最笑兵器ミラクル歌織 |
「きゃはははは、くすぐったい、もうだめ、もうやめてぇっ!」 広く殺風景な部屋に、女の笑い声が響いていた。 女は両手両足を大の字に広げた状態で拘束されており、その前後に立つ二人のバニーガール姿の女が拘束された女の脇腹や腋の下、太股などに指を這わせ、激しく蠢かせている。 バニーガールたちは床から浮き上がっている拘束台を目の前で右へ左へと気の赴くままに回転させながら、女の身体の様々な場所へと指を走らせ、女の最も齢部分を探し回り、あるいは見付かったいくつもの弱点を同時に攻撃する。 宙に浮かんだ拘束台は、その部屋が無重力状態である事を物語っており、バニーガールたちが床に立っていられるのは、磁力靴を履いているためである。 「きゃはははは! くすぐったい! そんな所くすぐっちゃいやぁっ!」 バニーガールたちの巧みなくすぐりに、悲鳴と笑い声を上げ続ける拘束された女。 その様子を冷やかに見つめていたリーダー格の女が質問する。 「そろそろ教えてくれる気になったかしら。あなたはどこのスパイなの? ここへ来た目的は?」 スパイである事を言い当てられた女の身体にぴったりと密着した服は、バニーガールたちの指の動きをくっきりと伝え、凄まじいくすぐったさを彼女の身体に送り込む。 その妖しい刺激は不可解な魔法の力となって女の身体の中で暴れ回り、甲高い笑い声となって迸る。 人間はなぜくすぐられると笑うのか。 宇宙での生活が人類にとって当り前となった今日に至ってもなお、科学はその素朴な問いに明確な答えを提示できずにいる。 人類の祖先が生物としての進化の過程でくすぐりによって笑う事による生命活動への何らかのメリットを見出したとすれば、それは一体何なのか。 なぜ人間以外の生物はくすぐられても笑わないのか。 人類が誕生した当初、人間にはくすぐられて笑う者と笑わない者の二種類が存在して、ある時笑わない者たちが全員殺されてしまったのか。 いずれにしても、このようなふざけた拷問に屈伏するわけにはいかない。 彼女が仕事を進めている過程で明らかになった、一人の少女の存在。 そしてその少女に与えられた苛酷な運命。 心無い企業によって定められたその運命から彼女を救うためにも、絶対に口を割る事はできない。 そう。女が今拘束されている部屋は、その心無い企業デストレード社の一室。そして目の前にいるリーダー格の女こそ、デストレード社の現社長なのだ。 「そんな事、絶対に言うもんか! きゃははははは!」 悲鳴と笑い声を上げながら、社長の言葉を断固として拒否する女スパイ。 「ほう。それなら、こうしたらどうかしら」 社長のその言葉を合図に、バニーガールたちがくすぐりの手を止めた。 社長が取り出した小さなリモコンを操作すると、女スパイの拘束台に開いていたいくつもの穴から人の手の形をしたロボットアームが出現した。 「ひいっ!」 周りをロボットアームに囲まれて悲鳴を上げる女スパイ。 「あなたのその強がりがいつまで続くか、とっても楽しみだわ」 社長のその言葉と同時に、ロボットアームが一斉に動き始めた。 女スパイの両脇の柱からそれぞれ3本、そして大きく開かされた足の下の台からさらに2本、合計8本ものアームが細い腕をしなやかにくねらせ、女スパイの腋の下や脇腹、太股に指を這わせ、激しく蠢かせ始めた。 「きゃはははは、くすぐったい! もうだめぇ、もうやめてぇっ! きゃはははははは!」 全身を這い回るアームの指の激しく妖しい蠢きに、懸命に身をよじりながら甲高い悲鳴と笑い声を上げる女スパイ。 彼女とて、その拘束台がデストレード社の現在の主力商品の一つである事を知らなかったわけではない。 だが、その主力商品によるくすぐり拷問がこれほど凄まじいものであったとは思わなかった。 ましてや、過去に厳しい訓練に耐えてきた自分がくすぐり拷問などというふざけたものに屈伏するなど、ありえない。 しかし全身から巧みに送り込まれるくすぐりの刺激の嵐は、彼女のそのような先入観や信念を、根こそぎ吹きとばすに十分すぎるものだった。 まさに「笑死」という商品名のとおり、拷問対象者を笑い死にさせるほどのものなのだ。 拘束台のメモリには、あらかじめ女体の弱点が無数に登録されている。まずはそこから適当に選んだポイントへアームを差し向け、センサーからのデータにより反応を評価する。 