ようやく帰りのホームルームが終わった。
しかし、美奈子はすぐに学校から開放されるわけではなかった。
国語の時間に粗相をしてしまった事について、担任の斎藤先生から長々と説教されたのだ。
ようやく開放された美奈子は、再び強い尿意と戦い続けていた。
美奈子は今日一日、ずっとトイレで用を足す事ができなかったのだ。
「おもらし美奈子、どこ行くの?」
美奈子がトイレに行こうとすると、必ずだれかがそう言って話しかけ、手を引いて邪魔をするのだ。
そして、運良くトイレにたどり着いても、個室には美奈子の前に必ずだれかが並んでいた。
そして、美奈子に順番が来たちょうどその時、まるで意地悪をするかのように授業開始のチャイムが響くのだ。
――ああっ、これじゃ家まで我慢できないわ。
トイレの方へ歩き始めた美奈子に、後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「美奈子、いっしょに帰らないか?」
山田浩章だった。
浩章は、美奈子が説教から開放されるのをずっと待っていてくれたのだ。
校舎に残っているのはおそらく美奈子と浩章以外だれもいないだろう。
「ええ。一緒に帰りましょう」
本当はトイレに行きたいのだが、やはり聖華学園の女子生徒として、人前で、それも男子生徒の前でトイレに向かうわけにはいかない。
まして、大好きな浩章に、トイレに行きたいなどとは言えない。
かと言って、用事があるとか言って浩章の前から逃げ出したくはなかった。
――ああっ、お願い美奈子、どうか家まで漏らさないで!!
しかし、まっすぐ家に帰れるわけではなかった。
「美奈子、これから俺の家に遊びに来ないか。家の人なら夜中まで帰って来ない」
「い、いいわ」
本当は一刻も早く家に帰ってオシッコがしたかったが、そんな理由で浩章の誘いを断るなど、乙女としてのプライドが許さなかった。
美奈子は浩章と一緒に道を歩く間、ミニスカートから伸びた太腿を絶えず擦りあわせていた。
その姿はとても妖艶で、街を歩く人々の視線を絶えず引き付けた。
時々片手でミニスカートの前を押さえ、前かがみになりながら小さな悲鳴をあげる。
その度に、浩章は嬉しそうに声をかける。
「今日の美奈子ちゃんって、なんだかとっても色っぽいよ。何かあったの?」
「ううん。なんでもないわ」
美奈子はそう言って、なんとかごまかしていた。
本当はもうすぐにでもオシッコがしたかった。
――ああ、漏れそう、オシッコ漏れそう。お願い、トイレに行かせて。オシッコさせて!!
スーパーやデパート、公園の前を通るたびに、何度その言葉を口にしてしまおうかと思った事か。
しかし、やはりそれは聖華学園の乙女として、絶対に口にしてはならない言葉だった。
美奈子にとって永遠とも感じられる時間の後、ようやく浩章の家に着いた。
浩章の部屋は2階だった。
階段のわきにトイレへのドアがあった。
――こんな目立つ所にトイレがあるなんて、非常識な家ね。
普段の美奈子ならそう思っただろう。
だが今の美奈子は、もし他に誰もいなければ、一目散にそこへ駆け込みたかった。
もちろん、今の美奈子にはそんな事はできないのだ。
美奈子は、自分がさきほどからずっと求め続けていた場所へのドアを、精いっぱい平静さをよそおって無視しなければならなかった。
浩章は美奈子を自分の部屋に入れ、押し入れから座布団を出して畳の上に置き、美奈子を座らせた。
「それじゃ、ちょっと待ってて。今、お茶を入れてくるから」
そう言って、浩章は鞄を持ったまま1階に降りていった。
浩章が階段から姿を消すと、美奈子は廊下に出た。
――今のうちにトイレに行ってしまおう。
美奈子は階段をゆっくりと降りはじめた。
しかし、その時、再び階段の下に浩章が姿を現し、昇り始めた。
「美奈子ちゃん、どこへ行くの。ついて行ってあげるよ」
「う、ううん。どこへも行かないわ」
美奈子は慌てて部屋に戻った。
「ついでだから、着替えてきちゃおうかなと思って、ハンガーを取りに来たんだ」
