水風船作品

MOTOKA

第16章
(ひゃ〜、、、オシッコ出ちゃう、出ちゃう、、、)


麻依は駅前の商店街を抜けると、路地を右に曲がって、歯を噛み締めながら急ぎ足で歩いていた。
商店街を抜けて右に曲がると、もうそこは平日の昼過ぎの、古くからある閑静な住宅街の路地だ。
まだ肌寒い3月初めのうっすらとした日差しが、落ち着いた住宅街の路地の少しずつ新芽を出し始めた木々に、か細くふりそそいでいる。
まるで時間が止まっているみたいだ。
電車を降りて、家まであと10分ちょっと。とにかく何とかガマンしなくては。
今日で3学期の期末テストが終わった。
実は最後の数学のテスト中からずっとトイレをガマンしてた。
今日も朝から学校ではトイレに行っていない。
終了のベルが鳴った時にはすでにもうオシッコはパンパンに溜っていて、すぐにトイレに行こうかと思ったけれど、テストが終わって明日からいよいよ休みだという開放感からか、思わず生まれて初めてのオシッコガマンの冒険を犯してみたくなった。
何を思ったのか、信じられないくらい衝動的だった。
テストが終わると急いで学校を飛び出した。
いつも一緒に帰っている加代子に声もかけずに。
まだ誰もいない静かな昇降口で急いで上履きから靴に履き替えると、急いで校門に向かった。


(ああー、、トイレトイレ、、、、)
足元のアスファルト。
よく見るとこんなふうにひび割れてたんだ。
毎日歩いているのに今まで全然気がつかなかった。
車1台がやっと通れるくらいの狭い路地。
まん中が少しだけ盛り上がっている。
きっと雨水が両端に流れるようにするためなんだろう。
(早く家に帰ってトイレに行かなくちゃ、、もれちゃう、、、)


さっき新宿で山手線から中央線に乗りかえる時も一瞬チビリそうになった。もうガマン出来そうになくって山手線のホームからの階段を降りてからトイレに行こうかと思ったけれど、新宿駅の広大な地下コンソールのトイレはずっとずっと先にひとつあるだけだっていう事に気がついた。こんなに大きな駅なのに何であんな遠くにひとつだけなの、信じられない、、、
そしたら中央線が到着するっていうアナウンスがホームから聞こえてきて、意を決して階段を上って、ホームに滑り込んで来た電車に乗った。あと10分ちょっとガマンすれば西荻の駅のトイレに行ける。
電車に乗ってドアのすぐ脇に立って、窓の外を流れてゆく東京の景色を見ながら、何とか気を紛らわそうといろんな事を考えた。立っている両足をギュッとクロスさせて、時折腰をくねくねさせながら。
窓からびっしりと詰まった東京の家並みを見下ろして気を紛らわそうとしたけど、頭の中はもう自分のオシッコタンクの事しか考えられなかった。もうパンパンに膨らんでさっきからずっと悲鳴を上げている。
それに電車のレールの振動や、駅に止まる時の減速の揺れにも必死に耐えなければならなかった。
でもあたしには、あえてオシッコをギリギリまでガマンしなければならない訳があった。
2学期の林間の帰りの、あの事件の次の日、優里の家に遊びに行っていろんな事を教えてもらった。優里が昔、渋滞中に我慢できなくなって車の中でコンビニの袋にしてしまった時の事や、小学校4年の時に授業中におもらしをしてしまった事を恥ずかしそうに内緒で詳しく教えてくれた。そして机の上のパソコンを立ち上げて、自分は昔からトイレがすごく近い子だったので、今オシッコを我慢する訓練をしているという事を説明してくれた。
「麻依もおトイレが近いんだったら、一緒に訓練しようよ!だっておしっこをたくさんガマン出来た方が絶対にいろいろと困らなくなるでしょ?」
確かに優里の言うとおりだと思った。もし訓練でトイレが近いのがなおるんだったら、それにこした事はない。
優里はパソコンの医療サイトを開いて、いろいろ丁寧に説明してくれた。あたしは優里の隣にピッタリとくっついて座って、画面を食い入るように見続けていた。優里はまるでやさしい保健の先生みたいだった。
「優里、すごいね、いろいろ知ってて、、、保健の先生みたい、、ハハハ、、、」
そしたら優里が急に先生口調になって、
「ではまずは実際に麻依さんがどのくらいの量のおしっこを溜める事が出来るのかを計ってみる事から始めましょう」
と言った。
あたしは最初優里の言っている事の意味がまったくわからなかったけど、気がついたら「優里先生」に言われるままにアイスコーヒーを何杯も飲まされて、急激に催してくる尿意に耐えていた。あたしがトイレをガマンしている間「優里先生」はインターネットでいろんな事を説明してくれた。ある婦人泌尿器科のお医者さんのサイトの掲示板には、あたしとまったく同じようなタイプの女の子からの相談がいくつも載せられていた。みんなあたしと同じように学校では休み時間ごとにトイレに行っていて、日常生活でトイレが近い事への悩みを抱えていた。あたしがガマンの限界になって「ねえ、優里先生、もうダメです」って足踏みをしながら訴えても「優里先生」はなかなかトイレに行かしてくれなかった。まるであたしがオシッコを必死でガマンしているのを見ながら楽しんでいるみたいだった。ホントに限界ギリギリになって「ああ、、、ダメだ、もうもれちゃうー」と言って優里にすがりつくと、優里は「じゃあ、量を計りますからこれにしてくださいね」と言って、ベッドの下から白い洗面器を取り出した。「えっ、マジー、、ここでするのー」「そうだよ、さ、早くしないと漏れちゃうでしょ」
あたしにはもう躊躇する余裕なんてなかった。それに前日の事もあったし「優里先生」の前でオシッコをするのはそんなに抵抗がなかった。それに実はその時、優里の前では何故か子供になっちゃって優里に甘えたくなるような不思議な感覚が芽生えていたし。


