ミニメロン作品

先生のゆびさき

 4時間目の開始を告げるチャイムが鳴った。
 あたしは勉強は好きではないが、この授業だけは特別だ。
 なぜなら、今教室に入ってきた、あの先生が担当なのだから。
 長い金髪に小さな花の髪飾りをつけた、あの美人教師に会う事だけが、この女子校でのあたしの唯一の楽しみだ。
 今、一人の生徒が前に進み出て、先生に何かを告げている。
 そういえば、あの子ったら先生に顔近づけ過ぎ。
 私だって、まだあんな間近には迫った事ないというのに。
 でも、こういう時にこんなふうに先生に告げる言葉は、少なくともロマンチックなものではあるはずがない。
 あたしの予想どおり、彼女の言葉を聞き終えた先生は、厳しい口調で告げた。
「教科書忘れたの? しょうがないわね。こんな悪い子にはたっぷりお仕置きしてあげる」
 思ったとおりだ。
 だがそれにしても、あの美人教師からお仕置きが受けられるとは、なんと羨ましい事だろう。
 あたしも一度、教科書を忘れてみようか。
 そんな考えが頭をよぎった。
 でも残念ながら、そのような事はあたしにはできないのだ。
 なぜなら、あの先生のお仕置きというものは、あたしには到底受け入れられないものなのだから。
 今、先生が取り出したるは、縄跳びの縄。
 さっきの生徒の両手を万歳のように上に上げさせると、先生は縄跳びを天井に吊るし、縄の端を慣れたた手つきで生徒の手首に縛り付ける。
 これで生徒は手を降ろす事ができない。
 彼女の無防備に開かれた腋の下に、先生が無遠慮に指を這わせ、激しく蠢かせる。
「きゃははは、もうだめ、もうやめて!」
 生徒はたまらずかん高い笑い声を上げる。
「ほーら、ここはどう? くすぐったくてたまんないでしょ? もっともっとくすぐってあげる」
 ゆびさきのなすがままに生徒が身悶え笑い声を上げるのが面白くてたまらないといった顔で、脇腹やお腹にも手を這わせながら、なおも激しく指を蠢かせる先生。
 その先生の意地悪な喜びに満ちた笑顔を見つめながら、あたしは自分がそのような喜びを先生に与える事のできない無念さを噛みしめていた。

 4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
 弁当箱を持って、廊下に出る。
 屋上に通じる階段に差しかかった時、何かが背中をツツーッとなぞった。
 敏感な背中に走る悪戯な刺激に、一瞬身体が大きく震えた。
 振り返ると、あたしの後ろにはクラスメイトの一人が立っていた。
「ごきげんよー」
 他人の身体に悪戯しておきながら、なにくわぬ顔で挨拶をする彼女は、私にとって厄介な存在だ。
 しかし、もっと厄介なのは、彼女が私の一番の話し相手だっていう事かもしれない。
「あたし、ああいうの苦手なんだから、やめてよね」
 弁当を食べ終えたあたしは、さきほどの悪戯に関して、さっそく釘をさそうとした。
「でもそんなんじゃ、先生とは付き合えないよ。好きなんでしょ? 先生の事」
 この厄介者と同じクラスになってから、まだ数ヵ月しか経ってないのに、どうして彼女はそんな本当の事が言えてしまうのだろう。
 あたしの疑問をよそに、彼女はさらに言葉を続ける。
「ちょっと訓練してみない?」
 その直後、あたしの背中に、再び異様な刺激が走った。
 あたしの身体がビクビクと震える。
 その刺激の凄まじさは、さきほどの比ではない。
 さきほどあたしの背中をなぞった指は1本だけだったのに、今回は5本の指が背中を這い降りたのだ。
「いきなり何すんのよ」
 あたしは思わず大声を張り上げた。
 だが、彼女はあたしの身体を玩具にした事について、悪びれた様子もなく平然と答えた。
「だから、先生と付き合うための訓練よ」
 確かに、本当に先生と付き合う事になったとしたら、背中をこのように悪戯される事など日常茶飯事だろう。
 いや。あの先生の事だから、恐らく背中などよりもっと敏感な脇腹や腋の下に、凄まじいい悪戯をして来る事は間違いない。
 だから、あたしには先生と付き合う事など、できるはずがないのだ。
「もう、いい加減にしてよ。あたし先もどるから」
 あたしは階段に通じるドアを開け、教室へと向かった。
「ちょっと待ってよー」
 彼女が追いかけて来ようとしたが、あたしはそれを拒否するようにドアを閉めた。
「昼休み、まだあるのにー」
 そんな声が背後から聞こえてきたが、構うもんか。
 彼女のいない教室は退屈だが、身体を悪戯されるよりはずっとマシだ。
 あたしの身体は彼女の玩具ではないのだから。

