力があるなら『調教』も可能じゃないですか。それに再プログラムって言う方法もあるし・・・・」
「ああ、俺もそう提案したんだが、連中、あまりに思い入れを込めすぎたのか、彼女を調教するなんて出来ない！なんて言ってな・・・・」
「人間以上に純情無垢な彼女を汚すことは出来ない〜！！って、ですか？」
「そんなものだ。で、再プログラムって案も不可能なんだそうだ」
「え、どうしてです？」
「一度チップを組み込んで基礎設定をしてしまったら、再設定は出来ないようになっているそうだ。ケーブルの接続端子も設けられていないし、新たな情報は『学習』させていく事が正しい使い方・・・・と、連中は力説していたよ」
「で、『学習』させることには反対・・・ですか・・」
「ああ、それで、組織施設には絶対預けさせたくない。誰かが引き取るにしても、開発メンバーの中からでは異議や所有権の主張がでてまとまらないだろうし、世間にモニターとして出すには、一台しか無いでは意味無い上に、最新技術が導入されすぎていて、実際に会議でも後継機の廉価版からモニターに出すと決定してしまっている。関係者以外の幹部に預けるにしても、その待遇を気にしていい顔をしない。それで結局、お前さんの所へ・・・・・と決まったんだ」
「あの・・・経緯はよく分かったんですけど、肝心の理由が抜けてますよ・・・」
「お前なら、彼女を冷遇したり変に調教しないだろうって事で連中の納得を得られたんだよ」
「そりゃまたどうして？」
自分だってけっこうなくすぐり好き。それで幹部にもなっているのにと、影山は疑問の意志を示した。
それに水沢は笑顔で答える。
「専属メイド３人娘の事があるからさ。お前、身よりのない少女を養護するのは得意だろ？最近ではあの忍者娘が良い例だ。たしか・・・・マキ・・だったな」
「あ・・・・・・・」
人に指摘されると気恥ずかしい事を平然と言われ、影山は言葉に詰まり鼻の頭をかいた。「シャディ君もその事はいつも感謝してると言ってたぞ」
「言ったのか！？」
「言ってません！！」
可能な限り身内ネタにしておきたかった事が水沢に知られ、真っ赤になって問いつめる影山に、当事者にされたシャディは否定の声を上げた。結局は水沢のひっかけであったのだ。この、影山の詰問には否定をした彼女であったが、心情としては水沢の言う通りの意見を抱いている。
「でも、本当の事ですよ。あの時、旦那様に会わなかったら私はダウンタウンで今頃どうしていたか・・・・・だから此処にいさせてもらっている事には本当に感謝しています」
「ほら、そう言ってるぞ色男」
「う・・・分かりましたよ。で、そんな訳でこっちに事前連絡もなしに『彼女』を送りつけてきた訳ですか」
この手の話題が長期化すると一方的に会話の主導権が失せていくことを敏感に察知した影山は、強引に話題の修正を行った。
「そうだ。事前連絡すると承認を得るのに時間がかかるが、先に送りつければ「仕方ないですね」で済むだろ？お前の場合」
「なるほど、合理的」
思わず納得するシャディ。その手は今後にも応用可能だろうと記憶に止めておいたりもする。
「だろ、趣味人が精魂込めて作ったんだ。今後の量産品よりも遙かに高性能だし、何より個性を持った存在としてお前を退屈にはさせないはずだ。もう一人、身よりのない子をメイド見習いに引き取ったと思って受けてやってくれ」
「・・・・・まぁ、無茶なことでもないし、水沢さんの頼みであれば、引き受けても良いですけど、今後『彼女』が学習してシャディみたいになっても恨まないように『親達』に言っといて下さいよ」
「どういう意味ですか」
妙な例えに出され、シャディは抗議の声を上げたが、２人は一切気にせず話を続けた。
「ああ、伝えておくよ。その程度の変化なら認めてくれるだろ。ただ、売女にしたら命の保証は出来ないぞ」
言って２人は笑ったが、ある意味、冗談では済まない内容に、影山の声は心なしか乾いていたのだった。
本来は自分に従事してくれるはずのメイドロボが、いきなり他人の娘を預かったような重みに感じる影山だった。
「それじゃあ、早速起動してみよう」
水沢はコンテナの隅にセットされていた起動リモコンスイッチを取り出すと、それを影山に投げ渡した。
「それを押せば彼女は目覚める」