浩章は部屋の壁にかかっていた学生服用のハンガーを持って、再び階段を降りて行った。
美奈子は太腿をしっかりと閉じあわせ、手で女の子の部分を押さえながら、浩章の姿と足音が消えるのを待った。
――今度こそトイレに行かなきゃ。
美奈子は今や一歩歩くだけでも女の子の部分がこじ開けられそうだった。
四つんばいで廊下に出る。
しかし、そこで再び足音が聞こえた。
慌てて部屋に戻り、座布団の上に正座する。
Tシャツ姿の浩章が制服のかかったハンガーを持って部屋に入ってきた。
「待たせちゃって悪いね。もうお茶ができてるから、持ってくるよ」
そう行って再び部屋を出る。
――もうトイレに行っている時間はないわ。
美奈子は正座をした足を上下に擦りあわせ、体を小刻みに揺らしながら待った。
案の定、浩章はお茶とお菓子の乗った盆を持って、すぐに戻ってきた。
「さあ、まずはこれでも飲んで」
浩章はお茶とお菓子を差し出した。
ティーカップに入っているお茶は、紅茶だった。
「あ、あの……あたし、遠慮しときます」
今の美奈子は、水分など一滴も飲みたくはなかった。
それに、目の前の紅茶は、さきほど保健室で美奈子を辱めた紅茶に、色や香りが何となく似ているように思えたのだ。
「えー? そんな事言わないで、飲んでよ」
浩章は懸命に紅茶をすすめていた。
ここまですすめられては、飲まないわけにはいかない。
「そ、それじゃ、頂きます」
美奈子は意を決して紅茶を飲み干した。
「そうだ。今日、ある人からビデオを借りたんだ。どんな内容かよく分からないけど、とっても面白いって言ってたよ。一緒に見よう」
浩章は、ズボンのポケットから8ミリビデオテープを取り出し、デッキにセットした。
「ちょ、ちょっと、もしかしてこれは……」
画面の中で、聖華学園高校の制服を着た少女が太腿を擦りあわせ、女の子の部分を手で押さえながら、苦痛と羞恥に喘いでいる。
美奈子は信じられなかった。
それは、さきほど保健室で撮影された美奈子自身の姿だった。
「あ、これ、美奈子ちゃんじゃないの?」
浩章は嬉しそうな声をあげた。
「だ、だめ。見ちゃだめぇ!!」
美奈子は慌ててテレビの電源をオフにした。
「な、何するんだよ」
「だめよ。このビデオは見ちゃだめ! あ……あはーん、んんっ!」
美奈子は慌てて両手を女の子の部分に当てた。
擦りあわせていた太腿にも渾身の力を込める。
今まで美奈子をさんざん悩まし続けていた尿意がいきなり強くなったのだ。
少しでも気を抜けば今にも絶叫してしまいそうな恥ずかしい部分に、それまでの何倍もの尿意が一気に襲いかかったように感じられた。
「も、もしかして私が今飲んだ紅茶って……」
美奈子は猛烈な尿意に耐える恥ずかしい格好で恐る恐る聞いた。
「ああ、ビデオテープくれた人がついでだからって、ティーバッグもくれたんだ。それより、ビデオ見たいんだけど」
浩章は美奈子の恥ずかしい姿を楽しんでいるかのようだ。
「そ、そんな、あ……、いやぁ!」
ただでさえオシッコがしたいのを必死にこらえ続けていたところへ、あの強力な利尿効果のあるお茶を飲まされてはたまらない。
美奈子の膀胱の中の怪物は秒刻みで成長し、女の子の部分をこじ開けようとする力も強く激しくなる。
「ああん、お願い、あたし、ああ、だめよぉ」
もう目を開けていられない。
きつく閉じた瞼の裏を、さまざまなトイレや便器が通り過ぎていく。
家の洋式トイレ、学校の和式トイレ、デパートのトイレ、公園の汲み取り式トイレ……。
――ああ、もしもここがトイレで、存分にオシッコを噴出する事ができたらどんなに幸せかしら……。
それは聖華学園高校の乙女として、あるまじき妄想であった。
美奈子は今、膀胱で暴れる巨大な怪物に心と体を完全に奪われつつあったのだ。
「あ、ああっ……もうだめぇ」
美奈子は閉じあわせた太腿に力を込め、女の子の部分を両手でしっかりと押さえたまま、ゆっくりと前かがみに立ち上がり、太腿を開かないようにしながら震える足を懸命に動かして廊下へと向かった。
