影山さんの私生活 |
響子は軽い目眩と共に目を覚ました。 徐々に覚醒していく意識の中で、自分の視界にある天井が全く記憶にない物だと認識した時、彼女は瞬時に正気を取り戻した。 「何処、ここ?」 ともかくも体を起こそうとしたが、それはかなわなかった。彼女の体は今、無機質な台の上に拘束されていたのだった。 両腕は左右に広げられた上に手首・二の腕の部分でしっかりと枷で固定され、両足も又、揃えて伸ばされた上に足首部分を固定されていた。 響子は出来る限り体を動かし、この十時型の拘束姿勢から逃れようとしたが、徒労に終わった。そもそも、その程度で自由になるほど甘い物では無い。 彼女は、自分が仕事着であることに気づき、とりあえず記憶をさかのぼり、この事態に至った経緯を思い出そうとした。 彼女の仕事は一言で言えば『ディーラー』である。 とは言え、この国では合法的なカジノが存在しないため、いわゆる非合法の地下カジノ専属だった。 非合法故にと言うわけではなかったが、そこのカジノのオーナーは儲けを重視していた。法律を破ってカジノを経営するだけあり、オーナーの心得に公正さと言う言葉は存在しなかったのである。 儲けを確実に得るために、客には最初の内は勝たせて調子づかせ、大勝負の場になって大負けする様に、ありきたりの仕組みを施していた。早い話が『いかさま』である。 機械的な物は当然として、ディーラーにしてもその技術を会得させていた。 響子はそのカジノの「ポーカー」専属のディーラーだった。いかさまのテクニック自体はごくありきたりであったが、それを補う形として彼女は自身の「女」を利用していた。 彼女はディーラーとして着るスーツをオーダーメイドし、体格に割にはやや大きめの胸がはっきりと強調される様にしていた。スリムな上に巨乳と言ってよい彼女の胸は、カードを配る度に微妙に揺れ、時折、故意にボタンを外しては、相手にわずかながら胸元を覗かせた。この行為が男の興味を引かないはずはなかった。 仕組まれた勝利に調子づき、美人ディーラーの色香に惑わされた男達が、その隙をぬってすり替えられたカードに気づく事が出来ようはずもない。その瞬間、彼等はカードではなく彼女の「女」に魅せられているのだから・・・・・・ そして今日も彼女は自分の仕事を問題なくこなし、帰宅するべくタクシーに乗ったのだった。 そこで彼女の記憶は終わった。 彼女はそのタクシー内で密かに薬を嗅がされ、気を失い、その間にここへ運び込まれたのである。 事実を見ていなくても、状況的にそう洞察することは出来た。ただ、誰が何の目的でこんな事をしたのかについては皆目見当がつかなかった。 響子が混乱のまま、手の打ちようが無いと悟った矢先、室内の一角から光が射し込んだ。彼女は気がつかなかったが、そこは自動ドアになっていたのである。 目をこらして光の中を凝視すると、その中に一人の人影がある事に気づいた。 「だ、誰?」 人影はその問いかけには答える事無く室内に歩みよると、出入り口を閉め、薄暗かった室内に照明をともした。 いきなりの照明に響子は眩しさを覚えたが、次第にそれにも回復した。 「誰よ、貴方?」 響子は視界ぎりぎりにいる人物に再び問いかけた。 相手は無言のまま手にしたリモコンの様な物を操作すると、彼女の拘束された台が彼女の頭部分を上に30度ほど傾斜し、響子と相手を対面させた。 「お久しぶり・・・・・・と言って、覚えていてくれてたら光栄だけど?」 響子の前に立つ人物、まだ青年に部類する男は、何かの期待を込めるように口を開いた。 だが、彼女には記憶のない顔だった。 「・・・・・・・・・・」 「まぁ、当然か。私は過日、貴方の勤めているカジノで大負けした者でして・・・・・当時、貴方のポーカーテーブルで華々しく散ったんだが、覚えてないかな?」 言われても思い出しようが無かった。そのような客は大勢存在し、また、そうさせるのが彼女の仕事であるため、いちいち相手を覚えるような事をするはずもなかった。 が、そう聞くと、現状にあらかた察しがつく。 「それで腹いせに誘拐監禁?犯罪じゃない」 響子は我が身の自由を勝ち取るため、少し強めの口調で言い切った。 