「・・・・・・・・・・」
パソコンのマウスのような物に、一つだけ付いたスイッチが設けられているだけの簡単な起動スイッチを彼は押した。
『彼女』の方で僅かな起動音が聞こえたかと思うとそれはすぐに聞こえなくなり、それに前後して今までしっかりと閉じられていた彼女の両目がゆっくりと開かれた。
その場にいた３人は、今まで得た事の無い緊張感を感じつつ、それを見守った。
ゆっくりと立ち上がった『彼女』は、周囲を見回し３人を確認すると焦点を合わせた。
やがて面々が自分の記憶にある人物である事を知り、ぺこりと頭を下げた。
「初めまして影山様。今度、こちらで御奉仕させていただく事になりましたメイドロボです。至らぬ点は多々あると思いますけど、一生懸命頑張りますので宜しくお願いします」
影山はあまりに流暢に話す彼女を目の前にして、驚きを隠せないでいた。前もって知らされず、まともな服装で訪問でもされれば人間として疑わなかったに違いない。
「は、初めまして、俺のことはあらかた知ってるみたいだね。多少、世間一般の人と異なった基準を持っているかもしれないけど宜しく。それで・・・君、名前は？」
「まだありません。影山様がマスターですので、マスターがお決めになって下さい。もし適当なのが無ければ、隠しファイルにある「○チ」で登録しますが」
「いやいやいやいや、待て待て待て！その名前にされると固定概念が定着する恐れがあるから却下！」
本当にそう設定しそうな様子の『彼女』を影山が慌てて止めた。
「それでは、どういたしましょう？」
これまた、人間と違わぬ様子で困った表情を見せる『彼女』。同じ開発者だけに、制作者達がどれだけ研究に勤しんだかが判ってしまう影山だった。
「ん〜・・・・・・ミリア・・・・だ！」
「「「ミリア？」」」
影山以外の面々が揃って復唱した。
「そう、ミリアだ。深い意味は無い。いきなり頭に思い浮かんだのがそれだ」
「分かりました。私は『ミリア』ですね。影山様」
「そう言う事。身分はメイド見習いで、シャディ達の手伝い役だ。そう言うわけでシャディ」
「はい？」
「メイド研修時代に来ていた服の予備があったろ？それを彼女・・・・ミリアにやってくれ。いくら何でもスクール水着は怪しすぎる。それと、みんなにも紹介させるから食堂に集合をかけておいてくれ」
「は〜い」
後輩が出来て嬉しいのか、何かを企んでいるのか、にこやかな笑みを残してシャディは出ていった。
「ミリア・・・・か、それで、育成の方針でもあるのか？」
やはりそこが気になる気になる水沢が問う。が、影山の反応は素っ気なかった。
「無いですよ。ともかくは、個人として見ていくつもりですけど・・・・何か問題でも？」
「そんな物は無いが、やっぱりそんな対応を見せられると、とても『組織』の幹部とは思えなくてな。此処にいるお前と、開発部のお前・・・・・どっちが本当のお前だ？」
「さぁ？どうでしょうね。逆らう相手には冷酷に、慕ってくれる相手には紳士に・・・・これが基本方針です」
「二重人格なだけじゃないのか？まぁいいさ、ある意味、色々な事を知るには、他の幹部よりお前の所が方が適当だと思うのも事実だ。だが、気をつけろよ」
「何にです？」
「ミリアは好奇心旺盛だ。多分それにしばらくは振り回されるぞ」
そう言われて影山は改めてミリアを見やった。当の彼女は、その指摘を肯定するかのように、初めてみる部屋を見回り、本棚に並ぶ本のタイトルを見ては物珍しそうな表情をして見せた。
「冗談じゃなく、ミリアは人間ではないんですね」
「ああ、間違いない。冗談でやってる訳でもない」
そんな様子を見ている限り、事、ここに至っても実感がわかない影山であった。
それから数分。影山・水沢・ミリアの３人が室内に飾ってあったダーツで暇を持て余していると、シャディが服と一緒に同僚２人を連れて戻ってきた。
「ほらほら、この娘よ」
「あら、本当にかわいらしい子ね」
「この娘が、今日、旦那様の言ってた・・・・・・」
「あ、初めまして。アリスさんにメイさんですね。私、ミリアといいます」
「あら、知ってたの？」
屈託のない笑顔で挨拶するミリアに、アリスは少し意外そうな顔をした。
「ええ、影山様の親しい方達の名前程度は教えられています」
