「立石博士、実験の方はどうです。」
「ああ。官房長官、わざわざお越しいただいてすみません。すばらしい肉体を提供していただいたおかげで、予想以上の成果が期待できそうです。」
「しかしいまだに信じられませんな。サイボーグなんてマンガの世界だけだと思っていましたが、この男もこんなかたちで復活するとは。しかし、大丈夫なんでしょうな。プロの殺し屋として悪逆非道のかぎりを尽くしてきたこの男が、元に戻るなんてことは・・・。」
「その点は心配いりません。彼の脳は大幅に改造してあります、かつての冷酷さが復活する可能性はありません。ただ・・・。」
「ただ、どうしました?」
「冷酷な性格を削除したぶん、別の性格が出現するかもわかりません。」
「何?別の性格っていったいどんな。」
「冷酷と言う性格は非社会性な性格と言うところにつながります。その非社会性の性格を削れば削るほど社会性が豊かに成りすぎる傾向になるかもしれません。」
「博士。おっしゃることがよくわかりませんが。」
「極端に人間好きあるいは女好きになるかもわかりません。」
「ええ。この”ボルボ31”と呼ばれたこの男がですか。」
「はい。」
「はいってねえあなた。大丈夫なんでしょうね?」
「そんなにひどい事にはならないと思います。」
依頼があればどんな人間でも確実に抹殺してきたプロの殺し屋、闇の世界では「ボルボ31」と恐れられた男、結城哲也は東南アジアを牛耳る中国系マフィア「レッドスネーク」のボス、タイガーチンの殺害を中米の麻薬王ヘルナンドロペスから請負い、ジャカルタでチンの乗った車の追跡の最中誤ってガードレールを突き破り、谷底へ転落し死亡した。
ところがインターポールを通じて秘密裏に結城哲也の遺体を日本政府が確保した。
そして国家防衛と世界平和を目的としてバイオテクノロジーとロボット工学の最先端技術によって最強のサイボーグが防衛庁のとある秘密施設で東帝国大学名誉教授立石一也により誕生したのである。
「目が醒めたかね気分はどうだ?」
「ううんん。ここはどこだ。」
「政府のとある施設だ。ところで君は誰だかわかるか?」
「い、いや俺はいったい誰なんだ?」
「君は我が日本国の最先端の科学力で造られたサイボーグだ。そして君が造られた訳は、この国と国民はもちろんのこと、この地球上にはびこる悪を壊滅するために造られた正義の味方だ。」
「正義の味方・・・・よくわからない。何が正義で何が悪なのか?」
「それはわれわれが判断してやる。」
「あなた達は悪ではなく、正義なのか?」
「君が悪と判断すれば遠慮なく抹殺したまえ。」
「ち・ちょっと博士、そんなこと言ってもいいのですか?」
「どうかなさいましたか官房長官?」
「い・いや何でもない。」
立石博士は彼を慣れさせるため、自分の自宅でしばらく引き取って生活した。
自宅は妻幹子と二人の娘、姉の祐子と妹の梓の4人家族だが、新しい入居者を彼女達は快く受け入れた。
なぜなら彼はものすごいいい男だったからである。
「パパ、この人なんて名前?」
「あ、・・・秋月慎太郎と言うんだ。そうだな?」
「はい。秋月慎太郎と言うそうです。」
「あはははははは。変なの。」彼女たちは楽しそうに笑った。
そして数週間が達、秋月も随分となれてきたころ、祐子と梓と一緒に映画に行った帰り、数十台のオートバイがものすごいエンジン音をたてて近づいて来た。
「ようようおっさん。まぶいねえちゃん2人もつれて両手に花じゃねえか、俺たちにもあやからせてくれよ。」
凶悪で冷酷なまなざしに不敵な笑みを浮かべた少年たちが、彼らを取り囲んだ。
「秋月さん。怖い助けて。」
「どうして?」
「こいつら悪者よ。やっつけて。」
「やっつけていいんですね?」
「やっつけて。」
秋月は二人をかばい、戦闘態勢に入った。
「なんだおっさん。これだけの人数相手にするきかよ?」
その瞬間後方から一人の少年が鉄パイプで秋月の頭を殴った。秋月は全く表情を変えない。殴ったほうの少年がぐにゃっとまがった鉄パイプを見て硬直している。