拷問対象者に有効な弱点がいくつか見付かれば、それらを同時にくすぐると共に、別なアームが新たな弱点を探索し、どこをどのようにくすぐられるのが弱いのかを詳細に調べる。 時間が経過すればするほど対象者に関するデータが蓄積され、それに伴いアームの動きは賢く巧妙になり、最もくすぐったいいくつもの部分を最もくすぐったい手つきでくすぐるようになるのだ。 しかも女体がその部分のくすぐりに慣れる間もなくアームは別な弱点へと移動し続け、更なる凄まじい刺激を送り込む。 女スパイの身体は凄まじいくすぐりの嵐に悶えつづけ、喉からは甲高い悲鳴と笑い声が迸り続けた。 そして身体が疲れ果て、声がかれてもなお、アームどもは女スパイの身体を這いまわり続け、その時の身体のわずかなヒクつきから更なる笑いの鉱脈を捜し当てる。 朦朧とする意識の中で、女スパイは必死に叫んでいた。 「分かった。話す。話すから、この変な機械を止めてぇっ!」 アームの動きがようやく止まった。 くすぐり拷問などというふざけたものに屈伏してしまった自分が信じられなかった。 だが、それは紛れもない事実なのだ。 すでに身体は自分の意志で動かせないほどに疲れ果て、声を出すのも容易ではない。 だが、いつまでも息を弾ませるばかりでは、いつまたあのアームどもが動きを再開するか分からない。 そして今度動き始めたら、こちらが何を言っても簡単には止めてもらえないかもしれないのだ。 女スパイは力を振り絞って声を押し出した。 「私はここデストレード社で開発中の新兵器を調査するために、ライトプロテクトからの依頼でここに来た。設計データはすでに送信済よ」 女スパイのその言葉に、社長とメイド秘書の顔が強張った。 「ライトプロテクトはプロフェッショナルエディションを狙う宇宙盗賊。例の重要パーツも狙われる可能性が……」 メイド秘書の言葉に社長も頷く。 「そうね。すぐに回収の手配を。そして兵器の完成を急ぐのだ。我々は何としても奴らに阻止される前に地球を攻略しなければならない」 二人は今後発生しうる問題への対応を急ぐべく、足早に部屋の出口へと向かって歩いて行く。 その後ろ姿に向かって、バニーガールの一人が声を上げた。 「この者はいかがいたしましょう」 「好きにするがよい」 社長は振り返らずにそう答えると、そのままメイド秘書と共に部屋から出て行った。 「ではお言葉に甘えて……」 二人のバニーガールは女スパイの前後で顔を見合わせると、にんまりと微笑んだ。 そして、ぐったりと疲れきった女スパイの身体に両手を伸ばし、指先を妖しく蠢かせながら這い回らせ始めたのだ。 「ちょっと、何すんのよ、いやぁっ、もうやめて、きゃはははははは!」 それまでピクリとも動かなかった女スパイの身体は、バニーガールたちの指先に触れられた途端に魔法にかかったかのように生き返り、激しく身悶え始めた。 甲高い笑い声が部屋に響く。 その激しい反応を楽しみながら、夢中で手と指を動かしつづけるバニーガールたち。 彼女たちの顔は、まるで新しいオモチャを買ってもらった子供のような好奇心で溢れていた。 ふと、彼女たちのすぐそばに、社長の残していったリモコンが漂ってきた。 バニーガールの一人がそれを掴み、服の胸当ての内側にしまい込む。 デストレードの先端技術によってくすぐられる女スパイの激しい笑い声を堪能するのもよいが、今は自分たちの手で目の前の獲物の反応を存分に楽しみたい。 さきほどの拷問で「笑死」の探索した弱点を、二人はまだ覚えている。 それら一つ一つに指を這わせながら、それに対する興味深い反応を自分の指先で直に楽しみたいのだ。 だが、そのうち指が疲れてきたら、休憩の間だけこのリモコンを使おうと思う。 なぜなら、女は疲れ果てた顔よりも笑った顔の方が断然いいに決まっているのだから。 女スパイは休む暇なく笑い続け、バニーガールたちは次の獲物がやって来るまで楽しみが尽きる事はない。 女スパイを襲う終わりなきくすぐりの嵐は、まだ始まったばかりであった。
真っ赤な光沢を放つ社用小型シャトルの中で、シルヴィアは窓越しに見える地球を眺めていた。 |
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