コスキージャス作品

お殿様の嫁探し

むかしむかしある国の若殿様がそろそろ年頃なので嫁さがしをすることになったそうな。
しかしその若殿様は嫁選びの条件としてちょっと変わった条件を出した。
「わしはおなごの笑い声が好きじゃ。容姿端麗はもちろんのこと、愛らしい声でよく笑うおなごを探してまいれ。」
おかしな指示をされた家来達は困りに困って、みんなで家老の大橋助平に相談することになったそうな。
家臣たちから話を聞いた大橋助平は、さっそく若殿様の所へ出向いた。

「若。こたびの嫁探しになにやら妙な条件を出されたとか。」
「妙な条件とは聞き捨てならんのうじい。おなごの笑い声が好きじゃというのがそれほどおかしいか。」
「そのような条件に見合うおなごなど、どのようにして探すのでござりますか?」
「そんなことおまえらが考えればよい。城下を虱潰しに探してまいれ。」
「我が結城家のお世継ぎである若殿様が、どこの馬の骨とも解らぬおなごを娶るよようなことはおやめくだされ。」
「ならばどのようなおなごがよいのじゃ。」
「それは当家代々のしきたりによって、公家であるとかとある大名の娘でなくては成りませぬ。」
「その中にわしの条件にあう娘がおればよい。」
「しかしそれ相応の姫様がよく笑うかどうかなど、どうやって調べるのか。」
「何とかせい。」
「何とかせいって若。」

家老の大橋もとうとう若殿の奇妙な条件に見合う姫様を探すこととなった。
若殿は非常にいい男で、武芸百般の達人であったので、あちこちの大名の娘や公家の娘、又大商人の娘までが申し込んできた。
まずは容姿端麗で美声であるという条件でほとんどの姫様が失格した。

残ったのは2人。この中から一番よく笑う娘がはれて、若殿の奥方様となる
「さていよいよよく笑う女尚を探すわけでござりますが、どのようになさりまする。」
大橋は若殿の考えをたずねた。
「残ったおなごはどのようなおなごか?」
「は、一人は我が結城家が長く親交のある天津藩藩主木下主膳様の次女玉姫様 もう一人は京の公家より徹夜小路子句麻呂様が四女貴子様、以上にござりまする。」
「よし、一人づつわしが面接を行う。誰も来てはならんぞ。」
「いったい何を考えているのでございます?」
「いちいちうるさいやつだなあ。手荒な真似はせん。」
「手荒な真似って、当然でござりましょうが。」
「うるさいな。年寄りは庭でゲートボールでもやっておれ。」
「この時代にゲートボールなどござりません。」

やがて若殿様の秘密の部屋にひとりづつ通された。
玉姫は顔立ちの整った評判の美人だった。
「よく参られた。顔を上げられよ。それがしが藩主結城左右衛門之丞隆影が一子結城有蔵と申す。」
「わらわは天津藩藩主木下主膳の次女玉と申しまする。」
「おおさすがにお美しい姫様じゃ。こたびの見合いの最終審査はそれがしが自分ですることにした。」
「どのようにしてでござりまする?」
「心配なさるな。気分を落ち着かせて、この振り子をごらんなされ。」
玉姫はだんだんと眠くなりそのまま眠ったようになった。
「玉姫様。とても気持ちのいい場所にいらっしゃますな。どこにおられまする?」
「おおなんと美しい。」そういうと玉姫は夢の世界へと入って行った。
玉姫は延々と続く満開の桜並木の中を一人で歩いている。
すると誰かが声をかけてきた。
「玉姫様。」
「だれじゃ。」
「私は桜の精でござります。普段よりことのほかわたくしめをかわいがっていただお礼をさせていただきます。」
「何、礼とは何じゃ。」
すると桜の木の枝がするするとのびて、玉姫を大の字にくくりつけた。
「これ、何をする。無礼であろう。」
「いいえ、これから気持ちよくさせてさしあげます。」
今度は別の枝が何本ものびてきて、玉姫の着物の間から入って、玉姫の全身をくすぐりはしめた。
「これやめぬか。くくく、くすぐったいではないか。うふふふふ。きゃーはははははやめてたもははははは、わらわはそれがにがてじゃぎゃはははははははははははは」
玉姫はもがくが枝は次々と襲いかかってきた。
「きゃはははははははははははひーーやめてははははははははは。」
「玉姫殿、いかがなされた。」
気がつくと若殿が玉姫を抱きかかえていた。
「え。わらわは今桜の木に襲われておったような。」
「気のせいでござる。あちらの部屋にて休憩なされませ。」
玉姫は女中に連れられていった。

続いて公家の徹夜小路子句麻呂が四女貴子が入ってきた。
「お初に御意を得まする。徹夜小路子句麻呂が四女貴子ともうしまする。」
「遠路ようまいられた。それがしは藩主結城左右衛門之丞隆影が一子結城有蔵と申す」
「さて、これよりどのような審査があるのでございまするか。」
「案ずることはない。まず、この振り子をごらんなされ。」
貴子はだんだん眠くなり完全な催眠状態に入った。
「貴子殿、今どこにおいでじゃ?」
「今大空を飛んでおりまする。山や海が下に見えまする。」
「前方に雲が見えましょう。あの雲の上で寝そべってごらんなされ、きっといい気持ちになりますぞ。」
「よしわかった。」
貴子が雲の上で寝そべっていると、小さな細かい雲がだんだんと貴子を大の字にしばりつけ、動けなくした。
「な、何じゃこれは。」
「貴子様、今から気持ちよくさせてさしあげます。」
いくつもの雲のかけらが、手の形になって貴子に襲いかかった。
「なにをする。無礼な。きゃははははははははははははこそばいーやめてーははは。」
貴子の笑い声もまたものすごい大きな声であった。
「きゃはは、いやははははははははははきゃーはは、きゃはは、きゃははははははははははははっははははははははははははははははは。」
「貴子殿、大丈夫でござるか?」
「はあ、はあ、はあ、わらはは少々そそうをしてしまいました。」
「あー。ぬれてる。」
「こそばされるとでるのでおじゃります。どうかこんなわらわでもあなたさまのおそばにおいてくださらぬか?」
「まあ、とにかく奧でお着替えなされ。」

しばらくすると家老の大橋がやってきた。
「若、してどちらの女尚になさります。」
「うーん。そうだなあ。二人とももらってはいかんか。」
「若ーーーー。もういいかげんにしてくだされ。」


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