(アア、、ホントにもうオシッコが爆発寸前だ、、、林間の帰りのバス以来のピンチだ、、、)
全身にゾクッとした感覚が走る。
ガマン、ガマン、絶対にガマンするぞ。
昼下がりの狭い路地は誰も歩いてない。
いつもより早い自分の足音だけが聞こえる。
塀の上には気持ちよさそうに昼寝をしてる茶トラのネコ。
あいつ、よく見かけるなあ。
いつもあそこで寝てる。
反対側に家の垣根の下からも小さな白いネコがこっちを覗いてる。
もうあたしのオシッコタンクは完全に容量オーバーだ。
ピンチ、ピンチ、、、大ピンチ。
さっきまで、うっすらと肌寒かったのに、上半身が汗ばんできた。
(イヤッ、、、どーしよう、、、もうホントにもれちゃうよ、、、)


最悪の展開だった。
電車の中で永遠とも思える長さの10分ちょっとを必死に耐えきって、西荻の駅で降りてホームの階段を降りてトイレに駆け込むはずだった。走ると絶対に漏れちゃいそうだったので、出来る限りの摺り足&早歩きで階段を目指した。そのままのスピードで階段を2段降りたところでいきなり左足からの振動があたしのパンパンのタンクに強烈なパンチとなって炸裂した。一瞬目の前が真っ暗になって時間が完全にストップしてしまった。もう完全にアウトだと思った。頭の中に林間の帰りのバスのシーンが瞬間的にフィードバックしてきた。下着の中に広がる、あの生暖かい感触の記憶までもが同時に蘇っていた。
あたしは咄嗟にスカートの上からアソコを押さえて固まっていた。ほんの少しオシッコが漏れてしまったような気がしたけど、押さえた下着が濡れた感覚はなかった。後ろから来た学生っぽいお兄さんが「オット、アブネー」と言って急に止まったあたしにぶつかりそうになりながら階段を降りていった。額から冷や汗がどっと出たような感じがして、あたしは慌てて反対の手に握っている鞄でアソコを押さえている手を隠した。とにかくお漏らしはまぬがれた事がわかると、気をとりなおして再び下半身にギュッと力を込めて今度は慎重に階段を降りた。それはたぶん実際には1秒間くらいの出来事だったのかもしれないけど、頭の中にはハイスピードカメラのコマ送り再生のように1枚ずつはっきりと階段の途中の光景が焼き付いている。
そして悪夢はそのあとに待っていた。
駅のトイレは清掃中だった。
なんというコトだ。こんないたいけな乙女にこのような残酷な仕打ちが待っていていいのだろうか。いいわけがない。世の中まちがってるよ、まったく。もうオシッコはアソコから噴出直前の超緊急事態なのに。貯水タンクはとっくに限界を超えている。
こうなったらもう、イチカバチカだ。
あたしは潔く勝負に出た。前屈みのまま急いで改札を抜けると、一気に家を目指した。
だって、もしこのまま家までガマンする事が出来たら、朝から家に帰るまで一度もトイレに行かずに過ごせたという、あたしにとっての初めての大記録だから。


(もうどうにでもなれ、どうせ明日から春休みだ、はっはっは)
訳の判らない事を考えながら右手でアソコをギュッと押さえる。
急げ、急げ、急がねば。
電柱に貼ってある小児科の看板。
幼稚園の頃、ハシカか何かにかかって、そこでお尻にすごく大きな注射をされた。
泣いているあたしのお尻を、やさしい看護婦さんが冷たい消毒ガーゼを当てて揉んでくれた。
きゃー、ダメだ、もうオシッコ出ちゃうよ。
前屈みになって空気抵抗を減らして歩くスピードを更にアップ。
ウィーン、、、F1の世界に突入だ。
超満タンの燃料タンクから燃料が洩れないように、しっかりと出口を押さえなきゃ。
無線でピットの監督に連絡。
大変です、燃料が満タンのタンクから噴出しそうです。
次の周にピットインします。
路地の彼方にバス通りが見えてきた。
あの通りを渡ればあと少しだ。
(あと少し、あと少し、あと少しでピットだ)


