(た)作品

塾帰りのエレベーターで
〜女子大生編〜

第1章 マンションのエレベーターが
 それは、普段と変わりないある金曜日の夜ことだった。近くの公立高校に通っている俺は、来年の大学受験に備えて塾に通っていて、この日も、いつものように夜の10時を過ぎてから自宅のマンションに帰ってきた。

 塾から帰る直前に、近所でボヤ騒ぎがあったので気をつけて帰るように、との指示があったが、詳しく聞いてみると、俺の家のマンションとは少し離れた場所だった。自宅近くまで戻っても、煙が見えて消防車がけたたましく走ってはいたが、自分のところのマンションまで被害が及ぶ心配はなさそうだった。


 俺は、夜10時20分頃に自転車でマンションに戻ると、自転車を駐輪場に置き、マンションの入口の自動ドアをくぐり、正面に2基あるエレベーターの片方に乗り込んだ。

 俺が階床ボタンを押してドアを閉めようとしたとき、一人の女性がマンションの玄関から入ってきて、エレベーターのほうに走ってくるのが見えた。俺は、せっかく走ってくる人がいるのに無下に扉を閉めるのも気の毒だと思い、俺はドアを閉めずに彼女を待っていてあげた。彼女は「すいません」と言いながら乗ってきて、それから、俺はエレベーターのドアを閉めた。


 俺は、この美しい女性の顔に見覚えがあった。都心の大学に通っている女子大生で、去年、大学に進学したての彼女が、大学の礼装用の制服を着てマンションから出ていく姿を、俺は何度か見かけたことがあった。

 今日の彼女は、上半身が厚手のTシャツで、下半身にはぴっちりとした薄手の真っ白なジーンズを身につけている。俺は、彼女の顔を近くで見るのは初めてだったが、色白の美人で、聡明そうな美しい小さな顔が印象的だった。

 俺の家は5階、彼女の家は7階で、エレベーターはそれ以外の階を通過して上にあがって行く。もはやマンションの住人が多くウロウロするような時間帯ではない。


 と、エレベーターが急にガクンと止まった、と同時に蛍光灯が消え、代わりに非常灯が点灯した。非常灯がちゃんとついているから、単なる停電だろう。最近のエレベーターは、非常灯といっても結構明るくできていて、同乗している女子大生の顔もはっきり見えている。

 俺がエレベーターの通報装置のボタンを押して事情を告げると、メンテナンス会社の人が、「停電ですので今しばらくお待ちください」と返答してきた。


 それからどのぐらい経ったであろうか、ただの停電のはずがなかなか復旧しない。俺が再度メンテナンス屋に尋ねると、例の近所の火事の影響による停電で、しばらく時間がかかるという。

 俺は、エレベーターの天井を見つめてぼんやりしていた。


 すると、不意に俺の耳に

「コツコツコツ」

という音が聞こえ、すぐに止んだ。同乗の女子大生の方を見ても、特に変わった様子はない。俺はもう一度上を見上げた。

「コツコツコツコツ」

 俺はとっさにもう一度彼女の方を見た。すると、彼女が小さく足踏みをしていた。俺は、ああ、イライラしてるんだな、と思って見ていたが、何だか、足踏みする回数がだんだん増えてきている。


 俺はそこで初めて、あ、この女性はトイレに行きたくなったんだな、と気がついた。でも、あえて気がつかないふりをしておいてあげようと思った。


 そのうち、彼女の足踏みは、時々ではなく、連続して続くようになった。足踏みするほどトイレに行きたいということは、結構激しい尿意を催しているのだろう。

 途中で俺と目が合ってしまったとき、彼女は気まずそうに俺から目をそらした。若い女性にとって、オシッコがしたいのを我慢していることを周りに気づかれるような仕草をするのは恥ずかしいに違いない。できれば平静を装いたいのだけれど、彼女の激しい尿意がそれを許さないのだろう。


 停電で動かないエレベーター。俺の隣には、オシッコがしたくて足踏みしている女子大生。

 オシッコがしたくなってしまった女子大生は、俺に背を向けたまま、ときどき脚をすぼめたり、わなわなと膝を揺らしたり、あげくに足踏みまでしてしまって…。


 閉じ込められた空間で不覚にも尿意を催してしまった女子大生。

 そうしている間にも、女子大生の尿意はどんどん激しくなっているようだった。エレベーターの中は少し肌寒く、気温が下がるとトイレが近くなるのは、女の人なら誰しものことである。

 女子大生は足踏みするほどトイレに行きたくて、やがて足踏みだけではダメになり、彼女は時々その場で小さくジャンプするようになった。エレベーターの中で飛び跳ねながら尿意をこらえている女子大生の表情は、かなり苦しそうになっていた。でも、まだお互いに知らん顔をしていた。

 止まってしまったエレベーターの中でオシッコがしたくなって、密室の中で激しい尿意に襲われる女子大生。彼女はやがてジャンプするのをやめ、両足をくの字に折り曲げて、手を膝につけながらもじもじし始めた。そして彼女はここで初めて俺のほうに顔を向け、

「お手洗いに行きたいんです」

と、切迫する尿意を告白した。やがて女子大生は、俺が見ている前でジダンダを踏み始めた。よっぽどオシッコがしたいのだろう。


 激しい尿意にじっとしていられなくて、じたばた足踏みしながらオシッコを我慢している女子大生。

 停電で動かなくなったエレベーターに閉じこめられて、女子大生は今、激しい尿意と戦っているのだ。 


 俺の横で、膝を擦り合わせてもじもじしながらオシッコを我慢する女子大生。聞いてみると、彼女は駅に着いた時から既にかなりオシッコがしたくなっていたが、でも、大好きな音楽アーティストが出ているテレビが始まるまでに家に帰ろうと、尿意をこらえながら小走りでここまで帰ってきたのだそうだ。そしてマンションに帰りついたとき、エレベーターが来ていたので慌てて飛び乗ったらしい。それがこんなことになるなんて…、と彼女はほぞを噛んた。

 でも、いくら後悔したところで、彼女はここから逃げ出すことはできない。そして、ここから出られるまで、女子大生はずっとここでオシッコを我慢していなければならないのだ。でも、可憐な女性の力で、あとどれぐらいオシッコが我慢できるのか、そして、この美しい女性があとどのぐらいオシッコを我慢しなければならないのか、そして、それは俺にも、彼女自身にも分からないことだった。

 閉じ込められたエレベーターの中でオシッコがしたくなって、女子大生が足踏みしながら尿意に耐えている。でも、こんな状態がいつまでも続けば、この女性はいつかオシッコをもらしてしまう。

 若い女性がエレベーターに閉じ込められておもらし…それは、うら若き女性にとって恐ろしい恥辱の瞬間だろう。


 オシッコがしたくてじっとしていられず、そわそわと足踏みしながら尿意をこらえる女子大生。

 俺はもう一度非常通報装置のボタンを押し、トイレに行きたい人が乗っているので早くしてください、と頼んだが、例の近所のマンション火災に技術者をみんなとられてしまって、今はまだ動けない、という悲しい返事しか返ってこないのだった。相変わらず俺の横では、激しい尿意を催している女子大生が、膝を擦り合わせてモジモジしながら必死にオシッコを我慢している。

 あれからかなり長い時間がたっているが、停電がすぐに復旧しそうな気配はない。

 エレベーターという密室に閉じ込められて、若い女性が必死になってオシッコを我慢している悩ましい姿に、俺はだんだん心配になり始めていた。


戻る 第2章