「な・なんだあこのやろうやっちまえ。」
リーダー格の少年の号令で少年たちが鉄パイプや角材をもって秋月に襲いかかった。
秋月は全く動かない。そして打ちかかった一本の鉄パイプを掴むとそれを奪い取り、パイプを何重にも折り曲げ、少年に返した。返された少年の方は驚きより恐怖がはしり顔から血の気が引いていった。
「くそー。みんなこのおやじひき殺せ。」
今度は戦意がまだ消失していない数人の暴走族はオートバイを走らせ、秋月めがけて突進してきた。
秋月は近くの道路標識を引き抜いてすべてのオートバイをはじき飛ばし、リーダー格の少年を追いつめた。
「わ、わかった。俺たちが悪かった。た・助けてくれ。」
「それが、年上に使う言葉遣いか?」
秋月の顔が厳しい顔になり、少年の胸ぐらを掴むと顔の真横のコンクリートの壁めがけてパンチを繰り出した。パンチはそのコンクリートの壁をぶち破った。
「ひえええ。」少年は恐怖のあまりどうやら失禁したらしい。
「何と言うんだ。」
「ど・どうもすみませんでした。」
「これからは自分たちより強い者がいることを覚えておくんだな。」
そう言うと秋月は無表情に代わり、振り向いて歩いていった。
少年はその場にへたりこみ動けなくなった。
「へー強いのね、秋月さん。」梓が秋月の腕にしがみついた。
「あー、梓ずるい。」
再び政府の秘密施設に出向いた秋月は、ある暗い部屋に入れられた。すると前方から強い光がさし、何人かの人物がこちらを向いて座っているが、シルエットで誰であるかわからない。
「秋月慎太郎。コードネーム エル・コスキージャス」
「コスキージャス?」
「そう。おまえの名前だ。戦いによって相手を粉砕する能力はどうやら成功のようだ。しかし、悪党は男だけではない当然女もいる。今度は女性をやっつける能力をテストする。」
「女の方が力はないから簡単ではないか?」
「いや。女を傷つけるわけにはいかない。傷つけずやっつける方法がある。」
「どうするのです?」
「女性をくすぐり責めにするのだよ。コスキージャスと言う名前もそこから来ている。」
「ずいぶん変わった戦法だな。」
「では、これから練習だ。」
後方の壁が開かれると奥に部屋があり、目隠しをされ下着だけでベットに大の字で縛られた若い女性がいた。
「その女はチャイニーズマフィヤレッドスネークの麻薬密売人だが、なかなかルートを白状しない。さあ白状させてみろ。」
「でもそんなこと言われても・・・。」
「心配いらん。コスキージャススタートと言ってみろ。」
「コ、コスキージャススタート。」
すると秋月の手が勝手に動きはじめた。
「なにするんだい。私は絶対白状しないよ何よ。何するぎゃーはははははは。何すんのよきゃははははははははははははははははははは。やめてーあははははははは。」
秋月の手が勝手に一番くすぐったい場所を勝手に探しだし、すごいスピードでくすぐり続けた。
「やめてーきゃははははははは。」
「では、白状するのか?」
「言う。言うからもうやめてーはははははははははははははは。」
手が止まった。
「さあ言ってみろ。」
「はあ。はあ。はあ。あんたのパンツの中。」
「何だと。コスキージャスターボ。」
これまで以上の早業で手が動き出した。
「ぎゃーはははははははははははははははははははははははははははは。」
女は体をよじって必死に抵抗する。口から泡をはきながら笑い続けた。
「いーひひひひひっひあはははははへへへへあはは。あはは。もうもうやめてーきゃははははははははははははははははは。」
「よしでは必殺技だ。」
秋月の手が女の足の付け根を責め始めた。」
「きゃーーーーーははははははは。」
そのまま女は気を失ってしまった。
「だめだ。コスキージャス。気を失ってしまってはしょうがない。おまえは女の体をエクスタシーの極限に持っていけるフィンガーテクニックを組み込んでいるはずなんだが。もっと練習しろ。」
「はい。くすぐって気持ちよくさせることも出来るんですね。」
「そうだ。」
「手近なところで練習してきます。」