 ――まったくあの子ったら、あたしの身体を何だと思ってるのかしら。
 心の中で悪態をつきながら、廊下を早足で歩く私を、突然誰かが遮った。
「この前の返事、聞かせてもらえるかしら?」
 目の前で微笑みながらあたしにそう尋ねる彼女は、4時間目のあの先生だ。
 そうなのだ。
 なんと、あたしはこの憧れの先生から、個人的な面会を申し込まれていたのだ。
 普通ならば二つ返事でOKする所なのだが、問題は、このまま先生と二人だけで会ったらどういう目に遭わされるかという事。
 それをあたしが問題にしている事は、先生にも十分分かっているはずだ。
「明日の放課後、生徒指導室で待ってるわ。気が向いたら来て」
 あたしが返答に迷っているのを見兼ねたのか、先生はそう言い残して職員室の方へ去って行った。

 帰宅後、あたしはベッドに横になりながら、迷っていた。
 先生と生徒指導室で二人きり。
 そこで先生に何をされるのか、先生の趣味を考えれば明らかだ。
 生徒に対する先生のお仕置き。それは先生の趣味でもあるのだ。
 先生は、女の子の身体をくすぐって笑わせるのが大好きなのだ。
 先生は、あたしの身体をくすぐって、笑わせたいのだ。
 生徒指導室なら、防音がしっかりしているから、どんなにかん高い笑い声を上げようと、どんなにかん高い悲鳴を上げようと、声が外に洩れる事はない。
 だから生徒指導室の先生は、あたしの声が出なくなり、あたしの身体が変質的な刺激に耐え切れず気絶するまで、あたしの身体を徹底的にくすぐり続ける事ができるのだ。
 目を閉じると、4時間目の先生のお仕置きの様子が瞼の裏に浮かぶ。
 腋の下や脇腹、腰を這い回り、時には滑るように、時には柔肌の奥の神経を揉み転がすように、激しく蠢ゆびさき。
 そして、そのゆびさきの蠢きによって身体に送り込まれ続ける変質的て耐え難い刺激……。
 ――だめよ、あんなことされたら、あたしヘンになっちゃう
 指の蠢きによる変質的な刺激は、想像しただけで身体がくすぐったくてたまらなくなるのだ。
 その刺激を実際に体験なんてしたら、もしかしたらくすぐったくてオシッコが出ちゃうかもしれないのだ。

 翌日の昼休み。
 あたしはあの友達と、再び屋上にいた。
 彼女はなぜか、あたしが先生に生徒指導室に誘われている事を知っていた。
「昨日はごめんね。あたし、あの後聞いちゃったの。あなたと先生の話。それで、行くの? 生徒指導室へ」
「多分行かないわ。あたし、耐えられないもの」
「こわいのね。くすぐられるのが」
「そうよ。当り前でしょ?」
 それとも、彼女はくすぐられるのが恐くないのだろうか。
 そうだ、きっとそうだ。
 だから私の事も頻繁にくすぐって面白がるのだ。
「でも好きなんでしょ? 先生の事が。だったら大丈夫よ」
「何が大丈夫なのよ。あんたは自分がくすぐったがりじゃないからそんな事が言えるのよ」
 あたしのその言葉に彼女が返して来た言葉は、あたしにとって意外なものだった。
「ちがうの。あたしもものすごいくすぐったがりなの。多分あなた以上だと思うわ」
 ――えっ? 彼女がくすぐったがり?
 あたしは耳を疑った。彼女は先を続けた。
「ずっと前、仲の良かった友達に頼まれたの。あたしの身体をくすぐらせてほしいって。もちろん断ったけど、彼女が他の女の子をくすぐるのを見た時、すごく後悔して、思わず言っちゃったの。あたしをくすぐってって。激しく蠢く彼女の指は、くすぐったくてたまらなかったけれど、大好きな人の指だと思ったら不思議とイヤじゃなくて、むしろずっと続けてほしいと思ったわ。あなたも先生の事が大好きなら大丈夫。きっと受け入れられるわ。先生のゆびさきを」