その美奈子を通せんぼするかのように、浩章が立ちはだかる。
「ちょっと、ここ通してよ」
美奈子は必死に身を揉みながら、切羽詰まった声で懇願する。
「そりゃぁ通してもいいけどさぁ。ここを通ってどこへ行くの?」
尿意に苦しむ美奈子とは逆に、浩章の顔にはからかうような笑みが浮かんでいた。
浩章はあくまでも美奈子を部屋から出さないつもりなのだ。
「どこでもいいでしょ? 早く通して。でないと私……」
「でないと、どうなるのかな。もしかして、その答えは、あれに写っているのかな?」
浩章は顔を、電源を切られたテレビの方に向けた。
「いつも上品な美奈子ちゃんのことだから、多分、とってもかわいい姿が写っているんだろうなぁ」
もしも美奈子がいなくなったら、浩章は再びテレビの電源を入れ、ビデオに写った美奈子の痴態を見るだろう。
そんな恥ずかしい姿を大好きな浩章に見せるわけにはいかない。
美奈子は部屋から出る事はできないのだ。
「ああん、浩章君の意地悪!!」
美奈子が叫んだ瞬間、美奈子の女の子の部分も凄まじい悲鳴をあげていた。
美奈子は慌てて女の子の部分と太腿と手に、さらに力を込めた。
もう立ってはいられず、その場にしゃがみこんでしまった。
「それじゃ、ビデオを見せてもらうよ」
浩章がテレビの電源を入れると、画面の中の美奈子はちょうど今の現実の美奈子と同じポーズをとっていた。
そして、画面の中の美奈子の回りに、水溜まりが広がっていくところだった。
「ああ、お願い、見ないでぇ!!」
現実の美奈子は尿意に震える声で叫んだ。
今の美奈子は浩章の行動を邪魔するどころか、身動きする事すら恐ろしい。
すこし動いただけで、女の子が悲鳴をあげるのだ。
かと言って、じっとしているのはもっと辛く、思わず体が震えてしまう。
浩章は意地の悪いオシッコの責めに苦しむ美奈子に身をよせ、耳元でささやく。
「美奈子、もしかして君は今、あの画面の中で水溜まりを作っているあの水の為に部屋を出たいと思っているのかい? あの水の為に、身を震わせているのかい?」
美奈子は恥じ入りながらも、ゆっくりと頷いた。
「羞恥の水は何度も美奈子を、乙女として許されざる場所へ向かわせようとする。そして自分の思うようにならないと、今度は場所を選ばず自分を外へ出す事を美奈子に要求し、美奈子の体を汚そうとする。俺はそんな事をするような奴は許せない。君は君を今辱めようといている水と、君が真に清楚な乙女である事を願う俺と、どっちの方が好だ?」
「それはもちろん浩章君よ」
「それじゃ、これから30分、君はこの部屋で、体の中の汚らわしい水の要求を全て拒否する事ができるね」
「そ、そんなぁ!!」
美奈子は叫んだが、選択の余地はなかった。
美奈子はあと30分間、次第に強まる猛烈な尿意と戦い続けなければならないのだ。
「かつてフランスでは女性が他の家の者から招きを受けた時、出かける前に美容のために大量の水を飲んだんだ。もちろん女性が道の途中で用を足す事もできない。招いた相手の家に着いた時は決まって極限状態さ。そこへ強力な利尿紅茶を飲まされるんだ。彼女たちは自分の身の清楚さを示すため、その家を出るまでずっと平静さを装ってスマートに我慢しつづけなければならなかった。それができない女性は、汚れた身を持ちながら外見の美しさで人をまどわす魔女として、処刑される事すらあったと言う。それに比べれば、君はまだ楽な方さ。平静さを装わなくても許してもらえるし、処刑される事もないのだから……」
美奈子には、浩章の言葉を聞いている余裕などなかった。
もう不自然な格好でしゃがんでいても我慢できず、ついに横向きに倒れ込んでしまった。
きつく閉じあわせた太腿の付け根に前と後ろから手を入れ、右に左にと体をよじる。
美奈子がいくら恥ずかしい格好で耐えようとしても、オシッコの拷問は容赦なく、さらに激しく美奈子を羞恥の鞭で打ちのめし、大事な部分を責め続ける。
