膀胱大好き作品

僕は膀胱

僕は膀胱。尿をためるピンクのダムだ。表面には赤い血管がつたのようにくっついている。心臓、肺、肝臓、どれも大切な臓器だけど、僕もとても大切な臓器だという自負がある。だって僕がいなかったら尿は垂れ流し状態になってしまって僕のオーナーに恥をかかせてしまうからね。
僕のすごいところは、一度もオーナーに「失敗」の経験をさせたことがないこと。おしっこを漏らすことが恥ずかしいことでないオムツをしていた赤ちゃん時代を除けば、一度もオーナーに脳からの命令なき排尿、つまり「おもらし」をさせたことはないんだよ。
…まあ、危なかった時もあったけどね。
オーナーが小1の時だったかな。もうあと少しのとこで水に屈服してしまうとこだった。あともう少しで邪悪な水に負けてしまうところだった、でもオーナーに絶対恥をかかせたくない、そう思って僕は震えながらも脳から排尿の指令がでるまで耐えて耐えて耐え抜いた。あと50mlで満タン、というところで脳からの排尿命令が出ておしっこを正常に出すことができた。あのときはひやひやしたよ。
それからもたまにピンチになるときはあったけど、全部切り抜けた。まあ僕はおしっこを1673mlためることができるからね。どうだ、すごいだろう?我ながら大したもんだと思うよ。
今まで脳から排尿命令が出されたのは14998回。排尿命令なしにおしっこを出した回数は0回。僕と水との対戦成績は14998勝0敗。勝率10割。100%僕の勝ち。
尿を構成する無数の水は、僕膀胱一つに1回も勝ったことない。蟻がいくらいても1頭の象には勝てない。みんな踏みつぶされるだけだ。
まあ正義が勝つのはこの世の常なのさ。

シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア〜

ふう、今回も脳から排尿指令が来て、指示通り排尿した。942mlの尿を出した。水は「くっそ、決壊させることができなかった」「この膀胱大きすぎだぜ」「もっと小さい膀胱だったら勝てたのに」とほざいていた。これで僕と水の対戦成績は14999勝0敗。ふっ、1000mlにも満たない水なんて、屁でもないさ。
余裕余裕。
さて、次はいつごろ排尿命令が来るだろうか。まあ当然無事排尿できるだろうけどね。
記念すべき15000勝目のコメントでも考えておくかな、なんてね。

排尿してから6分後。新たな水が輸尿管から送られてきた。
そして、100ml、200mlと、僕の中の水は増えてゆく。

数時間経って。
どんどん輸尿管から水が送られてくる。いつもよりペースが速いな。
現在僕の中の水は1000ml。
そろそろ排尿命令が出てもいいころだ。…でも出ない。

しばらく経っても、排尿命令はまだ出ない。
おかしいな…。なんかまずい予感がしてきた。
現在僕の中の水は1200ml。

さらに輸尿管から水が送られてくる。なんか…やばいかも…。
だ、大丈夫だよな、今までこんなピンチ、何度も切り抜けてきたんだ。
ケセラセラ、ケセラセラ…
さあ、尿よ、排尿命令を早く!
…しかし、何の指令も来ない。
現在僕の中の水は1400ml。

さらに輸尿管から水が送られてくる。
もう来るな、来ないでくれ!僕は輸尿管にフタをしたい思いだった。
しかし、そんなこと構わず、変わらないペースで水はやってきた。
一向に排尿命令は来ない。
現在僕の中の水は1600ml。最大容量まであと73ml。

僕の意思とは逆に輸尿管から水が来るスピードが早くなっている。
あと最大容量まで50ml。今まで経験したことのない苦しみを僕は味わっている。
今の僕の頭に「負け」そして「おもらし」の文字がよぎった。
そんなことはない!そんなことはない!そんなことはないんだ!余計なこと考えるな!
ふと無数の水分子の顔を見ていた。
悪魔のようににやりと笑っている。
こ、この水たちは蟻んこではないな、ハチだ。
そうしている間に、あと40ml、30mlと満タンになるまでの時が近づいてきている。

あと20ml…

10ml…

そして、満タンになった。



ぐる・・・じい・・・やめて・・・くれ・・・うっ!

ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!

あまりの苦しさに、水門を少し開けてしまった。ま、まずい。すると水は水門をさらにこじ開けようとした。 僕はすぐ閉じようとした。しかし水は門を閉じられないように圧力をかけた。
どんどん出ていく。
水の声が聞こえた。「バーカ、ギャハハハハハハ!」「じゃあな、膀胱くーん」「楽勝〜♪」
くそっ、閉じろ!水門よ、閉じろ!
しかし、水たちの力は強大だった。水門を閉じようとする力の何倍もの力を水はかけてきた。
一度あふれ出た水の力はあまりに大きいものだった。
万事休す、だった。

何分経っただろうか。気が付くと、僕の内部は空っぽになっていた。水はもう一滴も残っていなかった。全部出してしまった。
きっと僕のオーナーは邪悪なニヤニヤ笑う水たまりの真ん中で泣いているだろう。
ついに負けてしまった。17年間、一度も負けたことがなかったのに。不敗伝説、ここに敗れたり…。うっ…

うわああああああああああああああああああああああああ!

死にたい、消え去りたい…
もう僕は…生きていく価値なんてないんだ。オーナーに一生ものの恥をかかせた僕なんて…

…かすかに
「うわっ、きたねー」
「ちょ、高校生になって」
「幼稚園児かよ」
「おもらし・おもらし!」
「マジうけるんだけど」
といった声が聞こえた。

−完−


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