「それより、はいこれ」
シャディは持ってきた服をミリアに差し出した。
「わぁ、これが私の服ですか？」
シャディが渡した服をミリアが嬉しそうに受け取る。彼女達が研修時代に使用したとされるメイド服は現在の服とタイプが異なっており、エプロンドレス調のデザインとなっていた。影山が意識したことなのかは分からないが、ミリアの雰囲気に適したものであった。
「それじゃあ、早速着てみますね」
そう言うが早いか、ミリアはいきなり自分の水着を脱ぎ出した。
「ああっ、ちょっと待ちなさいよ」
「ほらほら、殿方は席を外して下さいね」
無邪気と言えるのだろう、ミリアの行為にメイが慌ててそれを止め、アリスが影山達を強引に部屋の外へと追いやった。
扉の外に追い出された男性２人はぽつりとその場に立ちつくしていた。
「水沢さん」
「何だ？」
「彼女、ひょっとして一般常識も一部欠如しているみたいですね」
「と、言うより、それを教える事が楽しみの一つなんだろ」
「育成ゲームみたいですね」
「ユーザーの好みに出来るようにと、最低限の知識しか与えていないそうだからな。判断力や理解力はあっても、状態は幼児とそう大差はないんじゃないか？」
「そうみたいですね、これも開発者の趣味ですか？」
「多分な」
そんな会話を交わしながら、２人は廊下で立たされた様な状態のまま時が来るのを待った。
やがて・・・・
『旦那様、水沢さん、良いですよ〜！』
扉の奥でそんな声がかけられると同時に、シャディが扉を開けた。
「どうだ？」
「それがちょっと・・・・・」
影山の問いかけに、メイが困った表情をして見せた。
「うん？」
怪訝そうな表情の影山の疑問に答えるように、アリスが体をずらし、自分の陰に隠れていたミリアの姿を見せた。
「おやまぁ・・・・・」
そのミリアの姿を見た時、影山と水沢は思わず苦笑した。
そこには、だぶだぶの服を羽織って困り果てた表情のミリアが立っていた。
「これでも、小さめの服を選んだんですけど・・・」
「趣味の小柄が災いしたか・・・・」
「どうしましょう影山様・・・・」
これではまともに動き回れない事を察して、ミリアはしょぼくれる。
「まぁ、サイズは直すとして、他の服は買い出しだな。それと・・・・」
ミリアの姿を眺めながら色々考えていた影山だったが、この時、不意に彼の思考チャンネルが別次元に切り替わった。
「ミリア、すまんが、その格好のまま床に座り込んでくれ」
「何ぃ？」
いつもながら唐突に始まる、影山の不可解な行動に、水沢は当惑の声を上げた。
「何ですそれ？」
「何か意味あるんですか？」
「服がしわになりますよ」
メイド３人娘のその意図が分からない様子だった。
「こうですか？」
ある意味、最も純真無垢と言えるミリアだけは何の疑問も持たず、その指示に従い、ちょこんと床に座り込んだ。
「よし！そのまま！」
そう言うと、影山は自室の机の引き出しからハンディデジタルカメラを取り出し、ミリアに向けてシャッターを数回押した。
「いよっし！水沢さん。このスナップ後でディスクにコピーしておきますから、ミリアの親達に渡しておいて下さい。受領証代わりだって言って」
「あ、ああ、かまわんが・・・・・」
何か意味があるのか？と、疑問に思いつつも、依頼を承知する水沢だった。
かくして、一部の人間の趣味と最新の技術が導入され、ここに自我を持つ人型ロボットが完成し、本格的な起動を開始したが、歴史的・公式的記録には一切記載されることは無かった。
ミリアの開発技術が応用され、闇市場に出回るまで数ヶ月、一般市場に出回るまでさらに２ヶ月の時を待つことになる。
後日、影山の元にミリア開発者達全員から『感謝』の意を示した手紙・メール・プレゼントが届いたという。
『ミリア・デビュー』とタイトルの入った、だぶだぶのエプロンドレス調メイド服に身を包み、床に座り込んでいる彼女のスナップ写真が、見事に開発者達の趣味にはまり好評を得たためである。
これにより、影山はミリア開発チームから支持を得る事となる。
「策士め・・・・・・」
その事を聞き知った水沢は、苦笑してそう漏らしたという・・・・・
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