今や美奈子は尿意の地獄にもだえる一匹のヘビと化してしまっていた。
畳の上で体をくねらせながら、猛烈な尿意と必死に戦っていた。
しかし、それが美奈子の最後の抵抗だった。
ついにオシッコの猛烈な攻撃に、美奈子の恥ずかしい部分が絶叫と共に屈服した。
「ああ、もうだめ、ごめんなさい、許して、もう、もうだめよぉ!」
噴水の音と共に、美奈子のミニスカートが一瞬にしてぐっしょりと濡れ、畳が一面水浸しになった。
美奈子は気を失い、水浸しの畳の上に静かに横たわっていた。
美奈子が気が付いた時には、畳も制服も、元どおりに乾いていた。
「美奈子ちゃん、やっとお目覚めかな」
浩章が耳元で声をかけた。
「あっ」
美奈子は座布団に座ったままいつの間にか眠ってしまっていたのだ。
美奈子は不思議だった。
今日美奈子を襲った恥ずかしい出来事が、みんな夢のような気がするのだ。
いや、夢であるはずはない。
夢の記憶にしては、はっきりしすぎている。
「一緒にビデオ見てたら美奈子ちゃん眠っちゃうんだもんな」
浩章が指差したテレビ画面には、演奏中の交響楽団が映し出されていた。
「聖華学園のお嬢様はこういう音楽を聞くと喜ぶかなと思ったんだけど、やっぱり違うのかな」
美奈子の頭はひどく混乱していた。
――そうだ。私は今日、浩章君といっしょに学校を出て、それからここに来て、いっしょにクラシック音楽のビデオを見ていたんだわ。
「ううん。私、こういう音楽って好きよ。ただ、今日はなんだか疲れちゃったみたい」
ふと時計を見ると、8時を過ぎたところだった。
「いっけなーい。あたし、もう帰らなきゃ」
美奈子は慌てて玄関に向かった。
「それでは、浩章君、今日は本当にごちそうさま」
美奈子は自分の家へと足を急いだ。
「美奈子ちゃん、また会ったわね」
電柱の明かりの中で、美奈子は聞き覚えのある声に振り向いた。
声の主が光の中に姿を現した。
優子だった。
その側に、香織、エリカ、由佳もいる。
「美奈子、あたしたち、見ちゃったわよ。あなたさっき山田君の家から出てきたわね」
優子は腰に手を当て、お姉さんぶった態度で言った。
「なによ。そんなの見たからって、なんなのよ」
「なんなのよって、美奈子、聖華学園の乙女は男子なんかとつきあっちゃいけないのよ。ましてやあんたが男子生徒の家に入ったなんていう事が噂になったら、二度と学校へ行けなくなっちゃうわよ」
「そ、そんな……」
「ま、ばらされたくなかったら、明日8時きっかりに教室に来る事ね。それじゃ、バイバイ」
優子達は再び暗闇の中に去っていった。
「な、なによ。あたしがだれと一緒にいようと、あたしの勝手じゃないのよ……」
美奈子は一人で呟きながら、ハッとした。
――これ、あたし覚えてるわ。さっきの優子と私の会話、昨日とそっくりじゃないの!
その記憶は今の美奈子にとって、学校や浩章の家での恥ずかしい体験と同様、夢の中の記憶のようにぼんやりとしたものだった。
しかし、その記憶の中の昨日の優子の言葉と、今会ったばかりの優子の言葉、そしてそれに対する美奈子の返答が、一字一句全て一致している事を、美奈子はなぜか確信する事ができたのだ。
「そんな……そんな事って……」
美奈子は気味悪さに震えながら、家への道を一目散に走り出した。
次の日の朝8時。
美奈子は他の生徒よりも30分も早く登校しなければならなかった。
教室に優子が現れた。
香織、エリカ、由佳も一緒だ。
優子が口を開いた。
「美奈子、よく来たわね。今日からさっそく、あたしたちの言うことをきいてもらうわ」
「それじゃ、このお水を飲んでもらおうかしら」
香織が、手に持っていたペットボトルを差し出した。
容量表示には1.5リットルと書かれており、中には水が満杯に入っている。
美奈子は逆らうわけにはいかない。
昨日と同じ恥辱の悪夢が、今再び繰り返されようとしていた。
(完?)
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