優里の家に遊びに行った次の日から、早速訓練を始めた。
朝からきちんと水分を採って、出来るだけトイレをガマンするようにした。それまでは、朝学校に着いて、まずトイレに入るのが日課になっていたし、休み時間にはほとんど毎回トイレに行っていた。学校に着くといつも少し尿意があるので1時間目が始まる前に必ずトイレに行っていた今までの習慣をまずやめた。最初は毎日ドキドキだった。もし授業中にガマン出来なくなったらどうしようって。でも慣れてくると、少し尿意があっても次の時間が終わるまでガマンしようって思えるようになってきた。2学期が終わる頃には、2時間目が終わるまでトイレに行かなくても大丈夫な日が多くなっていた。
そしてあたしにとって何よりも衝撃的だったのは素香の事だった。あの日、優里の前でオシッコをして量を計った後で優里から聞かされた事。それは、なんと素香は学校ではトイレに行かないっていう事。優里の口からその事を聞かされた時、思わず「えー、ウソでしょ?」って大きな声を上げてしまった。うそじゃないよ、ホントだよ、素香はねえ、小さいときからねえ、って優里が素香の秘密を話し始めると、あたしはまるで催眠術にかかった子犬のようにポカンと口を開けたまま優里の話を聞き続けた。そんなにトイレをガマン出来る人がこの世いるなんて信じられなかった。しかもあたしと同じ歳で、しかもあたしと同じクラスに、しかも彼女は毎日朝からきちんと水分を補給しているという。まったくアンビリバボーな話だ。もひとつおまけにそのアンビリバボーな人は、女のあたしでさえ憧れてしまう程キュートで魅力的なあの素香だったなんて、、、ショック、というか心臓がドキドキしてきてしまった。
優里の話では、素香は900mlのペットボトルいっぱいのオシッコを溜められたらしい。ちなみにあたしは必死でガマンしたにも関わらず、その半分以下の大体350mlくらいだった。
優里も初めはそのペットボトルの半分くらいガマンするのがやっとだったそうだけど、夏休みからの訓練で今は600mlくらいガマン出来るようになったって言ってた。

実は優里ったらあの後ちゃっかり加代子のオシッコまで計ったらしい。まあ、加代子もシモネタ好きだから優里とは気が合うのかなあ、なんて思っていたら加代子はその後なんだかオシッコネタですごく盛り上がっていて、2学期の終わりに「O.G.クラブ」というのを優里と一緒に勝手に結成してしまった。「O.G.クラブ」というのは「オシッコ ガマン クラブ」という秘密クラブの略だそうで、メンバーは今のところ加代子と優里と素香とあたしの4人。会長は加代子で、素香が名誉会長だそうだ。ってゆーか、素香は勝手に入会させられて勝手に名誉会長にさせられたみたいだけど。まあ、とにかくみんなで頑張って「憧れの名誉会長に少しでも近付こう!」っていうのがその秘密クラブの目標らしい。まっ、いっか。なんだか面白そうだし。

何とかバス通りにたどり着いた。
通りを渡れば家まであと100メートルもない。あと少しだ。
けれども幹線道路になっているのその通りは、今まで通ってきた住宅街の細い路地と違って交通量も多く人通りもあって、さすがに今までアソコを押さえてきた手をはずさなければならない。
思いっきり足踏みをしながら通りを渡るための横断歩道の歩行者用の信号をじっと見つめる。


(きゃー、もうダメだ、、、でちゃう)
お願い、はやく青になって。
通りの向こう側の歩道で初老の婦人に連れられた小さな犬が電柱にオシッコをしてる。
ああ、いいなあ、犬はどこでもオシッコが出来て。
あたしなんかどこでも出来ないんだよ。
もうとっくにガマンの限界なのに。
せめて男の子だったらさっきの路地のどこかでこっそり立ちション出来たのに。
ああ、信号、早く、早く。
足踏み、足踏み。
ワンツー、ワンツー。
(はやくー、お願いはやくしてー)


歩行者用の信号が青になった。
その瞬間、あたしはダッシュした。
横断歩道を渡って通りを右へ行き、最初の路地を左に曲がればあと50メートルくらいで家に着く。
とにかく早くしなければ。
バス通りからの路地を左に曲がって、前方に人影がないのを確認するとあたしは再びスカートの上からアソコを強く押さえた。
ダッシュの振動でアソコからオシッコが少しずつ漏れてきている感じがする。


(ひゃー、トイレ、トイレ)
玄関を上がったとこの1階のトイレ。
ダッシュ、ダッシュ。
1階のトイレ。
ダッシュ、ダッシュ。
トイレ、トイレ。
ダッシュ、ダッシュ。
あともう少し。
ダッシュ、ダッシュ。
あともう少し。
ダッシュ、ダッシュ。
門が見えた。
ダッシュ、ダッシュ。
あともう少し。
ダッシュ、ダッシュ。
お母さんいるかな。
ダッシュ、ダッシュ。
着いた!着いた!
ダッシュ、ダッシュ。
鍵、かかってる。
ダッシュ、ダッシュ。
鞄から鍵、出さなくちゃ。
ダッシュ、ダッシュ。
早く、鍵、鍵。


ああっ、、、、、

パンツの中に暖かいものがどんどん広がっていった。


第15章 戻る 第17章