 放課後になった。
 あたしは勇気を出して、生徒指導室のドアをノックした。
「よく来てくれたわね。服装もリクエストどおり。嬉しいわ」
 夏の体育着にブルマという極めて健康的な女子の服装のあたしを生徒指導室に招き入れると、先生はさっそく作業を開始した。
 あたしの両手をバンザイのように上に上げさせ、天井から吊るされたロープの端を、あたしの手首に縛り付ける。
 昨日のお仕置きを受けた生徒と同じように、あたしの手は降ろせないように拘束されてしまった。
「あたし、こんなふうにされるの初めてなんです」
「分かってるわ。先生にまかせて。まずはこれで、やさしくしてあげる」
 あたしの訴えに微笑んだ先生が取り出したるは、習字用の極太の筆。
 その穂先を、あたしの無防備で敏感な太股に這わせる。
「くぅっ!!」
 穂先の毛が柔肌を滑る異様な刺激に身体が震え、思わず声を上げてしまいそうになる。それを必死にこらえながら、なおも激しく太股を這い回る筆の刺激に耐え続ける。
「なかなか笑わないのね。我慢するつもり? 一度声を上げたら止まらなくなるから? それともまだまだ物足りないのかしら?」
 先生の質問に答える余裕など、あたしにはなかった。
 少しでも声を出せば、それはたちまち笑い声に変わり、二度と止める事ができなくなってしまいそうだった。
「それじゃ、いよいよ本番よ」
 ついに先生は、あたしの腋の下に手を当てた。
 まだ指は動いていないというのに、ただそれだけで、あたしの身体は大きく震えてしまう。
「ひいっ!!」
 思わず悲鳴を上げてしまったあたしに、先生は優しい口調で尋ねる。
「先生の指、こわい?」
「こっ、こわくなんかありません」
 口では強がってみたものの、あたしの身体の震えは止まらない。
「それなら、もっと体から力を抜いて。先生の指を素直に受け入れるのよ」
 あたしの強がりを良い事に、先生はそう言いながら、あたしが恐くてたまらない指を、ついに激しく蠢かせ始めた。
「キャハハハハ、くうっ!! くすぐったい、もうだめ、ゆるして、おねがい」
 あたしの身体はその変質的な刺激の凄まじい嵐に耐えられず、たちまち激しく痙攣を始める。
 そして、身体中を渦巻く刺激の嵐がかん高い笑い声となって迸る。
 必死に堪えようとしても、先生の巧みや指の動きはたちまちあたしの身体を再び狂わせ、悲鳴と笑い声を上げさせ続ける。
「やめてほしい? でもまだだめよ。だって、あなたの笑った顔も笑い声も、とってもステキなんだもの」
「きゃははははぁ、だめぇっ、これ以上されたら、くすぐったすぎて死んじゃうっ!!」
「大丈夫。そのうちとっても気持ちよくなるわ」
 先生の言葉に、あたしは耳を疑った。
「そんな事ぜったいありえないわ。もうだめ、もう、きゃははははぁ!」
 あたしは先生のゆびさきの刺激に身悶えながら、先生のゆびさきのなすがままに、かん高い悲鳴と笑い声を上げ続けた。

 あれからどれだけの時間が過ぎたのだろう。
 あたしは朦朧とした意識の中で、凄まじいくすぐりの刺激の嵐に耐えつづけていた。
 もはや身体を動かす事も、声を上げる事もできず、ただひたすら先生のゆびさきの蠢きを受け入れる事しかできなくなった時、指の動きがようやく止まった。
「どうしたの」
 先生が心配そうに尋ねるが、あたしにはもはや返事をする体力すら残っていなかった。
「大丈夫?」
 あたしの顔を覗き込む先生の顔が、目の前に迫って来る。
 こんなチャンスは滅多にない。
 あたしは必死に最後の力を振りしぼり、素早く顔を上げて前へと動かした。
 あたしの唇と先生の唇が重なった。
 突然の出来事に、先生の綺麗な目が大きく見開かれている。
「先生のくちびる、いただきました」
 唇が離れた時、あたしは微笑みながら言った。
「ずいぶんとマセてるのね。こういう悪い子にはたっぷりとお仕置きしてあげる」
 先生は妖しく微笑みながら、再びあたしの腋の下にゆびさきを這わせ、激しく蠢かせ始めた。
 そして、笑い声を上げようとするあたしの唇に、先生の方から唇を寄せて来た。
「んっ、くふっ!!」
 あたしの唇は先生の唇で塞がれ、迸ろうとしていた笑い声はくぐもった呻き声に変わる。
 やがて先生は唇を離した。
 とたんにかん高い悲鳴と笑い声があたしの口から迸る。
「キスしながらくすぐられるのはどう? ずいぶんと嬉しそうね。それじゃ、もっともっとしてあげる」
 先生はそう言うと、再びあたしの口を唇で塞ぎ、無防備で敏感なあたしの腋の下に這わせたゆびさきを、なおも激しく蠢かせ、妖しく耐え難い変質的な刺激の嵐をあたしの身体に送り込んだ。
 先生のやわらかい唇の甘さと激しく蠢くゆびさきの魔法は、いつしかあたしの身体がこの妖しく耐え難い変質的な刺激を激しく求めて身悶えるほどに、あたしの身体を狂わせるのだった。

 意地悪で残忍な先生のゆびさき。
 それは同時に、愛しくてたまらない先生のゆびさき。

―おわり―


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