「まぁ、そうではあるんだが、私も実力で負けたのなら納得も行くんだけど、いかさまされての敗北じゃあ、納得できなくてね」 「な、何の事よ?」 いかさま、この一言で響子の心臓は大きく跳ねた。 「はいはい、とぼけないで。昨日、ちゃんと確認したんだからな。君の後ろでね・・・・さすがに前に座っていては気が散ってなかなか気づかなかったが、ちょっと嫉妬深いメイドが同伴していて気づいてくれたんだよ」 「み、見たとか確認したとか、そんな言葉だけで証拠になるはずないじゃない」 明らかに動揺していると分かる口調で言い張る響子。 「でも、君は事実を知っているだろう。当事者なんだから。君さえ認めてくれれば話は早いんだけどな」 「知らないわ。いやらしい目つきで人の体を見つめたあげくに負けたからって言いがかりしないで」 「自分にまで嘘はつけないさ」 そう言って男は、響子のぴったりとフィットしている服の上から、腹の部分をそっと指先で撫で上げた。 「ひっ!」 不意に襲った感覚に、思わず声を上げる響子。 「な、何を・・・・・・・」 「な〜に、ちょいと、素直になりたくなるおまじないをしてやろうと思ってね」 「そんなのいらないわよ!」 「なら、正直に認めるかい?」 「・・・・・・・・・・」 男の意地の悪い選択肢に、響子は口を噤んだ。アンフェアな事に関わっていた事を認めるのを憚るのは当然であり、何よりオーナー側の指導が徹底していた事もあった。 「それじゃあ、少し苦しみな」 そう言ったと同時に、男の両手が無防備になっている響子の脇の下にのび、計10本の指が添えられた。 それだけで彼女はぴくりと感電した様に身を震わせ、小さく息を吐き出した。その次に来るだろう刺激に備えてか怯えてか、体は小さく震えていた。 「無駄だとは思うけど、精々頑張りな」 そう言って、両手を一気に腰の当たりまで引き下ろす。 「はひっ!」 先程よりもさらに大きく響子の体が震えた。その表情はくすぐったさと苦痛に耐える様な複雑なものだった。 その様子が気に入ったのか、男の責めは本格的なものへと移っていった。 腰の周囲を存分に撫で回したかと思うと、再び脇の下へと指を滑らせ、スタート地点に戻ったかと思うと、全ての指先で“の”の字を描くような螺旋運動で脇腹・腰・太股へと移動していく。 見た目は指先だけのソフトなタッチではあったが、彼の与える刺激は確実に響子のくすぐったいと感じるポイントに触れており、その度に彼女は吐き出すような悲鳴をあげ、拘束された体を捩らせ、身を震わせた。 「はあっ!あっ、ああっ、く、くひひひひひひ・・・・・」 まだまだ馬鹿笑いする程の刺激でも、耐えきれる程でもない微妙な刺激が響子の体を駆けめぐり、彼女の心身を疲労させる。この僅かな時間だけで、彼女の呼吸は大きく乱れ、うっすらと汗まで滲ませていた。 「こんなのはどうだ?」 男の言葉とともに刺激のパターンが変化した。男は右手の人差し指と中指を揃えると、ぴったりフィットし強調されている響子の両乳房の付け根部分を『8』の字を描くように何度も滑らせた。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 口を噤む間もなく吐息に似た悲鳴が響子の口から漏れた。敏感な彼女の体は、この刺激に対してくすぐったさだけでなく、もどかしさも感じてしまったのだ。 「ほぉ、結構感じやすいんだな」 響子の反応に満足げな笑みをもらすと、男は今度は両手を使い、彼女の両胸の周囲で円を描くように指を滑らした。時折、乳房の下を軽くくすぐりもして、彼女の性感を弄び続ける。 「あひひっ・・・・はぁっ・・・・くふふふふふふ・・・・・」 ぴくぴくと身を悶えさせながらも響子は拘束が外れないかと、もがきは結局報われることは無い。 「ほら、もどかしくて・苦しくて・辛いだろ。正直にあの話を認めてくれれば、この状況からは解放されるんだけどな・・・・」 「ふくっ!う・・・・う・・・・」 響子は次々に襲いかかる刺激に過敏に反応しつつも、反抗の意志を目で訴えかけた。 「結構、頑張るな。それじゃぁ、こんなのはどうかな?」 結果が分かっていたのだろう。