塩犬作品

トイレ不足の施設に女子が集うということ

エピローグ
「よし、ちゃんと撮れてるな」
N中学校の体育館に仕掛けたカメラをチェックしながら、野田はそうつぶやいた。
昨日、妻の一言から今日の事態を予想した野田は、昨夜のうちに隠しカメラを設置していたのだ。カメラにはトイレを我慢する女子高生の痴態がしっかりとらえられていた。この手の映像が高く売れることを、野田は知っていた。
今日も運営委員として会場にいた野田だったが、一人気になった生徒がいた。
その生徒は、中性的な話し方をする子で、自分のことを「ボク」と呼んでいた。しかも、女子にも関わらずみんなから「ノリタケ」などと呼ばれていた。気になって名前を調べると、「武田紀子」というらしい、なるほど、「ノリコ タケダ」で「ノリタケ」ということらしい。
もちろん彼女のことが気になったのは名前のことだけではない。昼の休憩時間、トイレに来た彼女は、迷うことなく男子トイレの個室に入っていったのだ。他の女子からは、トイレに行けることを羨むような、そして男子トイレに入っていくことを蔑むような視線が送られていたが、彼女はそれを気にする様子はなかった。
その様子になんとなく惹かれていた野田は、彼女のことをそれとなく注意していた。
次は午後の部の途中、彼女はトイレに現れた。少し辛そうな顔をしていた彼女は、男子トイレにも列が出来ているのを見ると、なんと靴を履き替え外に出て行ったのだ。
さすがに後はつけられなかったが、後で彼女が消えていった校舎裏を見ると、少し湿った地面に、汚れたティッシュが捨てられていた。他の生徒のものかも知れないが、間違いなく彼女も野ションをしたのであろう。
(彼女のおもらしを見てみたい)
今日一日で女性の我慢姿に魅せられてしまった野田は、一度もうろたえる様子を見せなかった紀子に強く惹かれてしまったのである。
(何か機会があれば、市の仕事をしていればいつか機会がくるだろうか)
そう考える野田の瞳は、怪しく輝いていた。



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