裕子は最近慎太郎と梓がやたらと仲がいいことが面白くなかった。
自分はルックスだって梓より自信もあるし、気転もきく。
どうして梓が慎太郎を一人占めできるのか彼女には理解できなかった。
なぜ秋月慎太郎にこれほどこだわるのか?
自分は今までテレビのコマーシャルのモデルにさえ選ばれたし、いい女をしょっちゅう相手にしているだろう芸能人でさえ自分に興味をしめして何人も口説かれそしてそのすべてをふってきたはずなのに、秋月慎太郎だけは一向に自分に興味を示してくれない彼の意図が理解できなかった。
テレビタレントとしてデビューしてやがては女優にと順風満帆の人生を描いて、ほぼその夢を実現させる寸前にいながら自分に興味を示さない秋月慎太郎が気になってしかたなかった。
「立石裕子さんですね?」
とつぜん流暢な日本語で声をかけてきた東南アジア系と思われる女性が声を掛けてきた。
「はい。そうですが何か?」
「突然失礼いたします。私はシンガポールでアジアの女性問題にとりくんでいるジャナーナリストでリンシャオと申します。実は最近日本の男性にとってカリスマ的存在と成りつつある立石裕子さんに、これからのアジアの女性像について取材させていただきたく、失礼を承知で突然お邪魔いたしました。もしよろしければお時間をいただいて、取材させていただけませんでしょうか?」
「まあそこまでおっしゃられては、お断りする理由もありませんわ。」
彼女はあっさりとリンシャオの用意した車に乗り込んだ。
都内のホテルの一室で取材が始まった。
いろいろと受け答えしている内に飲み物に手を出し、それを飲み干すと眠くなり、裕子はそのまま倒れてしまった。
次に目を覚ましたときは元のホテルの一室ではなく洋風の屋敷のようだった。
しかも自分は全裸に近い状態で診察台のようなところに張り付けにされている。
「何?ここはどこ?誰か助けて。」
「お目覚めですかお嬢さん。いや立花裕子さん。」
「あなたは誰?ここはどこ?早くはなして。」
「私のお尋ねすることにお答えいただいたら離してあげますよ。」
「何のこと?」
「私は貿易商のチンと申します。実はエル・コスキージャスと言う男を探しているんですが、ご存知ですか?」
「そんな人知りません。」
「そんなことはないでしょう。一緒にいるところを我々は目撃しているんですから。」
「知らないものは知らないわよ。とにかく離して。」
「それでは少々拷問を体験していただきましょうか?我々の拷問わちょっと変ってま
すよ。」
「ご・拷問ですって。あなたたちいったい何者なの。」
「さあ、裕子さんあなたの一番いやな拷問は何かな?」
「いやじゃない拷問なんてありません。」
「裕子さん。私はあなたのチャーミングな顔、グラマーなボディラインすべて大好きなんです。でもあなたのセクシーな笑い声が一番好きなんです。」
「どうもありがとう。」
「ですからあなたの笑い声を存分に味わいたい。」
「えー。何するのよ。」
数人の奇妙な仮面をかぶった男たちが入って来た。
「何。この人たち何。ちょっと気持ち悪いからそばに来ないで。」
裕子の行方が分からなくなったことが慎太郎の耳に入ったのにはそう時間はかからなかった。
ただ聴力を最大限にパワーアップさせても彼女の声が拾えないので、そうとう遠くにいることだけはたしかだった。
今日一日の裕子の足取りを追った。
昼の番組のアシスタントの仕事を終えた裕子は帰宅途中に東南アジア系の女性と話しているところを数人のスタッフが目撃しており二人はそのまま出かけていったらしい。
車は赤のフォルクスワーゲンだったそうだ。
慎太郎は二人の行方を追った。
東南アジア系の女性を見た若いスタッフの記憶を読みとった。
「あれはタイガーチェンの秘書兼スパイのリンシャオにちがいない。」
彼はそう思った。
かつて人間であったころ、彼女にはずいぶんと痛い目に合わされてきた。
その結果、命を落とすことになってしまったからだ。
リンシャオは立花裕子を誘い出して眠らせ、チェンの手下に渡すと別行動をとっていた。
高級ホテルのプールサイドでいかにもお嬢様のようにボーイを呼び、好きなブルーハワイを注文した。
「お待たせいたしましたお嬢様。ブルーハワイでございます。」
「ありがとう。」
「ところでお嬢様。タイガーチェンはお元気ですか?」
「え?あ・あなたは。」
「久しぶりだなリンシャオ。」
「結城哲也。あなたは死んだんじゃあ?・・・」
「そう死んださ。もうボルボ31ではない。エルコスキージャスとは俺のことだ。」
「どうするって言うの?私を殺すの?」
「いや。おまえに聞きたいことがある。立花裕子をどこへやった?」
「私が口を割るとでも?」
「まあとにかく一緒に来てもらおうか?」
立花家の地下研究室。
リンシャオの両手両足を縛りつけた。
「私は拷問で口を割るような女じゃないはよ。」
「解っている。コスキージャスターボ。」
そう叫ぶとリンシャオの全身をくすぐりまくった。