「手近なところってまさか。おいこら、まて。」
秋月は出ていった。みんな追いかけるが追いつかない。なぜなら彼の走るスピードは時速150キロ。空を飛べば音速にまで達するのだ。
立石梓は緑山大学2年生、グラマーで日本人離れした美形の祐子とは違って、キュートで細身だが色白で天真爛漫なかわいらしいタイプの女の子である。
今日は母親の幹子と姉の祐子は買い物に出かけ、一人で留守番をしていた。
そこへ父親の立石一也から電話が入った。
「もしもし、ああ梓か。すぐに逃げなさい。いや隠れていなさい。」
「どうしたのおとうさん。」
「何でもいいから言われたとおりにするんだ。」
「はい。へんなの。」と梓は受話器を置き、振り返ると秋月が立っていた。
「きゃ。あーびっくりした。秋月さんじゃないの。」
「梓さん。今日新しい課題に取り組むことになりました。」
「どんなの?」
「悪人はなにも男だけではなく女性もいます。そこで悪い女性をやっつけたり、悪事を白状させたりするテクニックをならっています。」
「なるほど。で、どうするの?」
「練習に協力してくれますか?」
「私でよければ手伝うけど、何をどうすればいいの?」
「悪人であっても女性は傷つけてはいけない。そこでこうするんだそうです。」
秋月は突然梓の後ろにまわって脇腹をこちょこちょくすぐり始めた。
「きゃーははは、だめ私それ弱いの。ちょっとやめてーははははははははははははきゃーーーはははははははは。」
梓は床を転げ回って笑い続けた。
「秋月さんお願いやめてーいやんいやんいやーんきゃはははははははははははははひゃはははは。きゃはははきゃーーやめてーはははははははは。きゃーははは。」
秋月はついにこう叫んだ「コスキージャススタート」
「ぎゃーーーはははははははははははははははは」・・・・・・・・
立石が家にたどり着いた時、秋月と梓は仲良くコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
「あ・梓。大丈夫か?」
「何よお父さん。もうお仕事終わったの?」
「何もなかったか?」
「ええ。何のこと?」
しかし立石は梓の目がとろんとして、秋月に寄り添い仕草が何かセクシーになっていることを見て「ああ。遅かったか。」とつぶやいた。念のために秋月にも聞いてみた。
「おい秋月。梓に何をした?」
「はい。命令どおり練習をして、やっとコツがわかってきました。」
「そんなアホな。」そうつぶやくと立石は仕事場へとかえっていった。
「変なおとうさん。疲れてるのかなあ?」
「そうかもしれませんね。」
関西新空港に大柄で、がっしりとした体格の男が降り立った。
スーツ姿にサングラス、その異常なまでに強靱そうな体格以外何の変哲もない感もあったが、厳格で有名な日本の税関でさえひるんで何も質問できないような迫力を感じたのである。
男はある国の領事館の車に乗り込んで、空港をあとにした。
「長旅ご苦労。」
「それから、今回は何をやればいいのだ?」
「そうせかすなジャンク、疲れているだろすこし休め。」
「疲れという感覚はない。」
「そうか。では今回の指令をはっきり言ってやる。再び日本とアメリカを戦争に追い込むこと。これが今回のおまえの使命だ。」
「それで?」
「まず。おまえはCIAの諜報部員に化けて、天皇と皇太子を射殺する。日本人の反米感情をあおって、米軍海兵隊に化けた手下が次々と日本人の女を襲って殺す。そして向こうでは日本人右翼を装って米大統領を暗殺させる。」
「おれは天皇と皇太子を殺せばいいのか?」
「いや。日本中でいろいろな破壊工作をやってもらう。」
「今回の仕事で誰が喜ぶのだ?」
「我が国のボスだ。そして我が国がアメリカに代わって世界を支配する。」
「わかった。実はおれはエスパーだ。必ず成功させてやる。」
「たのんだぞ。」
車は大阪市内の領事館へと消えていった。
つづく
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