男はポケットからアイマスクを取り出すと、手慣れた手つきで響子に装着し、彼女の視界を奪った。 「見えると見えないでは、本当に感覚が違うって知ってたかい?」 その言葉を我が身で確認させるべく、男は響子の両脇に指を添え、先程と同じように脇の下から腰までの往復運動を無遠慮に繰り返した。 「はあっ!あっ、あっ、あっ、ああ〜〜っ!!」 予想だにしなかった感覚の洗礼を受けて、響子は悲鳴を上げた。このまま後数秒も続けられていたら、彼女の悲鳴は苦しみを伴った笑い声になっていただろう。だが、その前に、男は手を離してしまっていた。 「どうだ?この状況でのくすぐりって、考えただけでぞくぞくするだろ。それじゃあ、次は脇の下で行くぞ」 「ああ、いや、そんな・・・・・・」 響子は拒絶の言葉を漏らしつつも、出来うる限り耐えてやろうと身を固くした。 だが、襲いかかった刺激は彼女の意識が構えていた脇の下ではなく、両膝頭だった。しかも、今までのような指を滑らすだけの撫で責めではなく、指をくねらせた本格的なくすぐりだった。 「あふっ、あ、あ、あっ、あ〜っはははははははっははははっはははは!!!」 不意打ちの、しかも今までになかったくすぐったさに、ついに響子は大笑いしてしまった。耐える間など一瞬ほども無い。彼女にとってそれ程までの刺激だったのだ。 ピクピクと跳ね上がる膝頭をねちねちと追い回し、十分に反応を堪能した男は、一度その手を止め、響子の耳元でささやく。 「それじゃ、今度は足の裏の集中攻撃にしようかな」 「ひぃあっ・・・・」 足の裏を責められる事の辛さを知っている響子が身じろぐ。無駄と知りつつも脚をばたつかせ、そこから逃れようと努力する。 が、またしても刺激は彼女の警戒していた箇所から大きく外れていた。 「ひゃはははははははは!あはははははははは!あ〜っははははははははっ!!!ちょっ、う、ウソ、きゃはははは、嘘つきぃ〜〜!!!!」 今、彼女を襲ったくすぐりは予告とはかけ離れた脇腹だった。 アイマスクで見えない上に、予告を信じてそれに備えていた彼女にとってはこれ以上ない不意打ちであった。 「やはははははは、あははははは、駄目、やめてぇ!!」 「そうしてもらえる合い言葉は・・・・・わかってるよね。それまでは、これが続くよ。さて、今度は何処にしようかな?」 男の言葉は響子に言葉以上の恐怖感を与えた。目が見えない不安に・いつくすぐられるのか分からない不安に加えて、何処をくすぐられるかも分からず、宣言が信用できない事が一層その感覚を増大させている。 こうなると、言葉だけ・素振りだけで体がむずむずとした感覚を感じてしまうようになっていた。 「は、はぁん、分かった、分かったから・・・・・・・」 実際、今、男は何もしてはいなかった。ただ、そう思わせるだけで響子の体が反応してしまっていたのである。 「何が分かったのかな?」 「認めるから・・・・あの店はイカサマをしてて、私は、私はそれに荷担してたわよ。認めるからもうやめて!」 「それじゃあ、この前の負け分、返してもらえるのかな?」 「そ、そんなの無理よ。オーナーが認めるわけないもの・・・・・・」 「でが、君が協力してくれれば問題はないだろ?」 それは、響子にしてみれば雇い主に対しての裏切り行為に値する。 「それは・・・・・・」 「無理な話では無いだろ?みんな君次第だ・・・・・」 確かに全ては自分の判断次第であった。だが、響子は違法とはいえ、自分の雇い主を裏切る行為に素直に賛同する事を良しとしなかった。 「無理じゃない・・・・・・無理じゃないけいど・・・・」 「う〜ん、仕方ないね。それじゃ、決心がつくまでさっきの続きでも」 男の気配が僅かに動く。 「やあぁっ!わかった、わかりましたぁ!だから・・・・・・」 可能な限り身を捩らせ響子は懇願する。 (この女、思った以上にくすぐりに弱いみたいだな) 過敏すぎる反応を見て、男はそれを実感した。ちゃんと調教さえすれば、立派なくすぐり奴隷になるだろうと判断したが、当面はギャンブルの不当な負け分を回収する方に専念するのであった。
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