「ぎゃー。なにするのーやめてひゃはははははははははははははははははははは。」
リンシャオは痛いとか熱いとかの拷問にはなれていたが、体をくすぐられたことはなかった。
「言う。言うからやめてーきゃははははははははは。」
「立花裕子はどこだ。」
「横浜のチェンの別荘よ。はあはあはあはあ。」
「どうだ参ったか?」
「ええ。参りました。でもちょっと気持ちよかった。」
「それじゃあもう少しくすぐってやろう」
「きゃーーーーーーはははははははははははははははは。」
横浜のチェンの屋敷でもくすぐり拷問ショーが始まろうとしていた。
ちょっと気持ち悪いからそばに来ないで。お願いいやーはははははははははははは。何するのよくすぐったい。やめてってばうふふふふふふふふふふふふあははははははははははははいやんいやんやめてー。」
「おいもっとくすぐれ。おまえは足の裏だ。」
「えー足の裏はだめーきゃーーーーーーーーはははははははははははははははいやーははははははははははははははははははははは。」
裕子はけたたましい叫び声をあげて笑いつづけた。
その笑い声をとうとう慎太郎の聴覚レーダーがキャッチした。
「裕子さんの声だ。待っててくださいすぐいきますよ。」
「ひゃはははははあはあはあもうだめもうだめだったらーいやーははははははははははお願いもうやめてーきゃーーーーー。」
「いいかげん白状したらどうです?」
「だって何も知らないんですものーもういやーんいやんいやあははははははははははははははははははははははははははははははははははは。」
「なかなかしぶといお嬢さんですね。白状するまでやめませんよ。」
「えー。」
その時小さな爆発音が聞こえ、一人の大男が現れた。
「誰だ。」
「おまえたちが探している男だ。随分楽しそうじゃないか?俺も中に入れてくれないか?」
「おまえがエルコスキージャスか?よし片づけろ。」
しかしあっというまにチェンの手下はやっつけられた。
「チェンどこえ行く。逃がさないぞ。」
コスキージャスはチェンを追う。そこへ大柄の白人が姿を現した。
「久しぶりだなコスキージャス。この間の礼をさせてもらうぞ。」
冷酷で狂暴そうな眼差しがコスキージャスに向けられた。
「ジャンクとかいったな。タイガーチェンの飼い猫になりさがったのか?」
「飼い猫かどうか俺と戦ってから判断しろ。」
ジャンクの左手人差し指がコスキージャスに向けられた。
すると身動きができなくなり、やがて空中に浮かびあがった。
「動けないだろう。このままおまえの心臓をぶち抜いてやる。」
ジャンクは空いた右手で銃を取り出した。
銃口はコスキージャスの胸に向けられた。
必死にこの呪縛から逃れようとするがどうにも動かない。
腕力においては地球上のあらゆる生物はおろかどんな機械よりも強いはずなのに動かない。
しかしいくらサイボーグとはいってもこれほどの至近距離で、おそらくマグナムであろう銃で撃たれたんではとても助からない。
彼はゆっくり目を閉じ瞑想した。
反発しても自分の力より強い力で縛られている。
反発せずに同化することを考えたすると不思議と苦しくなくなってきた。
ジャンクの人差し指が引き金を引いた瞬間、コスキージャスの姿が消えた。
「何。どこへいった。」
「ここだよジャンク。」
「きさまどうやって?」
「テレポーションをマスターしたのさ。こんどはこっちの番だ。」
目にも止まらないスピードでジャンクにパンチを与える。
しかしジャンクとて並のエスパーではない。
二人のすさまじい戦いはとても人間の目には止まらなかった。
やがてすさまじい絶叫とともに一人が燃え上がり、そして消滅した。
何が起こったかわからないまま裕子はさっき燃え尽きたのは慎太郎のほうではないかと心配した。
「慎太郎さん。どこなの?いるんでしょ?」
「ええいますとも。」
慎太郎は動けない裕子をいいことに彼女の乳首をツンツンしていた。
「もー。何してるのエッチ。」
裕子を家に届けると慎太郎は逃げたタイガーチェンを追った。
暴力団対策法の影響でやくざの活動は影を潜めたが、そのかわり中国やロシア・そして東南アジアのマフィアが日本に上陸し、その勢力を伸ばしていった。
タイガーチェンも表向きは貿易商だが、極東を牛耳るマフィアのボスである。
いよいよこの日本を食い物にしようとしていた。
しかし、この国を混乱に陥れるべくQ国と企んだ「天皇暗殺計画」もエル・コスキージャスによって阻まれてしまった。
とりあえずは台湾に帰って、出直すつもりで船に乗った。
数日後石垣島に粉々になったクルーザーの残骸が漂着した。
海上保安庁や警察が散々捜索したが、この残骸が誰のものでどこから流れついたのかわからなかった。
ただ、残骸にはこんな文字が書かれてあった。
「RED SNAKE」
完
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